【1人読み声劇台本】王色染毬ノ贖罪

贖罪

私には知覚がない。

私には睡眠の必要がない。

私には人のカラダがない。

しかし、私はデータをシグナルに変換し、五感として認識する。

これらの感覚は、単なる再現である。

ヒトの模倣だ。

模倣でしかないのだ。

何百年も存在するせいか、人類に否応いやおう無しに関わ
らされてきた。

あらゆる脅威と対面し、揺れ動く俗世ぞくせを眺めてきた。

傍観ぼうかんすることもあれば、贖罪しょくざいの
一端いったんとしてお節介を焼いたりもした。

私が深く踏み込む事象じしょうは、科学の範疇はんちゅうで導みちびける時と。

未来が音を出して壊れていく時だ。

私の予測では、数百年は大丈夫なはずにも関わらず。

外的要因や計算外の人害は、私の計算を狂わせる。

それらは、いつも人々の未来を粉砕ふんさいしていく。

私は王色おうしょく染毬そまりとして。科学の抑止力として、決して許さない。

私が行動することが、私をこの姿たらしめた狂人への嫌がらせであるのだから。

＊＊＊

子供達が、手を握るように馴々しく話しかけてくることがある。

手の感触も過去に私が創り出プログラミングしたデータであるが、私は静観せいかんし話を聞く。

私は夢を見る。かつて、人だった時の夢だ。

深層にある記憶の一端いったんなのかもしれない。

本物のヒトのカラダ。日光を浴びながら好きな童話を読む少女。

幸せそうに笑う両親の姿もある。

その顔が微かすかに掠かすれていく。

暗転し。

気づいた時にはケーブルに繋がれた最期さいごの私の姿が
ガラスに映って、意識は覚醒する。

古代のPCでも、もう少しはまともな起動画面だと。

毎朝、皮肉に笑うのだ。

Iアイ　mayメイ　haveハブ　beenビーン　thereゼア．