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第二節 惨劇と嘆きの町8
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本来なら、高い山脈の裾野に広がる緑の野には、可憐な花々が咲き誇り、なだらかな丘が美しい町並みの景観を彩るはずの懐かしき故郷は、突然襲来した魔物達によって破壊しつくされていた。
町の中には、嘆きの精霊達が生み出す白闇の霧と、むせ返るような死臭が漂い、折り重なるようにして、老若男女問わず、無数の人々の骸が転がっている。
緩やかに流れ来る白い霧に、アーシェの魔法剣士ジェスターの栗色の髪が棚引いた。
その傍らに、その紫水晶の隻眼を鋭く細めた、白銀の守り手シルバ・ガイの羽織る純白のマントが揺れている。
そんなシルバの聴覚に、ふと、苦々しく低く呟くジェスターの声が響いた。
「カイルナーガがやりそうな事だ・・・・・」
「【封印の塔】を破壊するだけじゃ、気が済まなかったんだろう・・・・
カイルナーガにしてみれば、このエトワーム・オリアも、忌々しい地でしかないからな」
相変わらず冷静な口調で答えると、シルバは、横目でちらりと、傍らで厳しい表情をしているジェスターの横顔を見たのだった。
そんなシルバの脳裏に、ふと過ぎっていくのは、まだ幼少期を越えたばかりの少年であった頃の、あの忌々しい惨劇の夜のことである。
今でも、鮮やかにその瞼に焼き付いている、あの日起こった、禍々しく恐ろしい、あの出来事。
幾多の戦いを潜り抜けてきた彼でさえ、今思い出しても、背筋に寒い物が走るほど・・・・
あの夜、燃え盛るの炎を背景に、その見事な栗色の髪を虚空に揺らしながら、ゆっくりとこちらに振り返った、凄まじいほどに邪で、それでいて禍々しいほどに美しかった・・・・・爛々と輝く異形と呼ばれる緑玉の瞳。
一族の集落が、目の前で、一瞬にして地獄の業火に飲み込まれた・・・全てのことの発端となったあの出来事を、恐らく、ジェスター自身も忘れてはいないだろう・・・・
あの出来事がきっかけで、彼は、自分の本当の名を棄てることになったのだから・・・
『真実の闇なる者』と『目覚めさせる者』。
一つの魂と体が、三つの魂と二つの体に成り果てる・・・・
魔王と呼ばれるラグナ・ゼラキエル・アーシェが、遥か古の彼方に、同族に残したそれがあの恐ろしい呪いの真意・・・だが、この文言にはまだ先がある。
ジェスターと血を分けた兄弟であるカイルナーガと、その意思と体を共有するあのラグナ・ゼラキエルは・・・・・・・まだ本当の復活を果たした訳では、決してない。
しいて言うのなら・・・・今、このリタ・メタリカのどこかに在るだろう、魔王と呼ばれるあの闇の魔法使いは、まだ、半分しか覚醒していないのだ。
もし仮に、ラグナ・ゼラキエルが、真実の復活を遂げたならば、この広大なリタ・メタリカの地は、恐らく、一瞬にして、地獄の業火に焼き尽くされるのだろう・・・・
あの夜に焼き払われた、アーシェ一族の集落のように・・・・
「シルバ・・・・行くぞ」
揺れる見事な栗毛の前髪の下で、その燃え盛る炎の如き緑玉の両眼を鋭く細めると、ジェスターは、短くそう言って、白闇と死臭が漂う中をゆっくりと歩き出した。
「ああ」
広い肩に羽織られた純白のマントが緩やかに虚空に翻り、複雑な思いを胸に抱くシルバもまた、相変わらず冷静で沈着な落ち着きを持ったまま、町の奥の方へと静かに足を進めていく。
立ち込める嘆きの霧の向こう側に、間違いなく何かがいる・・・・
まるで、この魔法剣士達を待ちわびているかのように、その不気味な気配は、白い闇の如きの霧の只中に横たわるように漂っていた。
本来なら、高い山脈の裾野に広がる緑の野には、可憐な花々が咲き誇り、なだらかな丘が美しい町並みの景観を彩るはずの懐かしき故郷は、突然襲来した魔物達によって破壊しつくされていた。
町の中には、嘆きの精霊達が生み出す白闇の霧と、むせ返るような死臭が漂い、折り重なるようにして、老若男女問わず、無数の人々の骸が転がっている。
緩やかに流れ来る白い霧に、アーシェの魔法剣士ジェスターの栗色の髪が棚引いた。
その傍らに、その紫水晶の隻眼を鋭く細めた、白銀の守り手シルバ・ガイの羽織る純白のマントが揺れている。
そんなシルバの聴覚に、ふと、苦々しく低く呟くジェスターの声が響いた。
「カイルナーガがやりそうな事だ・・・・・」
「【封印の塔】を破壊するだけじゃ、気が済まなかったんだろう・・・・
カイルナーガにしてみれば、このエトワーム・オリアも、忌々しい地でしかないからな」
相変わらず冷静な口調で答えると、シルバは、横目でちらりと、傍らで厳しい表情をしているジェスターの横顔を見たのだった。
そんなシルバの脳裏に、ふと過ぎっていくのは、まだ幼少期を越えたばかりの少年であった頃の、あの忌々しい惨劇の夜のことである。
今でも、鮮やかにその瞼に焼き付いている、あの日起こった、禍々しく恐ろしい、あの出来事。
幾多の戦いを潜り抜けてきた彼でさえ、今思い出しても、背筋に寒い物が走るほど・・・・
あの夜、燃え盛るの炎を背景に、その見事な栗色の髪を虚空に揺らしながら、ゆっくりとこちらに振り返った、凄まじいほどに邪で、それでいて禍々しいほどに美しかった・・・・・爛々と輝く異形と呼ばれる緑玉の瞳。
一族の集落が、目の前で、一瞬にして地獄の業火に飲み込まれた・・・全てのことの発端となったあの出来事を、恐らく、ジェスター自身も忘れてはいないだろう・・・・
あの出来事がきっかけで、彼は、自分の本当の名を棄てることになったのだから・・・
『真実の闇なる者』と『目覚めさせる者』。
一つの魂と体が、三つの魂と二つの体に成り果てる・・・・
魔王と呼ばれるラグナ・ゼラキエル・アーシェが、遥か古の彼方に、同族に残したそれがあの恐ろしい呪いの真意・・・だが、この文言にはまだ先がある。
ジェスターと血を分けた兄弟であるカイルナーガと、その意思と体を共有するあのラグナ・ゼラキエルは・・・・・・・まだ本当の復活を果たした訳では、決してない。
しいて言うのなら・・・・今、このリタ・メタリカのどこかに在るだろう、魔王と呼ばれるあの闇の魔法使いは、まだ、半分しか覚醒していないのだ。
もし仮に、ラグナ・ゼラキエルが、真実の復活を遂げたならば、この広大なリタ・メタリカの地は、恐らく、一瞬にして、地獄の業火に焼き尽くされるのだろう・・・・
あの夜に焼き払われた、アーシェ一族の集落のように・・・・
「シルバ・・・・行くぞ」
揺れる見事な栗毛の前髪の下で、その燃え盛る炎の如き緑玉の両眼を鋭く細めると、ジェスターは、短くそう言って、白闇と死臭が漂う中をゆっくりと歩き出した。
「ああ」
広い肩に羽織られた純白のマントが緩やかに虚空に翻り、複雑な思いを胸に抱くシルバもまた、相変わらず冷静で沈着な落ち着きを持ったまま、町の奥の方へと静かに足を進めていく。
立ち込める嘆きの霧の向こう側に、間違いなく何かがいる・・・・
まるで、この魔法剣士達を待ちわびているかのように、その不気味な気配は、白い闇の如きの霧の只中に横たわるように漂っていた。
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