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2泊目

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 佐久間の白い車にお邪魔しますと断りを入れてから乗り込む。短い返事が返ってきて、私はシートベルトを着用した。
「なに、そんなに溜まってたの?」
「知らない。」
我ながら可愛くない台詞だなと思いながら、恥ずかしくて窓の外を見る。ラブホへと直行するために通る道だ。さすがに沈黙は良くないので、今日の出来事を軽く話していた。千佐都と会ったことを伝えると何故呼んでくれないんだと不満をぶつけられたが、じゃあもうホテル行ってもヤらないと言うと私の機嫌をとってきた。そういう適当で、けど嘘でも可愛いとか言ってくれるところが心地よい。
 ホテルの少し重たい扉を開けて、荷物を置く。ハンガーを手に取って佐久間の上着をかけた。そのあと、自分の上着を脱いで吊ろうとすると、後ろから佐久間の香りが鼻をくすぐった。
「俺も、会いたかった。」
そう言いながら私を後ろから抱き寄せて、胸を軽く揉む。車に乗っていたから冬なのに冷えていない彼の指先が、服の中に滑り込んでくる。
「ちょ…っ、まだコート吊れてないんだけど。」
「早く吊って。」
熱く、硬くなった彼自身を太腿に押し付けられ、私の心臓は軽く跳ねた。私がハンガーに手を伸ばそうとすると、彼は私の右胸の先端を転がし始める。急いで服をかけて、軽く抵抗する。せめてベッドに行きたかった。
「ねぇ、ちょっと。ベッド行こうよ。」
わかったと、小さく彼が返事をすると、手際よく私の服を剥ぎ取り、下着の状態でベッドまで手を引かれた。ベッドに座ると彼はズボンを脱ぎながらキスをしてくる。初めは触れるだけで、軽く唇を舐められた。私が唇の力を抜くとぬるりと口内に舌が入ってくる。佐久間の首に私は手を回して暫く互いを味わった。彼は私の敏感なところを刺激し始め、私は彼の大きくなったところを優しく撫でた。苦しそうな顔をした佐久間は私に体重をかける。流れるようにベッドに押し倒されて布越しに割れ目を触られる。
「…すごい濡れてる。」
「言わなくていいの。」
「余裕ないんだね、今日。」
「んっ、ちょっとね。」
パンツに手がかかったので、私は腰を上げた。するりと私の秘部を守っていた布は取られる。耳元で「積極的じゃん」と言われてぞくりとした。自分でも顔が赤くなっているのがわかる。言葉にならない言葉で必死に否定する。佐久間はそんな私をみてくすりと笑った。
「可愛い。」
その言葉と同時に、彼の指が私の中に侵入してくる。小さな音だが、確かに私の耳に恥ずかしい声が下から聞こえた。気持ちいいところを少しだけ刺激され、私は身体をよじる。ニヤリと笑うと、彼は同じところを執拗に攻め立てた。快感に下半身からじわじわと支配されていく。指先から頭まで、もうすぐで完全に快感が私を覆い尽くす。気づけば私は甘い声をあげていた。
「さくっ、ま…あっ。やだぁ。」
ピタリと彼の指が止まると、私の全身は切なさを訴える。
「え…」
「なに、やめてほしいんじゃないの?」
「でも、いっつもやめないじゃん。」
私が彼を睨むと、焦らすように入り口の部分だけ指で撫で始めた。
「たまにはおねだりしてみてよ。聞きたい。」
「おねだりって…そんなこと言われても。」
私は察して欲しいと言うのを遠回しに伝えるが、分からないふりをされてしまう。というか、絶対分かっているはずだ。焦らしながら定期的に気持ちいい所を的確に刺激しては私の反応を楽しんでいる。
「あの…イかせて、ください…。」
ぽつりぽつりと小さな声で恥じらいながら私はお願い事をした。はいはい、と笑いながら彼はもう一度私の中に指を挿れる。さっきよりずっと短い時間で快感へと誘われる。私は焦らされた分、お返しをする気分で彼の名前を呼んだ。
「佐久間っ、気持ちい…あっ、佐久間っ。」
 佐久間の眉間にシワが寄っている。そう思ったあと、私は果てていた。浅い呼吸を繰り返していると、彼の左手は私の髪を撫でてくれる。私は手を重ねて、軽く微笑んだ。いつの間にかゴムをつけ終えた佐久間は私に入ってくる。先程たくさん解された筈なのに、私は体積を感じて、入ってきただけで身体はびくびくしている。私を抱きしめながら佐久間は侵入してくるから、彼の表情はよく見えない。少し不安になった私のことを察したのか、彼は耳元で気持ちいい、締まってる、と私を安心させてくれた。話すと喘ぎ声が漏れてしまいそうで、できるだけ短くそっかと返した。
「痛くない?」
「ん、大丈夫。」
佐久間はゆっくりと腰を動かした。奥の方、私の大好きなところを突いてくれる。感じているので、私の蜜は溢れてきて、卑猥な音を立て始める。なんだかいつもより熱い彼の肉棒を逃さないように私は一生懸命に締め付けてみる。一瞬、表情を歪める佐久間。
「なに、今の。イくかと思った。」
彼の腰はとまらない。
「だっ…てぇ。」
私は短い言葉を紡いだ。
「ちょ…もう無理かも。」
「うん、うん…我慢しないで…っあ。」
私の耳を舐めながら、気持ちいいと言ってくれる佐久間。私がベッドのシーツを掴んで耐えていると、手を繋いでくれる佐久間。1つ1つの動作が全て私を気持ちよくさせてくれる。私の喘ぎ声と彼の吐息、たまに聞こえる結合部分の音。全部が気持ちよかった。

 疲れ果ててしまった私に佐久間は優しく布団をかけて、自分もベッドに潜り込んできた。また、私の頭を撫でてくれる。
「今日途中でいきなり締まって、マジで出そうになった。」
「もう!その報告わざとでしょ!
 …あと、別に我慢しなくていい…。」
最後の方は消え入りそうな声でボソボソと呟いた。そっぽを向くと後ろから優しく抱きしめられる。彼の体温が直接伝わってきて心地よい。
「そう言うところ可愛いよな。」
「何言ってんのよ、もう。」
私はせめて顔が赤くなっているのがばれませんようにと布団に顔を埋めた。後ろから、はいはい、と適当な返事が返ってきて、佐久間の身体が離れた。少しだけ寂しくなった背中が耐えられなくて、佐久間の方に向き直ると、ヘラッとした笑顔をこちらに向けてくれる。少しだけ彼との距離を詰めて、二人でしばらく眠った。
 佐久間と別れた後、案の定千佐都からの茶化したメッセージが届いていて、悔しいので逆に本心を返しておく。すごい良かった、と。私の目に止まったのは悠陽くんからの返信で、大好きと来ていた。私の中には黒いもやもやが広がる。最近、全く彼の愛にときめかなくなっていた。まだ付き合ってもいないのに別れたいなんて思う時もある。こんな自分に嫌気がさして、私は今日少し多めにお酒を煽った。
 佐久間のことはそれなりに好きだ。けれど、付き合いたいとかそう言うのよりかは楽だと感じる方が大きい。一瞬一瞬の言葉が私を温めてくれる。
 悠陽くんはすごく素直に彼の気持ちを伝えてくれる。私は「私も」と返したり、同じ言葉を返すだけで、自分が本当にどう思っているかわからない。
 まともに好きな訳ではない相手が彼氏候補だなんて少し前の私は笑うだろう。少し引きながら、でもまあ、認めてはくれるんだろう。最近夜がとても寂しかった。日付は12月23日、クリスマスシーズンだ。この寂しさはきっとクリスマスから来るもので、一過性のものだと言い聞かせてまたお酒を飲んだ。
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