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第四節 嵐の予兆は西方より出(いず)る8

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 蒼きローブが翻り、揺れる前髪から覗く深紅の瞳が静かに、元の美しい銀水色へと戻っていく。
 その場に姿を現したのは、他でもない、ロータス一族のスターレット・ノア・イクス・ロータスであったのだ。
 彼は、懐かしい友に向かって、何ゆえか、その薄く知的な唇でまるで少年のようにあどけなく微笑んだのである。

「二人とも、健在のようだな?相変わらず、おぬし等の話は聞いていると面白い」

「よぉ、スターレット、やっと追いついたな?」

 若獅子の如き栗毛の髪を風の手に遊ばせたまま、凛々しい唇で不敵に微笑しながらジェスターが言う。
 その言葉尻に、相変わらずの落ち着き払ったシルバの言葉が続いた。

「おまえも健在のようでなによりだ、久しぶりだな?」

「〝レスフォースの戦い〟以来だ、シルバ・・・・白銀の守り手の姿も随分と貫禄が出たようだ」

 スターレットのその言葉に愉快そうに笑うと、シルバは、ゆっくと前で組んでいた腕を解きその澄んだ紫水晶の眼差しで、やけに晴れやかな表情をしたロータスのの雅で秀麗な顔を真っ直ぐに見たのである。
 その視界の中で、別段深刻そうにするでもなく、むしろ実に嬉々としてスターレットは言うのだった。

「無粋であるのは知っている、だが再会を喜ぶ前に、おぬしらに頼みたい事柄があるのだ・・・・・。
西の風が伝えて来た、サングダール国が、このリタ・メタリカに攻め上る算段を取っていると・・・・知っての通り、リタ・メタリカの兵力はゼラキエルの手先の討伐にかかっていて、中央は手薄だ。
今、攻め込まれたら、難攻不落の王都とてどうなるかわからない、全ての敵軍を壊滅させる必要はないが、その戦力を減らすことは出来る・・・・手伝ってはもらえまいか・・・・?」

 その言葉に、ジェスターと、そしてシルバの目があった。
 こちらもまた、さして深刻そうな顔をしている訳でもない・・・
 くくっと喉の奥で笑うと、ジェスターは、ゆっくりとスターレットの雅な顔を顧みて愉快そうに答えて言うのである。

「おまえ、〝レスフォースの戦い〟の時も似たような事を言っていたな?
あの時も、そう言っておきながら、サムザ軍は壊滅、王都はまるごと消滅、あの国は亡国となった。
サングダールは、クスティリンの術者を手中にしてるようだ、その術者が、さっき助けを求めてきたばかりだ・・・・・・・・」

 そこまで言って、その端正で凛々しい顔を実に不敵な笑顔に満たすと、ジェスターは言葉を続けた。

「面白そうじゃねーか・・・・」

「相変わらず物騒な奴だな、おまえ?」

 そんな彼の表情を横目で見やり、シルバが、冷静だが、しかし、実に愉快そうな声色でそんな事を言う。

「物騒なのは俺だけじゃねーだろ?」

 そう言ったジェスターの鮮やかな緑玉の瞳が、スターレットの雅な顔を、やけに意味深な視線で、さも愉快そうにして舐めるように見る。

 その視界の中で、吹き抜ける風に、蒼きローブと輝くような蒼銀の髪を揺れていた。
 ジェスターの視線の意味に気が付いて、スターレットは、僅かばかり困ったような表情をすると、思わず知的なその唇で苦笑するのだった。

 何を隠そう、その〝レスフォースの戦い〟の折、今や亡国となったサムザ王国の王都を消滅させたのは、他でもない、ロータスのたるこのスターレットなのだから・・・・

 スターレットは、綺麗な眉をますます困ったように眉間に寄せて、あの時同様、実に愉快そうに笑む旧知の友たちの顔を綺麗な銀水色の瞳で見やったのである。

 それは、蒼き山脈の合間を駈ける風が、更なる不穏を運ぶよく晴れた日のこと・・・・

 近い将来対峙することになろうサングダール国との交戦が、運命を分かつきっかけになろうとは、この時、空を渡る風の精霊すら伝えることは出来なかった。
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