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決意
『イケメン俳優・杉崎久遠、夜の路上で禁断の熱烈キス!詳細はこちら』
『待って、杉崎久遠好きだったんだけど!?男とキスってなにが??』
『イケメンのバイとかモテが2倍じゃん。人生楽しいだろうな~』
俺の路上キスが週刊芸能に載ってから、ネットは俺の噂話で持ちきりだった。
テレビではほとんど取り上げられていないのを見るに、本気で事務所はテレビ局に圧をかけたらしい。
すぐにでも引退を発表すると言ったら、広報部長を筆頭になんなら社長まで出てきて大慌てで引き留められた。まさか辞めると言い出すとは思ってなかったという顔を皆がしていて、俺のメンタルクリニック通いをなめてたんだなと笑ってしまった。
そんな場面で笑いだした所属タレントを事務所は心底不気味に思ったらしく、俺への怒りはどこへやらすぐにマスコミから逃げるための高級ホテルが用意され、俺は仕事もキャンセルになりひたすら缶詰にされていた。
事務所に支給されたノートパソコンで映画を見て暇を潰す日々。
触るのはノートパソコンばかりで、スマホの電源は切りっぱなしにしていた。見たくもない相手からばかり連絡が来るので仕方なかった。
一太くん元気かな。
一太くんの連絡先をLINEしか知らないので、連絡手段がない。
ただただ優しくしてもらって、何も言わずに部屋を出てきてしまった傲慢を謝れていないのが心残りだった。
「あーあ、一太くんに会いたい」
どの口が言ってんだってな。
願望をデカい声で溢していたら、パソコン画面にメールの通知が出た。
事務所からしか連絡来ないし開かなくていいかと無視しようとしたら、差出人に『八籐』と見えて椅子の背もたれから身を乗り出した。
メールを開くと『ハートフルメンタルクリニックの八籐です』と文章が始まった。
「ホントに八籐先生じゃん」
画面に呟いてメールを読み進める。
『杉崎さん、お久しぶりです。
ご連絡差し上げたくて、事務所のマネージャーさんにアドレスを教えていただきました。もし不快であれば無視していただいて構いません。
体調はどうでしょうか?崩されていなければ良いのですが、もし不調などがあればいつでもご連絡ください。お電話やメールでもお悩みなどお聞かせいただければと思います。
さて、今回の突然のメールは杉崎さんの体調が心配でというのが主な趣旨ですが、実は別の理由がございます。
清永一太さんという男性をご存じでしょうか?』
「な、えっ?」
急に一太くんの名前が出てきて俺は声を出しながら口を押さえた。
『それから西野大河さんという男性も』
続いた文に俺は口を押さえたまま固まった。
『どちらも同時期に弊病院にコンタクトを取ってきた方です。内容は両者「杉崎さんと話をしたいので連絡先を知らないか」というものでした。
杉崎さんの報道後もクリニックにマスコミが来ることはなかったので、杉崎さんが弊病院に通っていたことを知っているごく親しい間柄の方たちかと思いまして、確認のためご連絡差し上げました。
どちらの方にも連絡先を教えるようなことはしておりませんが、もし杉崎さんが連絡を取りたいお相手でしたら私が仲介者になろうかと思っております。
申し上げました通り、このメールは無視いただいても構いませんので、どうかご負担のない形で処理していただければと思います』
読み終わって、何度も読み返してから俺は椅子の背もたれに体を預けた。
一太くんの思い出と週刊誌の記事が頭を巡る。
時計の秒針が何周もする間、俺は天井を眺めていた。
「……ちゃんと、けじめつけた方がいいよな」
言い聞かせるように呟いて、俺はキーボードに手を置いた。
──ブーッ
八籐先生からメールが来た2日後の午後3時。
俺が泊まっている部屋のチャイムが鳴った。
ドアスコープを覗くと黒すぐめにマスクをしてベースボールキャップを被った男が立っている。
誰が来たとわかっていても不審者感の強い服装に、ものすごく久しぶりに自分が笑っているのがわかった。
「一太くん、銀行強盗みたいだよ」
俺がドアを開けながら言うと、一太くんはすぐに部屋に入ってきて後ろ手にドアを閉めた。
「すいません、どんな格好がいいのかどんどんわからなくなってしまって……」
マスクと帽子を取ったら、見慣れたセンターパートの一太くんが現れる。
「いや、そんなことより……お久しぶり、です」
改めてまじまじ俺を見た一太くんは、真顔でいるべきなのか笑顔を向けるべきなのか迷っていそうな表情を浮かべていた。
「連絡もできなくてごめん。無駄に心配させちゃったね」
「全然、こんな状況ですから。それにクリニック行ったのも超ダメ元だったんで、八籐先生から連絡来たときマジで驚愕しました」
八籐先生に『清永一太さんに俺の宿泊先を伝えてもらえませんか』と返信し、今日会うところまでこぎ着けていた。
「俺ももう、一太くんには会えないかと思ってたよ」
あながち冗談ではないので冗談めかして伝えると、一太くんはキャップを握って「会えてよかったです」と小さく呟く。
その様子は俺の胸をじわじわと絞めた。
「立ち話もなんだからソファ座って。ルームサービス頼んどいたんだ」
アフタヌーンティーセットとかいう豪華な茶会用菓子とティーカップが部屋の中央のテーブルに並んでいる。
一太くんは借りてきた猫のようにホテルの部屋を見渡して、恐る恐るソファに座った。
「こんな豪華なホテル初めて入りました。これ執事が用意してくる食べ物じゃないですか」
「俺ドラマでやったことあるわ、こういうの用意する執事役。やってあげよっか」
「そんなんやられたら実生活に戻れなくなりそうなんで怖いです」
軽い言葉のやり取りに懐かしさと愛しさが込み上げてくる。
俺は咳払いをしてから、一太くんに向き合った。
「最後に会った日、何も言わず部屋出てってごめん。勝手なことしたって反省してます」
「……心配しましたけど、すぐ例の記事見て色々納得したというか。とにかく会えて今は安心してます」
無理矢理抱かれようとしたこととか、薬飲ませろって駄々こねたこととか。そんな身勝手を察してくれる一太くんがありがたくて、自分が情けなくてちょっと泣きそうだった。
「ありがと……ホントに」
俺が独りでに手を握り締めていると一太くんは微笑んでくれた。
「あの記事出てからずっとこのホテルにいたんですか?」
「うん。事務所がいいって言うまでいると思う。ただ俺、芸能界やめるつもりなんだ」
気分を変えるように紅茶をカップに注いで、一太くんの前に起きながら言う。
一太くんは「そうなんですね」と静かに言ってカップに口をつけた。驚くでも焦るでもなく、今まで俺が見た中で1番あっさりした反応だった。
「俺は、久遠さんが決めたことならいいと思います。偉そうなこと言っちゃってますが……」
カップを少し照れたように指で触っている一太くんの隣で、俺はカップを手に動きを止めた。
「一太くんが初めてだよ。俺の意見、受け入れてくれたの」
支えられてばっかりだ。
出会ってからずっと。そりゃ好きになってしまう。
「嬉しいですね、俺が一番乗りなの」
得意げに俺を見る一太くんが好きで、どうしても好きで抱き締めたくなって、俺は目を閉じた。
また迫ったりしたら今度こそ終わりだ。一太くんが優しく俺を許しても、俺がもう俺を許せない。
「時間あったら映画でも観ようよ。俺ずっとひとりで観てたから何が面白いかわかるよ」
一太くんの返事を待たずに、俺はテレビのリモコンを掴んだ。
無難な有名映画を一太くんと楽しく観て、時計を見ると午後6時前だった。
マネージャーが来るかもと言ったら一太くんはすぐ帰ると立ち上がり、タクシーを手配すると言ってもバスで平気だと言い張ったので、ホテルを出てすぐのバス停まで来ていた。
バス停には俺たち以外誰もいない。
「ホントに大丈夫ですか、部屋出てきちゃって」
俺の何倍も不安そうに周囲を警戒している一太くんに「平気だよ」と笑う。
「俺が一般人になっちゃえば何も報道できないからさ」
「そう、なんですか」
やっと警戒を解いた一太くんは何か言いたそうに俺を見て、でもすぐ目をそらした。
「あの……さっき部屋で言えばよかったんですけど」
「ん、なに?」
一太くんが俺を再び見る。
「久遠さんが許してくれるからって、その、抜き合いとか付き合ってもらちゃってたの……反省してて」
「えっ」
「すみませんでした」
綺麗に頭を下げられて呆気にとられた。
もっと単純に、ドライな性処理だと認識していると思っていたのに。
「いやいや、そんなの気にしないでよ。嫌だったら言ってるし」
我ながら軽薄な笑いを浮かべているのがわかる。
一太くんはそんな俺をまじまじと見て、もう1度「すみません」と謝った。
「ちゃんとしないとダメだと思って。それで、あの……俺ずっと──」
一太くんが何か言いかけている時に、バスがバス停に到着した。
すぐにどやどやと人が降りてきて、久遠くんは明らかに落胆の表情を浮かべたので、そんなに謝り倒したいほど悩んでいたのかと申し訳なくなった。
「俺全然気にしてないから大丈夫だよ!ほら、バス行っちゃうから」
気にしてないということをちゃんと伝えたくて、明るく言いながら一太くんの背中をポンと叩いた。
一太くんはまだ名残惜しそうに俺を見ていたけど、運転手に急かされて開いたドアからバスに乗る。
「俺、部屋にいるばっかりなんで、落ち着いたらいつでも連絡してください」
また会おうって思ってくれるんだ。
俺のこと、まだ友達だと思ってくれてるんだ。
あぁ、好きだな。
その感情だけが溢れだす。
俺は笑顔を保ったまま、一太くんの耳元に顔を寄せた。
直前まで「またね」と言おうとしていた口は、
「好きだったよ」
風で消えるような声量でそう告げた。
目を見開く一太くんと己を隔絶するようにドアが閉まる。
それを合図にバスは出発して、何か必死に言っている一太くんはどんどん遠ざかった。
あーあ、言っちゃった。
結局最後までクソ自己中だな、俺。
「ごめんね」
誰にも聞こえない謝罪だ。そのままバスが見えなくなるまで見送って、ホテルと反対方向へ爪先を向けた。
『待って、杉崎久遠好きだったんだけど!?男とキスってなにが??』
『イケメンのバイとかモテが2倍じゃん。人生楽しいだろうな~』
俺の路上キスが週刊芸能に載ってから、ネットは俺の噂話で持ちきりだった。
テレビではほとんど取り上げられていないのを見るに、本気で事務所はテレビ局に圧をかけたらしい。
すぐにでも引退を発表すると言ったら、広報部長を筆頭になんなら社長まで出てきて大慌てで引き留められた。まさか辞めると言い出すとは思ってなかったという顔を皆がしていて、俺のメンタルクリニック通いをなめてたんだなと笑ってしまった。
そんな場面で笑いだした所属タレントを事務所は心底不気味に思ったらしく、俺への怒りはどこへやらすぐにマスコミから逃げるための高級ホテルが用意され、俺は仕事もキャンセルになりひたすら缶詰にされていた。
事務所に支給されたノートパソコンで映画を見て暇を潰す日々。
触るのはノートパソコンばかりで、スマホの電源は切りっぱなしにしていた。見たくもない相手からばかり連絡が来るので仕方なかった。
一太くん元気かな。
一太くんの連絡先をLINEしか知らないので、連絡手段がない。
ただただ優しくしてもらって、何も言わずに部屋を出てきてしまった傲慢を謝れていないのが心残りだった。
「あーあ、一太くんに会いたい」
どの口が言ってんだってな。
願望をデカい声で溢していたら、パソコン画面にメールの通知が出た。
事務所からしか連絡来ないし開かなくていいかと無視しようとしたら、差出人に『八籐』と見えて椅子の背もたれから身を乗り出した。
メールを開くと『ハートフルメンタルクリニックの八籐です』と文章が始まった。
「ホントに八籐先生じゃん」
画面に呟いてメールを読み進める。
『杉崎さん、お久しぶりです。
ご連絡差し上げたくて、事務所のマネージャーさんにアドレスを教えていただきました。もし不快であれば無視していただいて構いません。
体調はどうでしょうか?崩されていなければ良いのですが、もし不調などがあればいつでもご連絡ください。お電話やメールでもお悩みなどお聞かせいただければと思います。
さて、今回の突然のメールは杉崎さんの体調が心配でというのが主な趣旨ですが、実は別の理由がございます。
清永一太さんという男性をご存じでしょうか?』
「な、えっ?」
急に一太くんの名前が出てきて俺は声を出しながら口を押さえた。
『それから西野大河さんという男性も』
続いた文に俺は口を押さえたまま固まった。
『どちらも同時期に弊病院にコンタクトを取ってきた方です。内容は両者「杉崎さんと話をしたいので連絡先を知らないか」というものでした。
杉崎さんの報道後もクリニックにマスコミが来ることはなかったので、杉崎さんが弊病院に通っていたことを知っているごく親しい間柄の方たちかと思いまして、確認のためご連絡差し上げました。
どちらの方にも連絡先を教えるようなことはしておりませんが、もし杉崎さんが連絡を取りたいお相手でしたら私が仲介者になろうかと思っております。
申し上げました通り、このメールは無視いただいても構いませんので、どうかご負担のない形で処理していただければと思います』
読み終わって、何度も読み返してから俺は椅子の背もたれに体を預けた。
一太くんの思い出と週刊誌の記事が頭を巡る。
時計の秒針が何周もする間、俺は天井を眺めていた。
「……ちゃんと、けじめつけた方がいいよな」
言い聞かせるように呟いて、俺はキーボードに手を置いた。
──ブーッ
八籐先生からメールが来た2日後の午後3時。
俺が泊まっている部屋のチャイムが鳴った。
ドアスコープを覗くと黒すぐめにマスクをしてベースボールキャップを被った男が立っている。
誰が来たとわかっていても不審者感の強い服装に、ものすごく久しぶりに自分が笑っているのがわかった。
「一太くん、銀行強盗みたいだよ」
俺がドアを開けながら言うと、一太くんはすぐに部屋に入ってきて後ろ手にドアを閉めた。
「すいません、どんな格好がいいのかどんどんわからなくなってしまって……」
マスクと帽子を取ったら、見慣れたセンターパートの一太くんが現れる。
「いや、そんなことより……お久しぶり、です」
改めてまじまじ俺を見た一太くんは、真顔でいるべきなのか笑顔を向けるべきなのか迷っていそうな表情を浮かべていた。
「連絡もできなくてごめん。無駄に心配させちゃったね」
「全然、こんな状況ですから。それにクリニック行ったのも超ダメ元だったんで、八籐先生から連絡来たときマジで驚愕しました」
八籐先生に『清永一太さんに俺の宿泊先を伝えてもらえませんか』と返信し、今日会うところまでこぎ着けていた。
「俺ももう、一太くんには会えないかと思ってたよ」
あながち冗談ではないので冗談めかして伝えると、一太くんはキャップを握って「会えてよかったです」と小さく呟く。
その様子は俺の胸をじわじわと絞めた。
「立ち話もなんだからソファ座って。ルームサービス頼んどいたんだ」
アフタヌーンティーセットとかいう豪華な茶会用菓子とティーカップが部屋の中央のテーブルに並んでいる。
一太くんは借りてきた猫のようにホテルの部屋を見渡して、恐る恐るソファに座った。
「こんな豪華なホテル初めて入りました。これ執事が用意してくる食べ物じゃないですか」
「俺ドラマでやったことあるわ、こういうの用意する執事役。やってあげよっか」
「そんなんやられたら実生活に戻れなくなりそうなんで怖いです」
軽い言葉のやり取りに懐かしさと愛しさが込み上げてくる。
俺は咳払いをしてから、一太くんに向き合った。
「最後に会った日、何も言わず部屋出てってごめん。勝手なことしたって反省してます」
「……心配しましたけど、すぐ例の記事見て色々納得したというか。とにかく会えて今は安心してます」
無理矢理抱かれようとしたこととか、薬飲ませろって駄々こねたこととか。そんな身勝手を察してくれる一太くんがありがたくて、自分が情けなくてちょっと泣きそうだった。
「ありがと……ホントに」
俺が独りでに手を握り締めていると一太くんは微笑んでくれた。
「あの記事出てからずっとこのホテルにいたんですか?」
「うん。事務所がいいって言うまでいると思う。ただ俺、芸能界やめるつもりなんだ」
気分を変えるように紅茶をカップに注いで、一太くんの前に起きながら言う。
一太くんは「そうなんですね」と静かに言ってカップに口をつけた。驚くでも焦るでもなく、今まで俺が見た中で1番あっさりした反応だった。
「俺は、久遠さんが決めたことならいいと思います。偉そうなこと言っちゃってますが……」
カップを少し照れたように指で触っている一太くんの隣で、俺はカップを手に動きを止めた。
「一太くんが初めてだよ。俺の意見、受け入れてくれたの」
支えられてばっかりだ。
出会ってからずっと。そりゃ好きになってしまう。
「嬉しいですね、俺が一番乗りなの」
得意げに俺を見る一太くんが好きで、どうしても好きで抱き締めたくなって、俺は目を閉じた。
また迫ったりしたら今度こそ終わりだ。一太くんが優しく俺を許しても、俺がもう俺を許せない。
「時間あったら映画でも観ようよ。俺ずっとひとりで観てたから何が面白いかわかるよ」
一太くんの返事を待たずに、俺はテレビのリモコンを掴んだ。
無難な有名映画を一太くんと楽しく観て、時計を見ると午後6時前だった。
マネージャーが来るかもと言ったら一太くんはすぐ帰ると立ち上がり、タクシーを手配すると言ってもバスで平気だと言い張ったので、ホテルを出てすぐのバス停まで来ていた。
バス停には俺たち以外誰もいない。
「ホントに大丈夫ですか、部屋出てきちゃって」
俺の何倍も不安そうに周囲を警戒している一太くんに「平気だよ」と笑う。
「俺が一般人になっちゃえば何も報道できないからさ」
「そう、なんですか」
やっと警戒を解いた一太くんは何か言いたそうに俺を見て、でもすぐ目をそらした。
「あの……さっき部屋で言えばよかったんですけど」
「ん、なに?」
一太くんが俺を再び見る。
「久遠さんが許してくれるからって、その、抜き合いとか付き合ってもらちゃってたの……反省してて」
「えっ」
「すみませんでした」
綺麗に頭を下げられて呆気にとられた。
もっと単純に、ドライな性処理だと認識していると思っていたのに。
「いやいや、そんなの気にしないでよ。嫌だったら言ってるし」
我ながら軽薄な笑いを浮かべているのがわかる。
一太くんはそんな俺をまじまじと見て、もう1度「すみません」と謝った。
「ちゃんとしないとダメだと思って。それで、あの……俺ずっと──」
一太くんが何か言いかけている時に、バスがバス停に到着した。
すぐにどやどやと人が降りてきて、久遠くんは明らかに落胆の表情を浮かべたので、そんなに謝り倒したいほど悩んでいたのかと申し訳なくなった。
「俺全然気にしてないから大丈夫だよ!ほら、バス行っちゃうから」
気にしてないということをちゃんと伝えたくて、明るく言いながら一太くんの背中をポンと叩いた。
一太くんはまだ名残惜しそうに俺を見ていたけど、運転手に急かされて開いたドアからバスに乗る。
「俺、部屋にいるばっかりなんで、落ち着いたらいつでも連絡してください」
また会おうって思ってくれるんだ。
俺のこと、まだ友達だと思ってくれてるんだ。
あぁ、好きだな。
その感情だけが溢れだす。
俺は笑顔を保ったまま、一太くんの耳元に顔を寄せた。
直前まで「またね」と言おうとしていた口は、
「好きだったよ」
風で消えるような声量でそう告げた。
目を見開く一太くんと己を隔絶するようにドアが閉まる。
それを合図にバスは出発して、何か必死に言っている一太くんはどんどん遠ざかった。
あーあ、言っちゃった。
結局最後までクソ自己中だな、俺。
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