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第三節 混迷の暁に騒乱はいずる14
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「どうしていつも、そんな口の効き方しかできないのですか?貴方は?」
「悪かったな・・・・元からこういう性分なんでな」
「・・・・・まったく」
荘厳な鐘の音を鳴らすジャハバル神殿に向かって、ゆっくりと歩んでいく彼の広い額で、金色の二重サークレットが刃のようにキラリを輝いた。
真っ直ぐに前を見据える、燃え盛る炎のような鮮やかな緑玉の瞳。
苦痛に綺麗な眉をしかめたまま、リーヤは、静かな声で彼に聞くのだった。
「さっき・・・・貴方は・・・・言いましたね?
【無の三日月(マハ・ディーティア)】を使いこなせないと、貴方に止めを刺すことはできない・・・と?」
「・・・・ああ」
真っ直ぐに前を向いたまま、冷静な顔つきでジェスターは短くそう答えた。
どこか不審そうな表情をして、その紺碧色の瞳を細めると、リーヤは、再び静かに言葉を続けたのである。
「あれは・・・・一体どういう意味なのですか?貴方は貴方であって、ゼラキエルではないはずですよ?
なのに、何故私が、貴方に止めを刺さなければないないのですか?」
「・・・・・・・・」
「私は、もう随分と長いこと、貴方と旅をしていた気がします・・・・・
だから、大体のことは、判っている気もします・・・・・・・
でも、まだ、判らないことが、一つだけある・・・・・・・・
貴方が、今、名乗っている名は、貴方の本当の名ではありませんよね?
以前、ランドルーラで出会った者たちは、貴方を『ジェスター』とは呼んでいませんでした・・・・・・
何故、本当の名を名乗らないのですか?
・・・・・・・貴方は、一体・・・・【誰】なのです?」
やけに神妙な声色でそう言った彼女に、ジェスターは、どこか悲哀を含んだ微かな微笑を、その凛々しい唇に刻んだ。
緋色のマント羽織る、リーヤの肩が小さく揺れる。
揺るぎない強い眼差しで、今、真っ直ぐに、アーシェ一族最後の魔法剣士の端正な顔を見る、凛と立つ花のような美しき姫。
晴れ渡る空の色を映すその瞳の中で、ただ、前を見据えたまま、彼は、静かに言うのだった。
「・・・・・・アランデューク・レイラスカ・アーシェ・・・・・・それが俺の本当の名だ」
「アランデューク・・・・」
そう、昨夜、一夜の宿を提供してくれたネデラ・ブランカも、そして、ランドルーラで出会ったジプシーの踊り子も、確かに彼をそう呼んでいた。
「何故・・・貴方は、その名を名乗らないのですか?何故、ジェスター・ディグと名乗るのですか?」
殊更怪訝そうな表情をして、リーヤは、再びそう彼に問う。
「おまえには、俺の真実の名が、一体どういう意味を持つ名なのか・・・・判らないだろう・・・・・・・」
そう答えた彼の緑玉の瞳が、ふと、どこか鋭く、そして、どこか悲し気に細められる。
揺るぎない冷静さで満たされた鮮やかな緑の眼差しで、ただ、眼前を見つめたまま、彼は、言葉を続けた。
「『真実の闇なる者』・・・・・それが、アランデュークというこの名の本当の意味だ・・・・」
「・・・真実の・・・闇なる・・・・者・・・?」
そう呟いたリーヤが何かに気付いたように、今、驚愕で大きくその紺碧色の瞳を見開く。
「・・・・それは、一体、どう言うことですか・・・っ!?」
「判らないのか?」
「まさか・・・・・・っ!?
しかし、現にラグナ・ゼラキエルは、貴方とは別に存在しているではないですか!?
魔王は、アーシェの忌み子の兄・・・・私はずっとそう聞かされていました!」
「誰が・・・カイルナーガを・・・・・・あのラグナ・ゼラキエルを、忌み子の兄だと言った?」
「・・・・・・え?」
実に冷静で落ち着いた声色で紡がれたその言葉に、リーヤは、驚愕を隠せないまま、額から零れ落ちた紺碧の髪が目にかかるのも気にせずに、前を向いて歩くジェスターの顔を、ただ、ひたすら凝視してしまう。
「・・・・な」
「あれは・・・・『カイルナーガ(目覚めさせる者)』と言う名を持つ・・・・俺の・・・・弟だ・・・・」
「!!?」
【破滅の鍵】をその腕に抱いた【真実の闇なる者】が、吹き荒ぶ風の中でその見事な栗色の髪を揺らしながら、ふと、その足を止める。
揺れる前髪の隙間から覗く、燃え盛る炎の如き鮮やかな緑玉の瞳が、今、ゆっくりと、驚愕に歪むリーヤの秀麗な顔を顧みた。
その凛々しい唇が、静かに開かれ、落ち着き払った声で紡ぎ出されたその言葉・・・・
「真実の闇を持つ者は・・・・・・・あいつじゃない・・・・・
魔王と呼ばれる者ラグナ・ゼラキエル・アーシェは・・・・・・
この、俺だ・・・・・リーヤティア」
晴れ渡る空の色を映したリーヤの瞳が、傷の痛みすら忘れ、その胸中に波のように押し寄せてくる驚愕に戸惑って、ただ、真っ直ぐに、異形と呼ばれる、美しく鮮やかな魔性の瞳を見つめすえていた。、
ジャハバル神殿から聞こえてくる荘厳なる鐘の音が、清らかな青い光の粒子を降らせながら、タールファの街へと鳴り響いていく。
暗黒の炎が消えた町には、嵐の後の強い風が、甲高い声を上げて通り過ぎて行くばかりだった。
それぞれの胸に折り重なる思いを孕んだまま、運命を紡ぐ時の歯車は、今、急速に速度を上げて回り始めた・・・・・
「悪かったな・・・・元からこういう性分なんでな」
「・・・・・まったく」
荘厳な鐘の音を鳴らすジャハバル神殿に向かって、ゆっくりと歩んでいく彼の広い額で、金色の二重サークレットが刃のようにキラリを輝いた。
真っ直ぐに前を見据える、燃え盛る炎のような鮮やかな緑玉の瞳。
苦痛に綺麗な眉をしかめたまま、リーヤは、静かな声で彼に聞くのだった。
「さっき・・・・貴方は・・・・言いましたね?
【無の三日月(マハ・ディーティア)】を使いこなせないと、貴方に止めを刺すことはできない・・・と?」
「・・・・ああ」
真っ直ぐに前を向いたまま、冷静な顔つきでジェスターは短くそう答えた。
どこか不審そうな表情をして、その紺碧色の瞳を細めると、リーヤは、再び静かに言葉を続けたのである。
「あれは・・・・一体どういう意味なのですか?貴方は貴方であって、ゼラキエルではないはずですよ?
なのに、何故私が、貴方に止めを刺さなければないないのですか?」
「・・・・・・・・」
「私は、もう随分と長いこと、貴方と旅をしていた気がします・・・・・
だから、大体のことは、判っている気もします・・・・・・・
でも、まだ、判らないことが、一つだけある・・・・・・・・
貴方が、今、名乗っている名は、貴方の本当の名ではありませんよね?
以前、ランドルーラで出会った者たちは、貴方を『ジェスター』とは呼んでいませんでした・・・・・・
何故、本当の名を名乗らないのですか?
・・・・・・・貴方は、一体・・・・【誰】なのです?」
やけに神妙な声色でそう言った彼女に、ジェスターは、どこか悲哀を含んだ微かな微笑を、その凛々しい唇に刻んだ。
緋色のマント羽織る、リーヤの肩が小さく揺れる。
揺るぎない強い眼差しで、今、真っ直ぐに、アーシェ一族最後の魔法剣士の端正な顔を見る、凛と立つ花のような美しき姫。
晴れ渡る空の色を映すその瞳の中で、ただ、前を見据えたまま、彼は、静かに言うのだった。
「・・・・・・アランデューク・レイラスカ・アーシェ・・・・・・それが俺の本当の名だ」
「アランデューク・・・・」
そう、昨夜、一夜の宿を提供してくれたネデラ・ブランカも、そして、ランドルーラで出会ったジプシーの踊り子も、確かに彼をそう呼んでいた。
「何故・・・貴方は、その名を名乗らないのですか?何故、ジェスター・ディグと名乗るのですか?」
殊更怪訝そうな表情をして、リーヤは、再びそう彼に問う。
「おまえには、俺の真実の名が、一体どういう意味を持つ名なのか・・・・判らないだろう・・・・・・・」
そう答えた彼の緑玉の瞳が、ふと、どこか鋭く、そして、どこか悲し気に細められる。
揺るぎない冷静さで満たされた鮮やかな緑の眼差しで、ただ、眼前を見つめたまま、彼は、言葉を続けた。
「『真実の闇なる者』・・・・・それが、アランデュークというこの名の本当の意味だ・・・・」
「・・・真実の・・・闇なる・・・・者・・・?」
そう呟いたリーヤが何かに気付いたように、今、驚愕で大きくその紺碧色の瞳を見開く。
「・・・・それは、一体、どう言うことですか・・・っ!?」
「判らないのか?」
「まさか・・・・・・っ!?
しかし、現にラグナ・ゼラキエルは、貴方とは別に存在しているではないですか!?
魔王は、アーシェの忌み子の兄・・・・私はずっとそう聞かされていました!」
「誰が・・・カイルナーガを・・・・・・あのラグナ・ゼラキエルを、忌み子の兄だと言った?」
「・・・・・・え?」
実に冷静で落ち着いた声色で紡がれたその言葉に、リーヤは、驚愕を隠せないまま、額から零れ落ちた紺碧の髪が目にかかるのも気にせずに、前を向いて歩くジェスターの顔を、ただ、ひたすら凝視してしまう。
「・・・・な」
「あれは・・・・『カイルナーガ(目覚めさせる者)』と言う名を持つ・・・・俺の・・・・弟だ・・・・」
「!!?」
【破滅の鍵】をその腕に抱いた【真実の闇なる者】が、吹き荒ぶ風の中でその見事な栗色の髪を揺らしながら、ふと、その足を止める。
揺れる前髪の隙間から覗く、燃え盛る炎の如き鮮やかな緑玉の瞳が、今、ゆっくりと、驚愕に歪むリーヤの秀麗な顔を顧みた。
その凛々しい唇が、静かに開かれ、落ち着き払った声で紡ぎ出されたその言葉・・・・
「真実の闇を持つ者は・・・・・・・あいつじゃない・・・・・
魔王と呼ばれる者ラグナ・ゼラキエル・アーシェは・・・・・・
この、俺だ・・・・・リーヤティア」
晴れ渡る空の色を映したリーヤの瞳が、傷の痛みすら忘れ、その胸中に波のように押し寄せてくる驚愕に戸惑って、ただ、真っ直ぐに、異形と呼ばれる、美しく鮮やかな魔性の瞳を見つめすえていた。、
ジャハバル神殿から聞こえてくる荘厳なる鐘の音が、清らかな青い光の粒子を降らせながら、タールファの街へと鳴り響いていく。
暗黒の炎が消えた町には、嵐の後の強い風が、甲高い声を上げて通り過ぎて行くばかりだった。
それぞれの胸に折り重なる思いを孕んだまま、運命を紡ぐ時の歯車は、今、急速に速度を上げて回り始めた・・・・・
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