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第二章 友人と恋人
第六話
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毎月開催される『クラセル』の大型イベント中に、シアンさんからDMが飛んできた。
俺とシアンさんは、数日に一度DMのやり取りをしている。といっても、『クラセル』に関する質問に答えたり、スコアを競い合ったりしているだけだが。
《最近、『クラセル』が前よりずっと楽しいんです!》
今日の彼女はいつもよりテンションが高かった。俺が返事を打ち込んでいる間に、新しいメッセージが表示される。
《私の所属してるギルドの中では、イベントスコアが私一人だけ飛び抜けていて張り合いがなかったんです。でも、こうして違うギルドのユウさんとスコアを競い合うようになってから楽しくって! 抜かしたと思ってもすぐ抜かされて、それを繰り返すのが本当に楽しい!》
それは俺も同じことを感じていた。張り合いがなくて退屈だと思っていた時に、俺と競い合えるくらいのスコアを叩き出すシアンさんと出会えた俺はラッキーだ。競い合うことが好きな俺は、彼女のおかげで久しぶりに、『クラセル』を楽しめていた。
《俺も楽しいです。シアンさん、トップレベルのプレイヤーよりもスコアいいですよ》
《えー! そうなんですか!? ということは、私ってすごいのでは!?》
スマホに向かって、俺は思わずクスッと笑った。
始めはあんなに堅苦しいメッセージのやり取りをしていたのに、今ではずいぶん柔らかくなった。
シアンさんはお茶目で素直だ。褒めたら「私ってすごい!」と言って喜ぶ。見ていて気持ちが良かったし、もっと褒めてあげたくなる。
彼女が投稿しているほんわかしたイラストと、彼女自身のイメージがぴったりと重なり合った。この人はきっと、優しくて素直な、ほわほわした女性なのだろうな。
《じゃあ、このイベント完走時に、どっちがスコア高いか競争しましょう》
《えー!? ユウさんと対決ですか!? 絶対負けますよ~》
やりとりをしているうちに知ったのだが、彼女は意外と負けん気が強い。口ではこんなことを言いながら、彼女は勝つ気でガンガンイベントを回すのだろう。
◇◇◇
月曜の朝、七岡が週末の報酬として約束の品を持ってきた。そう、『劇場版ネオン』の数量限定配布特典、描きおろし漫画〇巻だ。
「先週は楽しかったな南! また遊ぼうぜ!」
「おう! 絶対嫌だ!」
俺はにこやかにそう言い放ち、描きおろし漫画〇巻を引ったくる。
思っていたより状態が良い! 角も折れていないし、日焼けもしていない……! これはあの地獄の土曜日を耐えた甲斐があったぞおい!
パラパラとページをめくり興奮している俺を見て、七岡と木渕が笑いを堪えている。
「南が唯一あどけない笑顔を見せる時。それは『ネオン』の話をしている時だ」
「この時の南だけは、ちゃんと高校生に見えるなー」
「お前らも『ネオン』観ろって! 最高だから!」
「いやー、俺はいいかな」
「絵柄古いじゃん」
「絵柄で全てを決めるんじゃねえ! というかあの絵柄が良いんだろうが!」
俺が熱くなり始めたので、木渕が「はいはい」とあしらい話題を変える。
「ところで君たち、来週何があるか分かっているかね?」
「「?」」
心当たりがない俺と七岡は、目を見合わせて首を傾げた。
そんな俺たちに、木渕が英語の教科書を突き付けて言い放つ。
「中間考査だ!」
「「ぎゃーーーー!」」
なんて恐ろしいことを思い出させるんだこいつは。せめて今日だけは、忘れたままでいたかった。
「くそがぁ……」
「やべぇ……。まともにノート取ってねえ……」
「試験範囲すら知らねえよ俺……」
「試験の時間割、捨てたかも……」
床に崩れ落ちる俺たちに、木渕がニヤァといやらしい笑みを向ける。
「君たち、俺は誰だ?」
俺たちはハッとする。
「学年トップの……」
「木渕 正和さん……!」
仰々しく頷き、足を組む木渕。そして彼は、定規で七岡を指した。
「一週間やきそばパン奢って」
「はいっ! 喜んでっ!」
次に、定規が俺の方を指す。
「今日から五日間、ファミレスで勉強するからそのメシ代奢って」
「もちろんですっ!」
「あと、日曜日はお前んちで勉強な」
「どうぞどうぞ!」
わんこのように尻尾を振る俺たちに、木渕は気分を良くしたのか声高らかに笑った。
「よし! ではみっちり教えてやろう! 絶対八十点以上は取らせてやる!」
「最高! 木渕 正和!」
「木渕 正和ぅ!」
やいのやいのと持ち上げると、木渕が気持ちよさそうに、だらしなく頬を緩めていた。
俺とシアンさんは、数日に一度DMのやり取りをしている。といっても、『クラセル』に関する質問に答えたり、スコアを競い合ったりしているだけだが。
《最近、『クラセル』が前よりずっと楽しいんです!》
今日の彼女はいつもよりテンションが高かった。俺が返事を打ち込んでいる間に、新しいメッセージが表示される。
《私の所属してるギルドの中では、イベントスコアが私一人だけ飛び抜けていて張り合いがなかったんです。でも、こうして違うギルドのユウさんとスコアを競い合うようになってから楽しくって! 抜かしたと思ってもすぐ抜かされて、それを繰り返すのが本当に楽しい!》
それは俺も同じことを感じていた。張り合いがなくて退屈だと思っていた時に、俺と競い合えるくらいのスコアを叩き出すシアンさんと出会えた俺はラッキーだ。競い合うことが好きな俺は、彼女のおかげで久しぶりに、『クラセル』を楽しめていた。
《俺も楽しいです。シアンさん、トップレベルのプレイヤーよりもスコアいいですよ》
《えー! そうなんですか!? ということは、私ってすごいのでは!?》
スマホに向かって、俺は思わずクスッと笑った。
始めはあんなに堅苦しいメッセージのやり取りをしていたのに、今ではずいぶん柔らかくなった。
シアンさんはお茶目で素直だ。褒めたら「私ってすごい!」と言って喜ぶ。見ていて気持ちが良かったし、もっと褒めてあげたくなる。
彼女が投稿しているほんわかしたイラストと、彼女自身のイメージがぴったりと重なり合った。この人はきっと、優しくて素直な、ほわほわした女性なのだろうな。
《じゃあ、このイベント完走時に、どっちがスコア高いか競争しましょう》
《えー!? ユウさんと対決ですか!? 絶対負けますよ~》
やりとりをしているうちに知ったのだが、彼女は意外と負けん気が強い。口ではこんなことを言いながら、彼女は勝つ気でガンガンイベントを回すのだろう。
◇◇◇
月曜の朝、七岡が週末の報酬として約束の品を持ってきた。そう、『劇場版ネオン』の数量限定配布特典、描きおろし漫画〇巻だ。
「先週は楽しかったな南! また遊ぼうぜ!」
「おう! 絶対嫌だ!」
俺はにこやかにそう言い放ち、描きおろし漫画〇巻を引ったくる。
思っていたより状態が良い! 角も折れていないし、日焼けもしていない……! これはあの地獄の土曜日を耐えた甲斐があったぞおい!
パラパラとページをめくり興奮している俺を見て、七岡と木渕が笑いを堪えている。
「南が唯一あどけない笑顔を見せる時。それは『ネオン』の話をしている時だ」
「この時の南だけは、ちゃんと高校生に見えるなー」
「お前らも『ネオン』観ろって! 最高だから!」
「いやー、俺はいいかな」
「絵柄古いじゃん」
「絵柄で全てを決めるんじゃねえ! というかあの絵柄が良いんだろうが!」
俺が熱くなり始めたので、木渕が「はいはい」とあしらい話題を変える。
「ところで君たち、来週何があるか分かっているかね?」
「「?」」
心当たりがない俺と七岡は、目を見合わせて首を傾げた。
そんな俺たちに、木渕が英語の教科書を突き付けて言い放つ。
「中間考査だ!」
「「ぎゃーーーー!」」
なんて恐ろしいことを思い出させるんだこいつは。せめて今日だけは、忘れたままでいたかった。
「くそがぁ……」
「やべぇ……。まともにノート取ってねえ……」
「試験範囲すら知らねえよ俺……」
「試験の時間割、捨てたかも……」
床に崩れ落ちる俺たちに、木渕がニヤァといやらしい笑みを向ける。
「君たち、俺は誰だ?」
俺たちはハッとする。
「学年トップの……」
「木渕 正和さん……!」
仰々しく頷き、足を組む木渕。そして彼は、定規で七岡を指した。
「一週間やきそばパン奢って」
「はいっ! 喜んでっ!」
次に、定規が俺の方を指す。
「今日から五日間、ファミレスで勉強するからそのメシ代奢って」
「もちろんですっ!」
「あと、日曜日はお前んちで勉強な」
「どうぞどうぞ!」
わんこのように尻尾を振る俺たちに、木渕は気分を良くしたのか声高らかに笑った。
「よし! ではみっちり教えてやろう! 絶対八十点以上は取らせてやる!」
「最高! 木渕 正和!」
「木渕 正和ぅ!」
やいのやいのと持ち上げると、木渕が気持ちよさそうに、だらしなく頬を緩めていた。
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