βがコンプレックスな俺はなんとしてもΩになりたい

蟹江カルマ

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23 ベータの宿命

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「……くさい。早く風呂に入れ」

 俺は吐き捨てるように言って、背中を向けた。

「くさい……ああ、打ち上げのとき、知らないオメガの子が無理やりひっついてきてたからか。彼氏いるって言ってるのに」

 サノユーはのんびりと答えた。

「その子、よりにもよって発情しかけてさ、あわてて抑制剤飲ませて解散したんだよ。困るよねぇ」

 発情。
 ベータの俺が、絶対になれないものだった。
 
「お前、オメガ用の抑制剤、持って歩いてるのか」

 俺は固い声で尋ねた。

「アルファだったら既婚者だろうが、誰だって持ってるから。マナーなんだよ」
「緊急避妊薬は?」
「使ったことないけど、持ってはいる」
 
 持っているということは、それを使うシチュエーションがありうる、ということだ。
 もしサノユーが運命のオメガに出会ってしまったら。そのとき、もし運命のオメガが発情していたら、サノユーはいったいどうするんだろう。
 あの無限の欲望で、その子を求めてしまうんだろうか。
 また俺は、いらないベータに戻るんだろうか。

「あ、朝くんもしかして、やきもち妬いちゃった?」
「うるさい、早く入れって!」

 俺は本気でいらいらしていた。
 
「……ごめん。デリカシーなかった。今、におい落としてくるね」

 サノユーは小さくつぶやくと、風呂場に急いで行った。
 
(くそ……)

 ドアをばんと閉めて、ベッドに腰かける。
 ぽつん、ぽつん。雨粒のように、フローリングに水滴がいくつも落ちていく。俺の目からこぼれたものだったことに気づくと、俺はひどくみじめになった。
 このままではまた捨てられる。
 
(もう手遅れなのに)
 
 心も身体も、すっかりサノユーと切り離せなくなってしまったのに。
 
「朝くん」

 風呂からあがったらしいサノユーがそっとドアから入ってくる。
 
「ごめん、怒ってるね。誤解してるかもしれないけど、僕、なんにもしてないから」

 やわらかい声で言って、隣に座った。
 
「今は、だろ」
「なんでそんなこと言うの?」
 
 俺は暗く言った。

「お前もあいつと同じなんだ。どうせオメガにとられる」
「バカだなぁ。僕はお前しかいらないよ」

 頬にむかって伸ばされた手を、俺は払いのけた。

「あいつだって最初はオメガに興味ないとか言ってたくせに、あとで運命のオメガに出会ったんだ。お前たちアルファはみんなそうだ。オメガの影響力を過小評価して、あとで本能に流される」
「そのアルファといっしょにするの、ほんとやめて?」

 サノユーは少し気色ばんだ。

「その初恋のアルファみたいに浮気したなら怒られても仕方ないけど、僕は何もしてない」
「ある意味あいつよりひどいだろ」
「なんでだよ!」
「あいつは俺に何もしなかったが、お前は俺を手遅れにした」
「それは」

 サノユーは一瞬、言葉につまった。

「……そうだね」

 そう言って、サノユーは自虐的な笑いを浮かべた。

「僕はお前を手遅れにしたかった。だからお前のコンプレックスをかきたてて、オメガになれるって餌をちらつかせて、既成事実を作った。ひどいでしょ?」
「オメガになんて、なれないのに」
「うん。オメガになれる確率なんて低いのに。そんなのにつられちゃって。ちょろすぎ」

 言葉のきつさと裏腹に、サノユーの声はひどく優しい。

「朝くん、ほんとかわいそうな子だね。オメガになれるかもって期待だけで、身体じゅう開発されて、わけわかんなくなるまで抱かれちゃって、無理やり好きって言わされて……好きだよ、そんなお前が。こんなかわいい子、捨てられるわけないじゃん」
 
 そっと頭を撫でられた。
 今度はその手を払いのけることができなかった。
 
「約束する。僕はオメガなんかに浮気しない。もし万が一本能が暴走しても、ちゃんとお前にぶつけてあげる]
「口約束だろ、そんなの」
「信じてよ」
「俺だって疑いたいわけじゃない」
 
 俺は手のひらに顔を埋めた。
 
「なんでオメガになれないんだ、俺は。そうすれば全部解決するのに」 
「うん。僕だってしてあげたい。オメガになったらお前はもっと僕に依存してくれる」
「俺、ほんとに手遅れなんだよ。捨てられるぐらいなら捨ててやるって、言ってやりたいのに、できない」
「そんなこと、冗談でも言わないでよ」

 サノユーは俺を抱きしめた。涙がいくらでも溢れだしてきた。 
 
「すきなんだ、サノユー。お前がいないと、ダメなんだ」

 ベッドに押し倒されながら、俺はしゃくりあげた。
 
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