エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第4章:記憶の欠片

第46話

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「2人共おはよう!」

翌日。支度を済ませて宿屋の入口で待っていると、別室で休んでいたルナさんとレミリーさんが僕達の元にやって来た。

「少々、寝すぎたのではないですか?見てください。太陽があんなに…」
「もうツヴェルったら~。そんな無理して、憎まれ口をたたくことないじゃない~。」
「それはそうと!皆からの了承は、ちゃーんともらったよ!」
「そうなのですか?」
「ええ~。ほら、ちゃんと書いてあるでしょう~?」

そう言うと、彼女はツヴェルさんに向かって1通の手紙を差し出した。

「皆がこうして同意するのであれば、僕は何の問題もありません。お言葉に甘えて、ゆっくり過ごさせてもらいましょう。」
「うふふ~。素直じゃないんだから~。」
「今日はどこに行く?昨日は大通りの方を見て回ったけど、これといって何も思い出せなかった…んだよね?」
「は、はい。すみません…。」

言葉を濁して、何も思い出せなかったフリをした。昨日詳細を話したツヴェルさんも、僕から何も聞かなかったフリをしている。

「それじゃあ今日は、大通りからちょっと離れた街中を歩きましょうか~。」
「あまり遅くならずに帰ってきて下さいよ?」
「え?ツヴェルは行かないの?」
「僕はもう、十分話をしたので必要ないかと。せっかくの休みですから、宿屋で温泉にでも浸かります。」
「浸かるのはいいけど、のぼせないでよー?」
「そ、それは昔の話でしょう!?同じ轍を踏むような事はしません。」

そう言い残し、彼は宿屋の中へと姿を消した。

「せっかくラーズニェに来たのだから、船で移動しましょ~。向こうに大きな水路があるでしょう?あそこから船に乗れるわ~。」
「そう言えば、みんなで来た時も船に乗ったんだよ?私とフランは別の船で…レミリーは宿屋でお留守番だったよね。」
「あの時は、ついつい寝過ごしちゃったのよね~。」
「という事は…船に乗ったとはいえ、どこを巡ったのかはわからない訳ですね。」
「何がきっかけで思い出すかわからないし、とにかく乗ってみよ!」

彼女に腕を引かれ、3人で船着場へと向かう事になった。
貸し出し用の船は5人乗りで、乗った人が自らの手で船を漕ぐようだ。僕は両手でオールを掴み、力一杯漕ぎ出した。

「ルナが乗った船は、誰が漕いだのかしら~?」
「私とユイじゃ力不足だったから、タックにお願いしたよ。途中でミグにも漕いでもらったんじゃなかったかな?」
「僕の船には、他に誰が乗っていたんですか?」
「えーっと…。ララとツヴェルだったかな?」
「うふふ。ララは昔から、フランの事が好きだったものね~。」
「え?」
「レ、レミリー!本人が居ない所であんまり言わない方が…。」
「そうかしら~?恋バナって、本人が居ない所でもするものでしょう~?フランの記憶にも関わる話だし、しておいてもいいんじゃないかしら~?」
「フラン本人はここに居るけどね…。」
「僕…ララさんからは、嫌われてると思ってました。なんだか、避けられているような気がして…。」
「あなたの記憶が無くなって…ララも、どうしたらいいのかわからなくなったんじゃないかしら~?」
「今度、ララに手紙を書いてあげなよ!口には出さないけど、きっと心配してるだろうから…ね?」
「はい。そうします。」
「そう言うルナは、好きな子はいないの~?」
「え!?わ、私は…。」

彼女は目線を下にさげ、言葉を濁した。

「私の話より、フランの話をしようよ!」
「それもそうね~。あ、そう言えば…レミリーっていう愛称は、あなたがつけてくれたのよ?」
「え?僕がですか?」
「えぇ~。進級して同じクラスになった時、私とタックを愛称で呼ぶ事になったのよ~。」
「タックって呼び始めたのも、フランだったよね?」
「そうそう~。あの時はとっても嬉しかったわ~。愛称でなんて、呼ばれた事なかったもの~。」
「以前の僕は、そんなに親しげだったんですね…。」
「せ、性格はちょっと変わったかもしれないけど…人を助けようとする優しさとか、相手に対する感謝の気持ちとか、変わらない所も沢山あるよ。ね?レミリー?」
「どうかしら~?以前はあなたと親しかったけれど、今のあなたとは初対面だもの~。」
「そう…ですね。」

彼女は柔らかな口調で、胸に刺さるような鋭い言葉を口にした。

「以前のあなたがどうだったかなんて、どうでもいいの。私は、これからのあなたを見るわ~。」
「レミリーさん…。」 
「すぐには難しいかもしれないけれど、少しづつ打ち解けられるわ。過去の事は過去として、これから慣れていきましょう~?」
「…はい。ありがとう。」
「ねぇフラン。そろそろ漕ぐの疲れたんじゃない?そろそろミグと交代し…」
「きゃー!」

どこからともなく、女性の悲鳴が聞こえてきた。

「今の悲鳴は!?」
「あそこじゃないかしら~?」

レミリーさんが指差す先に、道の中央で座り込む女性の姿があった。すると、ルナさんがその場に立ち上がり船から身を乗り出して、近くの陸地に飛び降りた。

「ルナさん!どこへ!?」
「助けに行かなきゃ!」
「僕も一緒に…レミリーさん!船をお願いします!」
「2人共、気をつけてね~。」

彼女の後を追いかけて女性の元へ辿り着くと、彼女は裏路地の方を指さした。

「荷物が盗られたんだって!あっちに逃げたって言ってる!」
「追いかけましょう。」

路地裏を駆け抜け、人通りの多い通りに出た。
辺りを見回すと、人混みをかき分けて走る男の姿を見つけた。

「そこの人、泥棒ですー!捕まえて下さーい!」

彼女の声を聞いた犯人はその場に立ち止まり、近くにいた子供の腕を掴んで自身の身体に引き寄せた。

「騒ぐな!このガキがどうなってもいいのか!」
「ママー!」
「っ!?子供を盾にするなんて…!」

犯人の手元には、小型のナイフが握られていた。
子供を助ける為には、犯人に近付く必要がある。剣を持って走っても、恐らく間に合わないだろう。
今のルナさんに攻撃手段はない。ここはルドルフに魔法を唱えてもらうのが最善だと考え、彼に後を託した。

「何とか奴の気を引け。俺様が魔法で何とかする。」
「うん…わかった。」

すると娘は人混みをかき分け、犯人の前に姿を見せた。 

「なんだテメェ!それ以上近付くな!このガキ斬るぞ!」
「あなたの要求は何ですか?お金が…必要なんですか?」
「あぁそうだよ!金だ金!ここに居る奴等、全員だ!有り金全部、俺に寄越しやがれ!」
「それに従ったら、その子を解放すると約束してもらえますか?」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさとしろ!おら!金を出せ!」

魔法の詠唱を終えようとしたその時、屋根の上から何やら光るものが飛んできた。

「うぐっ!」

光の正体は矢尻だった。ものすごいスピードで犯人の腕を撃ち抜き、持っていたナイフは床に転げ落ちた。
その隙に娘が走り出し、犯人の腕から子供を引き離した。

「くそっ!どっから撃ってきやがっ…」
「“…我が意思に従え。レイル”」
「ぐはぁ!」

俺の魔法が命中し、犯人は床に倒れ込んだ。すぐさま周りの住人達が取り押さえ、騒動は無事に収まった。

「ルナさん!大丈夫でしたか?」
「うん!私もあの子も無事だよ。盗られた荷物も戻ってきたし!」
「よかった…。ところで、あの弓矢は誰の仕業なんでしょうか?」
「…んだよ。これからあいつをボッコボコにしてやろうかと思ったのによぉ。」

散り散りになる住民達の中から、レミリーさんが姿を現した。彼女の手には、少々小ぶりな弓が握られている。

「あ!もしかして、さっきの弓矢はレミリーさんが…」
「あぁ?だったらなんだよ。文句あんのか?」
「え…?レミリー…さん…ですよね?」
「あたしがレミリアじゃなかったら、誰だって言うんだよ。てめぇの目は節穴か?」
「随分…口調が違っているような…。」
「あぁ…。レミリーは、武器を手にすると別人みたいになっちゃうんだよね。」
「僕の中にルドルフがいるように、レミリーさんの中にも別の誰かがいるんですか?」
「ううん。そうじゃないよ!レミリー。もう犯人は捕まえたし、武器をしまった方がいいんじゃない?」
「あーあ。あっさり捕まっちまってつまんねーの。」

彼女は弓を握り潰すと、赤く染った手をハンカチで丁寧に拭き始めた。

「2人共、怪我はなかったかしら~?」
「え!?あ、はい…。」
「あら…ちょっと顔色が悪いわね~?フラン大丈夫~?」
「き、気のせいだと思いますよ。僕は何ともありません。」
「そう~?それならいいのだけれど…。」

その後、荷物を盗られた女性の元に荷物を送り届け、ツヴェルさんが待っている宿屋へと帰ることにした。
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