隣人、イケメン俳優につき

タタミ

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交流

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    俺のLINEに久遠さんが追加されてから、3日が経った。暴行騒動のことは公にしないと約束して、自宅に帰るという久遠さんを最寄り駅まで送ってから3日だ。イケメン俳優とLINEを交換したときは動揺したものの、冷静に考えればそう簡単に連絡など来るわけもないし、友達になりたいというのも口実で俺がマスコミにたれ込んだときのために連絡先を押さえておきたかったんだろう。

「と、思ったんだけどな……」
「なんか言った?」
「いや、独り言です」

    古いクッションに久遠さんが座っていた。口の横には絆創膏が貼ってある。イケメンにしか似合わなそうな濃い紫の派手なTシャツを着て、俺が昔ハマっていた少年マンガを読んでいる。
    一昨日も昨日も今日も、久遠さんは俺の部屋に来ていた。つまり怪我の手当てをした日から毎日会っていた。久遠さんから『俺オフで時間あるから遊んでほしい!』とLINEが来て、断りたいわけではないにせよ俺は仕事があるから出掛けられないと伝えたらウチに来てしまったのだ。そして俺が仕事をしている間はずっと大人しくマンガを読んでいる。邪魔されることもないので断る理由もなくなり、男ふたりでなんだか奇妙な時間を過ごしていた。

「一太くんさ~敬語やめようよ」

    単行本をテーブルに置いて、ちょっと不満そうに口をすぼめた久遠さんが近づいてくる。
    この3日で久遠さんは急速に親しくしてきて、でも俺は自分がイケメン俳優と友達だなんてまだ現実味がなった。久遠さんはいい人だし仲良くしてもらってありがたいのだが、俺より仲良い俳優仲間とかいるんじゃないかと不思議だった。

「タメ口は勘弁してください。恐れ多いというか、俺が年下ってのもありますし」
「たかが2歳差でしょ?それに俺たち友達なんだから」

    自分が高1の時の高3と考えると、やはり先輩感は拭えない。というか、俺たちが友達ということがまだ飲み込みきれていない。

「友達かどうかに喋り方は関係ないですって。俺敬語の方が落ち着くんですよ」
「ふうん。一太くんがそうしたいなら、イイけど」

    久遠さんは納得してない声でそう言ってから「仕事いつ頃終わる?」と仕事机に置いてある液タブを覗き込む。途端にふわりと甘く爽やかな香りがして、イケメンっていい匂いなんだなと俺は無駄なことを考えた。

「もう今日はあと少しで終わります。そろそろ飯に……」
「うわっ!超うまい。これミカエルだよね?金髪なんだ」

    久遠さんが指差す液タブには、ほぼ色が塗られたミカエルの顔面が映っている。
    発注元に謝罪して納期を後ろ倒してもらったミカエルの立ち絵も、やっと着彩まで終わろうとしていた。芸能人イメージに貼られた芸能人を生で見たことで俺は吹っ切れて、ミカエルのキャラデザは完全に久遠さんに寄せてあった。

「日本人って妙に金髪碧眼好きですよね。コンプレックスあるのかしらんけど」
「ブロンドってやっぱ憧れない?俺もずっと金髪にしたいと思ってんだよね」
「派手なの新鮮でいいですね。久遠さんなら似合うだろうし」
「え、そんなこと言われるとホントに染めたくなってきた。勝手にやったらマネージャーに怒られるだろうな~」

    スマホを片手に何か検索を始めようとした久遠さんだったが、急に「そうじゃなくて」と仕切り直すように咳払いした。

「仕事一段落したら一緒に夕飯食べようよ。俺、デパ地下で色々買ってくるから」
「夕飯は全然いいんですけど、買ってきてもらうのは悪いんで俺行きますよ」
「いいからいいから。一太くん、酒飲める?」
「人並みには……でもホントに」
「よし、じゃ俺に任せといて!」

    俺の言葉を最後まで聞かずに、言うが早いか久遠さんは財布とマスクをつかんで玄関に行ってしまった。久遠さんが昼過ぎにうちに来てそのまま過ごし、俺の仕事が一段落したら夕飯を食べて解散するという流れが定着しつつあるが、ウチで食べることになったのは初めてだ。

「あ、食べられないものとかある~?」

    玄関から久遠さんの声が響く。なんでも平気と言おうとして逡巡して、俺は声を張り上げた。

「にんじんが嫌いです!」
「なにそれ可愛い。わかった、にんじん避けるね」

    なにが可愛いのかわからないが、久遠さんは笑いながら玄関を出ていった。
    久しぶりに飲むのも楽しそうだなと楽観的な気持ちで仕事机に向き直る。この後、部屋で友達とか言ってられないようなことが起こるなんて思いもしていなかった。
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