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「あ…アーサー…?なぜここにいる…?なぜ…なぜ私はアーサーの体を傷つけている…」
「ウィルクに手は出させません…!」
目の前に突然現れた、愛する人の生まれ変わり。セルジュはその子の体を腕で貫いていた。アーサーのあたたかい血でセルジュの手が濡れる。唖然とするセルジュの前で、アーサーは口から大量の血を吐き出した。それでもウィルクを守るため、ふらつく足を必死に踏ん張っている。自分のしてしまったことにセルジュは絶叫した。
「うわああああ!!!アーサー!!なんてことだ…!!私は…!私はなんてことを…!モニカ!!早くアーサーに回復魔法を…!!すまない…!すまないアーサー…!!」
「モニカ!僕のことはいいからウィルクを守って!!」
「分かったわ!」
駆け寄ってきたモニカがウィルクを抱きかかえた。アーサーの血にまみれた王子はがたがた震えながらモニカにしがみつく。一向にアーサーを助けようとしないモニカが信じられず、セルジュは首を横に振った。
「モニカ!!そんな王族のクズなど放っておいて早くアーサーに回復魔法を…!」
「いいえ」
「ど…どうしてだモニカ…。なぜそのようなやつを守る…。弟と言えど…そいつは…」
「弟だからだよ…。それ以外に理由が必要?それに先生、血だけでその子の一生を決めつけないでください…。確かに今のウィルクはどうしようもない子だ。でもウィルクにはジュリアがいる。僕たちがいる。きっと変わる。変えてみせるから」
「君は分かっていない…。そいつに流れている血が、どれほど罪深いものか…」
セルジュの言葉にアーサーが悲し気に微笑んだ。
「先生。僕とモニカは…双子というだけで…不吉の前兆だと恐れられ、長い間牢屋に閉じ込められていました」
「……」
「色濃く王族の血を引くことや…二人で生まれることは…死を望まれるほど罪深いことなのでしょうか…先生」
「アーサー…」
双子として生まれてしまったアーサーとモニカ。国王と王妃にかわいがられるはずはないとは思っていたが、まさか牢屋に閉じ込められていたとは思いもしなかった。先ほどアーサーの体を見たときに目にした、数えきれないほどの傷痕…もしかしたら王族の者に拷問されて残ったものなのかもしれない。ただ双子として生まれただけで…彼らは死よりも辛い人生を送ってきたのだろう。
「生まれ持ったものだけで命を狙うことは…自由を奪うことは…やめてください。お願いします…。どんな血をその身に流していようと…ウィルクはウィルクです…。彼は少し性格が悪くて性根が腐っているだけの、ただのウィルクです…。先生」
セルジュは思い出した。ミモレスが聖なる血を持っていたために一生を縛られていたことを。聖地に閉じ込められ、聖女の血を求めた王族に脅され結婚させられた。
《聖女としてじゃなく、ただのミモレスとして見てくれるのはあなただけよ。それがどれほど幸せなことか、あなたは分からないだろうけれど…》
セルジュはふぅ、とため息をつき、体の力を抜いた。
「…双子が不吉の前兆だと言われている理由は、継承争いが起こる可能性が高いからだ。…まあ、腐った王族がそれだけで君たちにひどい仕打ちをしたとは思えないが。忌み嫌われることにも一応尤もな理由はあるんだよ。
血に関しても、流れている血でだいたいの人間の性質は決まる。それは覆らない。私もただウィルク王子が憎いだけで殺そうとしたわけじゃないんだ。私なりに、国の腐敗を防ぎたかったんだよ。…だが、君がそう言うのならそれに従おう」
《確かに彼らはひどいことをしたわ。でも、あなたたちまで同じことをしてはいけない。じゃないとあなたもロイも、苦しみを重ねるだけだわ。そういうときはね、その人たちを変えるの》
その人たちを変えるー…ミモレスはそう言った。そして彼女の生まれ変わりであるアーサーも同じことを言った。セルジュには、それに歯向かう理由も気力ももう残っていなかった。
(アーサーを…モニカを信じよう。信じて託そう。もう…私は疲れてしまったよミモレス。憎しみに囚われることに)
「…ミモレスはレオ国王を正しく導いた。彼は歴史上最も王族の薄汚い血を色濃く持たされた子だった。だが彼は、ここ数百年の歴史で最も民に優しい国王だったと言われている。君とモニカがウィルク王子を導いてくれるのなら、私はそれを信じよう」
「じゃあ…!」
「ああ。もう王子の命は狙わないから、早く回復魔法を受けてくれ」
アーサーとモニカは目を輝かせて「わーーーい!!」と喜んだ。腹に穴が開いているのになぜこんなに元気なんだと、ウィルク王子がアーサーを訝しげに眺めている。セルジュは双子を見て困ったように口元を緩めた。
アーサーはモニカに回復魔法をかけてもらったが、貧血は治らなかったようだ。増血薬を飲もうとアイテムボックスに手を突っ込んだがストックがなくなっていたらしく、やれやれと疲れた様子で調合器具を取り出してしゃこしゃこ薬素材をすりつぶし始めた。
「ストックが切れちゃうくらい増血薬飲んでたなんて…」
「ウィルクとマーサに血を飲ませて、吸血鬼に血を飲まれて、おなかに穴を開けられて…。どうして死んでないのかしら。普通ならとっくに失血死しているわよ」
「ほんと、この体に生まれてきてよかったよぉ…」
薬を飲み終えある程度回復したところで、ソファに座っていたセルジュがアーサーとモニカを呼んだ。ミモレスの感情が残っているアーサーから愛情たっぷりの視線を感じる。モニカはまだ警戒しているようだが、セルジュに敵意がないことを分かっているのか大人しくアーサーの隣に座った。
「アーサー、傷はもう治ったかい?」
「はい!」
「君は薬師なのかい?ずいぶん上手に薬を調合していたね」
「はい!モニカも薬師ですよ」
「私は回復魔法をかけるだけしかできないけどね」
「モニカは薬師というより医者だな。容態を診るのが上手だし、回復魔法も申し分ない」
褒められて悪い気はしなかったのか、モニカは「えへへ」と頬を緩ませている。
「医者と薬師か…。いいね」
「先生…」
「モニカ、君にとっておきの魔法を教えよう。粉末状の薬を錠剤にする方法をね」
「えっ?!それって、剣術大会の日に作ってくれた、アレ?!」
「そうだよ。君ならできるはずだ。風魔法の応用で、粉末を圧縮させるんだ。…アーサー、君の作った増血薬を貸して」
「はい」
先生は丁寧にモニカに魔法を教えた。コツがいり、慣れるまで少し時がかかった。モニカが苦戦している間、セルジュはアーサーに彼らの事を聞いていた。
「アーサー。なぜ君たちはリングイール家などという存在しない貴族を名乗ってこの学院に転入してきたんだい?」
「…実は、僕たちは今冒険者をしているんです。オーヴェルニュ侯爵から依頼を受けて、この学院で起こっている誘拐事件の潜入捜査をするために転入しました」
「なるほど。そうだったのか」
もうセルジュが死ぬと分かっているからか、アーサーは自分たちの身の上話をしてくれた。彼らは生まれてすぐ牢屋に閉じ込められ、暗殺と拷問を受けながらなんとか6歳まで生き延びた。しぶとく生き続けている双子に業を煮やした国王は、彼らを魔獣が生息する深い森に捨てたという。それでも彼らは死ななかった。生まれ持った能力値を活かし、2人で魔獣を倒しながら4年間森で過ごしたそうだ。アーサーは牢獄でいるときより森での生活の方が楽しかったと言っていた。よほど辛い牢獄時代を送っていたのだろう。
10歳になり、アーサーとモニカは森を出て町を目指した。ポントワーブという町で、たくさんの人と出会い、今は薬師と冒険者をしながら幸せに暮らしているという。
そして約1か月前ーセルジュがタールたちを食事部屋に監禁し始めて1か月後ー、オーヴェルニュ侯爵が学院の内情を知り内密に彼らに潜入捜査を依頼したそうだ。教師に犯人がいる可能性を見越し、学長ですらアーサーとモニカの正体を知らされていなかった。
ロイが血を混ぜたグレープジュースを獲物に与え始めた王子の誕生日パーティーの日、数年前に吸血欲を発症したことがあったモニカは、ジュースを飲んだその日のうちに禁断症状を発症した。警戒していた双子は、それが誘拐犯の仕業だと気付き、その日から学院内の食べ物全てを口に入れていなかったそうだ。そのため彼らはこの日禁断症状を起こさなかった。
「まあ、6人も生徒が失踪したら行動を起こすのは当たり前だな。それにしても…まさか君たちが来てくれるとは」
彼らがいなければ、セルジュがここまで追い詰められることも、ロイが殺されることもなかっただろう。だが、彼らがここに来たからセルジュはミモレスに出会えた。そして…やっと生から解放される。
「先生…」
「なんだいアーサー」
「こんなこと言うの、おかしいって分かってるけど…。あなたに会えて、良かったです」
アーサーはそう言ってセルジュの手を握った。セルジュもその手を握り返し、そっと抱き寄せた。
「ありがとう」
「ウィルクに手は出させません…!」
目の前に突然現れた、愛する人の生まれ変わり。セルジュはその子の体を腕で貫いていた。アーサーのあたたかい血でセルジュの手が濡れる。唖然とするセルジュの前で、アーサーは口から大量の血を吐き出した。それでもウィルクを守るため、ふらつく足を必死に踏ん張っている。自分のしてしまったことにセルジュは絶叫した。
「うわああああ!!!アーサー!!なんてことだ…!!私は…!私はなんてことを…!モニカ!!早くアーサーに回復魔法を…!!すまない…!すまないアーサー…!!」
「モニカ!僕のことはいいからウィルクを守って!!」
「分かったわ!」
駆け寄ってきたモニカがウィルクを抱きかかえた。アーサーの血にまみれた王子はがたがた震えながらモニカにしがみつく。一向にアーサーを助けようとしないモニカが信じられず、セルジュは首を横に振った。
「モニカ!!そんな王族のクズなど放っておいて早くアーサーに回復魔法を…!」
「いいえ」
「ど…どうしてだモニカ…。なぜそのようなやつを守る…。弟と言えど…そいつは…」
「弟だからだよ…。それ以外に理由が必要?それに先生、血だけでその子の一生を決めつけないでください…。確かに今のウィルクはどうしようもない子だ。でもウィルクにはジュリアがいる。僕たちがいる。きっと変わる。変えてみせるから」
「君は分かっていない…。そいつに流れている血が、どれほど罪深いものか…」
セルジュの言葉にアーサーが悲し気に微笑んだ。
「先生。僕とモニカは…双子というだけで…不吉の前兆だと恐れられ、長い間牢屋に閉じ込められていました」
「……」
「色濃く王族の血を引くことや…二人で生まれることは…死を望まれるほど罪深いことなのでしょうか…先生」
「アーサー…」
双子として生まれてしまったアーサーとモニカ。国王と王妃にかわいがられるはずはないとは思っていたが、まさか牢屋に閉じ込められていたとは思いもしなかった。先ほどアーサーの体を見たときに目にした、数えきれないほどの傷痕…もしかしたら王族の者に拷問されて残ったものなのかもしれない。ただ双子として生まれただけで…彼らは死よりも辛い人生を送ってきたのだろう。
「生まれ持ったものだけで命を狙うことは…自由を奪うことは…やめてください。お願いします…。どんな血をその身に流していようと…ウィルクはウィルクです…。彼は少し性格が悪くて性根が腐っているだけの、ただのウィルクです…。先生」
セルジュは思い出した。ミモレスが聖なる血を持っていたために一生を縛られていたことを。聖地に閉じ込められ、聖女の血を求めた王族に脅され結婚させられた。
《聖女としてじゃなく、ただのミモレスとして見てくれるのはあなただけよ。それがどれほど幸せなことか、あなたは分からないだろうけれど…》
セルジュはふぅ、とため息をつき、体の力を抜いた。
「…双子が不吉の前兆だと言われている理由は、継承争いが起こる可能性が高いからだ。…まあ、腐った王族がそれだけで君たちにひどい仕打ちをしたとは思えないが。忌み嫌われることにも一応尤もな理由はあるんだよ。
血に関しても、流れている血でだいたいの人間の性質は決まる。それは覆らない。私もただウィルク王子が憎いだけで殺そうとしたわけじゃないんだ。私なりに、国の腐敗を防ぎたかったんだよ。…だが、君がそう言うのならそれに従おう」
《確かに彼らはひどいことをしたわ。でも、あなたたちまで同じことをしてはいけない。じゃないとあなたもロイも、苦しみを重ねるだけだわ。そういうときはね、その人たちを変えるの》
その人たちを変えるー…ミモレスはそう言った。そして彼女の生まれ変わりであるアーサーも同じことを言った。セルジュには、それに歯向かう理由も気力ももう残っていなかった。
(アーサーを…モニカを信じよう。信じて託そう。もう…私は疲れてしまったよミモレス。憎しみに囚われることに)
「…ミモレスはレオ国王を正しく導いた。彼は歴史上最も王族の薄汚い血を色濃く持たされた子だった。だが彼は、ここ数百年の歴史で最も民に優しい国王だったと言われている。君とモニカがウィルク王子を導いてくれるのなら、私はそれを信じよう」
「じゃあ…!」
「ああ。もう王子の命は狙わないから、早く回復魔法を受けてくれ」
アーサーとモニカは目を輝かせて「わーーーい!!」と喜んだ。腹に穴が開いているのになぜこんなに元気なんだと、ウィルク王子がアーサーを訝しげに眺めている。セルジュは双子を見て困ったように口元を緩めた。
アーサーはモニカに回復魔法をかけてもらったが、貧血は治らなかったようだ。増血薬を飲もうとアイテムボックスに手を突っ込んだがストックがなくなっていたらしく、やれやれと疲れた様子で調合器具を取り出してしゃこしゃこ薬素材をすりつぶし始めた。
「ストックが切れちゃうくらい増血薬飲んでたなんて…」
「ウィルクとマーサに血を飲ませて、吸血鬼に血を飲まれて、おなかに穴を開けられて…。どうして死んでないのかしら。普通ならとっくに失血死しているわよ」
「ほんと、この体に生まれてきてよかったよぉ…」
薬を飲み終えある程度回復したところで、ソファに座っていたセルジュがアーサーとモニカを呼んだ。ミモレスの感情が残っているアーサーから愛情たっぷりの視線を感じる。モニカはまだ警戒しているようだが、セルジュに敵意がないことを分かっているのか大人しくアーサーの隣に座った。
「アーサー、傷はもう治ったかい?」
「はい!」
「君は薬師なのかい?ずいぶん上手に薬を調合していたね」
「はい!モニカも薬師ですよ」
「私は回復魔法をかけるだけしかできないけどね」
「モニカは薬師というより医者だな。容態を診るのが上手だし、回復魔法も申し分ない」
褒められて悪い気はしなかったのか、モニカは「えへへ」と頬を緩ませている。
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「モニカ、君にとっておきの魔法を教えよう。粉末状の薬を錠剤にする方法をね」
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「そうだよ。君ならできるはずだ。風魔法の応用で、粉末を圧縮させるんだ。…アーサー、君の作った増血薬を貸して」
「はい」
先生は丁寧にモニカに魔法を教えた。コツがいり、慣れるまで少し時がかかった。モニカが苦戦している間、セルジュはアーサーに彼らの事を聞いていた。
「アーサー。なぜ君たちはリングイール家などという存在しない貴族を名乗ってこの学院に転入してきたんだい?」
「…実は、僕たちは今冒険者をしているんです。オーヴェルニュ侯爵から依頼を受けて、この学院で起こっている誘拐事件の潜入捜査をするために転入しました」
「なるほど。そうだったのか」
もうセルジュが死ぬと分かっているからか、アーサーは自分たちの身の上話をしてくれた。彼らは生まれてすぐ牢屋に閉じ込められ、暗殺と拷問を受けながらなんとか6歳まで生き延びた。しぶとく生き続けている双子に業を煮やした国王は、彼らを魔獣が生息する深い森に捨てたという。それでも彼らは死ななかった。生まれ持った能力値を活かし、2人で魔獣を倒しながら4年間森で過ごしたそうだ。アーサーは牢獄でいるときより森での生活の方が楽しかったと言っていた。よほど辛い牢獄時代を送っていたのだろう。
10歳になり、アーサーとモニカは森を出て町を目指した。ポントワーブという町で、たくさんの人と出会い、今は薬師と冒険者をしながら幸せに暮らしているという。
そして約1か月前ーセルジュがタールたちを食事部屋に監禁し始めて1か月後ー、オーヴェルニュ侯爵が学院の内情を知り内密に彼らに潜入捜査を依頼したそうだ。教師に犯人がいる可能性を見越し、学長ですらアーサーとモニカの正体を知らされていなかった。
ロイが血を混ぜたグレープジュースを獲物に与え始めた王子の誕生日パーティーの日、数年前に吸血欲を発症したことがあったモニカは、ジュースを飲んだその日のうちに禁断症状を発症した。警戒していた双子は、それが誘拐犯の仕業だと気付き、その日から学院内の食べ物全てを口に入れていなかったそうだ。そのため彼らはこの日禁断症状を起こさなかった。
「まあ、6人も生徒が失踪したら行動を起こすのは当たり前だな。それにしても…まさか君たちが来てくれるとは」
彼らがいなければ、セルジュがここまで追い詰められることも、ロイが殺されることもなかっただろう。だが、彼らがここに来たからセルジュはミモレスに出会えた。そして…やっと生から解放される。
「先生…」
「なんだいアーサー」
「こんなこと言うの、おかしいって分かってるけど…。あなたに会えて、良かったです」
アーサーはそう言ってセルジュの手を握った。セルジュもその手を握り返し、そっと抱き寄せた。
「ありがとう」
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