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休日

15話 仲直り

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食パンをたべたあと、私は顔も洗わずに動画を見ながらソシャゲにいそしんだ。人(?)がいるのにこんなことをしてるなんて罪悪感がすごい。綾目はこんな私と5年間過ごしてきたから大丈夫だろうけど、薄雪はさすがに思うところがあるんじゃ…。

「私のことは気にしなくていいですよ」

「だから心を読まないでくださいよ…」

「アチラ側でも私はこうして、何もせずただじっと時が流れるのを眺めているだけでしたから。私にとってもいつもと変わらぬ過ごし方です」

「…退屈じゃなかったんですか?」

「退屈でしたよ。毎日変わらない場所でさして変わらない風景を眺める日々は」

「薄雪ってアレですか?地縛霊的な」

「地縛霊?」

「ひとつの場所から動きたくても動けない存在的な、アレ?」

「花雫!薄雪さまになんてこと言うんだ!薄雪さまは地縛霊なんかじゃない!!高貴なる大木古桜の…」

「綾目」

「薄雪さま!!さすがに黙ってはいられません!!花雫はいま薄雪さまを地縛霊なんかと…」

「あまり変わらないでしょう。花雫はアチラ側を知らないのだからそう怒らないように」

「ふぐぐ…」

「あ、薄雪…ごめんなさい。私もしかしてとても失礼なことを…」

「かまわないですよ。実際あなたの言う通り私はひとつの場所から動けなかったので」

「それもこれも風のあやかしが薄雪さまを…」

「こら綾目。彼のことを悪く言うんじゃないよ」

きっと綾目は薄雪のことがだいすきだから怒っているんだろう。なのに薄雪が私や風のあやかし?ばかり庇うから…綾目は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。それでも怒りはおさまらなかったのか、ふすまを開けてもぞもぞと布団と布団の間に入り込む。私は自分が失言してしまったことに落ち込み、バツが悪くて薄雪の顔を見られずにいた。

「花雫」

「……」

「本当に気にしないでください。綾目は怒っているけれど、私は特段気にはしていないんです」

「それでも…ごめんなさい」

「ふむ。どうやら私は花雫をひどく落ち込ませてしまったようだ。ヒトは難しい」

「いや、ちがう。わたしが薄雪を…」

「どうしたら元気になるかな。そうだ、もう一度トーストを…」

相変わらず人の話を聞かないあやかしだ。薄雪が私の言葉を無視してまたトーストを焼こうとしていたので思わず笑ってしまった。どうも彼にはペースを狂わされる。落ち込ませた人に逆に気を遣われちゃうなんてな。私はカチコチのパンをトースターに突っ込んでいた薄雪の腕に手を乗せ、食パンを冷凍庫に戻した。

「薄雪、私もうおなかいっぱいだから、食パンはいいです」

「そうですか。ではどうしたらいいですか?」

「じゃあもう一度謝らせてください。ごめんなさい、薄雪」

「…はい」

「これで仲直りしてください」

「仲たがいしたつもりはなかったんですがね」

私は襖に近づき、布団の間に潜り込んでいる綾目にも声をかけた。

「綾目、ごめんね。仲直りしよう?」

「……」

「もうあんなこと言わないから。ごめん」

「…僕も、ごめん。怒りすぎた」

「じゃあ、仲直りしてくれる?」

「……」

綾目はもぞもぞと布団の間から手だけを出した。私がその手を握ると、綾目も握り返してくれる。私はクスっと笑いその手を掴んで布団から綾目を引っ張り出した。顔を出した綾目は気まずそうにチラッと私の目を見る。私が口角を上げて見せると、彼もぎこちなく笑った。

あやかしであれど、意志疎通がとれるモノと一緒に過ごすのはやっぱり難しいし苦手かもしれない。気を遣うし、そんなつもりでなくても怒らせてしまうこともある。

「花雫!おなかすいたー!!ごはん食べてもいい?!」

「私も何かいただこうかな。確か昨晩の日本酒が残っていたはず…」

「え?!朝からお酒飲むんですか?!」

「朝って…もうお昼前だよ花雫…」

「そうですよ花雫」

「いえ昼前でも…。ま、いっか。あやかしだし」

怒らせたはずの同居人は先ほどのことを忘れたようにケロっとしている。これ以上気を遣わせないようにしてくれてるのかな…。私のこと、いやになってないかな…。

「いいえ花雫」

ひとりでグチグチ考えていると、薄雪がそっと私の手を握る。

「あやかしは本当の恨み以外はすぐに忘れるものです。それに、あやかしは少しすれ違っただけで離れたりしません。もっと深いところで繋がっているのです。花が結んだ、この縁で」
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