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下準備
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「お疲れ様です!若頭!」
初瀬が店に入ると、サングラスに髭面、刺青上等の男たちが一斉に声を上げて頭を下げた。
ここは銀座の地下に構えた高級中華料理店のはずだが、柄の悪い男たちのせいで歌舞伎町のようになってしまっている。普段は豪華絢爛な店内装飾も、一気に成金趣味に見えてしまって可哀想に思えるほどだ。ヤクザっているだけで下品だよなと自分を棚に上げた感想を抱きながら、初瀬は椅子に座った。組員がすぐに水を用意して手元に置いてくる。
「準備はどうなってる」
「料理は人数分不足なく揃ってます。役職付きは着席、それ以外は立食。酒は親父の好きな焼酎を多く用意しています。プレゼントのタイミングは会が始まってから1時間後の21時。店側にライトの指示を出して賑やかしの女が入るリハーサルも終わっています。そのあとは余興を挟みつつ朝まで使えます」
「今のところ問題なさそうだな。酒のリストを見せろ」
「ハセさん、どーぞ」
正面に立って報告していた組員に初瀬は言ったが、横から紙が出てきた。見ると黒スーツ──初瀬が買ってやった当初より体格が良くなったらしくぴったりになっている──をきちんと着た皆木が立っている。下っ端の皆木は誕生会の準備に駆り出されずいぶん早くにマンションを出ていたなと思い返したところで、正面の組員が舌打ちをした。
「皆木テメエ、勝手なことしてんじゃねえ。やることねえなら直前までグラス磨いてろや」
「へーい、すんません」
皆木は適当に謝り、去り際に初瀬にだけ見えるようにベーッと舌を出してキッチンに向かって行った。笑いそうになったのを組員に見られないようリストで隠していると、入り口のドアが開く。
「みんな、おっはよ~」
「おはようございます!会沢さん!!」
もう日は沈んでいるが、上司が「おはよう」と言えば夜も朝になるのがヤクザ社会である。一斉に頭を下げられた会沢はまっすぐ初瀬のところに来た。
「外もう雨降ってるよ。組長の誕生日会って毎年雨で困るよねえ」
兼城は梅雨生まれだから仕方ないだろと思いながら「そうですね」と最低限のコミュニケーションを返すと、会沢は隣に座って初瀬が持っていたリストを覗き込んだ。
「これ酒の在庫?」
「はい。オーソドックスなものを網羅して、親父の好きな焼酎は多めに用意させてます」
「ああ~。ワイルドターキーってある?最近あの人、高いウィスキーにハマってんだよね」
そんなことは初耳で初瀬は眉を寄せる。兼城と言えば中華と焼酎のはずだ。マイナーな栗焼酎がなくてキレた兼城が、飲みの場で発砲したことすらある。焼酎にイカれたジジイなのだ。
「聞いたことありませんよ、親父がウィスキー好きなんて」
「そりゃ僕が一昨日勧めてハマっちゃったからね。ほやほやの情報」
会沢は定期的に兼城に土産を差し入れしては面倒くさいブームを巻き起こしている。無駄なことするなよという感情を隠しきれずに会沢を見ると、文句の視線を受け流した会沢は膝を打って立ち上がった。
「しゃーない。買い出し行ってくるよ」
「あ、俺たちで行ってきます!頭はここでゆっくり──」
「いーよ、いーよ。ターキー以外にもいくつか好きそうな銘柄あったし、指示出すより僕が見に行った方が早い。トーマくん!ちょっと荷物掛かりで一緒に来て」
会沢は買い出しを申し出た組員を制止して、キッチンでグラスを磨いていた皆木に手を振った。「オレっすか?」と首を伸ばす皆木を、周囲の組員が早く行けと背中をどついて押し出す。
初瀬は皆木が会沢と一緒にいるのは避けさせたかったが、この中で一番の下っ端は皆木だ。雨天の雑用に指名されるのも仕方がない。
「じゃ、ちょっと行ってきます」
会沢に肩を組まれた皆木は、初瀬にそう言った。どこか緊張したような面持ちだったことに、タバコを取り出していた初瀬は気が付かなった。
初瀬が店に入ると、サングラスに髭面、刺青上等の男たちが一斉に声を上げて頭を下げた。
ここは銀座の地下に構えた高級中華料理店のはずだが、柄の悪い男たちのせいで歌舞伎町のようになってしまっている。普段は豪華絢爛な店内装飾も、一気に成金趣味に見えてしまって可哀想に思えるほどだ。ヤクザっているだけで下品だよなと自分を棚に上げた感想を抱きながら、初瀬は椅子に座った。組員がすぐに水を用意して手元に置いてくる。
「準備はどうなってる」
「料理は人数分不足なく揃ってます。役職付きは着席、それ以外は立食。酒は親父の好きな焼酎を多く用意しています。プレゼントのタイミングは会が始まってから1時間後の21時。店側にライトの指示を出して賑やかしの女が入るリハーサルも終わっています。そのあとは余興を挟みつつ朝まで使えます」
「今のところ問題なさそうだな。酒のリストを見せろ」
「ハセさん、どーぞ」
正面に立って報告していた組員に初瀬は言ったが、横から紙が出てきた。見ると黒スーツ──初瀬が買ってやった当初より体格が良くなったらしくぴったりになっている──をきちんと着た皆木が立っている。下っ端の皆木は誕生会の準備に駆り出されずいぶん早くにマンションを出ていたなと思い返したところで、正面の組員が舌打ちをした。
「皆木テメエ、勝手なことしてんじゃねえ。やることねえなら直前までグラス磨いてろや」
「へーい、すんません」
皆木は適当に謝り、去り際に初瀬にだけ見えるようにベーッと舌を出してキッチンに向かって行った。笑いそうになったのを組員に見られないようリストで隠していると、入り口のドアが開く。
「みんな、おっはよ~」
「おはようございます!会沢さん!!」
もう日は沈んでいるが、上司が「おはよう」と言えば夜も朝になるのがヤクザ社会である。一斉に頭を下げられた会沢はまっすぐ初瀬のところに来た。
「外もう雨降ってるよ。組長の誕生日会って毎年雨で困るよねえ」
兼城は梅雨生まれだから仕方ないだろと思いながら「そうですね」と最低限のコミュニケーションを返すと、会沢は隣に座って初瀬が持っていたリストを覗き込んだ。
「これ酒の在庫?」
「はい。オーソドックスなものを網羅して、親父の好きな焼酎は多めに用意させてます」
「ああ~。ワイルドターキーってある?最近あの人、高いウィスキーにハマってんだよね」
そんなことは初耳で初瀬は眉を寄せる。兼城と言えば中華と焼酎のはずだ。マイナーな栗焼酎がなくてキレた兼城が、飲みの場で発砲したことすらある。焼酎にイカれたジジイなのだ。
「聞いたことありませんよ、親父がウィスキー好きなんて」
「そりゃ僕が一昨日勧めてハマっちゃったからね。ほやほやの情報」
会沢は定期的に兼城に土産を差し入れしては面倒くさいブームを巻き起こしている。無駄なことするなよという感情を隠しきれずに会沢を見ると、文句の視線を受け流した会沢は膝を打って立ち上がった。
「しゃーない。買い出し行ってくるよ」
「あ、俺たちで行ってきます!頭はここでゆっくり──」
「いーよ、いーよ。ターキー以外にもいくつか好きそうな銘柄あったし、指示出すより僕が見に行った方が早い。トーマくん!ちょっと荷物掛かりで一緒に来て」
会沢は買い出しを申し出た組員を制止して、キッチンでグラスを磨いていた皆木に手を振った。「オレっすか?」と首を伸ばす皆木を、周囲の組員が早く行けと背中をどついて押し出す。
初瀬は皆木が会沢と一緒にいるのは避けさせたかったが、この中で一番の下っ端は皆木だ。雨天の雑用に指名されるのも仕方がない。
「じゃ、ちょっと行ってきます」
会沢に肩を組まれた皆木は、初瀬にそう言った。どこか緊張したような面持ちだったことに、タバコを取り出していた初瀬は気が付かなった。
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