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第一節 覚醒する闇9
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迅速で手首を翻し、眩い金色の刃を一気に振り下ろすと、次の刹那、轟音と共に、その切っ先の床から深紅に燃える幾筋もの爆炎が、揺らめきながら立ち昇ったのである。
それが激しく燃え盛る火柱となって八方向に走ると、異空間より出でた魔物達が、ジェスターの体に爪すら立てられぬまま、激しく立ち昇る深紅の炎に焼かれて一瞬にして灰となり虚空に乱舞したのだった。
スターレット同様、このジェスターもまた、補助呪文と呼ばれる言葉を紡ぐことは少ない。
それは、彼もまた、その体内に強大な魔力を宿す一族の血を引いているが故(ゆえ)・・・
その時、宙に体を浮かせたゼラキエルの下限から、空を引き裂く烈風が渦を巻く蒼い光を伴って豪速で飛来してきたのだった。
ゼラキエルの緑玉の両眼が、忌々しそうに鋭く冷淡に細められる。
「リタ・メタリカの犬めが・・・・・小ざかしいわ、ロータスの者よ!」
ゼラキエルの体を囲むように黒炎が立ち昇ると、死を招く災厄の烈風が一瞬にしてその場から消え失せる。
その向こう側には、深紅に輝く両眼を鋭く細めた、ロータス一族の大魔法使いスターレットの姿があった。
ロータスの魔法使いは杖を持たない。
古より脈々と受け継いできた蒼き魔狼の血が、杖を持たずともその魔力を扱うことのできる、特異な能力をそこに産まれ出でた者に与えているからだと、後世には伝えられている。
彼を囲む蒼き疾風が、その蒼銀の髪を虚空に乱舞させていた。
雅な顔立ちを鋭利に歪め、スターレットは、爛々と輝く深紅の瞳でゼラキエルを真っ向から睨み据える。
「おぬしに【鍵】は渡さない・・・・」
「相変わらず、ロータスの飼い犬根性は直っておらぬようだな」
彼の旧知の友であるジェスターと、全く同じ口元で、魔王と呼ばれた青年はニヤリと不気味に微笑んだ。
その次の刹那。
「おやめください!!殿下!内親王殿下!」
もう聞きなれた少年の声と共に、まるで王宮の扉を蹴破るように、紺碧色の髪と瞳を持つ美しきリタ・メタリカの姫が一振りの剣をその手に構え、鋭い表情をしながらこともあろうにその場に駆け込んできたのである。
虚空に身を漂わせたゼラキエルの冷酷な緑玉の瞳が、ちらりと美しきリタ・メタリカの姫を見る。
「・・・・ほう、まさか、自らおいでとは・・・そなたが、【鍵】か?」
ゼラキエルを取り囲んだ黒炎が一際激しい火の粉を上げた。
そんな魔王の不気味な視線には気付かぬのか、リタ・メタリカの美しき姫リーヤティアは、その紺碧色の真っ直ぐで強い視線で、ロータスの雅な魔法使いの名を呼んだ。
「スターレット!!」
「!?」
そんな彼女の声に驚愕して、スターレットは一瞬大きく目を見開いた。
同時に、その隙を見逃さなかったゼラキエルの掌から、黒炎を宿した獅子の顔が、牙を向いてスターレットへと解き放たれる。
闇に満たされた空間を二つに引き裂いて、魔の牙を剥き出しにした黒炎の魔獣がスターレットの四肢を引き裂かんと迫り来る。
「なに!?」
次の瞬間、金色と黒が入り混じる激しい閃光がその場で弾け、寸前の所で、スターレットを取り囲んだ金色の結界が炎の獅子を一瞬にして弾き返したのだった。
「おい、何やってんだよ?お前らしくもない」
気付けば、いつの間にやら彼の前方に、朱色の衣を翻し金色の大剣を構えた姿で立っていた長身の青年が、広い肩越しにちらりと、その燃えるような緑玉の瞳で、渋い顔つきをするスターレットを見やっていたのである。
「すまん、ジェスター」
僅かばかり苦笑して、スターレットは、朱色の衣を纏う旧知の友の背中を緩やかに見た。
そんな彼の後方に、鋼の剣を構えたリタ・メタリカの美しき姫リーヤティアが走り込んで来る。
「来てはなりません!リーヤ姫!!」
スターレットの声と同時に、恐れも知らずその場に飛び込んで来たリーヤの周囲を蒼き疾風が取り囲んだ。
彼女の動きを阻んだ疾風の壁の向こうで、艶やかな紺碧の髪を乱舞させて、気強い表情のまま怒ったように彼女は叫んだ。
「その者がゼラキエルなのでしょう!?
私も貴方と戦う!!結界を解きなさい!!これは命令です!!」
「それはできません!いくら貴女の命でも、それを聞くわけにはいきませぬ!
ウィルト!早く姫を外へ!!」
スターレットのいつになく鋭い言葉が、焦った様子でリーヤの後方に走り込んできたウィルタール・グレイに言った。
「殿下!!駄目です!!早くこちらへ!!」
ウィルタールが叫ぶように言って、彼女に手を伸ばしかけた時だった。
突然、眼前の空間がぐにゃりと歪んだのである。
「あぁっ!?」
ウィルタールが、驚愕して青い両眼を見開いた時、その視界の中で、黒い炎と共にゆらりと黒く長い巻き髪がその場にたなびいた。
『【鍵】は、このエルフェリナが申し受けまする・・・・ゼラキエル様』
古の言語を紡いだその声は明らかに女の声である。
その額に刻まれた黒き炎の紋章。
紅い唇でニヤリと笑う魔性の女が、白い頬にのたうつ黒髪を張り付かせ、その冷たい藍色の瞳で驚愕に動きを止めたウィルタールを見つめすえている。
それが激しく燃え盛る火柱となって八方向に走ると、異空間より出でた魔物達が、ジェスターの体に爪すら立てられぬまま、激しく立ち昇る深紅の炎に焼かれて一瞬にして灰となり虚空に乱舞したのだった。
スターレット同様、このジェスターもまた、補助呪文と呼ばれる言葉を紡ぐことは少ない。
それは、彼もまた、その体内に強大な魔力を宿す一族の血を引いているが故(ゆえ)・・・
その時、宙に体を浮かせたゼラキエルの下限から、空を引き裂く烈風が渦を巻く蒼い光を伴って豪速で飛来してきたのだった。
ゼラキエルの緑玉の両眼が、忌々しそうに鋭く冷淡に細められる。
「リタ・メタリカの犬めが・・・・・小ざかしいわ、ロータスの者よ!」
ゼラキエルの体を囲むように黒炎が立ち昇ると、死を招く災厄の烈風が一瞬にしてその場から消え失せる。
その向こう側には、深紅に輝く両眼を鋭く細めた、ロータス一族の大魔法使いスターレットの姿があった。
ロータスの魔法使いは杖を持たない。
古より脈々と受け継いできた蒼き魔狼の血が、杖を持たずともその魔力を扱うことのできる、特異な能力をそこに産まれ出でた者に与えているからだと、後世には伝えられている。
彼を囲む蒼き疾風が、その蒼銀の髪を虚空に乱舞させていた。
雅な顔立ちを鋭利に歪め、スターレットは、爛々と輝く深紅の瞳でゼラキエルを真っ向から睨み据える。
「おぬしに【鍵】は渡さない・・・・」
「相変わらず、ロータスの飼い犬根性は直っておらぬようだな」
彼の旧知の友であるジェスターと、全く同じ口元で、魔王と呼ばれた青年はニヤリと不気味に微笑んだ。
その次の刹那。
「おやめください!!殿下!内親王殿下!」
もう聞きなれた少年の声と共に、まるで王宮の扉を蹴破るように、紺碧色の髪と瞳を持つ美しきリタ・メタリカの姫が一振りの剣をその手に構え、鋭い表情をしながらこともあろうにその場に駆け込んできたのである。
虚空に身を漂わせたゼラキエルの冷酷な緑玉の瞳が、ちらりと美しきリタ・メタリカの姫を見る。
「・・・・ほう、まさか、自らおいでとは・・・そなたが、【鍵】か?」
ゼラキエルを取り囲んだ黒炎が一際激しい火の粉を上げた。
そんな魔王の不気味な視線には気付かぬのか、リタ・メタリカの美しき姫リーヤティアは、その紺碧色の真っ直ぐで強い視線で、ロータスの雅な魔法使いの名を呼んだ。
「スターレット!!」
「!?」
そんな彼女の声に驚愕して、スターレットは一瞬大きく目を見開いた。
同時に、その隙を見逃さなかったゼラキエルの掌から、黒炎を宿した獅子の顔が、牙を向いてスターレットへと解き放たれる。
闇に満たされた空間を二つに引き裂いて、魔の牙を剥き出しにした黒炎の魔獣がスターレットの四肢を引き裂かんと迫り来る。
「なに!?」
次の瞬間、金色と黒が入り混じる激しい閃光がその場で弾け、寸前の所で、スターレットを取り囲んだ金色の結界が炎の獅子を一瞬にして弾き返したのだった。
「おい、何やってんだよ?お前らしくもない」
気付けば、いつの間にやら彼の前方に、朱色の衣を翻し金色の大剣を構えた姿で立っていた長身の青年が、広い肩越しにちらりと、その燃えるような緑玉の瞳で、渋い顔つきをするスターレットを見やっていたのである。
「すまん、ジェスター」
僅かばかり苦笑して、スターレットは、朱色の衣を纏う旧知の友の背中を緩やかに見た。
そんな彼の後方に、鋼の剣を構えたリタ・メタリカの美しき姫リーヤティアが走り込んで来る。
「来てはなりません!リーヤ姫!!」
スターレットの声と同時に、恐れも知らずその場に飛び込んで来たリーヤの周囲を蒼き疾風が取り囲んだ。
彼女の動きを阻んだ疾風の壁の向こうで、艶やかな紺碧の髪を乱舞させて、気強い表情のまま怒ったように彼女は叫んだ。
「その者がゼラキエルなのでしょう!?
私も貴方と戦う!!結界を解きなさい!!これは命令です!!」
「それはできません!いくら貴女の命でも、それを聞くわけにはいきませぬ!
ウィルト!早く姫を外へ!!」
スターレットのいつになく鋭い言葉が、焦った様子でリーヤの後方に走り込んできたウィルタール・グレイに言った。
「殿下!!駄目です!!早くこちらへ!!」
ウィルタールが叫ぶように言って、彼女に手を伸ばしかけた時だった。
突然、眼前の空間がぐにゃりと歪んだのである。
「あぁっ!?」
ウィルタールが、驚愕して青い両眼を見開いた時、その視界の中で、黒い炎と共にゆらりと黒く長い巻き髪がその場にたなびいた。
『【鍵】は、このエルフェリナが申し受けまする・・・・ゼラキエル様』
古の言語を紡いだその声は明らかに女の声である。
その額に刻まれた黒き炎の紋章。
紅い唇でニヤリと笑う魔性の女が、白い頬にのたうつ黒髪を張り付かせ、その冷たい藍色の瞳で驚愕に動きを止めたウィルタールを見つめすえている。
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