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8 闇鑑賞会編
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ミモレスとセルジュが初めて出会った日から100年後、ミモレスはすでにこの世を去って50年が経っていた。唯一彼の正体を見抜いていた神官も他界しているため、セルジュが吸血鬼と知っている者はもういない。この100年で彼は貴族として名をあげ、侯爵まで爵位を上げていた。
「侯爵。お手紙です」
「ああ、ありがとう」
使用人が20通ほどの封手紙を彼の机に置いた。セルジュは50人ほど使用人を雇っていた。家事などを任せるためもあるが、主に血を確保するために雇っている。セルジュはそのためにも医師を目指した。医師であれば採血しても怪しまれないからだ。彼は週に一度、健康状態を確かめるためと謳って使用人全員の血の採血をする。そのおかげで病気が分かった使用人もいたのであながち嘘ではない。
使用人が部屋から出て行ってから、セルジュは退屈そうな顔で封筒の中を確かめた。
「舞踏会の招待状ばかりじゃないか。…はあ、貴族は呑気だな。…ん?」
手に取った封筒のひとつに、小さな文字で"一人でこっそり中を確かめてください"と書かれている。差出人は書かれていない。
-------------------------
親愛なるフィール侯爵
名高く謎に包まれた貴方様にぴったりの鑑賞会にご招待をいたします。
この度一人の少年を買い、彼にチムシーを寄生させました。
吸血欲に駆られ悶えている少年の姿
血を飲んで悦んでいる少年の姿
とても愛らしく、独り占めするには惜しく
貴方様にも是非見て楽しんでいただきたいと思い
手紙をしたためている次第でございます。
ご興味がございましたら是非お越しください。
くれぐれもこのことは御内密に。
-------------------------
「なんだこれは…」
「侯爵」
再びノックの音が聞こえてきた。セルジュは慌てて手紙を引き出しの中に押し込んだ。
「どうした?」
「オーヴェルニュ侯爵が来られています」
「なんだって?あいつ…、来る前には連絡しろと言っているのに」
はぁ、とため息をついて頭を掻いた。引き出しに突っ込んだ手紙をポケットに入れ、階段を降りた。セルジュの顔を見てオーヴェルニュ侯爵はパッと顔を輝かせる。
「セルジュ!」
「トラント。お前なあ、1週間で何度私のところに来るつもりだ?」
「そういうなよ!お隣さんなんだからさ!」
「隣って…お前の城と私の城まで馬車で1時間だぞ」
「たったの一時間じゃないか。まあこんなところで話すのもなんだ、応接間でうまい紅茶でも飲もうか」
「なんだこのあつかましいやつは…。ったく…」
オーヴェルニュ侯爵であるトラントは、セルジュの領地の隣にあるヴィラバンデ地区の領主だ。一度職務で一緒に仕事をしてから懐かれてしまい、それからトラントはよくセルジュの城に遊びに来るようになった。ちゃらんぽらんに見えるが、ここまでオーヴェルニュ家を大きくしたのはトラントの手腕があってこそだった。信用に足る人柄で、セルジュが唯一友人と認めている人間だった。もちろん彼はセルジュが吸血鬼だと言うことを知らない。
「トラント、応接間ではなく私の部屋へ来い。見てほしいものがある」
「お前が私に相談か?こりゃまた珍しい」
トラントを部屋に招き、先ほどの手紙を見せた。セルジュはそれを読んで苦笑いをしている。
「ああ…この手紙、俺のところにも来たよ」
「本当か。私にだけ送ってきたてっきりイタズラかと思った」
「いいや。これはマジだよ。送り主はヴァンク家だ。彼らはおかしな嗜好を持っていてな。貧乏人から子どもを買ってはおもちゃにして遊んでんだよ。この前は魔女を作ろうと魔物の魂魄を少女に飲ませるから来ないかって招待状が来ていたな。俺は行かなかったが…結果は失敗。少女は死んでしまったらしい」
「…胸糞の悪い趣味だな」
「だろう?貴族には変な奴が多い。特に東の国でこういうことをして遊んでいる貴族は多いな。例えば、ストロヤノフ家、ウィルソン家、フェレメレン家…」
「どうして知っていて何も手を打たない?子どもがおもちゃにされているんだぞ」
「残念ながら、手を打てないのさ。闇鑑賞会、闇オークション…"闇"と名の付く危ない集会は、全て国王が暗に了承している。それどころか、時たま国王や王妃もそこに遊びに行くと聞く」
「なに?国王がそんな薄汚れた場所を好んで行っていると?」
「そうさ。この50年で王族は再び腐敗してしまった。レオ国王とミモレス王妃がお亡くなりになってから一気に悪習が蘇ったと聞く。…俺のじいさんが事あるごとに言ってただけだけどな。ま、俺でも今のマリウス国王なんて最悪だってことは分かる」
トラントはうんざりした顔で肩をすくめた。マリウス国王はミモレスの玄孫(5代目)に当たる。世紀最悪の国王と呼ばれており、頭が悪く暴政を行っている。彼が闇集会を好んでも不思議ではなかった。
「ここにも国王は来ると思うか?」
「いんや、来ないんじゃないかな。今は闇オークションに夢中になっているらしいから」
「そうか」
「…おい、まさかお前、行くつもりじゃないだろうな」
「さあな」
「絶対に行くなよ。めんどくさいことに巻き込まれる可能性だってある。お前だって子どもがおもちゃにされているところなんて見たくないだろう」
「ああ、見たくないとも」
トラントはホッとした表情を浮かべた。セルジュはその手紙を机に置き、それからは他愛ない話に花を咲かせた。親友が散々喋りたおし満足して帰った後、セルジュは手紙に書かれている開催日時と場所を確認した。
吸血鬼は、チムシー(寄生型吸血魔物。コウモリのような見た目をしている)に寄生され続けた人間のなれ果てだ。チムシーに寄生された人間は吸血欲を発症し、血を飲まないと禁断症状が出る。一週間血を飲まなければ気が狂う。血を飲み続けても、日が経つごとに吸血欲が増し自我を失っていく。完全な吸血鬼になるまでセルジュは1年半かかった。その1年半、抑えきれない吸血欲と、体が魔物に作り替えられていく激痛が襲う地獄のような日々だった。年端もいかない少年が、貴族の娯楽のためにそのような苦しみを与えられている。そう考えるだけでセルジュは激しい怒りに駆られた。
「あんな苦しみ…味わうのは私だけでいい」
「侯爵。お手紙です」
「ああ、ありがとう」
使用人が20通ほどの封手紙を彼の机に置いた。セルジュは50人ほど使用人を雇っていた。家事などを任せるためもあるが、主に血を確保するために雇っている。セルジュはそのためにも医師を目指した。医師であれば採血しても怪しまれないからだ。彼は週に一度、健康状態を確かめるためと謳って使用人全員の血の採血をする。そのおかげで病気が分かった使用人もいたのであながち嘘ではない。
使用人が部屋から出て行ってから、セルジュは退屈そうな顔で封筒の中を確かめた。
「舞踏会の招待状ばかりじゃないか。…はあ、貴族は呑気だな。…ん?」
手に取った封筒のひとつに、小さな文字で"一人でこっそり中を確かめてください"と書かれている。差出人は書かれていない。
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親愛なるフィール侯爵
名高く謎に包まれた貴方様にぴったりの鑑賞会にご招待をいたします。
この度一人の少年を買い、彼にチムシーを寄生させました。
吸血欲に駆られ悶えている少年の姿
血を飲んで悦んでいる少年の姿
とても愛らしく、独り占めするには惜しく
貴方様にも是非見て楽しんでいただきたいと思い
手紙をしたためている次第でございます。
ご興味がございましたら是非お越しください。
くれぐれもこのことは御内密に。
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「なんだこれは…」
「侯爵」
再びノックの音が聞こえてきた。セルジュは慌てて手紙を引き出しの中に押し込んだ。
「どうした?」
「オーヴェルニュ侯爵が来られています」
「なんだって?あいつ…、来る前には連絡しろと言っているのに」
はぁ、とため息をついて頭を掻いた。引き出しに突っ込んだ手紙をポケットに入れ、階段を降りた。セルジュの顔を見てオーヴェルニュ侯爵はパッと顔を輝かせる。
「セルジュ!」
「トラント。お前なあ、1週間で何度私のところに来るつもりだ?」
「そういうなよ!お隣さんなんだからさ!」
「隣って…お前の城と私の城まで馬車で1時間だぞ」
「たったの一時間じゃないか。まあこんなところで話すのもなんだ、応接間でうまい紅茶でも飲もうか」
「なんだこのあつかましいやつは…。ったく…」
オーヴェルニュ侯爵であるトラントは、セルジュの領地の隣にあるヴィラバンデ地区の領主だ。一度職務で一緒に仕事をしてから懐かれてしまい、それからトラントはよくセルジュの城に遊びに来るようになった。ちゃらんぽらんに見えるが、ここまでオーヴェルニュ家を大きくしたのはトラントの手腕があってこそだった。信用に足る人柄で、セルジュが唯一友人と認めている人間だった。もちろん彼はセルジュが吸血鬼だと言うことを知らない。
「トラント、応接間ではなく私の部屋へ来い。見てほしいものがある」
「お前が私に相談か?こりゃまた珍しい」
トラントを部屋に招き、先ほどの手紙を見せた。セルジュはそれを読んで苦笑いをしている。
「ああ…この手紙、俺のところにも来たよ」
「本当か。私にだけ送ってきたてっきりイタズラかと思った」
「いいや。これはマジだよ。送り主はヴァンク家だ。彼らはおかしな嗜好を持っていてな。貧乏人から子どもを買ってはおもちゃにして遊んでんだよ。この前は魔女を作ろうと魔物の魂魄を少女に飲ませるから来ないかって招待状が来ていたな。俺は行かなかったが…結果は失敗。少女は死んでしまったらしい」
「…胸糞の悪い趣味だな」
「だろう?貴族には変な奴が多い。特に東の国でこういうことをして遊んでいる貴族は多いな。例えば、ストロヤノフ家、ウィルソン家、フェレメレン家…」
「どうして知っていて何も手を打たない?子どもがおもちゃにされているんだぞ」
「残念ながら、手を打てないのさ。闇鑑賞会、闇オークション…"闇"と名の付く危ない集会は、全て国王が暗に了承している。それどころか、時たま国王や王妃もそこに遊びに行くと聞く」
「なに?国王がそんな薄汚れた場所を好んで行っていると?」
「そうさ。この50年で王族は再び腐敗してしまった。レオ国王とミモレス王妃がお亡くなりになってから一気に悪習が蘇ったと聞く。…俺のじいさんが事あるごとに言ってただけだけどな。ま、俺でも今のマリウス国王なんて最悪だってことは分かる」
トラントはうんざりした顔で肩をすくめた。マリウス国王はミモレスの玄孫(5代目)に当たる。世紀最悪の国王と呼ばれており、頭が悪く暴政を行っている。彼が闇集会を好んでも不思議ではなかった。
「ここにも国王は来ると思うか?」
「いんや、来ないんじゃないかな。今は闇オークションに夢中になっているらしいから」
「そうか」
「…おい、まさかお前、行くつもりじゃないだろうな」
「さあな」
「絶対に行くなよ。めんどくさいことに巻き込まれる可能性だってある。お前だって子どもがおもちゃにされているところなんて見たくないだろう」
「ああ、見たくないとも」
トラントはホッとした表情を浮かべた。セルジュはその手紙を机に置き、それからは他愛ない話に花を咲かせた。親友が散々喋りたおし満足して帰った後、セルジュは手紙に書かれている開催日時と場所を確認した。
吸血鬼は、チムシー(寄生型吸血魔物。コウモリのような見た目をしている)に寄生され続けた人間のなれ果てだ。チムシーに寄生された人間は吸血欲を発症し、血を飲まないと禁断症状が出る。一週間血を飲まなければ気が狂う。血を飲み続けても、日が経つごとに吸血欲が増し自我を失っていく。完全な吸血鬼になるまでセルジュは1年半かかった。その1年半、抑えきれない吸血欲と、体が魔物に作り替えられていく激痛が襲う地獄のような日々だった。年端もいかない少年が、貴族の娯楽のためにそのような苦しみを与えられている。そう考えるだけでセルジュは激しい怒りに駆られた。
「あんな苦しみ…味わうのは私だけでいい」
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