インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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陰惨な事実

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 会沢の言葉に、皆木は息を止めていた。なんと返していいのかわからなかった。

(家族、皆殺しって……)

 以前家族の話をした時の初瀬の顔を思い出そうとしたが、これといった印象が出てこなかった。殺された家族について話しても、初瀬はその激情をおくびにも出さずにいたということだ。

「闇バイトって流行ったの知ってる?今も流行ってるか。顔の見えない指示役とちょっと高い時給につられた実行役が強盗を立て続けに起こしてね。実行役はバカで無知だから、罪の重さも知らずに抵抗した家主を殺しちゃったりもして大問題になったんだ。で、殺人までやっちゃった事件の被害者が初瀬くんの家族だったわけ」
「……ハセさんだけ、生き残ったんですか」

 皆木はどうにかそれだけ聞いた。まだ頭の整理はついていないが、回転の良くない頭で考えても初瀬の過去と突然の怪我と最近の不明な外出が徐々に繋がっていく。

「そう。事件が起こった日、初瀬くんは大学の友人と飲んでて終電を逃し、人生で初めて朝帰りをした。結果としてそのおかげで命拾いをしたわけだ。彼が第一発見者なんだよ。早朝に血塗れの家と血塗れの家族を見つけたんだ。父、母、姉、ペットの猫まで全部殺されてた。しかも強盗の被害額はたったの10万円。そんな金額のために家族が皆殺しとは、さすがの僕でも同情するよ。初瀬くんから少しでも家族の話を聞いたことあるかな。話の節々から仲が良かったのが嫌でもわかる。絶望は想像に余りあるね」
「あの……犯人は捕まったんですよね?そんなひどい事件起こしたんだから」

 皆木の言葉に会沢は煙を吐いた。胃のもたれそうな甘い刺激臭が強まる。

「殺しをやった実行役は捕まって死刑判決が出たよ。でも、捕まったのはその1人だけだし死刑なんてそう簡単には執行されない。強盗に来た奴は3人、逃走車の手配だの強盗先の選定だの含めたら関わった奴はもっといる。元凶の指示役はまったく不明で手がかりもなく捜査は行き詰まり。初瀬くんにとっちゃ不完全燃焼もいいところだ」
「そんなのって……あり、なんですか。犯人のやり逃げじゃないっすか」
「そうだよ。だから初瀬くんは堅気の人生を捨ててヤクザになった。指示役は半グレかヤクザか、ともかくアウトローな人間なのは確かだ。関わった奴らを見つけ出して殺すために、同じ地獄に自ら入ったんだよ」

 自分は初瀬ではないのに、初瀬のように仲の良い家族がいたこともないのに、皆木は怒りが身体に走るのを感じた。たった1人死刑になったから、なんだというのだ。逃げおおせた奴らに復讐したいという初瀬の感情を、ひとつも否定できなかった。

「僕は情報収集が得意でね。初瀬くんが組に入った時に調べて大体のことを把握してからは、復讐対象を見つけて彼に情報を横流ししてる。肩を怪我した時も強盗に関わってた奴を始末しに行ってたんだよ。最近の外出も復讐の下準備だろうね」
「アイザワさんは、なんで──」
「なんで協力してるか?そりゃ、僕は健気で可哀想な子が好きだから。初瀬くん、性癖に刺さるんだよね~」

 笑いながら言って、会沢は大麻を灰皿に戻した。本心なのかはわからなかったが、皆木は会沢が協力する動機をそれ以上追及しなかった。皆木のような雑魚にもっともらしい嘘も真実も言うとは思えなかった。

「で、初瀬くんの過去を知っちゃったわけだけど。トーマくんはどうするの?復讐は危険だからやめて~って止めんの?」
「いや……。オレにハセさんを止める権利なんてないです。でも……ハセさんが危険な目に遭うのは嫌ッス。……ワガママですよね、オレにはなんもできねーのに」

 皆木が俯くと、会沢は突然拍手をした。びっくりして見るうちに、立ち上がって皆木に肩を組んでくる。

「素晴らしい感想だ!トーマくんのこと益々気に入っちゃった。愛する初瀬くんのために悩む姿、健気でかわいいよ」

 大麻でハイになったのか会沢は大袈裟な声音で皆木を褒める。健気という単語に会沢の性癖を刺激してしまったかと後悔する前に、会沢が耳元で囁いた。

「初瀬くんの命を守りたいなら、協力するよ。覚悟があるならね」
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