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ジッピン
月下(詳細版)
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※※本編のネタバレがあります※※
※※本編「ジッピン後編:別れ」を読み終えてから※※
※※詳細版をご覧くださいますようお願いいたします※※
※本編で語られていない裏話です※
《生い立ち》--------------------
ソレはある小さな鬼の集落に生まれた。
彼が生まれた集落は、知性が高い鬼ばかりが暮らしていた。
鬼の中でも醜い容姿をしており腐臭を漂わせていたソレは
集落の中で蔑まれ、意味もなく暴力を振るわれていた。
食事もろくに食べさせてもらえず(鬼の主食はヒトやあやかしの肉)、
ソレは自分で腐った野菜や雑草を採って食べ、なんとか生き繋いでいた。
彼の両親も息子の存在が恥ずかしく、
毎日心無い言葉を月下に浴びせかけていた。
なにをさせても不器用で頭が良くなかったソレに愛想を尽かした両親は
集落の仲間にいじめられ死にかけているソレを森の奥深くへ捨てた。
そこへ、まだ屋敷裏森へ閉じ込められていなかった薄雪がたまたま通りがかった。
捨てられている瀕死の鬼を見つけた薄雪は
(朝霧の猛反対を押し切り)彼を治癒し古桜の元へ連れて行く。
薄雪の治癒のおかげで一命をとりとめたソレ。
薄雪は彼に新鮮な果物を分け与えた。
はじめておいしい食事をしたソレは夢中になって食べた。
薄雪は微笑ましく眺め、朝霧は罵りながらもソレを可愛がっていた。
物の怪であるにもかかわらず、
イキモノを口にしたことがなかったソレの生命力は
非常に澄んでおり清らかだった。
そのおかげで古桜にも拒絶されず、ソレは数年にわたり薄雪(と朝霧)と共に暮らした。
喜代春もソレと面識があり、なんどか言葉を交わしたことがあった。
薄雪を傷つけるモノ絶対許さないマンの喜代春も、
ソレの清らかさを見て受け入れる。
--------------------------------------------
《月下という名》--------------------------
ヒトの真似事をしたがる薄雪は、ある日ソレに名を付けたいと言った。
ソレの名は、薄雪、喜代春、朝霧の3人(?)で決めた。
「私がこの子を見つけた日は、月が眩しい夜でした。月夜に照らされた彼はなによりも美しかった」
薄雪がそう言うと、喜代春が微笑んだ。
「だったらもう名は決まっているようなものじゃないか」
「ふふ。あなたもその名がいいと思うかい?」
「いいもなにも、それしかないよ」
《どうせ花の名から付けるんだろぉ?!もうちっとひねれもうちっとよぉ!》
「月下。月の下で輝いていた美しいモノ。これ以上ぴったりの名はないね」
「良い名だね。この子にぴったりだ」
《…まあ、悪くはねえんじゃねぇかぁ?》
--------------------------------------------
《薄雪と月下の別れ》----------------------
我が子のように、薄雪に大切に育てられた月下。
今までの分を取り返すかのように、
月下は食に執着するようになっていた。
薄雪に与えられる果物だけでは満足できなかった。
また、月下は薄雪の美しさに魅了されていた。
水面に映る自身の醜い姿に嫌気がさし、
自分も美しくなりたいと強く願うようになった。
ある日、月下は物の怪が話していた話を耳にした。
「物の怪は、食ったモノの力を吸える」
月下は思った。
色んなモノを食いたい。
そして美しく強くなりたい。…薄雪のように。
月下は薄雪の元を飛び出した。薄雪が言っていたことばを思い出しながら。
《好きなものはすべて食べなさい》
好きなモノ。
月下の一番好きなモノ。
それは薄雪。
"食"と"薄雪"への執着が入り混じった月下は
一人きりの夜を過ごしながら空に輝く月を見上げた。
「いろんなモノを食おう。食って強く美しくなるんだ。いつか、一番好きなモノを食えるように」
--------------------------------------------
《快楽殺者となった月下》-----------------
薄雪と数年を共に過ごしていた月下は
彼の妖気を与えられ出会う前と比べほどにならないほど
強力な術を使えるようになっていた。
彼がはじめに行きついたのは生まれ育った集落だった。
醜い容姿にみなすぐに月下だと気付いた。
以前と変わらず彼を囲っていたぶろうとする鬼たちを
月下はためらいなく半殺しにした。
生きたまま肉を食べ、
肉の美味さに舌鼓を打ちながら
まだ生きている鬼たちの悲鳴を聞いていた。
自分をさんざんいじめていた鬼たちが泣き叫ぶ姿は
見ていて気持ちがよかった。
命乞いをしている姿を見るのが楽しかった。
無垢なモノ、善いも悪いも知らない月下。
純白だった彼は鬼の血に染まり嗤いころげていた。
それからも月下は
肉を求め
美しさを求め
力を求め
愉しさを求め
美しいモノや力あるモノを食い漁った。
--------------------------------------------
《誰も美しいと言ってくれない》----------
物の怪、あやかし、ヒト…。
食いたいと思ったモノは全て食った。
おかげで月下の力は日に日に増し、
容姿もどんどんと美しくなっていた。
それなのに、誰も彼を美しいと言うモノはいなかった。
弱いモノは恐怖で言葉を失い、
美しいあやかしは決まってこう言った。
「こんなに穢れたモノを見たのははじめてだ」
「どうして。どうして。どうして僕のことを誰も美しいと言ってくれないの?こんなに美しくなったのに。僕はまだ醜いの?だったらもっと美しくならなきゃ…。…そうだ、薄雪を食えば…きっともっと美しくなれる。僕はもう前の僕じゃない。この美貌を持った今なら、薄雪を食っても許されるはずだ。会いに行かなきゃ…。食いに行かなきゃ…。うふふ。きっと薄雪も驚くだろうな」
--------------------------------------------
《死後》-----------------------------------
薄雪の血肉と、モニカの聖魔法により殺された月下。
聖魔法を受けた体は灰となった。
薄雪はその灰を清め、古桜の元で大切にしていたという。
薄雪がその灰に自身の血肉を混ぜ、新たな命を与えたらしいが
その話はまた、いつかどこかで。
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※※本編「ジッピン後編:別れ」を読み終えてから※※
※※詳細版をご覧くださいますようお願いいたします※※
※本編で語られていない裏話です※
《生い立ち》--------------------
ソレはある小さな鬼の集落に生まれた。
彼が生まれた集落は、知性が高い鬼ばかりが暮らしていた。
鬼の中でも醜い容姿をしており腐臭を漂わせていたソレは
集落の中で蔑まれ、意味もなく暴力を振るわれていた。
食事もろくに食べさせてもらえず(鬼の主食はヒトやあやかしの肉)、
ソレは自分で腐った野菜や雑草を採って食べ、なんとか生き繋いでいた。
彼の両親も息子の存在が恥ずかしく、
毎日心無い言葉を月下に浴びせかけていた。
なにをさせても不器用で頭が良くなかったソレに愛想を尽かした両親は
集落の仲間にいじめられ死にかけているソレを森の奥深くへ捨てた。
そこへ、まだ屋敷裏森へ閉じ込められていなかった薄雪がたまたま通りがかった。
捨てられている瀕死の鬼を見つけた薄雪は
(朝霧の猛反対を押し切り)彼を治癒し古桜の元へ連れて行く。
薄雪の治癒のおかげで一命をとりとめたソレ。
薄雪は彼に新鮮な果物を分け与えた。
はじめておいしい食事をしたソレは夢中になって食べた。
薄雪は微笑ましく眺め、朝霧は罵りながらもソレを可愛がっていた。
物の怪であるにもかかわらず、
イキモノを口にしたことがなかったソレの生命力は
非常に澄んでおり清らかだった。
そのおかげで古桜にも拒絶されず、ソレは数年にわたり薄雪(と朝霧)と共に暮らした。
喜代春もソレと面識があり、なんどか言葉を交わしたことがあった。
薄雪を傷つけるモノ絶対許さないマンの喜代春も、
ソレの清らかさを見て受け入れる。
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《月下という名》--------------------------
ヒトの真似事をしたがる薄雪は、ある日ソレに名を付けたいと言った。
ソレの名は、薄雪、喜代春、朝霧の3人(?)で決めた。
「私がこの子を見つけた日は、月が眩しい夜でした。月夜に照らされた彼はなによりも美しかった」
薄雪がそう言うと、喜代春が微笑んだ。
「だったらもう名は決まっているようなものじゃないか」
「ふふ。あなたもその名がいいと思うかい?」
「いいもなにも、それしかないよ」
《どうせ花の名から付けるんだろぉ?!もうちっとひねれもうちっとよぉ!》
「月下。月の下で輝いていた美しいモノ。これ以上ぴったりの名はないね」
「良い名だね。この子にぴったりだ」
《…まあ、悪くはねえんじゃねぇかぁ?》
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《薄雪と月下の別れ》----------------------
我が子のように、薄雪に大切に育てられた月下。
今までの分を取り返すかのように、
月下は食に執着するようになっていた。
薄雪に与えられる果物だけでは満足できなかった。
また、月下は薄雪の美しさに魅了されていた。
水面に映る自身の醜い姿に嫌気がさし、
自分も美しくなりたいと強く願うようになった。
ある日、月下は物の怪が話していた話を耳にした。
「物の怪は、食ったモノの力を吸える」
月下は思った。
色んなモノを食いたい。
そして美しく強くなりたい。…薄雪のように。
月下は薄雪の元を飛び出した。薄雪が言っていたことばを思い出しながら。
《好きなものはすべて食べなさい》
好きなモノ。
月下の一番好きなモノ。
それは薄雪。
"食"と"薄雪"への執着が入り混じった月下は
一人きりの夜を過ごしながら空に輝く月を見上げた。
「いろんなモノを食おう。食って強く美しくなるんだ。いつか、一番好きなモノを食えるように」
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《快楽殺者となった月下》-----------------
薄雪と数年を共に過ごしていた月下は
彼の妖気を与えられ出会う前と比べほどにならないほど
強力な術を使えるようになっていた。
彼がはじめに行きついたのは生まれ育った集落だった。
醜い容姿にみなすぐに月下だと気付いた。
以前と変わらず彼を囲っていたぶろうとする鬼たちを
月下はためらいなく半殺しにした。
生きたまま肉を食べ、
肉の美味さに舌鼓を打ちながら
まだ生きている鬼たちの悲鳴を聞いていた。
自分をさんざんいじめていた鬼たちが泣き叫ぶ姿は
見ていて気持ちがよかった。
命乞いをしている姿を見るのが楽しかった。
無垢なモノ、善いも悪いも知らない月下。
純白だった彼は鬼の血に染まり嗤いころげていた。
それからも月下は
肉を求め
美しさを求め
力を求め
愉しさを求め
美しいモノや力あるモノを食い漁った。
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《誰も美しいと言ってくれない》----------
物の怪、あやかし、ヒト…。
食いたいと思ったモノは全て食った。
おかげで月下の力は日に日に増し、
容姿もどんどんと美しくなっていた。
それなのに、誰も彼を美しいと言うモノはいなかった。
弱いモノは恐怖で言葉を失い、
美しいあやかしは決まってこう言った。
「こんなに穢れたモノを見たのははじめてだ」
「どうして。どうして。どうして僕のことを誰も美しいと言ってくれないの?こんなに美しくなったのに。僕はまだ醜いの?だったらもっと美しくならなきゃ…。…そうだ、薄雪を食えば…きっともっと美しくなれる。僕はもう前の僕じゃない。この美貌を持った今なら、薄雪を食っても許されるはずだ。会いに行かなきゃ…。食いに行かなきゃ…。うふふ。きっと薄雪も驚くだろうな」
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《死後》-----------------------------------
薄雪の血肉と、モニカの聖魔法により殺された月下。
聖魔法を受けた体は灰となった。
薄雪はその灰を清め、古桜の元で大切にしていたという。
薄雪がその灰に自身の血肉を混ぜ、新たな命を与えたらしいが
その話はまた、いつかどこかで。
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