エテルノ・レガーメ2

りくあ

文字の大きさ
93 / 116
第8章:迷走

第92話

しおりを挟む
いつもと変わらぬ日常を過ごしていたある日。僕はヴァン様に呼び出され、食堂へ向かった。するとそこには、ステラ様を含めた総務の全員とルシュ様以外のレジデンスの幹部が席に着いていた。
あまりに物々しい雰囲気に戸惑っていると、僕に気付いたレム様が、僕の手を引いた。

「…フラン。こっちに座って下さい…。」
「あ、ありがとうございます。」
「もうすぐ…イムーブルの幹部も来ると思うので、もう少し…待ちましょう…。」
「総務の方々だけでなく、イムーブルの幹部も来るんですか?一体これは何の集まりで…」

僕の言葉を遮るように扉が開かれ、イムーブル幹部のユーリさんとツヴェルさんが姿を現した。

「遅くなって申し訳ありません。」
「これで全員だな。空いている席に座ってくれ。」
「失礼致します。」

全員が席に着くと、ヴァン様がその場に立ち上がり口を開いた。

「総務の方々、そして他の皆もご足労感謝します。ステラ様から今後の方針について、お話があるとの事でお集まり頂きました。…ステラ様、続きをお願い致します。」
「みんな、わざわざ遠い所から集まってくれてありがとう。今後の方針について、みんなの意見を聞きたいと思うんだ。まずは総務の見解を、ハイトから説明してもらうね。」

そもそも今後の方針と言うのは、人間と吸血鬼の争いについてだった。
ハイト様の話を簡潔にまとめると、人間と争わない為に吸血鬼の産みの親である悪魔との契約を辞め、吸血鬼の力を失うというものだった。
今までは、吸血鬼が外に出ないよう結界を維持していたが、それでは無理だと判断したらしい。これは僕がステラ様と交わしていた手紙の内容と一致する。僕の意見を総務の方々と話し合い、実行に移す事に決めたのだろう。

「ここまでで、何か質問はある?」
「はい。よろしいでしょうか?」

ユーリさんが手を挙げ、その場に立ち上がった。

「吸血鬼の力が無くなると、吸血鬼である私達はどうなるのでしょうか?」
「正直、断言は出来ないけど…人間と同じ扱いになるから、短命にはなるだろうねー。それと、魔法が扱えなくなる可能性も有り得るかな。」
「それでは私達は、人間よりも劣る事になるという事ですの!?」
「エレナ…そうと決まった訳じゃないよ。落ち着いて?」
「なぜ皆様はそんなに冷静で居られますの!?今まで人間達が、私達に何をしてきたのかお忘れになったわけじゃありませんわよね!?」

彼女の言い分は、ごもっともだ。人間は、力のある吸血鬼を恐れるが故に、争い…奪い合ってきた。
そんな吸血鬼が力を失えば、人間達は今までの恨みを晴らそうと…再び争いが起きるかもしれない。

「エレナ。君の気持ちはよくわかるよ。でも…力のある者が、力のない者を押さえ付ける世界は間違ってると思わない?力のある者は、力のない者に寄り添わなきゃ。」
「それはそうですが…。私達が寄り添った所で、人間が私達に寄り添うとは思えませんわ。」
「そこで、我々総務は考えた訳じゃ。人間の偉い奴と話をして、法とやらを決めようとな。」
「法…と言うのは何でしょうか?」
「ルールや決め事の事だよ。例えば、人間が吸血鬼を襲ったり殺したりするような事があれば、吸血鬼側が人間に対して罰を与える…とかね。もちろん、それだと吸血鬼だけが有利になっちゃうから、逆のパターンもある訳だけど。」
「なるほど…そういった取り決めをする事で、双方を平等になる訳ですね。」
「すぐに答えを決めて欲しいとは言わないよ。エレナみたいに戸惑う人はいると思う。ここにに居ないイムーブルの幹部だって、全員賛同してもらえるかわからないしね…。」
「彼等なら、きっと理解してくれると思います。説明は僕達にお任せ下さい。」
「他に質問が無ければ、これでお開きにしましょ。それぞれの幹部達で話し合って、まとめた内容をクレアに報告してね。」
「わしはエーリにいるでな。いつでも待っておるよ。」
「それではステラ。帰ろう。」
「うん。わざわざ集まってくれてありがとうみんな。また相談したい事があったら集まってもらうかもしれないけど、その時はよろしくね。」

突如集められた総務と幹部の集まりは、こうして幕を閉じた。



「失礼します。」

翌日。僕はヴァン様の部屋を訪れた。

「忙しい所、呼び出して悪いな。座ってくれ。」

彼に促されてソファーに座ると、彼は口を開いた。

「昨日のステラ様の話、お前はどう思っている?」
「僕は賛成…というか、あの話を提案したのは僕なんです。」
「何…?そうなのか?」
「はい。」
「なら、返事を聞くまでもなかったか…。わざわざ呼び出してすまなかった。もう戻っていいぞ。」
「あ、あの…!リーシア様は、まだ反対されているんでしょうか?」
「あぁ。あいつは人間に奪われたものが大きいからな。もうしばらく、考えを整理する時間が必要だろう。」
「他の皆さんはどうなんですか?」
「レーガもフィーも、戸惑ってはいるが賛成しているようだ。俺も、ステラ様がそう仰るなら従おうと思っている。」
「そうですか…。」
「エレナの事は気にするな。俺がなんとか説得するから、お前は仕事に専念してくれればいい。」
「わかりました。では…失礼します。」

扉の前で頭を下げ、部屋を出る。廊下を歩きながら、昨日のリーシア様を思い出していた。
彼女は、自分達の要求に人間が従うはずがないと口にしていた。それは、人間である僕も懸念している事だった。
この和平を提案する人間は、恐らくテト様のお父様であるミッド国王だろう。テト様の人柄を知る僕であれば、国王に対する信頼も厚い。
しかし、人間と争い合う側面しか見てこなかった彼女達にとって、人間を信用しろなどと簡単に言えることではなかった。

「…い。フラン!」
「わっ!な、何?急に大きな声を出さないでよ。」
「このまま進めば外だぞ?部屋はとっくに通り過ぎている。」
「え?あ…ごめん。考え事をしてたらつい…。」
「仕事が溜まっている事を、忘れたわけじゃないだろうな?今日はピシシエーラの近くまで薬草を取りに行かねばならん。さっさと支度しろ。」
「わ、わかったよ…!」

彼に急かされて部屋へ引き返すと、ピシシエーラの近くにある森へと向かった。



「うわーん!ママー!」

森の中を歩いていると、少女の鳴き声が聞こえてきた。そのまま放って置くことも出来ず、僕は優しく声をかける。

「どうしたの?ママとはぐれちゃった?」
「っ…!…お兄ちゃん…誰?」
「僕はフラン。薬…お花を摘みに来たんだ。ほら、綺麗でしょ?」

僕はカゴに入った薬草の花を取り出し、少女の手に握らせた。

「…綺麗。」
「ママとはぐれちゃったの?」
「うん…。街でお買い物してたんだけど…」

どうやら綺麗な鳥を追いかけているうちに、森へと迷い込んでしまったらしい。

「ピシシエーラに行けば、この子のお母さんが見つかるかな…?森の中は危ないから、お兄ちゃんと街へ帰ろう?」
「う、うん…。」

少女の手を握り、森を抜けて洞窟の中へ入っていく。

「フラン!」

街灯で照らされた街道を歩いていると、後ろから名前を呼ばれて振り返った。

「タックさん?それにララさんも…」
「こんな所で会うなんて奇遇だね。あれ?その子は?」
「近くの森で迷子になってたんだ。母親とはぐれちゃったんだって。」
「それなら俺等も手伝うよ。ララもいいよね?」
「えっ…!う、うん…。」

彼女は目を逸らしながら、気まずそうに頷いた。少女は僕の手を離れ、彼女の足元に抱きついた。

「わ…!」
「お姉ちゃん…一緒にママを探してくれる…?」
「う、うん!一緒に…探そっか。」
「ありがとうお姉ちゃん…!」

偶然居合わせたタックさんと、少女と手を繋ぐララさんと共に街中を歩き回った。

「うーん…。」
「タックさん…どうかした?」
「沢山歩いたし、色んな人に聞いて見たけど、情報が全く無いなんて変じゃない?」
「それは確かに…。ねぇ。君のママは、この街に居るんだよね?」
「…た、多分?」

少女は首を傾げながら、そう口にした。

「もしかして、フルリオだったりしない?鳥を追いかけてたんでしょ?近くの街とは限らないんじゃ…。」
「ね、ねぇ…。あなたのお家の近くに、噴水はある…?」
「噴水…ってなぁに?」
「こう…お水がブワーッと吹き出てる所の事だよ。」

彼は手を大きく広げ、身振り手振りで噴水について説明した。

「あ!それなら、お家の近くで見た事ある!」
「…これは、タックさんの言う通りフルリオかもしらないね。」
「今からなら、まだ日暮れ前に着けるよね?急いで出発しよう。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...