100均で始まる恋もある

三森のらん

文字の大きさ
59 / 108
7.オーナメント

58

しおりを挟む
 目の前に置かれたカゴの中身が壮絶だった。
 普段は酒のつまみを3個くらいしか買わないのに、つまみだけで、どんだけ買ったんだ、というくらい山盛りになってる。

「あ、えーと」

 普段と違うのは、それだけじゃない。週末だからということもあってか、スーツ姿じゃない。キャメルのハーフコートにチョコレートブラウンのハイネック、細身のジーンズ……髪型だって、なんかサラサラで、いつもよりも、すごく若返って見える。
 さっき、声をかけられた時は、まともに見る余裕なんてなかった。こうして目の前に立たれて間近で山本さんを見てしまうと、忘れようとしていたことすら忘れそう。カッコよすぎる山本さんに動悸が止まらなくなる。
 だけど、山本さんから目が離せなくなるのを、無理やり振り切って、僕は隣の尾賀さんを見た。しかし、彼女のほうにも次のお客さんが入ってしまっていて、僕に逃げ場はなくなってた。
 仕方なく、商品に目を向けると、いつもは買わないような飴やらチョコレートなんてのも入っている。これ、山本さんが一人で食べるのだろうか? と思ったら、少し可笑しく思えて、口角が自然と上がってしまう。目の前に本人がいるというのに。

「1点、2点、3点……こちは同じものが3点ですね……」

 できるだけ山本さんのほうを見ずに、商品に集中しようとしてるのに、山本さんは何も言わずにジッと僕のほうを見てる。
 見られてる、というのを自覚してしまうと、恥ずかしくなる。

「合計3240円です」

 商品をレジ袋に詰め終えて、レジに表示された金額を読み上げると、カルトンをスッと山本さんのほうに押しやった。

「……」

 今日もちょうどの金額かと思ったら、千円札を4枚、カルトンではなく僕のほうに差し出した。相変わらず、山本さんは不機嫌そうに僕を見つめてる。いたたまれない僕は、やっぱり、山本さんのほうを見られない。

「760円のお返しです」 

 レシートの上につり銭を載せて、山本さんの大きな手のひらにのせる。

「何か書くものありますか」

 突然、山本さんが声をかけてきた。僕は慌てて、レジ脇に置かれているボールペンを差し出すと、今さっき渡したレシートの裏に何かを書きだした。

「はい」

 相変わらず、不機嫌そうな顔をしながら、山本さんはレシートを僕に渡すと、おつまみで膨れ上がったレジ袋を持って離れていった。
 渡されたレシートを見ると、裏側に殴り書きのように書かれていたのは、スマホの番号。僕は、ハッとして山本さんの後ろ姿を探した。しかし。

「お願いしまーす」

 呑気な小学生の声で、それ以上探すことなどできなくて、受け取ったレシートをエプロンのポケットに、そっとしまった。
 山本さんは、どうしても、僕と話をしたい、ということなのだろうか。

 ――なんで? なんで、そこまで。

 僕は、山本さんは最後の引導を渡すつもりなのか、ということで頭がいっぱいになってしまった。

「お兄さん、大丈夫?」
「あ、え、はい、えと、108円です」

 小学生に声をかけられて、僕は慌てて金額を伝えた。
 とにかく、僕から電話をかけなければ、連絡はつかないわけだし、うん、そうだ。このレシートは記念にとっておこう。そうしよう。

「いらっしゃいませ」

 僕は、そう勝手に思いながら、仕事を続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

処理中です...