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7.オーナメント
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目の前に置かれたカゴの中身が壮絶だった。
普段は酒のつまみを3個くらいしか買わないのに、つまみだけで、どんだけ買ったんだ、というくらい山盛りになってる。
「あ、えーと」
普段と違うのは、それだけじゃない。週末だからということもあってか、スーツ姿じゃない。キャメルのハーフコートにチョコレートブラウンのハイネック、細身のジーンズ……髪型だって、なんかサラサラで、いつもよりも、すごく若返って見える。
さっき、声をかけられた時は、まともに見る余裕なんてなかった。こうして目の前に立たれて間近で山本さんを見てしまうと、忘れようとしていたことすら忘れそう。カッコよすぎる山本さんに動悸が止まらなくなる。
だけど、山本さんから目が離せなくなるのを、無理やり振り切って、僕は隣の尾賀さんを見た。しかし、彼女のほうにも次のお客さんが入ってしまっていて、僕に逃げ場はなくなってた。
仕方なく、商品に目を向けると、いつもは買わないような飴やらチョコレートなんてのも入っている。これ、山本さんが一人で食べるのだろうか? と思ったら、少し可笑しく思えて、口角が自然と上がってしまう。目の前に本人がいるというのに。
「1点、2点、3点……こちは同じものが3点ですね……」
できるだけ山本さんのほうを見ずに、商品に集中しようとしてるのに、山本さんは何も言わずにジッと僕のほうを見てる。
見られてる、というのを自覚してしまうと、恥ずかしくなる。
「合計3240円です」
商品をレジ袋に詰め終えて、レジに表示された金額を読み上げると、カルトンをスッと山本さんのほうに押しやった。
「……」
今日もちょうどの金額かと思ったら、千円札を4枚、カルトンではなく僕のほうに差し出した。相変わらず、山本さんは不機嫌そうに僕を見つめてる。いたたまれない僕は、やっぱり、山本さんのほうを見られない。
「760円のお返しです」
レシートの上につり銭を載せて、山本さんの大きな手のひらにのせる。
「何か書くものありますか」
突然、山本さんが声をかけてきた。僕は慌てて、レジ脇に置かれているボールペンを差し出すと、今さっき渡したレシートの裏に何かを書きだした。
「はい」
相変わらず、不機嫌そうな顔をしながら、山本さんはレシートを僕に渡すと、おつまみで膨れ上がったレジ袋を持って離れていった。
渡されたレシートを見ると、裏側に殴り書きのように書かれていたのは、スマホの番号。僕は、ハッとして山本さんの後ろ姿を探した。しかし。
「お願いしまーす」
呑気な小学生の声で、それ以上探すことなどできなくて、受け取ったレシートをエプロンのポケットに、そっとしまった。
山本さんは、どうしても、僕と話をしたい、ということなのだろうか。
――なんで? なんで、そこまで。
僕は、山本さんは最後の引導を渡すつもりなのか、ということで頭がいっぱいになってしまった。
「お兄さん、大丈夫?」
「あ、え、はい、えと、108円です」
小学生に声をかけられて、僕は慌てて金額を伝えた。
とにかく、僕から電話をかけなければ、連絡はつかないわけだし、うん、そうだ。このレシートは記念にとっておこう。そうしよう。
「いらっしゃいませ」
僕は、そう勝手に思いながら、仕事を続けた。
普段は酒のつまみを3個くらいしか買わないのに、つまみだけで、どんだけ買ったんだ、というくらい山盛りになってる。
「あ、えーと」
普段と違うのは、それだけじゃない。週末だからということもあってか、スーツ姿じゃない。キャメルのハーフコートにチョコレートブラウンのハイネック、細身のジーンズ……髪型だって、なんかサラサラで、いつもよりも、すごく若返って見える。
さっき、声をかけられた時は、まともに見る余裕なんてなかった。こうして目の前に立たれて間近で山本さんを見てしまうと、忘れようとしていたことすら忘れそう。カッコよすぎる山本さんに動悸が止まらなくなる。
だけど、山本さんから目が離せなくなるのを、無理やり振り切って、僕は隣の尾賀さんを見た。しかし、彼女のほうにも次のお客さんが入ってしまっていて、僕に逃げ場はなくなってた。
仕方なく、商品に目を向けると、いつもは買わないような飴やらチョコレートなんてのも入っている。これ、山本さんが一人で食べるのだろうか? と思ったら、少し可笑しく思えて、口角が自然と上がってしまう。目の前に本人がいるというのに。
「1点、2点、3点……こちは同じものが3点ですね……」
できるだけ山本さんのほうを見ずに、商品に集中しようとしてるのに、山本さんは何も言わずにジッと僕のほうを見てる。
見られてる、というのを自覚してしまうと、恥ずかしくなる。
「合計3240円です」
商品をレジ袋に詰め終えて、レジに表示された金額を読み上げると、カルトンをスッと山本さんのほうに押しやった。
「……」
今日もちょうどの金額かと思ったら、千円札を4枚、カルトンではなく僕のほうに差し出した。相変わらず、山本さんは不機嫌そうに僕を見つめてる。いたたまれない僕は、やっぱり、山本さんのほうを見られない。
「760円のお返しです」
レシートの上につり銭を載せて、山本さんの大きな手のひらにのせる。
「何か書くものありますか」
突然、山本さんが声をかけてきた。僕は慌てて、レジ脇に置かれているボールペンを差し出すと、今さっき渡したレシートの裏に何かを書きだした。
「はい」
相変わらず、不機嫌そうな顔をしながら、山本さんはレシートを僕に渡すと、おつまみで膨れ上がったレジ袋を持って離れていった。
渡されたレシートを見ると、裏側に殴り書きのように書かれていたのは、スマホの番号。僕は、ハッとして山本さんの後ろ姿を探した。しかし。
「お願いしまーす」
呑気な小学生の声で、それ以上探すことなどできなくて、受け取ったレシートをエプロンのポケットに、そっとしまった。
山本さんは、どうしても、僕と話をしたい、ということなのだろうか。
――なんで? なんで、そこまで。
僕は、山本さんは最後の引導を渡すつもりなのか、ということで頭がいっぱいになってしまった。
「お兄さん、大丈夫?」
「あ、え、はい、えと、108円です」
小学生に声をかけられて、僕は慌てて金額を伝えた。
とにかく、僕から電話をかけなければ、連絡はつかないわけだし、うん、そうだ。このレシートは記念にとっておこう。そうしよう。
「いらっしゃいませ」
僕は、そう勝手に思いながら、仕事を続けた。
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