強面な将軍は花嫁を愛でる

小町もなか

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07.マンフリート

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 チャドラを早々に呼び寄せたのは正解だった。

 白き異界人の世話をしてほしいと頼んだときは、涙を零さんばかりに喜び、緊急時以外使用してはいけない王城と領地の城を繋ぐワープゲートでも、初めて通過したことに感動してずっと喋り通しだった。


 マンフリートの侍従長にしてチャドラの父親でもあるリチャードは、トレードマークである銀縁のメガネをクイッと指で押し上げて、落ち着きのない我が子に向かって、容赦のない言葉で叱りつけていた。

 いささかかわいそうな気もしたが、浮ついた気持ちでは困ると思ったので、今回は助け船を出すのを止めた。


 何はともあれチャドラのおかげで、わずかではあったが、自分を見ても、少しだけ怯えていた警戒心も薄れたような気がする。

 毎日訪問して少しずつ慣らしていけば、仲良くなって城へつれて帰れる日もそう遠くはないと、少々浮かれた気分で呼ばれた王の執務室へ向かったのだが、それが一気にへし折られるなど、そのときはまったく想像もつかなかった。


「ラウル王、私一晩考えたのですが、とてもいい案を思いつきました。それを発表してもかまいませんか?」

「なんだ、その勿体つけた言い方は。早く話せ」

 新しもの好きな王は常に好奇心旺盛なのだ。それがよいか悪いかはとりあえずどうでもよいのだ。


「ラウル王、ルシャナ王子を手放す気はありますか?」

「うーん? いきなり、どういうことだ?」

「ルシャナ王子の寿命の件ですが、ひとつだけ解決策があるじゃないですか。もっとも簡単な方法が。それをすればいいのですよ。で、もう相手はいます」


 マンフリートは、ユージンが何を言っているのか皆目見当も付かない。

 しかし、王はピンときたのか、ああ! と言って納得して頷く。


「そうだな。俺の妻にするには、ちょっとな……幼すぎるというか。あんなに怯えられていたらなあ……それにピンとこなかった」

「やはり。最初の物珍しさが引けば、もうご興味が薄れているのでしょうね。飽きっぽいのも大概にしてほしいですが、今回はそれが功を奏しましたね。適任者がほかにいたので、争いにならずに済みます。適任者といえば、もうお分かりでしょう?」

 二人が含み笑いをし、こちらを向くのだが、何をいわれているのか、さっぱりわからない。


「たしかに……マンフリート、おまえしかいない。そういう事情なら俺は悲しいがいさぎよく身を引くとしよう。あとは若い者に任せて、じじいは退散するか」

「……ちょっと待ってください、なんの話をしているのです、二人とも?」

 王の妻に相応ふさわしくなくて、マンフリートにはぴったりだというのはどういうことだ。


「しょうがないですね……説明しましょう。つまりですね? ルシャナ王子の寿命は八十年しかないわけですよ。しかし、白き異界人とは伝説の人物ですよ? まあ……正直彼がそうだとはあまり思えませんが、まだこちらにやってきたばかりです。もしかすると何か兆候や変化が見られるかもしれないのに、それをたったの八十年で死なせてしまってよいのですか?」

 そうだった。ルシャナの寿命は我々よりも遥かに短いのだ。思わず首を横に振る。


「ですよね? それにあれだけかわいいのですよ、マンフリート、あなたずっとボーッとして見ていたでしょう。あれはどうみてもうっとりとした表情をしていました。つまり、あなたはルシャナ王子に一目惚れでもしたのでしょう。ということはお分かりですよね?」


「ああ? 俺が一目惚れをしただと?」


「まあ、まだご自分の気持ちに気づいていないのかも知れませんが、長年一緒に働いている私がピンと来たと言っているのですから間違いありません。どうみても一目惚れです」

 なぜこの男は、人の気持ちをこうもはっきり断言できるのだろうか。まったく信じられないヤツだ。


「……うなっていないで。話を続けますよ。結婚は両者の釣り合いを取るために階級や身分差をなんとか埋めようとしますよね。さらに異種間いしゅかんの場合、当然それぞれの寿命が違うというのは理解できますね?」

 そこまでは知識として知っている。当然だとマンフリートは頷く。


「その場合は王に結婚の儀式を執り行ってもらうことで、短い寿命しかない者も、伴侶の長い寿命と同じ年月に書き換えられるわけですよ。それを利用しましょうと言っているのです。わかりますか? そうすればルシャナ王子は八十年の寿命から、一気にあなたと同じ千年までの寿命に延びるわけです。ほら、万事解決でしょ?」


「俺を見て怖がっている相手に、どうやって結婚を申し込むんだ?」

 簡単に言ってくれる、この男は。

 口下手な自分が警戒心MAXの相手に結婚など申し込めるわけがない。


 さらにたった昨日合ったばかりの初対面に近い相手に対して、どうしたらプロポーズができるというのだ。方法くらい教えろと、言いたくなる。


(でも、さっきもいい感じになりかけていたような気もしないでもない――チャドラ効果は外せないが。徐々に慣れていけば、いずれは二人だけで会話をすることができるかもしれない)


 そう思っていたら、いとも簡単にその考えをばっさりと切り捨てられた。


「ご自分で考えてくださいな。それから……早ければ早いに越したことはありませんよ。なにせ、あちらは八十年しかないのですから、時は待ってはくれないのですよ? いくらあなたの領地に移るからとはいえ、人間にとってやはりこの場所が完全ではないということを忘れないでくださいね。確実に弱っていく様子が目に見えてわかってくるでしょう」


 するとラウル王も、珍しく厳しい表情で言う。

「それにな、マンフリート。向こうとこちらの世界では時間軸が違うというか、時空の狭間はざまを通ってきたときに感じたのだが、それぞれの世界では時間の流れがどうやら違うようなのだ。つまり可能性として明日死ぬことだってあるかもしれない。極端すぎるが。つまり悠長に事を構えていたら、確実に死ぬだろうと言っているのだ」


 マンフリートは言葉を失った。

 あんなにかわいくて、少しはかなげな印象はあるが、淡いまま消えてしまうもろさが、現実のものになりつつあると知れば、黙ってはいられない。


「マンフリート。間違っても寿命の話をしてはいけませんよ。今の彼は、いわば自暴自棄の状態です。おそらく死んでもいいとか、言いそうですからね」


 さらにプレッシャーをかけられる。

 日々の訪問回数を増やして機会をうかがい、愛の告白とセットでプロポーズをするしかないと、計画にならない計画を頭の中でシミュレートしていく。


「わかりました。必ず成功させます」

「できる限り早く、お願いしますね」


 どんな戦地におもむくよりも、どんな厳しい訓練よりも、過酷な任務となりそうだ。いや、これは本当に仕事なのだろうか? 違う。ユージンははっきり言ったではないか。一目惚れしているように見えたと。


 自分の気持ちはさておき、一番の問題はルシャナの気持ちだ。

 いくら命がかかっているとはいえ、ルシャナに強要はしたくなかった。

 結局期限は一ヶ月だと決められてしまった。つまりは一ヶ月以内にルシャナを落とせと言っているのだ。


 それは、この世界に耐久性があるかないか、八十年とは本当にこちらの世界でいう八十年なのか、誰にもわからないからだ。


 本当はいますぐにでも寿命を延ばすために、即結婚するのが望ましいとわかっているが、それでもお互いに愛し合って結婚できたらどれだけ幸せか、ふとマンフリートは夢のような結果を想像したのは内緒だ。


 なんにせよ、この結婚の儀式の方法は互いの協力なしには、なかなか完遂かんすいできない仕組みになっている。

 寿命を合わせるための儀式。それは互いの体液の直接的交換――つまりはセックスをするということだ。


 異種間の結婚での性交渉による体液の交換は、およそ二十四時間休み無しで行われる。


 領地に連れ帰るために仲良くなる、という当初の目的から一気にハードルが上がり、結婚まで持ち込むためには、もはや一人では無理だ。


「二週間以内に彼を落とし、キスヘ持っていく」

 微量とはいえ、唾液を絡めるキスなら一応体液の交換として可能だろう。ただし、効果の程は定かではないが、試さない手はない。

 とは言え、触れることすらままならない現状をなんとかしなければ話にならない。


「三週間目にプロポーズをして、四週間目に結婚……そんなに簡単にいくか?」

 ラウル王とユージンに気付かれないように、小声で弱音を吐く。しかしやらなければならないのは、すでに決定事項なのだ。


 これは帰ってリチャードと綿密な計画を立てなければならない。なにせ、彼は既婚者であり、熊一族きっての美貌の妻を数多のライバルから掻っ攫った実績を持っているのだ。恥ずかしがっている場合ではない、緊急事態だ。


「今日は帰ります。しばらくは留守にしがちなので、何かあれば呼び出してください」


 そういうと、二人はニヤニヤしながらがんばれよ、と他人事のように言うので、腹立たしく思いながらも一言も言い返すことなく執務室から出ていく。


 それから急いで自分の城へワープしたマンフリートは、ゲートで待っていたリチャードを伴って自室で秘密の会議を開いたのだった。
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