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第二章 刀工と騎士とお食事と

騎士団長の顔・2

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 城塞都市リュッセンベルクは、巨大な三角錐が寄り集まったような外観だ。その巨大さは人族の版図たるゴルドバ大陸内で上から十番内には入るだろう。また他の城砦都市と比べても、城砦都市を囲む堀は広く深く、城壁も何層もあり、見張り塔の数が多く高い。
 と、そのリュッセンベルク上空に幾つも点在していた黒い粒の二つが拡大……飛竜に跨った完全武装の騎士が二騎近づいてきた。城塞都市の空域を守る衛兵だった。

「白蘭騎士団長、ミシュア。副長ユニリだ」
 ミシュアが短く言うと、衛兵達は頷き合った。本来ならば、階級や身分評議会の評価……位を言い添えるのだが、衛兵達はミシュア達のことを知っているようだった。
「あの、先導いたしましょうか?」
 衛兵の若い方が顔を赤らめながら、おずおずと告げた。
「それには及びません……ありがとう」
 言って、ミシュアはユニリと共に一角騎を走らせる。
 背後では、衛兵達が少し大声で騒ぎ始めていた。

『うっわー初めて見たよ、ミシュア=ヴァレルノッ! 握手して貰えば良かった』
『俺は副長かなーいやー近くで見るとちょっと怖いけど、美人だったなー』

 耳に入ってしまう大声に、ミシュアはため息をつくと。
「団長、まだ慣れませんか?」
「あの浮つきが、合戦を控えた人族の最大後方拠点とは思えないだけ」
「嘘」
 ユニリの断言に何も言えず、ミシュアは視線を逸らすように都市を見下ろす。
 目に入る、軍事や商業など区画整理が行き届いた街並み。高度を徐々に下げていく度に、行き交う人々も目にする。上空からの街の情景が、ミシュアには軍事図上演習に使う盤上に見えてしまっていた。普通の人々の穏やかな営みもあるというのに……少なくとも、今はまだ。

「団長。身分評議会の監査官は今のような衛兵、また、市政の人々に紛れています」
「分かっている。我らが騎士団は市井の人々の人気で持っている……と続くのだろう?」
「商人からの出資もですね。我らのように女性のみで編成された騎士団は支持がなくば、」
「立場が弱い……分かっているよ、嫌というほどに」
「ええ、性差別など……評議会ができて五年も経つというのに未だあるとは信じられませんが」
「わたしもさ」

 ため息をつくと、眼下には石造りの館――一角騎の厩舎が敷設された広々とした屋上が見えた。リュッセンベルクの西端、軍事区画にある白蘭騎士団の兵舎だった。
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