インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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ごほうび

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 兼城に褒められたと思ったのか、皆木はニコニコと頷いている。初瀬はどう反応してもネタにされそうなので無表情を貫いた。

「とりあえず負担じゃないならそれでいい。ガクの仕事に響くならやめさせようと思っただけだ。これからも死なせねえように面倒見てやれよ。皆木はガクにちゃんと感謝しろ」
「はい。ハセさん、これからもよろしくお願いします」

 ニコニコのまま皆木は初瀬に頭を下げ、兼城は満足そうに腕を組んでいる。なんだかもう皆木の世話を一生断れない雰囲気が出ていて、初瀬は誰に向けてでもなく浅く頷くだけ頷いた。

「じゃ、もう帰っていい。あ、そうだ。ヨシトが寄越した土産が余ってるから持っていけ」

 兼城の言葉で組員が箱を持ってくる。予想通り『博多通りもん』の大箱だった。土産を無駄に買う会沢を注意してくれよと思いながら、初瀬は箱を皆木に受け取らせた。






「ハセさん。食ってもいいですか、これ」
「商品名読めたらな」

 初瀬は組事務所を後にして、皆木がドアを開けた車の運転席に乗り込んだ。皆木はドアを閉めると走って助手席に乗ってくる。以前と比べれば、こういうところはヤクザの上下関係に馴染んできていた。

「ハカタトオリモン!これはもう読めますよ、教わったし」
「家に残ってるのも全部食っていいぞ」

 皆木はやったーと意気揚々と箱を開け、半月型の甘菓子を食べ始める。

「え、うまっ。ハセさんこれめっちゃうまいっすよ。食べないんすか」
「俺は甘いもん好きじゃねえ」

 舎弟や子分が初瀬の目の前で何かを食べ始めるなんてことは今までなかったが、初瀬は皆木にやめさせようとは思わなかった。兼城に相性がいいなどと言われたことが否定もできない状態で、皆木はバカだし育ちが悪すぎて常識が狂っているし疲れることも多々あるが、なぜか初瀬は皆木を憎めなかった。

「あ、そうだ。オレ、名前ばっちり書けるようになったんですよ!見て見て」

 エンジンをかけて車を出そうとした時、通りもんをもう1個食べようとしていた皆木が初瀬に学習帳を渡してきた。たまに助言をしたくらいでどの程度できるようになったのかは見ていなかった初瀬は、言われた通りに受け取ったノートを開く。
 大してできるようにはなってないだろうと勘繰りながら中を見ると、びっしりと『皆木冬馬』と書き込まれていた。もう間違うことなくしっかり書けている。何度も繰り返し書いた跡があり、かなりの努力が見えた。

「……すごいな」
「え、今ほめました?オレのこと!」
「ああ、想像以上だ。頑張ってるな」
「うわ、どうしよ、嬉しい。もっとほめてくれていいんすよ、ハセさん」

 頬を高揚させて撫でられたい犬のように身を寄せてくる皆木を好きなようにさせたまま、初瀬はノートをめくっていく。字は汚いが読める漢字が名前以外にも練習され、諦めたのかと思っていた算数の計算式でも多くのページが埋まっており、答え合わせまで行われている。何日経っても名前すら書けなかったらどうするかと考えていた初瀬は内心安心していた。

(……安心?俺が安心してどうする)

 自分の反応に若干違和感を感じながら皆木にノートを返す。

「景気づけになんか美味いもんでも食うか。これからもサボんなよ」
「ごほうびっすか!?よっしゃー!」

 無邪気に両手を上げて喜んだ皆木は、なぜかぴたりと動きを止めゆっくり手を下ろした。そして探るように初瀬の顔を見てくる。

「……うまいもんもいいんすけど、実は1個ハセさんにお願いしたいことあって……」

 何かねだる気かと初瀬は片眉を上げた。まぁちょっとしたものなら買ってやってもいいと思って見返すと、皆木は背筋を伸ばしてバックミラーで前髪を整えてから再び初瀬を見た。

「キスしたいです」
「……は?」
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