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合宿編:三週目・ダンジョン掃討特訓
アーサーの唯一苦手なもの
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「アーサー、モニカ。ストップ」
ダンジョン掃討特訓2日目。朝食をすませたあと双子たちはさらに奥へ進んでいた。3区域分の敵を倒し終え、アーサーとモニカがエリクサーを飲みながら歩いていると、カトリナが二人の襟首を掴んだ。
「わっ」
「聞こえるかしら?バジリスクの呼吸音」
「え」
アーサーとモニカは耳をすませた。モニカの耳では魔虫が足元を這う音しか聞こえない。一方アーサーにはあらゆる音が聞こえているようで、首をかしげてカトリナを見た。
「どれがバジリスクの音か分からない…」
「ここから200mほど先からシュルルルって音が聞こえる?」
「うーん…あれかなあ…」
「あの呼吸音からしてバジリスクは起きているわねェ。気をひきしめていきましょう。ここからはおしゃべりはなしよ」
それから5人は無言で進んだ。バジリスクまで25mを切ったあたりでやっとモニカにもバジリスクの呼吸音が聞こえた。呼吸音とともにズリズリとゆっくり地面を這う音も聞こえる。音からして巨大な魔物だと分かった。すこし怖くなったモニカが兄の服の裾を掴むと、アーサーはモニカの手をぎゅーっと握った。その手がカタカタ震えていたので顔を見ると、冷や汗を垂らして顔を真っ青にしている。
「ア…アーサー?顔が真っ青だよ…?」
「…ヘビこわいです」
「あっ…」
アーサーが唯一苦手なものをモニカはすっかり忘れていた。今まで何度かヘビ型の魔物を退治したことはあったが、アーサーは「うひぃ」と情けない声を出しながらも戦えていた。だが今のアーサーは、見たことがないほど怯えていて泣きそうな顔をしている。異変に気付いたリアーナがアーサーに呼び掛けた。
「あん?アーサーどうしたぁ?」
「リアーナ…。アーサー、実は蛇が苦手で…」
「あぁ?!そうだったのかアーサー!」
「うん…」
「あらァ。でもあなた、バジリスクと戦うって言っても平気そうな顔をしてたじゃないの」
「いままで蛇の魔物でもなんとかやってこれたから…。こわいけど戦えないわけじゃないんだ…。でも、思ってたよりバジリスクが大きくて…。おしゃべりしてたからこわいのまぎれてたんだけど、おしゃべりやめたらどんどんこわくなってきて…」
「あー…まあ、鎌首をもたげたら天井につくくらいはでかいもんなぁ」
「ひぃぃ…」
「ぎゃはは!なんちゅう声出してんだよアーサー!」
「あっこらリアーナ声が大きいわっ」
「はっ…」
アーサーの怯え具合が面白くて、思わずリアーナが大声で笑ってしまった。カトリナが彼女の口を塞いだときにはもう遅く、ズリズリと地面を這う音がだんだんと近くなってくる。アーサーは必死で恐怖に耐えているようで、目がグルグルしながらも震える足で一人で立っていた。なお、爪がくいこむほどモニカの手首を握っている。バジリスクが近づくごとに握力が強くなり、モニカの手首がミシミシと軋む。
(あ、手首にひび入った)
モニカがそう考えていたとき、バジリスクがぬっと顔を出した。すかさずカトリナが矢を放ちリアーナが風魔法で吹き飛ばす。
「見つかっちゃったわァ。リアーナのせいで」
「すまんすまん!!」
「アーサー、どうする?こわくて戦えない?戦えないならそこでちょこんと座って私たちの様子を見ておきなさい」
「むぅぅ…」
カトリナが挑発的な目で震えている少年を一瞥する。リアーナ、モニカ、イェルドに「さ、いきましょ」と手招きをしてバジリスクがいる区域へ足を踏み入れようとしたとき、アーサーにうしろから服を引っ張られた。
「おっと」
「ぼ、僕も行く…」
「あらァ。そんな生まれたての小鹿のように震えた足で?無理しなくてもいいのよォ?」
「そうよアーサー、ヘビ型の魔物が出たときはこれからもわたしが守るから大丈夫よ、無理しないで」
モニカに「守る」と言われて、アーサーはカッと顔を赤くした。自分の太ももを何度か強く叩き、弓を握ってズカズカとバジリスクの住処へ入っていく。モニカが慌ててあとを追いかけアーサーの手を掴んだ。
「ちょっとアーサー!一人で行っちゃうなんて危ないよ!」
「大丈夫!やれる!」
「どうしたの急に!こわいんでしょ?!無理しないで!私たちで倒すから…」
「ボっ…」
「ボ?」
「僕がモニカを守るんだもん!!」
「へ?」
「あんな!ヌルヌルしててきもちわるくてっ!毒持ちのきもわるいやつ!」
「きもちわるいって2回言った…」
「自分は隠れてるだけでモニカにだけ戦わせるなんてっ!そんなの僕が許せない!ぼ、僕もたたかうしっ、僕がモニカを守るんだもん!!」
「声が裏返ってる…」
「ほらいくよモニカ!!ささっと終わらせてやる!あっ、ギリギリまで手は繋いでてください!戦闘中は僕のそばを離れないでください!!」
啖呵を切ったわりにモニカの腕にしがみついてガタガタ震えながらバジリスクへ近づくアーサー。モニカにはそんな兄がどうしようもなく可愛く映った。
(頼りになるおにいちゃんでいたいのね)
モニカはクスっと笑いアーサーの頭をわしゃわしゃ撫でたあと、杖を取り出しバジリスクへ向けた。
「分かった分かった!ほら、行くわよおにいちゃん!」
ダンジョン掃討特訓2日目。朝食をすませたあと双子たちはさらに奥へ進んでいた。3区域分の敵を倒し終え、アーサーとモニカがエリクサーを飲みながら歩いていると、カトリナが二人の襟首を掴んだ。
「わっ」
「聞こえるかしら?バジリスクの呼吸音」
「え」
アーサーとモニカは耳をすませた。モニカの耳では魔虫が足元を這う音しか聞こえない。一方アーサーにはあらゆる音が聞こえているようで、首をかしげてカトリナを見た。
「どれがバジリスクの音か分からない…」
「ここから200mほど先からシュルルルって音が聞こえる?」
「うーん…あれかなあ…」
「あの呼吸音からしてバジリスクは起きているわねェ。気をひきしめていきましょう。ここからはおしゃべりはなしよ」
それから5人は無言で進んだ。バジリスクまで25mを切ったあたりでやっとモニカにもバジリスクの呼吸音が聞こえた。呼吸音とともにズリズリとゆっくり地面を這う音も聞こえる。音からして巨大な魔物だと分かった。すこし怖くなったモニカが兄の服の裾を掴むと、アーサーはモニカの手をぎゅーっと握った。その手がカタカタ震えていたので顔を見ると、冷や汗を垂らして顔を真っ青にしている。
「ア…アーサー?顔が真っ青だよ…?」
「…ヘビこわいです」
「あっ…」
アーサーが唯一苦手なものをモニカはすっかり忘れていた。今まで何度かヘビ型の魔物を退治したことはあったが、アーサーは「うひぃ」と情けない声を出しながらも戦えていた。だが今のアーサーは、見たことがないほど怯えていて泣きそうな顔をしている。異変に気付いたリアーナがアーサーに呼び掛けた。
「あん?アーサーどうしたぁ?」
「リアーナ…。アーサー、実は蛇が苦手で…」
「あぁ?!そうだったのかアーサー!」
「うん…」
「あらァ。でもあなた、バジリスクと戦うって言っても平気そうな顔をしてたじゃないの」
「いままで蛇の魔物でもなんとかやってこれたから…。こわいけど戦えないわけじゃないんだ…。でも、思ってたよりバジリスクが大きくて…。おしゃべりしてたからこわいのまぎれてたんだけど、おしゃべりやめたらどんどんこわくなってきて…」
「あー…まあ、鎌首をもたげたら天井につくくらいはでかいもんなぁ」
「ひぃぃ…」
「ぎゃはは!なんちゅう声出してんだよアーサー!」
「あっこらリアーナ声が大きいわっ」
「はっ…」
アーサーの怯え具合が面白くて、思わずリアーナが大声で笑ってしまった。カトリナが彼女の口を塞いだときにはもう遅く、ズリズリと地面を這う音がだんだんと近くなってくる。アーサーは必死で恐怖に耐えているようで、目がグルグルしながらも震える足で一人で立っていた。なお、爪がくいこむほどモニカの手首を握っている。バジリスクが近づくごとに握力が強くなり、モニカの手首がミシミシと軋む。
(あ、手首にひび入った)
モニカがそう考えていたとき、バジリスクがぬっと顔を出した。すかさずカトリナが矢を放ちリアーナが風魔法で吹き飛ばす。
「見つかっちゃったわァ。リアーナのせいで」
「すまんすまん!!」
「アーサー、どうする?こわくて戦えない?戦えないならそこでちょこんと座って私たちの様子を見ておきなさい」
「むぅぅ…」
カトリナが挑発的な目で震えている少年を一瞥する。リアーナ、モニカ、イェルドに「さ、いきましょ」と手招きをしてバジリスクがいる区域へ足を踏み入れようとしたとき、アーサーにうしろから服を引っ張られた。
「おっと」
「ぼ、僕も行く…」
「あらァ。そんな生まれたての小鹿のように震えた足で?無理しなくてもいいのよォ?」
「そうよアーサー、ヘビ型の魔物が出たときはこれからもわたしが守るから大丈夫よ、無理しないで」
モニカに「守る」と言われて、アーサーはカッと顔を赤くした。自分の太ももを何度か強く叩き、弓を握ってズカズカとバジリスクの住処へ入っていく。モニカが慌ててあとを追いかけアーサーの手を掴んだ。
「ちょっとアーサー!一人で行っちゃうなんて危ないよ!」
「大丈夫!やれる!」
「どうしたの急に!こわいんでしょ?!無理しないで!私たちで倒すから…」
「ボっ…」
「ボ?」
「僕がモニカを守るんだもん!!」
「へ?」
「あんな!ヌルヌルしててきもちわるくてっ!毒持ちのきもわるいやつ!」
「きもちわるいって2回言った…」
「自分は隠れてるだけでモニカにだけ戦わせるなんてっ!そんなの僕が許せない!ぼ、僕もたたかうしっ、僕がモニカを守るんだもん!!」
「声が裏返ってる…」
「ほらいくよモニカ!!ささっと終わらせてやる!あっ、ギリギリまで手は繋いでてください!戦闘中は僕のそばを離れないでください!!」
啖呵を切ったわりにモニカの腕にしがみついてガタガタ震えながらバジリスクへ近づくアーサー。モニカにはそんな兄がどうしようもなく可愛く映った。
(頼りになるおにいちゃんでいたいのね)
モニカはクスっと笑いアーサーの頭をわしゃわしゃ撫でたあと、杖を取り出しバジリスクへ向けた。
「分かった分かった!ほら、行くわよおにいちゃん!」
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