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第二節 嘆きの雨に鐘は鳴る6
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シルバが、美しい青珠の守り手の名を呟いた時だった、そんなの彼女の秀麗な姿を目にした少女が、苦悶に歪んだ水色の瞳を驚いたように大きく見開いたのである。
あの女性(ひと)は・・・・!?
激痛に淀んだ少女の脳裏に、魔王と呼ばれるあの青年が見せた光景が、今、何故かありありと蘇ってくる。
あの時、密かに思ったこの隻眼の青年の腕に抱かれていたのは・・・・間違いなく、今そこで青玉の弓を構えている、この美しい女性だったはずだ・・・・
エトワーム・オリアの森にある清らかな泉『竜の懐』から、この隻眼の青年の姿を時折眺め、密かに恋焦がれていたのに・・・・
痛みで淀んだ心の隅に、そんな気持ちが過ぎったとたん、少女の額に刻まれた炎の烙印が、再び、眩いばかりの紫色に発光したのである。
次の瞬間、少女の醸し出す悲痛な気配が、突如として邪悪な闇の気配へと豹変した。
涙に濡れた少女の水色の瞳が、にわかに、禍々しく淀んだ緋色の瞳へと打ち変わる。
「!?」
その気配に気付いたシルバが、濡れそぼった広い肩を僅かに揺らし、素早く少女の方へと振り返った。
黒絹のローブを纏った少女の肢体から、突如として闇の黒炎が揺らめき立ち、それはまるで、地をのたうつ蛇の如く虚空に伸び上がると、不意に、その手を握るシルバの腕に絡み付いて、激しい焔を立たせたのだった。
「っ・・・・!」
自らの腕に迸る、焼け付くような鋭い痛みに、彼の端正な顔が苦悶に歪んだ。
『そなたは、馬鹿が付くほど優しい男だこと・・・・・・・』
嘲るような女妖の言葉が、闇と雨に曇るその空間に低く轟いた。
同時に、涼しい弓弦の音が周囲に鳴り響き、『水の弓(アビ・ローラン)』から放たれた青き光の矢が、鋭利な閃光の帯を引きながら一直線に、女妖の額を狙って飛来したのである。
シルバは、苦々しい顔つきをしたまま、女妖の腕を振り払い、素早く機敏な身のこなしで、すかさず後方へ飛び退いた。
無垢な少女を憑とした女妖アルアミナは、赤い唇の下でチッと小さく舌打ちすると、淀んだ緋色の瞳を鋭く閃かせ、黒絹のローブを翻しながら、その細い体をふわりと宙に浮かせたのである。
つい今しがたまで、アルアミナの体があった地面に、涼しい水音を立てて閃光の矢が突き立つと、それはきらきらと輝きながら虚空に離散して消えていった。
「レダ!息吹を・・・!!」
怪我をした腕をかばうでもなく、シルバは、利き手に握った白銀の剣を瞬時に構え直して、後方にいるレダに向かってそう鋭く叫んだのだった。
即座にその声に反応し、薄紅のローブを雨と闇の虚空に棚引かせると、レダは、凛と鋭い表情をしたまま、裸足の爪先で濡れた地面を蹴ったのである。
俊足で走り込んだレダのしなやかな片手が、『息吹』をくわえたまま、カッと黄色い両眼を見開いた魔物の生首に向かって伸ばされた。
『させるか!!』
黒い岩肌を背景に、憤怒の形相でこちらを睨むアルアミナが、黒絹のローブを闇の虚空で翻す。
一瞬にしてその姿を消したアルアミナが、次の瞬間には既にレダの眼前にいる。
瞬きも出来ぬ間に翻った女妖の長く鋭い爪が、レダの綺麗な首筋を狙って空を裂いた。
『シャム・ラングラ!(守りの雷)』
呪文を紡いだシルバの声と同時に、激しい破裂音を上げて地面から伸び上がった守りの雷光が、レダのしなやかな肢体を取り囲んだ。
黒き爪が銀色の雷光に跳ね返されると同時に、アルアミナの背後から、唸りを上げた白銀の斬撃が、間髪入れずに虚空を薙ぐ。
『こしゃくな!!』
湾曲した鋭利な閃光の弧を、瞬時に空間を移動して退くと、口惜しそうに歪んだアルアミナの緋色の瞳が、何ゆえか、シルバではなく、再び魔物の首に手を伸ばさんとしたレダに向いたのだった。
憤怒に歪んだ緋の瞳がカッと発光したとたん、濡れた地面を裂くようにして吹き上がった黒炎の柱が、轟音と共にレダに向かって迸る。
機敏に振り返ったレダの手が、すぐさま『水の弓(アビ・ローラン)』を構え、伸び上がった青き閃光の矢が、迅速で黒炎に向けて解き放たれた。
雨と闇の虚空に清らかな水の波紋が広がり、幾重にも重なる青き円が、眼前に迫った黒炎を包み込むと、それは一瞬にしてその場から消失したのである。
その時、雨と闇に曇る虚空に幾つも黒き火の玉が伸び上がり、みるみる魔物の形をとると、やがてそこに、額に一角の黒い角を持つ、狼とも豹ともつかぬ相貌を持つ双頭の魔物が、周囲をぐるりと取り囲むようにして無数に出現したのだった。
双頭狼(トゥース・ワルヴ)と呼ばれる不気味な形相をしたその魔物。
黄色く淀んだ目を爛々と輝かせ、雨と闇の最中で低い唸り声を上げている。
レダは、『水の弓』を構えたまま、秀麗なその顔を強く鋭く引き締めて、鮮やかな紅の両眼で、周囲の魔獣をぐるりと見回したのである。
黒き肢体がひしめく最中に、清らかな青い光がけたたましく点滅している。
それは、間違いなく、青珠の秘宝『息吹』が放つ警告の輝きだった。
すぐ目の前に息吹があるというのに、これではそれに手を伸ばすことすら叶わない。
「なんて数なの・・・・っ?」
甘い色香の漂う秀麗な顔を苦々しく歪め、不愉快そうに呟いたレダの傍らに、ふと、やけに安心感のある、もうよく知った気配が俊足で走り込んで来た。
「大丈夫か?レダ?」
そう声をかけてきた、実に冷静で沈着な響きを持つ艶のある低い声。
やっと止み始めた雨の中に、漆黒の長い黒髪を揺らした長身の主は、利き手に聖剣ジェン・ドラグナを構えた、白銀の守護騎士シルバであった。
凛と輝くレダの紅の瞳が、僅かばかり安堵したように、しかしどこか悔しそうに、そんな彼の鋭い横顔を仰ぎ見る。
「馬鹿にしないで、昼間も言ったはずよ?私はこれでも青珠の守り手だって?」
その言葉に、シルバは、深き地中に眠る紫水晶の右目を鋭利に閃かせたまま、しかし、凛々しい唇だけで小さく笑ったのである。
「そうだった、すまない」
濡れた前髪から覗く彼の鋭い眼差しが、虚空にその身を浮かせ、憎悪に満ちた顔をしてこちらを見やるアルアミナに向いた。
黒き魔物を従えた女妖は、闇を映したような髪をゆらゆらと宙に揺らめかせながら、甲高い声を上げたのである。
『妖精の森の守り手ども・・・!そなたら、誠、いけ好かぬ者どもよ!』
とたん、周囲にひしめきうごめきあっていた双頭の首の黒き魔獣どもが、爛々と不気味な黄色い目を輝かせながら宙を舞うと、妖精の森の守り手たちに向かって、一斉に踊りかかったのである。
ランダムルの尾根を渡る強い風が、小雨になった雨粒を斜めに揺らす。
シルバの艶やかな長い黒髪が、ふわりと虚空に棚引いた。
その澄んだ紫水晶の右目が、研ぎ澄まされた刃の如く鋭利に輝く。
とたん、白銀の雷光のようなオーラが、轟音を上げてその肢体から吹き上がった。
洗練された物腰で、聖剣ジェン・ドラグナの刃を迅速で翻すと、シルバは、鋭い表情をしたまま、呪文と呼ばれる古の言語を口にしたのである。
『ヴァイオット・ディラーゼ(地脈雷光斬)!』
黒き岩場を揺るがすように、白銀に輝く眩い閃光が周囲に迸った。
補助呪文も無しに紡がれた強力な術に、雷の精霊達が天空と大地からけたたましく呼応する。
大地を振動させ、天空に凄まじい雷鳴が轟いた。
とたん、眼前の地面から、揺らめく光の帯のような紫雷が幾筋も幾筋も吹き上がり、それは激しい破裂音と共に、濡れた地面を打ち砕き弾け飛んだ大地の破片を虚空に舞い上げたのである。
眩いばかりの輝きを撒き散らし、天と地を光の速さで行き来する落雷の如き紫電の閃光が、縦横無尽に周囲を駆け抜け、宙を舞う無数の魔物を凄まじい勢いで飲み込んでいったのである。
どぉぉんという轟音が一定の間隔をあけて幾度も鳴り響き、迸る紫電に飲まれた魔物の肢体は、皆一瞬にして千々に引き裂かれ、紫の焔を上げて消し飛んで行った。
魔物の影が無くなり紫の閃光だけが走る闇の最中に、息吹の放つ、清らかな青き輝きが点滅しながら伸び上がっている。
その背後から、未だに生き残っていた双頭狼の群れが、不気味な黄色い目を爛々と輝かせ、再び宙を舞って踊りかかってきたのである。
シルバの傍らで、その甘い色香の漂う秀麗な顔を厳しく歪めていたレダが、藍に輝く艶やかな黒髪を強風に揺らしながら、凛とした紅の眼差しで魔物の姿を睨み据える。
青き閃光の矢を番えた【水の弓】の透明な弓弦が、迫り来る魔物どもに向けて一杯に引き絞られた。
強く結ばれていたレダの綺麗な桜色の裸唇が、人にあらざる古の言語、呪文と呼ばれる言葉を紡ぎ出す。
『遍く青き大地に眠る気高き諸刃 其は我が糧なり 青玉の水脈より来たれ
フェイ・アヴァーハ(荘厳なる水の刃)』
あの女性(ひと)は・・・・!?
激痛に淀んだ少女の脳裏に、魔王と呼ばれるあの青年が見せた光景が、今、何故かありありと蘇ってくる。
あの時、密かに思ったこの隻眼の青年の腕に抱かれていたのは・・・・間違いなく、今そこで青玉の弓を構えている、この美しい女性だったはずだ・・・・
エトワーム・オリアの森にある清らかな泉『竜の懐』から、この隻眼の青年の姿を時折眺め、密かに恋焦がれていたのに・・・・
痛みで淀んだ心の隅に、そんな気持ちが過ぎったとたん、少女の額に刻まれた炎の烙印が、再び、眩いばかりの紫色に発光したのである。
次の瞬間、少女の醸し出す悲痛な気配が、突如として邪悪な闇の気配へと豹変した。
涙に濡れた少女の水色の瞳が、にわかに、禍々しく淀んだ緋色の瞳へと打ち変わる。
「!?」
その気配に気付いたシルバが、濡れそぼった広い肩を僅かに揺らし、素早く少女の方へと振り返った。
黒絹のローブを纏った少女の肢体から、突如として闇の黒炎が揺らめき立ち、それはまるで、地をのたうつ蛇の如く虚空に伸び上がると、不意に、その手を握るシルバの腕に絡み付いて、激しい焔を立たせたのだった。
「っ・・・・!」
自らの腕に迸る、焼け付くような鋭い痛みに、彼の端正な顔が苦悶に歪んだ。
『そなたは、馬鹿が付くほど優しい男だこと・・・・・・・』
嘲るような女妖の言葉が、闇と雨に曇るその空間に低く轟いた。
同時に、涼しい弓弦の音が周囲に鳴り響き、『水の弓(アビ・ローラン)』から放たれた青き光の矢が、鋭利な閃光の帯を引きながら一直線に、女妖の額を狙って飛来したのである。
シルバは、苦々しい顔つきをしたまま、女妖の腕を振り払い、素早く機敏な身のこなしで、すかさず後方へ飛び退いた。
無垢な少女を憑とした女妖アルアミナは、赤い唇の下でチッと小さく舌打ちすると、淀んだ緋色の瞳を鋭く閃かせ、黒絹のローブを翻しながら、その細い体をふわりと宙に浮かせたのである。
つい今しがたまで、アルアミナの体があった地面に、涼しい水音を立てて閃光の矢が突き立つと、それはきらきらと輝きながら虚空に離散して消えていった。
「レダ!息吹を・・・!!」
怪我をした腕をかばうでもなく、シルバは、利き手に握った白銀の剣を瞬時に構え直して、後方にいるレダに向かってそう鋭く叫んだのだった。
即座にその声に反応し、薄紅のローブを雨と闇の虚空に棚引かせると、レダは、凛と鋭い表情をしたまま、裸足の爪先で濡れた地面を蹴ったのである。
俊足で走り込んだレダのしなやかな片手が、『息吹』をくわえたまま、カッと黄色い両眼を見開いた魔物の生首に向かって伸ばされた。
『させるか!!』
黒い岩肌を背景に、憤怒の形相でこちらを睨むアルアミナが、黒絹のローブを闇の虚空で翻す。
一瞬にしてその姿を消したアルアミナが、次の瞬間には既にレダの眼前にいる。
瞬きも出来ぬ間に翻った女妖の長く鋭い爪が、レダの綺麗な首筋を狙って空を裂いた。
『シャム・ラングラ!(守りの雷)』
呪文を紡いだシルバの声と同時に、激しい破裂音を上げて地面から伸び上がった守りの雷光が、レダのしなやかな肢体を取り囲んだ。
黒き爪が銀色の雷光に跳ね返されると同時に、アルアミナの背後から、唸りを上げた白銀の斬撃が、間髪入れずに虚空を薙ぐ。
『こしゃくな!!』
湾曲した鋭利な閃光の弧を、瞬時に空間を移動して退くと、口惜しそうに歪んだアルアミナの緋色の瞳が、何ゆえか、シルバではなく、再び魔物の首に手を伸ばさんとしたレダに向いたのだった。
憤怒に歪んだ緋の瞳がカッと発光したとたん、濡れた地面を裂くようにして吹き上がった黒炎の柱が、轟音と共にレダに向かって迸る。
機敏に振り返ったレダの手が、すぐさま『水の弓(アビ・ローラン)』を構え、伸び上がった青き閃光の矢が、迅速で黒炎に向けて解き放たれた。
雨と闇の虚空に清らかな水の波紋が広がり、幾重にも重なる青き円が、眼前に迫った黒炎を包み込むと、それは一瞬にしてその場から消失したのである。
その時、雨と闇に曇る虚空に幾つも黒き火の玉が伸び上がり、みるみる魔物の形をとると、やがてそこに、額に一角の黒い角を持つ、狼とも豹ともつかぬ相貌を持つ双頭の魔物が、周囲をぐるりと取り囲むようにして無数に出現したのだった。
双頭狼(トゥース・ワルヴ)と呼ばれる不気味な形相をしたその魔物。
黄色く淀んだ目を爛々と輝かせ、雨と闇の最中で低い唸り声を上げている。
レダは、『水の弓』を構えたまま、秀麗なその顔を強く鋭く引き締めて、鮮やかな紅の両眼で、周囲の魔獣をぐるりと見回したのである。
黒き肢体がひしめく最中に、清らかな青い光がけたたましく点滅している。
それは、間違いなく、青珠の秘宝『息吹』が放つ警告の輝きだった。
すぐ目の前に息吹があるというのに、これではそれに手を伸ばすことすら叶わない。
「なんて数なの・・・・っ?」
甘い色香の漂う秀麗な顔を苦々しく歪め、不愉快そうに呟いたレダの傍らに、ふと、やけに安心感のある、もうよく知った気配が俊足で走り込んで来た。
「大丈夫か?レダ?」
そう声をかけてきた、実に冷静で沈着な響きを持つ艶のある低い声。
やっと止み始めた雨の中に、漆黒の長い黒髪を揺らした長身の主は、利き手に聖剣ジェン・ドラグナを構えた、白銀の守護騎士シルバであった。
凛と輝くレダの紅の瞳が、僅かばかり安堵したように、しかしどこか悔しそうに、そんな彼の鋭い横顔を仰ぎ見る。
「馬鹿にしないで、昼間も言ったはずよ?私はこれでも青珠の守り手だって?」
その言葉に、シルバは、深き地中に眠る紫水晶の右目を鋭利に閃かせたまま、しかし、凛々しい唇だけで小さく笑ったのである。
「そうだった、すまない」
濡れた前髪から覗く彼の鋭い眼差しが、虚空にその身を浮かせ、憎悪に満ちた顔をしてこちらを見やるアルアミナに向いた。
黒き魔物を従えた女妖は、闇を映したような髪をゆらゆらと宙に揺らめかせながら、甲高い声を上げたのである。
『妖精の森の守り手ども・・・!そなたら、誠、いけ好かぬ者どもよ!』
とたん、周囲にひしめきうごめきあっていた双頭の首の黒き魔獣どもが、爛々と不気味な黄色い目を輝かせながら宙を舞うと、妖精の森の守り手たちに向かって、一斉に踊りかかったのである。
ランダムルの尾根を渡る強い風が、小雨になった雨粒を斜めに揺らす。
シルバの艶やかな長い黒髪が、ふわりと虚空に棚引いた。
その澄んだ紫水晶の右目が、研ぎ澄まされた刃の如く鋭利に輝く。
とたん、白銀の雷光のようなオーラが、轟音を上げてその肢体から吹き上がった。
洗練された物腰で、聖剣ジェン・ドラグナの刃を迅速で翻すと、シルバは、鋭い表情をしたまま、呪文と呼ばれる古の言語を口にしたのである。
『ヴァイオット・ディラーゼ(地脈雷光斬)!』
黒き岩場を揺るがすように、白銀に輝く眩い閃光が周囲に迸った。
補助呪文も無しに紡がれた強力な術に、雷の精霊達が天空と大地からけたたましく呼応する。
大地を振動させ、天空に凄まじい雷鳴が轟いた。
とたん、眼前の地面から、揺らめく光の帯のような紫雷が幾筋も幾筋も吹き上がり、それは激しい破裂音と共に、濡れた地面を打ち砕き弾け飛んだ大地の破片を虚空に舞い上げたのである。
眩いばかりの輝きを撒き散らし、天と地を光の速さで行き来する落雷の如き紫電の閃光が、縦横無尽に周囲を駆け抜け、宙を舞う無数の魔物を凄まじい勢いで飲み込んでいったのである。
どぉぉんという轟音が一定の間隔をあけて幾度も鳴り響き、迸る紫電に飲まれた魔物の肢体は、皆一瞬にして千々に引き裂かれ、紫の焔を上げて消し飛んで行った。
魔物の影が無くなり紫の閃光だけが走る闇の最中に、息吹の放つ、清らかな青き輝きが点滅しながら伸び上がっている。
その背後から、未だに生き残っていた双頭狼の群れが、不気味な黄色い目を爛々と輝かせ、再び宙を舞って踊りかかってきたのである。
シルバの傍らで、その甘い色香の漂う秀麗な顔を厳しく歪めていたレダが、藍に輝く艶やかな黒髪を強風に揺らしながら、凛とした紅の眼差しで魔物の姿を睨み据える。
青き閃光の矢を番えた【水の弓】の透明な弓弦が、迫り来る魔物どもに向けて一杯に引き絞られた。
強く結ばれていたレダの綺麗な桜色の裸唇が、人にあらざる古の言語、呪文と呼ばれる言葉を紡ぎ出す。
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