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第2章:ナナライパーティ

第13話 魔法スクロール

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 ナナライたちが挑むのはGランクと一番簡単なダンジョンだ。出現する魔物は、ゴブリンやスライムなどの弱い魔物ばかりだそう。
 ナナライたちは、そこでレベル上げと魔物素材回収、そしてあわよくば宝箱を見つけてボロ儲けをしたいらしい。

「Gランクダンジョンにある宝箱なんて中身はたかが知れてる。だが、稀にレアなアイテムが入ってることもあるらしいんだ! うひょー! 楽しみだぜえ~!!」

 興奮が抑えきれず飛び跳ねるオウン。彼だけでなく他のメンバーも、宝箱を見つけるのが楽しみでしょうがない様子だ。

 ナナライは、朝陽に手のひらサイズの小さな魔法スクロールを三十巻渡した。

「魔力がないアサヒでも使える初級魔法スクロールだよ。この十巻は『開錠』。レア度が低い宝箱ならこれで開けられる。あとは攻撃系のスクロールが十巻と、バフ系デバフ系のスクロールが五巻ずつ」

 初級のスクロールは紐を解いて広げるだけで発動するので、呪文を唱える必要もないと、ナナライが補足した。
 魔法を使えるようになるなんてワクワクする。朝陽は、魔法スクロールを早く使ってみたいと思いながら、預かった魔法スクロールを鞄にしまった。

 チノマの町から小一時間歩いたところにダンジョンの入り口があった。入り口付近に立っていたダンジョン管理人が、ナナライの冒険者カードをチェックしてから抑揚のない声で説明をする。

「はい。五人ねー。入場料は一人大銀貨一枚。魔物の素材と宝箱の中身は自由に持ち帰っていいよ。命の保証はしてないので自己責任でお願いね。君たち、人数分の『テレポート』魔法スクロールは持っているかな?」
「はい、持っています!」

 ナナライが元気に返事をすると、管理人は指でオッケーサインを出した。

「緊急時はそれを使って直ちに退避するように。魔法スクロール、薬、食料はあっちの小屋で販売しているから、足りないなら買って行きなさい。宝箱の中身や魔物素材の買い取りもしているから、よかったら帰りに立ち寄ってくれると嬉しい」

 マルシャが朝陽にこっそり耳打ちする。

「ダンジョン前の店は割高だから、できたら町で揃えていくのがオススメ。魔物素材なんかは安値で買い叩かれるけど、荷物になるから安い素材とか宝とかはここで売る方が良いよ。でも、レアな素材は冒険者ギルドに、レアな宝は商人ギルドに売るべき」
「勉強になります。ありがとうございます」

 手続きを済ませ、朝陽とナナライパーティはダンジョンに入った。細い洞窟を五分ほど歩くと、ゴブリンがうようよといる広い空間に突き当たる。
 オウンとピヴルは、「きたきたきた~!」と大はしゃぎで武器を手に取りゴブリンの群れに突撃した。

「うっひょー! さすがダンジョン!! 数が尋常じゃねえ~!! 一匹残らず狩ってやんぜぇ!」
「オウン! どっちが多く狩れるか勝負だ!!」
「よし来た! 負けた方はエール一杯奢る、どうだ?」
「乗った! 俺が勝ぁーつ!!」

 オウンの剣さばきを見て、朝陽は勇者がいかに優れた剣士だったかがやっと分かった。両手で剣を握り、力いっぱい振り上げてやっと一体のゴブリンを倒せるオウンに対し、勇者は軽々とはらう剣で五体のゴブリンを倒していた。
 ナナライの魔法を見ても、やはりエルムやサルルには遠く及ばない。

(へえ! 勇者パーティってほんとにすごい人たちだったんだなあ。……それでも、僕はナナライのパーティと組みたいな)

 ぼうっと彼らの戦闘を見学していた朝陽に、ナナライが駆け寄る。

「アサヒ! さっき渡した魔法スクロール、使ってみない!?」
「えっ、いいんですか? 実は早くやってみたくてウズウズしてたんです」
「もちろん! ローラーは〝初級魔法スクローラー〟の略なんだよ。それがアサヒの仕事!」

 てっきり真っ先に吊られるジョブだから「ローラー」と名付けられていると思っていた朝陽にとって、目から鱗の正式名称だった。

 ナナライに急かされるまま、朝陽は『火』魔法スクロールを取り出した。

「こう、シュバッて紐を解いて、敵に向かってバァッてかっこつけて巻物を広げるの! 自分や仲間に向けて広げないよう気を付けてね!」

 やや説明が分かりづらかったが、朝陽は言われるがまま魔法スクロールを展開してみた。恥ずかしくなってしまい恰好はつけられなかったが、無事巻物から火の玉が出現し、ゴブリンに襲いかかった。

 着火したゴブリンが走り回っているところを見ながら、朝陽はガッツポーズをする。

「うわっ、すごい! 僕でも魔法が使えた!」
「うんうん! かっこつけなかったからちょっと威力が弱めだったけど無事使えたね! この調子でよろしくアサヒ!」

 ゴブリンを殲滅したナナライたちは、各々魔物の死体に向かって「解体」魔法スクロールを広げた。すると死体が部位ごとに解体され、綺麗にまとめられる。

「本当は手作業で解体した方がコスパは良いんだけど、解体技術が必要だし、なにより時間がかかるから、結局どっちもどっちなのよねぇ」

 ナナライパーティも勇者パーティも、ことあるごとに魔法スクロールを使っていた。冒険者にとって、魔法スクロールはなくてはならない道具のようだ。
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