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EP
久遠さんとの交際がスタートして早数週間。
俺が借りていたマンションにはいまだにマスコミがいるので、久遠さんがメインで使っていたマンションに俺が引っ越し、早々に一緒に住み始めていた。
前に同棲について久遠さんと喋ったことがあったが、久遠さんは本当にすぐにでも同棲したいタイプらしく、言うとおりにしていたらいつの間にか引っ越しが終わっていた。
俺は変わらずイラストレーターを続けていて、変わらずそれなりの仕事をもらって生きている。1LDKのリビングの一部を俺の仕事スペースにしてもらって、元々の仕事スペースよりかなり広くなった。
久遠さんは芸能界を正式に引退し、一般人となった。
引退報道はファンたちを阿鼻叫喚に陥れたものの、今となってはネットで話題に上がることも少ない。
一般人とは言えない頭身なので、顔を隠してコンビニに行っても人目を惹いてしまうのが日常だが、久遠さん自身は『一般人』扱いがとても嬉しそうだ。
貯金があるのであと10年はニートで生きられると言っていたものの、最近はファッションプロデュースなどに手をつけ始めていて、久遠さんが考えたデザインを俺が描くなんてことも増えた。
愛の巣とも言うべき場所で、俺は元芸能人となった久遠さんと楽しく暮らしている。
「一太くんってさぁ、モテないってのウソでしょ?」
そんな愛の巣で、コーヒーを淹れようと立ち上がった俺に、ソファでゴロゴロしていた久遠さんが唐突に声をあげた。
ソファに目をやると、綺麗に染まった白に近い金髪の久遠さんが俺を見ていた。ちなみに金髪は想像の5倍似合っているし、俺が描いたミカエルより全然イケメンだ。
「なんですか、急に」
「今、一太くんがしてくれた告白を思い返してたんだけど」
「めちゃくちゃ恥ずかしいんで、いったんそのリプレイやめてもらっていいですか」
「あの告白、どんな恋愛映画より劇的だった。あんな告白できる男がモテないわけないんよ」
俺の言葉を完全にスルーした久遠さんは、何故か少し関西訛りで拳を握る。
「本当は恋人めちゃくちゃいたんじゃないの」
「久遠さんこそ、めちゃくちゃいたんじゃないですか」
モテない話を自分で押し進めるのが悲しいので質問に質問を返すと、うつ伏せだった久遠さんが身を起こした。
「俺は彼氏はいたことなくて、一太くんが初カレ。彼女は~……大学時代からカウントすると7人?かな」
俺の返しにすんなり答えた久遠さんは『次どうぞ』という顔で俺に手を向けた。
あっさり言われてスルーしちゃったけど、俺初カレなのかよ。
彼女に関しては恐らく実数より少なく申告されてる気がするが、7人の時点で多いので言及しないことにした。
「やっぱモテますね。当たり前ですけどマジでカッコいいですもんね」
「一太くんも教えてよ」
誤魔化そうとした思惑は打ち砕かれて、俺はドリップコーヒーをセットする手を止めた。
「彼氏はもちろんいたことないので久遠さんが初カレです」
「やった~初カレ同士嬉しい」
久遠さんがにっこり笑顔で両手をあげる。
うわー可愛い。
「……彼女は、中学のときに1ヶ月付き合った子がいました。以上です」
「えっ?ウソ!それ以降いないの!?」
無言の肯定をすると、久遠さんは「はわわ」と言いそうな仕草で口元を手で押さえた。
「じゃ、もしかして、童貞だった……?」
「いや……それは……そうでもないです」
「あー恋人はいなくてもセフレとかワンナイトはいたパターン」
そんなパターンがあるわけないだろ。
モテる男は出会いのない非モテ隠キャ男の境遇を想像することも難しいんだなと、異文化交流の気持ちに襲われた。
「違います。俺は久遠さんと出会うまでセフレは都市伝説だと思ってました」
「……マジで?」
『なんてピュアな』と言いたげな、というか顔にもうそう書いてあるレベルの顔をした久遠さんは、立ち上がってキッチンに来る。
「じゃ、いつ初体験した?」
「この話しないとダメですか」
「え~気になるじゃん。俺は普通に高校の時だよ」
先手で言われて、言わないといけない空気を作られる。
てか、『普通に高校の時』とはなんだ。高校の時なんて脱童貞する機会1秒もなかったぞ。
キラキラとした興味津々な顔の久遠さんが俺の肩に手を置いて顎を乗せる。顔面のパワーがすごくてすごい。久遠さんを見てると語彙力を失ってしまうのを改善したい。
「……上京してきて、イラストの仕事とバイトを両立させて生きてたんですよ」
「うんうん。偉いね」
至近距離のイケメンが俺の髪を撫でる。
「資材運びする肉体労働系のバイトだったんでいかつい人が多くて、仕事終わりに飲みに行ったり遊んだりってことがよくあったんです。俺はあんま参加してなかったですけど」
「へぇ~その頃から筋肉活かしてんだね」
指先で俺の胸元をつつく久遠さんに真顔になる。
え、誘ってる?
「それで?」
「あ、あぁそれで、給料日のときに彼女いるのかって話題の標的にされたことがあって。正直にいないって答えたら『じゃ風俗奢ってやる』ってことで連れていかれまして……」
「それが初体験!?」
目を丸くしてのけ反った久遠さんだが、俺の肩から手は離さなかった。
「……まぁ、そういうことですね」
「プロの手引きを受けたわけだ」
身体の位置を元に戻して空いていた片手で俺の手を握る。
「ふふふ、そうかそうか」
「なんで楽しそうなんですか」
「一太くんが過去に大恋愛してたら、俺その子に勝てないだろうなと思ってたから」
久遠さんは口元を緩めて、鼻唄でも歌いそうな空気だ。
時折見せる自己肯定感の低さは、久遠さんに儚い魅力を添えていた。
「久遠さんが勝てない相手なんていないですよ。この話、終わりでいいですか」
「一太くん下ネタ苦手だよね。可愛いけど」
コレわざと下ネタふってるんだろうな。
と、思いつつコーヒーを淹れようと握られていた手をやんわりはがす。
が、手が離れなかった。
「久遠さん、コーヒー淹れたいから」
「お、ちょっとため口なのキュンと来る」
手を離すどころか肩に乗せられていた手で耳たぶを触られた。
「……誘ってます?」
まだ昼の2時だ。
こんな明るいうちに誘うなんてないと思って、冗談まじりに聞いてみたのだが。
「誘ってる。やっと気付いてくれた?」
言うが早いか、俺の唇を塞いだ久遠さんはそのまま俺を冷蔵庫の方に押した。
逃げ場を失って、されるがまま唇を食べられる。
「ん、っ久遠さん……!」
「コーヒー、終わったら淹れて」
俺の目の前で微笑んでTシャツを脱ぎ捨てた。
俺の身体をイイ身体だと褒めてくれることが多いが、久遠さんも十分引き締まった身体だ。
「好き、一太くん」
仕事の締め切りヤバいかもしれないと理性が頭をよぎっても、久遠さんの唇が肌を撫でればそんな考えはどこかに消えてしまった。
「俺だって好きです」
自分から久遠さんの唇を奪う。
久遠さんと出会うまで、こんなに誰かを好きになると思ってなかった。
どうしようもなく好きで、好きで仕方ない。
結局仕事を再開できたのは3時間後だったけど、俺は穏やかに続く幸せに満たされていた。
俺が借りていたマンションにはいまだにマスコミがいるので、久遠さんがメインで使っていたマンションに俺が引っ越し、早々に一緒に住み始めていた。
前に同棲について久遠さんと喋ったことがあったが、久遠さんは本当にすぐにでも同棲したいタイプらしく、言うとおりにしていたらいつの間にか引っ越しが終わっていた。
俺は変わらずイラストレーターを続けていて、変わらずそれなりの仕事をもらって生きている。1LDKのリビングの一部を俺の仕事スペースにしてもらって、元々の仕事スペースよりかなり広くなった。
久遠さんは芸能界を正式に引退し、一般人となった。
引退報道はファンたちを阿鼻叫喚に陥れたものの、今となってはネットで話題に上がることも少ない。
一般人とは言えない頭身なので、顔を隠してコンビニに行っても人目を惹いてしまうのが日常だが、久遠さん自身は『一般人』扱いがとても嬉しそうだ。
貯金があるのであと10年はニートで生きられると言っていたものの、最近はファッションプロデュースなどに手をつけ始めていて、久遠さんが考えたデザインを俺が描くなんてことも増えた。
愛の巣とも言うべき場所で、俺は元芸能人となった久遠さんと楽しく暮らしている。
「一太くんってさぁ、モテないってのウソでしょ?」
そんな愛の巣で、コーヒーを淹れようと立ち上がった俺に、ソファでゴロゴロしていた久遠さんが唐突に声をあげた。
ソファに目をやると、綺麗に染まった白に近い金髪の久遠さんが俺を見ていた。ちなみに金髪は想像の5倍似合っているし、俺が描いたミカエルより全然イケメンだ。
「なんですか、急に」
「今、一太くんがしてくれた告白を思い返してたんだけど」
「めちゃくちゃ恥ずかしいんで、いったんそのリプレイやめてもらっていいですか」
「あの告白、どんな恋愛映画より劇的だった。あんな告白できる男がモテないわけないんよ」
俺の言葉を完全にスルーした久遠さんは、何故か少し関西訛りで拳を握る。
「本当は恋人めちゃくちゃいたんじゃないの」
「久遠さんこそ、めちゃくちゃいたんじゃないですか」
モテない話を自分で押し進めるのが悲しいので質問に質問を返すと、うつ伏せだった久遠さんが身を起こした。
「俺は彼氏はいたことなくて、一太くんが初カレ。彼女は~……大学時代からカウントすると7人?かな」
俺の返しにすんなり答えた久遠さんは『次どうぞ』という顔で俺に手を向けた。
あっさり言われてスルーしちゃったけど、俺初カレなのかよ。
彼女に関しては恐らく実数より少なく申告されてる気がするが、7人の時点で多いので言及しないことにした。
「やっぱモテますね。当たり前ですけどマジでカッコいいですもんね」
「一太くんも教えてよ」
誤魔化そうとした思惑は打ち砕かれて、俺はドリップコーヒーをセットする手を止めた。
「彼氏はもちろんいたことないので久遠さんが初カレです」
「やった~初カレ同士嬉しい」
久遠さんがにっこり笑顔で両手をあげる。
うわー可愛い。
「……彼女は、中学のときに1ヶ月付き合った子がいました。以上です」
「えっ?ウソ!それ以降いないの!?」
無言の肯定をすると、久遠さんは「はわわ」と言いそうな仕草で口元を手で押さえた。
「じゃ、もしかして、童貞だった……?」
「いや……それは……そうでもないです」
「あー恋人はいなくてもセフレとかワンナイトはいたパターン」
そんなパターンがあるわけないだろ。
モテる男は出会いのない非モテ隠キャ男の境遇を想像することも難しいんだなと、異文化交流の気持ちに襲われた。
「違います。俺は久遠さんと出会うまでセフレは都市伝説だと思ってました」
「……マジで?」
『なんてピュアな』と言いたげな、というか顔にもうそう書いてあるレベルの顔をした久遠さんは、立ち上がってキッチンに来る。
「じゃ、いつ初体験した?」
「この話しないとダメですか」
「え~気になるじゃん。俺は普通に高校の時だよ」
先手で言われて、言わないといけない空気を作られる。
てか、『普通に高校の時』とはなんだ。高校の時なんて脱童貞する機会1秒もなかったぞ。
キラキラとした興味津々な顔の久遠さんが俺の肩に手を置いて顎を乗せる。顔面のパワーがすごくてすごい。久遠さんを見てると語彙力を失ってしまうのを改善したい。
「……上京してきて、イラストの仕事とバイトを両立させて生きてたんですよ」
「うんうん。偉いね」
至近距離のイケメンが俺の髪を撫でる。
「資材運びする肉体労働系のバイトだったんでいかつい人が多くて、仕事終わりに飲みに行ったり遊んだりってことがよくあったんです。俺はあんま参加してなかったですけど」
「へぇ~その頃から筋肉活かしてんだね」
指先で俺の胸元をつつく久遠さんに真顔になる。
え、誘ってる?
「それで?」
「あ、あぁそれで、給料日のときに彼女いるのかって話題の標的にされたことがあって。正直にいないって答えたら『じゃ風俗奢ってやる』ってことで連れていかれまして……」
「それが初体験!?」
目を丸くしてのけ反った久遠さんだが、俺の肩から手は離さなかった。
「……まぁ、そういうことですね」
「プロの手引きを受けたわけだ」
身体の位置を元に戻して空いていた片手で俺の手を握る。
「ふふふ、そうかそうか」
「なんで楽しそうなんですか」
「一太くんが過去に大恋愛してたら、俺その子に勝てないだろうなと思ってたから」
久遠さんは口元を緩めて、鼻唄でも歌いそうな空気だ。
時折見せる自己肯定感の低さは、久遠さんに儚い魅力を添えていた。
「久遠さんが勝てない相手なんていないですよ。この話、終わりでいいですか」
「一太くん下ネタ苦手だよね。可愛いけど」
コレわざと下ネタふってるんだろうな。
と、思いつつコーヒーを淹れようと握られていた手をやんわりはがす。
が、手が離れなかった。
「久遠さん、コーヒー淹れたいから」
「お、ちょっとため口なのキュンと来る」
手を離すどころか肩に乗せられていた手で耳たぶを触られた。
「……誘ってます?」
まだ昼の2時だ。
こんな明るいうちに誘うなんてないと思って、冗談まじりに聞いてみたのだが。
「誘ってる。やっと気付いてくれた?」
言うが早いか、俺の唇を塞いだ久遠さんはそのまま俺を冷蔵庫の方に押した。
逃げ場を失って、されるがまま唇を食べられる。
「ん、っ久遠さん……!」
「コーヒー、終わったら淹れて」
俺の目の前で微笑んでTシャツを脱ぎ捨てた。
俺の身体をイイ身体だと褒めてくれることが多いが、久遠さんも十分引き締まった身体だ。
「好き、一太くん」
仕事の締め切りヤバいかもしれないと理性が頭をよぎっても、久遠さんの唇が肌を撫でればそんな考えはどこかに消えてしまった。
「俺だって好きです」
自分から久遠さんの唇を奪う。
久遠さんと出会うまで、こんなに誰かを好きになると思ってなかった。
どうしようもなく好きで、好きで仕方ない。
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