エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第6章:忍び寄る闇

第74話

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「マコ。足の具合はどう?」

翌日。怪我をした彼女の元を訪れた。
研究室の椅子に座り、何やら作業をしているらしい。

「あっ…フランくん!うん~もう全然平気だよお。」
「それならよかった。」
「その荷物…。もしかして、もう向こうに帰るの?」

彼女の言う通り、僕は彼等に別れの挨拶をしにここへ来た。スレイとレヴィの2人には、家を出る時に既に挨拶を済ませている。
目的の鉱石を見つけ、この街での目的は果たされた。ステラ様が危険な目にあっているかもしれないというこの状況で、ゆっくり休んでいる暇は無いのだ。

「うん。みんなが待ってるからね。急いで戻らないと。」
「そうだよねぇ…。」

彼女は明らかに落ち込んでいた。そんな彼女に何と声をかけるべきか迷っていると、部屋の扉が勢いよく開かれた。

「こらマコ!フランを困らせないって約束したッスよね?」
「あれ…ゼノ?」

作業の途中なのだろうか?彼は手に工具を握りしめたまま、彼女に向かって声を荒らげた。

「べ、別に困らせてないよぉ…!ただ…吸血鬼の彼に、お礼が言いたくて…。」
「礼だと…?俺様にか?」

俺は驚きのあまり、女に問いかけた。
奴に対して何かをしてやった事に、心当たりがない。

「うん!怪我、治療してくれたのにお礼もしなくてごめんねぇ。ありがとぉルドルフくん。」
「そんなふざけた呼び方をするのは貴様が初めてだ。」
「これ、良かったら貰ってくれないかなぁ?」

すると女は、透明な石で作られたリングのようなものを差し出した。

「俺様の治療費は高くつくなどと言ったが、あれは冗談だ。真に受けるな。」
「治療費じゃなくてあたしの気持ちだよぉ。これに手をかざして魔力を込めると、魔力を溜めて置くことが出来る指輪なんだぁ。貰い物だけど、あたしは魔法使う機会がほとんど無いから…使い道が無くて困ってたんだよねぇ。」
「ほう?それは便利だな。使わないのであれば貰っておこう。」

俺は指輪を受け取ると、左手の指にはめてみた。
女用だからなのかどの指にも合わず、最後に試みた小指だけが指輪を通すことが出来た。

「本当にいいの?マコ。」
「うん~。フランくんもありがとうね。ルカくん…見つかるといいねぇ。」
「見つけるよ。絶対に。」

こうして彼等に別れの挨拶を済ませた僕は、レジデンスへと戻って行った。



「これが例の鉱石か?思ったより小さいな。」

テーブルに置いた鉱石を見たヴァン様は、興味津々な様子で石を見つめている。その一方で、隣に座っているリーシア様は脚を組み、不機嫌そうな表情を浮かべていた。

「こんなもので本当に捜索など出来るのかしら?」
「確か…魔力を込めるのだったな。」
「はい。あ、ですが…どうやら光属性の魔法にしか反応しないようです。闇属性の魔法では、反応しませんでした。」
「なるほど。では、今ここでやってみてもらえるか?」
「は、はい。」

俺は鉱石を掴み、魔法を唱えた。辺りが光に包まれ、金属が擦れるような音が聞こえてくる。手の上の鉱石は、親指の付け根辺りに光が残り、微かに輝いていた。

「金属が擦れるような音が聞こえると思いますが、これが反応している証拠です。そして…この部分が光っているという事は、向こうの方角に反応があるという事です。光の強さでおおよその距離がわかります。」
「ふむ…なんとも不思議だな。」
「こんな変な石に頼るなんて…にわかに信じ難い話ですわ。」
「エレナ。不満があるならお前が探したらどうだ。」

不満を漏らすリーシア様に対し、彼は嫌味とも取れる言葉をかけた。

「も、もちろん探していますわ!ステラ様を助けたいのは私だって…」
「ならば、フランのやる事にいちいち文句をつけるな。野次を飛ばすだけなら人間でもできるぞ。」
「っ…!話が終わったのなら、失礼致しますわ!」

彼女は荒々しく扉を開け、部屋を出て行った。

「全く...。さっきの言葉で多少は懲りただろうが、また嫌味を言うようであれは俺に教えてくれ。」
「え...?」
「ん?何か変な事を言ったか?」
「いえ...その...。」
「言いたいことがあるなら早く言え。俺も忙しいからな。」

彼は、僕の後方にある机の方に視線を向けた。そこには、今にも倒れそうな高さの書類の山が出来ている。
その仕事量に関心しつつ、僕は飲み込みかけた言葉を彼にぶつけた。

「...ヴァン様は、ラギト様を殺そうとした僕が憎くはないんですか?正直、リーシア様の反応は正しいと思います。」
「俺がお前を責めないのは、お前を我が子だと思ってるからだ。」
「え?」

彼の意外な一言に、僕は耳を疑った。
僕の中の彼のイメージは、みんなを引っ張るリーダー的存在で、決断力があるが故に冷酷な判断をする人だと思っていた。

「赤ん坊だったお前がここへ来た翌日...レーガは熱を出してな。あいつの代わりに、俺がお前の世話した。あいつは自分が父親だと言っているが、俺もお前の父親のつもりだ。別に父親が1人でなければならないと言うことはない。2人だろうが3人だろうが同じ事だ。」
「父親だと言うなら...尚更怒るべきでは?」
「レーガはお前を怒ったか?」
「...いいえ。」
「子供は親に反抗するものだ。俺も幼い頃、父親に反発した時期があった。だから、お前の気持ちも多少はわかる。だから、極力お前の考えを尊重してやりたいと思っている。ただし、それが間違った道なら、正してやるべきだとは思うがな。」
「ラギト様の暗殺は、間違った道ではないと...?」
「少なくとも俺はそう思っている。」

産まれた時の事は当然ながら覚えていないし、父親どころか母親も居なかった僕にとって、彼の言葉を理解する事は難しかった。

「まぁ...俺はレーガと違って、父親面するつもりはない。ただ、俺はお前を家族だと思っている。それはエレナもフィーも同じだ。...ヴェラはどうか知らんがな。」
「リーシア様もですか?」
「あいつはお前の事を、弟だと思って可愛がって来た。傍から見れば、母親に見えなくもなかったが...エレナに母親のようだと言ったら、よく怒られたものだ。」

僕はふと、クラーレの顔が頭に浮かんだ。
クラーレがもし、自身の親を暗殺しようとしたら...僕はどうしただろう?
リーシア様の立場になって考えてみれば、その答えは自ずと分かるような気がした。

「説教くさくなってしまったが...とにかく、俺はお前を責める気は無いという事だ。引き続き、ルカの捜索は任せたぞ。」
「...はい。」

自分の部屋に戻った僕は、ベッドに倒れ込むようにして横になった。
ラギト様の話が頭の中を駆け巡り、気が付くと窓から夕日が差し込んでいた。

「ぁ...れ...?もう夕方?いつの間にか寝ちゃってたのか...。」

身体を起こすと、掛けられていた毛布がするりと肩から落ちた。いつの間に毛布を掛けたのか思い返していると、テーブルの上に食事を乗せたトレイが置かれているのが目に入った。

「今朝はすみませんでした...。良かったら、召し上がって下さい。ステラ様の捜索、頑張ってくださいね...。」

名前は書かれて居なかったが、文面からしてリーシア様のものと思われるメモが添えられていた。
どうやら、ラギト様の部屋で僕と言い争った事について、反省しているらしい。
彼女の好意で作られた料理を頂きながら、ステラ様の捜索に再び熱意を燃やすのであった。
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