9 / 43
第一節 開戦の調べ8
しおりを挟む
*
眼下に渦を巻く濃紺の海原。
帆の畳まれた武装船の広い甲板に、悲鳴を上げる海風が吹き荒んでいる。
緩やかに揺れる船の船首に立たされた、五人のうら若き乙女達は、がたがたとその身を震わせながら、運命の時を待っていた。
細い手首を後ろ手に捕縛された姿のまま、死を覚悟した眼差しで、皆、クスティリン族の神ヤーオへの祈りを捧げ始める。
「クスティリンの守護者ヤーオよ・・・・私たちにご加護を・・・・」
今にも泣き出しそうな声で、一人の少女がそう呟いた。
先程、周囲を覆っていた強固な結界は何者かによって崩された・・・・
そうなれば、もう、自分達には、命を長らえる術などない・・・・
各々に堅く目を閉じて、ゆっくりと背後に迫ってくる、異国の兵士達の足音を此処で聞くのみである。
少女が、再び、クスティリン族の神の名を口にした。
「守護者ヤ―オよ・・・・・」
すると、まるで弾かれたように、他の少女たちも一斉に悲鳴のような声を上げ始めたのである。
「守護者ヤ―オ!私たちにご加護を――――――っ!!」
「ヤーオの神よ!!私たちに力をお与え下さい!!」
「ヤーオよ!」
「ヤーオの神よ―――――っ!!」
にやにやと笑いながら無粋な兵士たちが、彼女たちの背後に迫り来る。
乙女らの華奢な背中に、無骨な手が伸ばされた。
今、正に、その可憐な少女たちを海の中へと突き落とそうとした・・・・・その時だった。
びゅぅうん・・・・っ!
鋭い音を立てて、一筋の冷たい風が、海風の最中を駆け抜けて行ったのである。
次の瞬間。
『ぎゃぁぁぁ―――――っ!!』
けたたましい悲鳴が、死を覚悟した乙女達の背後から響き渡り、その無骨な腕が、まるで、鋭利な刃物で切り落とされたかのように、肘の辺りから真っ二つに両断されたのである。
虚空に腕が撥ね上がり、深紅の鮮血が帯を引くように虚空を舞った。
もんどり打って甲板に転がる兵士たち。
その後ろに控えていた船員たちが、にわかにどよめき立った。
『何だ!?何が起こった!?』
クスティリン族の乙女達が、驚愕した顔つきをして咄嗟に背後を振り返る。
その視界に映りこんでくる、閃光を伴う蒼き疾風。
驚いたように両眼を見開いた彼女たちの目の前に、ゆるやかに現れてくる人影があった。
蒼き光の隙間に揺れる、輝くような蒼銀の髪と、たゆたうように揺れる紺色のマント。
美しいとも言える雅で秀麗な容姿を持つ青年が、渦を巻く旋風の中からその姿を現してくる。
『我が国を侵す無粋な者たちよ・・・・無垢な乙女すらその手にかけようなどと・・・・そなたら、どれほど厚顔無恥な者どもか・・・・・』
紡がれた言葉は、人にあらざる古の言語であった。
魔法を習う乙女達には、すぐにその言葉が理解できたようだった。
しかし、サングダ―ルの無知な者どもは、まったくもってその言語が理解できない・・・・
だが、紡がれた言葉の節々ににじみ出る激しい怒気は、どんなに無粋な者どもでも、まざまざと感じ取れたようだった。
『何者!?』
深紅に輝く鮮やかな両眼の先で、にわかに、無数の白刃が振りかざされた。
ゆらゆらと揺らめく蒼きオーラと、閃光を伴う疾風を纏ったその秀麗な青年は、鋭く厳しい表情をして、意図して低めた声で答えたのである。
『我が名は、スターレット・ノア・イクス・ロータス・・・・古より、このリタ・メタリカを守りし一族の者・・・・』
その言葉の全てを理解できる兵士など、此処には一人もいない、それでも、明らかに聞こえた一つの言葉があった・・・
それは、蒼き狼(ロータス)という、余りにも有名なその姓・・・・
『大魔法使いだ!!リタ・メタリカの大魔法使いが現れたぞ!!』
『殺せ!!殺せ―――――っ!!』
どよめき立つ甲板に、閃光の如き刃の帯が唸り上げた。
このシァル・ユリジアン大陸全土にその名を知らしめる、リタ・メタリカのロータス家。
そのうら若き大魔法使いに向かって振り下ろされてくる、殺気立つ無数の斬撃。
吹き荒ぶ海風が、鋭利な唸り声を上げながら天空を渡る。
煌々と輝く深紅の瞳が、揺れる蒼銀の前髪の下で、今、大きく鋭く見開かれた。
『この私の体に傷をつけることなど・・・・そなたらには出来ぬ・・・・・
リタ・メタリカを侵略する者への報いが、どんなものであるか、しかとその目に刻むがいい・・・・』
びゅぅんと甲高い音を上げて、蒼き疾風がスターレットの肢体を包み込む。
千切れんばかりに棚引く蒼銀の髪と、紺色のマント。
揺れながら伸び上がる蒼きオーラが、眩いばかりの閃光を放った。
その薄く知的な唇が、呪文と呼ばれる言葉を紡ぎ出す。
『行け 其は気高き刃なり 烈風斬(ル・デルファード)』
彼の足元から、激しい烈風が巻き起こり始めた。
それはやがて、蒼き閃光を纏う旋風となり、轟くような低い轟音を、揺らめく甲板の上に響かせた。
眼下に渦を巻く濃紺の海原。
帆の畳まれた武装船の広い甲板に、悲鳴を上げる海風が吹き荒んでいる。
緩やかに揺れる船の船首に立たされた、五人のうら若き乙女達は、がたがたとその身を震わせながら、運命の時を待っていた。
細い手首を後ろ手に捕縛された姿のまま、死を覚悟した眼差しで、皆、クスティリン族の神ヤーオへの祈りを捧げ始める。
「クスティリンの守護者ヤーオよ・・・・私たちにご加護を・・・・」
今にも泣き出しそうな声で、一人の少女がそう呟いた。
先程、周囲を覆っていた強固な結界は何者かによって崩された・・・・
そうなれば、もう、自分達には、命を長らえる術などない・・・・
各々に堅く目を閉じて、ゆっくりと背後に迫ってくる、異国の兵士達の足音を此処で聞くのみである。
少女が、再び、クスティリン族の神の名を口にした。
「守護者ヤ―オよ・・・・・」
すると、まるで弾かれたように、他の少女たちも一斉に悲鳴のような声を上げ始めたのである。
「守護者ヤ―オ!私たちにご加護を――――――っ!!」
「ヤーオの神よ!!私たちに力をお与え下さい!!」
「ヤーオよ!」
「ヤーオの神よ―――――っ!!」
にやにやと笑いながら無粋な兵士たちが、彼女たちの背後に迫り来る。
乙女らの華奢な背中に、無骨な手が伸ばされた。
今、正に、その可憐な少女たちを海の中へと突き落とそうとした・・・・・その時だった。
びゅぅうん・・・・っ!
鋭い音を立てて、一筋の冷たい風が、海風の最中を駆け抜けて行ったのである。
次の瞬間。
『ぎゃぁぁぁ―――――っ!!』
けたたましい悲鳴が、死を覚悟した乙女達の背後から響き渡り、その無骨な腕が、まるで、鋭利な刃物で切り落とされたかのように、肘の辺りから真っ二つに両断されたのである。
虚空に腕が撥ね上がり、深紅の鮮血が帯を引くように虚空を舞った。
もんどり打って甲板に転がる兵士たち。
その後ろに控えていた船員たちが、にわかにどよめき立った。
『何だ!?何が起こった!?』
クスティリン族の乙女達が、驚愕した顔つきをして咄嗟に背後を振り返る。
その視界に映りこんでくる、閃光を伴う蒼き疾風。
驚いたように両眼を見開いた彼女たちの目の前に、ゆるやかに現れてくる人影があった。
蒼き光の隙間に揺れる、輝くような蒼銀の髪と、たゆたうように揺れる紺色のマント。
美しいとも言える雅で秀麗な容姿を持つ青年が、渦を巻く旋風の中からその姿を現してくる。
『我が国を侵す無粋な者たちよ・・・・無垢な乙女すらその手にかけようなどと・・・・そなたら、どれほど厚顔無恥な者どもか・・・・・』
紡がれた言葉は、人にあらざる古の言語であった。
魔法を習う乙女達には、すぐにその言葉が理解できたようだった。
しかし、サングダ―ルの無知な者どもは、まったくもってその言語が理解できない・・・・
だが、紡がれた言葉の節々ににじみ出る激しい怒気は、どんなに無粋な者どもでも、まざまざと感じ取れたようだった。
『何者!?』
深紅に輝く鮮やかな両眼の先で、にわかに、無数の白刃が振りかざされた。
ゆらゆらと揺らめく蒼きオーラと、閃光を伴う疾風を纏ったその秀麗な青年は、鋭く厳しい表情をして、意図して低めた声で答えたのである。
『我が名は、スターレット・ノア・イクス・ロータス・・・・古より、このリタ・メタリカを守りし一族の者・・・・』
その言葉の全てを理解できる兵士など、此処には一人もいない、それでも、明らかに聞こえた一つの言葉があった・・・
それは、蒼き狼(ロータス)という、余りにも有名なその姓・・・・
『大魔法使いだ!!リタ・メタリカの大魔法使いが現れたぞ!!』
『殺せ!!殺せ―――――っ!!』
どよめき立つ甲板に、閃光の如き刃の帯が唸り上げた。
このシァル・ユリジアン大陸全土にその名を知らしめる、リタ・メタリカのロータス家。
そのうら若き大魔法使いに向かって振り下ろされてくる、殺気立つ無数の斬撃。
吹き荒ぶ海風が、鋭利な唸り声を上げながら天空を渡る。
煌々と輝く深紅の瞳が、揺れる蒼銀の前髪の下で、今、大きく鋭く見開かれた。
『この私の体に傷をつけることなど・・・・そなたらには出来ぬ・・・・・
リタ・メタリカを侵略する者への報いが、どんなものであるか、しかとその目に刻むがいい・・・・』
びゅぅんと甲高い音を上げて、蒼き疾風がスターレットの肢体を包み込む。
千切れんばかりに棚引く蒼銀の髪と、紺色のマント。
揺れながら伸び上がる蒼きオーラが、眩いばかりの閃光を放った。
その薄く知的な唇が、呪文と呼ばれる言葉を紡ぎ出す。
『行け 其は気高き刃なり 烈風斬(ル・デルファード)』
彼の足元から、激しい烈風が巻き起こり始めた。
それはやがて、蒼き閃光を纏う旋風となり、轟くような低い轟音を、揺らめく甲板の上に響かせた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる