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そばで人が動くような気配がして、俺はゆっくりと目を開けた。目に入る部屋を寝ぼけた頭で認識する。
(……あ~、ダン王子の部屋か……ここ……)
昨晩の流れを思い返しながら瞬きをしていると、人影が俺を見下ろした。
「おはようございます、ルカ様」
「おはようござ……って、誰!?」
「私はダン様の従者、クライドでございます」
黒髪オールバックに銀縁眼鏡という、いかにも執事風な男性が俺に頭を下げる。
「クライドさん、ですか。お、おはようございます」
(従者って、ご主人様が誰か連れ込んでても寝室に入ってくるんだ……?なんて明け透けな……)
そう思って、『連れ込んでいる相手』というのが自分のことだという事実を思い出し、慌てて毛布を剥いで起き上がった。いくらダン王子の従者とはいえ、昨晩なにもなかったとはいえ、一緒に寝ていたところを見られたのは恥ずかしい。
「あの、俺ここで一緒に寝てただけで別に仲がいいとかじゃなくて、ね! ダン王子、そうですよね!? って、あれ、ダン王子は──」
「ダン様は既にご起床されて、シャワーを浴びてらっしゃいます。ご一緒されますか?」
「いや! 絶対しません! あとで自分の部屋で風呂入るんで大丈夫です!」
「かしこまりました。ルカ様は愉快な方ですね」
ふふ、と微笑まれた。クールな見た目に反して、物腰は柔らかい。
「ダン様が出会ったばかりの方を連れられるのは珍しいのですが、このような愉快なところを好まれたのでしょうか」
「だから俺たちはそういう関係じゃなくてですね……!」
「恥ずかしがらずともよろしいのですよ。……跡、見えております」
首元にクライドさんの指が触れた。遠慮のない、不躾な動作だったが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
(なんだよ、跡って!?)
バッと見ると、鎖骨あたりが若干赤くなっている。しかし昨晩何をされた記憶もない。庭で木陰に座っていた時にでも、虫に刺されたに違いなかった。
「こ、これは! 昨日庭の林にいまして……! その時虫に刺されたんだと思──」
「ダン様が誰かを部屋に招くのはまだしも、朝まで共にするというのは今までにないことでして。あなた様にそれほどの魅力がある、ということなのでしょうけれど」
事実なのに苦しい言い訳にしか聞こえない俺の主張を遮ったクライドさんは、鎖骨に触れていた手を顎に添えて、品定めするように俺を見つめる。
「っ、あの、ほんとに……」
「おい」
至近距離で見つめ合ってると、いつの間にかダン王子がベッドサイドにいた。クライドさんは丁寧に俺から手を離し、ホールドアップの姿勢を取る。
「おや、怒られてしまいました」
「お前のタイプじゃないだろう」
「ダン様のタイプでもないように見受けられますが」
クライドさんが笑顔のまま言い返したが、ダン王子は表情を緩めただけだった。目下の立場をもっと足蹴にする性格だと思っていたので、目に見える親密さに内心驚く。
(誰にでも傍若無人な俺様ってわけじゃないんだ……?)
「変な詮索はよせ。こいつは喋る抱き枕だ。どうということはない」
「なんすか、その言い方……」
「ダン様がそうおっしゃるなら、安心してよいお相手ということですね。ルカ様、先ほどのご無礼をお許しください」
クライドさんはダン王子の言い分であれば鵜呑みにするらしく、俺に深くお辞儀をした。先ほどまであった俺を探るような目つきも消えている。
「それではご朝食を用意しておりますので、どうぞこちらへ」
断る隙もなく促され、俺はベッドを降りてクライドさんとダン王子について行った。
(朝ごはんまで一緒に食べることになるとは)
寝室を出てリビングに行くと、テーブルにベーグルと生ハム、ヨーグルトなどが華奢で高そうな食器に盛られていた。しかし、俺だけ料理のある席に案内され、ダン王子が座ったところには何の料理もない。
「あれ、ダン王子は食べないんですか」
「朝は食わん。貴様の分をわざわざ用意してやったんだ。感謝しろ」
「あ、ありがとうございます……?」
強制的に感謝させられる俺の横で、クライドさんが恭しくコーヒーを淹れる。俺とダン王子にコーヒーが給仕されたところで、ダン王子がクライドさんを見た。
「もういい。下がれ」
「はい。それでは、ごゆっくりお過ごしください」
クライドさんは主の命令に従い、優雅にお辞儀をして部屋から去る。
「……」
「……」
(会話が全然ねえ……気まず……。てかなんだったんだ、昨日の添い寝は……やっぱり意味わからん……)
コミュニケーションを取る気のない俺様男と、昨夜のあれこれでまだ恥ずかしい気持ちを引きずっている俺では会話の糸口が見つからなかった。仕方なしにベーグルを食べ始めてウマいなと孤独に感想を噛み締めていると、ダン王子がコーヒーに口をつける。
「これから毎晩来い」
「……え?」
「魔法を教えてやる。どうせ夜に予定もないだろう」
「それって……勉強するだけでいいやつですか」
「ついでに共寝もしろ」
「うわ、やっぱりそういう……! イヤですよ、なんであんたと毎晩──」
文句を言い始めた途端に、ダン王子に引き寄せられ顎を掴まれた。至近距離で視線が絡む。
「黙れ。貴様は俺のものだ。他と関係を持ったら許さん」
「っ、色気のない俺のことなんて、ほっとけばいいでしょ……!」
「赤子にも劣る貴様を、放っておきたいのは山々だ。至上様の器でなければ歯牙にもかけん」
ふん、と鼻で笑って俺の顔から手を離した。権力者のイケメンだからといって、言いたい放題がすぎる。
「……俺一応至上様なのに、思いっきりバカにしてますよね」
「今の貴様は敬うに値しないからな。対等に扱ってほしければ、それ相応の力を見せろ。俺は俺より弱い者に興味はない」
(こいつ、これで俺と結婚したいんだよな……?)
(……あ~、ダン王子の部屋か……ここ……)
昨晩の流れを思い返しながら瞬きをしていると、人影が俺を見下ろした。
「おはようございます、ルカ様」
「おはようござ……って、誰!?」
「私はダン様の従者、クライドでございます」
黒髪オールバックに銀縁眼鏡という、いかにも執事風な男性が俺に頭を下げる。
「クライドさん、ですか。お、おはようございます」
(従者って、ご主人様が誰か連れ込んでても寝室に入ってくるんだ……?なんて明け透けな……)
そう思って、『連れ込んでいる相手』というのが自分のことだという事実を思い出し、慌てて毛布を剥いで起き上がった。いくらダン王子の従者とはいえ、昨晩なにもなかったとはいえ、一緒に寝ていたところを見られたのは恥ずかしい。
「あの、俺ここで一緒に寝てただけで別に仲がいいとかじゃなくて、ね! ダン王子、そうですよね!? って、あれ、ダン王子は──」
「ダン様は既にご起床されて、シャワーを浴びてらっしゃいます。ご一緒されますか?」
「いや! 絶対しません! あとで自分の部屋で風呂入るんで大丈夫です!」
「かしこまりました。ルカ様は愉快な方ですね」
ふふ、と微笑まれた。クールな見た目に反して、物腰は柔らかい。
「ダン様が出会ったばかりの方を連れられるのは珍しいのですが、このような愉快なところを好まれたのでしょうか」
「だから俺たちはそういう関係じゃなくてですね……!」
「恥ずかしがらずともよろしいのですよ。……跡、見えております」
首元にクライドさんの指が触れた。遠慮のない、不躾な動作だったが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
(なんだよ、跡って!?)
バッと見ると、鎖骨あたりが若干赤くなっている。しかし昨晩何をされた記憶もない。庭で木陰に座っていた時にでも、虫に刺されたに違いなかった。
「こ、これは! 昨日庭の林にいまして……! その時虫に刺されたんだと思──」
「ダン様が誰かを部屋に招くのはまだしも、朝まで共にするというのは今までにないことでして。あなた様にそれほどの魅力がある、ということなのでしょうけれど」
事実なのに苦しい言い訳にしか聞こえない俺の主張を遮ったクライドさんは、鎖骨に触れていた手を顎に添えて、品定めするように俺を見つめる。
「っ、あの、ほんとに……」
「おい」
至近距離で見つめ合ってると、いつの間にかダン王子がベッドサイドにいた。クライドさんは丁寧に俺から手を離し、ホールドアップの姿勢を取る。
「おや、怒られてしまいました」
「お前のタイプじゃないだろう」
「ダン様のタイプでもないように見受けられますが」
クライドさんが笑顔のまま言い返したが、ダン王子は表情を緩めただけだった。目下の立場をもっと足蹴にする性格だと思っていたので、目に見える親密さに内心驚く。
(誰にでも傍若無人な俺様ってわけじゃないんだ……?)
「変な詮索はよせ。こいつは喋る抱き枕だ。どうということはない」
「なんすか、その言い方……」
「ダン様がそうおっしゃるなら、安心してよいお相手ということですね。ルカ様、先ほどのご無礼をお許しください」
クライドさんはダン王子の言い分であれば鵜呑みにするらしく、俺に深くお辞儀をした。先ほどまであった俺を探るような目つきも消えている。
「それではご朝食を用意しておりますので、どうぞこちらへ」
断る隙もなく促され、俺はベッドを降りてクライドさんとダン王子について行った。
(朝ごはんまで一緒に食べることになるとは)
寝室を出てリビングに行くと、テーブルにベーグルと生ハム、ヨーグルトなどが華奢で高そうな食器に盛られていた。しかし、俺だけ料理のある席に案内され、ダン王子が座ったところには何の料理もない。
「あれ、ダン王子は食べないんですか」
「朝は食わん。貴様の分をわざわざ用意してやったんだ。感謝しろ」
「あ、ありがとうございます……?」
強制的に感謝させられる俺の横で、クライドさんが恭しくコーヒーを淹れる。俺とダン王子にコーヒーが給仕されたところで、ダン王子がクライドさんを見た。
「もういい。下がれ」
「はい。それでは、ごゆっくりお過ごしください」
クライドさんは主の命令に従い、優雅にお辞儀をして部屋から去る。
「……」
「……」
(会話が全然ねえ……気まず……。てかなんだったんだ、昨日の添い寝は……やっぱり意味わからん……)
コミュニケーションを取る気のない俺様男と、昨夜のあれこれでまだ恥ずかしい気持ちを引きずっている俺では会話の糸口が見つからなかった。仕方なしにベーグルを食べ始めてウマいなと孤独に感想を噛み締めていると、ダン王子がコーヒーに口をつける。
「これから毎晩来い」
「……え?」
「魔法を教えてやる。どうせ夜に予定もないだろう」
「それって……勉強するだけでいいやつですか」
「ついでに共寝もしろ」
「うわ、やっぱりそういう……! イヤですよ、なんであんたと毎晩──」
文句を言い始めた途端に、ダン王子に引き寄せられ顎を掴まれた。至近距離で視線が絡む。
「黙れ。貴様は俺のものだ。他と関係を持ったら許さん」
「っ、色気のない俺のことなんて、ほっとけばいいでしょ……!」
「赤子にも劣る貴様を、放っておきたいのは山々だ。至上様の器でなければ歯牙にもかけん」
ふん、と鼻で笑って俺の顔から手を離した。権力者のイケメンだからといって、言いたい放題がすぎる。
「……俺一応至上様なのに、思いっきりバカにしてますよね」
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