冥界革命~死神になって冥界のルール変えちゃいます~

雪莉月花

文字の大きさ
7 / 8
人間編

一本の電話

しおりを挟む
  ぷるるるる、と発信音が鳴る。初めて打つ父の電話。いつもは、アプリの無料電話を使っている。だけど最後だけは、しっかりと父に電話をかけたかった。心臓が羽打つ。なんて言えばいいかな。弟が死んじゃって、私が死神になろうとしてて。こんなの信じてもらえないよね。作り話みたいな本当の話を言ったって、真面目な父は信じないだろう。




「もしもし、この番号ひょっとして美咲?」


「………っ」





  父と顔を合わせたのは今朝だっていうのに、何十年ぶりに声を聞いた気がした。温かくて、低い、父の声。その声に小さな頃から何度も落ち着かされた。修真が生まれた時、母親と呼ばれる人が出ていった時、料理が上手く作れなかった時、初潮が来たことを躊躇いながら伝えた時。全部、全部、大切な宝物。たとえこの先、どんなに年老いた父親になろうとも私は父を愛し続ける。揺らいでしまった。ありのままの事実を伝えるつもりだったのに、あまりにも父の声が温かかったから。




「…………さい」






  私は、ずっと、死神に会った時から抑えていた感情が流れ出した。これからどうすればいい?  そんなこと誰も教えてくれなかった。これから先、孤独に異世界を彷徨うとなるとここに立ってられなかった。




「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいお父さんっっっっ」






  私は叫んだ。阿鼻地獄にいるように。報いを電話越しに伝えた。弟を、父の大切な息子を死なせてしまって、ごめんなさい。そう詫びないといけなのに、大切な事実だけをひた隠しにして私は謝る。せめて、私が轢かれてば……。この先、母親にそっくりな女に成長する前に死んでれば、父は幸せだったのだろう。あの忌々しく吐き捨てた母親のように、なる前に死んでおけば……。今日ほど神様を呪った日はなかった。唾なんていくらでも吐く。そのくらい、神様に絶望した。






  父の返事が怖かった。責められるのではないか。何があったか聞かれるのではないか。私に失望するのではないか。もう、いっそ弟と死んでしまえば良かった。弟と死んで、未知の世界に彷徨えば良かった。あの時、自分の欲に従わず、大人しく帰ればよかった。あぁ、そうじゃないか。その選択なら一緒に轢かれるどころか、死ぬことすらない。私は馬鹿だ。本なんていつでも買える。それこそ、明日でも良かったはずだ。後悔と後悔と後悔と、恐怖。もう涙は止まらない。嗚咽しか出てこなかった。







  そんな私に父は予想外の言葉をかけた。





「美咲はよく頑張ってる。妻が居なくなった時からずっと僕を支えてくれている。何があったか知らないが、僕は美咲を叱ることはできないよ」





  その声に、私の涙は枯れ果てた。ようやく、何故電話をかけたのか、何を伝えなければ行けないのか思い出す。一つずつ、身近な時間ではあったが、慎重に言葉にする。






「私ね、行かなければならないところがあるの。そこはね、遠くて、携帯電話も繋がらなくて、当分帰って来れないかもしれない。でも、絶対帰ってくる。修真を取り戻したら、必ず帰ってくる。十年後でも百年後でも、どんなに時間がかかっても必ず戻ってくる。正直、怖いよ。私には未知すぎるし、伝えられた話が本当かもわからない。それでも私は行くよ。修真が、お父さんが好きだから。三人で過ごす時間が、どんな瞬間より輝いているから。だから待ってて。長生きして。私が戻ったら、今度は修真と一緒に誕生日を祝わせて……」






  ノイズがかかる。時間切れがそろそろ近付いてきたようだ。父は決して自分の言葉を伝えず、ただずっと私の話を聞いている。あぁ、もう愛おしい。ずっと、続くと思っていた。あと半世紀は何の心配もいらないと思っていた。だから伝え忘れたことが山のようにある。思い出とか、感謝の言葉とか。幸せすぎて、疎かにしてしまった数々が、不幸と一緒に歩いてきた。私は、最後に一言だけ言うことにした。





「もし、生まれ変わってもお父さんの娘でいたいな」






「はい、時間切れ」





  死神は、容赦なく私たちの電話を遮った。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...