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第5章:純血エルフの村
第43話 礼の品
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朝陽とソチネがフルーバの町を訪れて一週間後の朝、ソチネが荷物をまとめ始めた。
「そろそろ帰りましょうか」
「えー、もう帰るんですか? 僕、ここに住みたいんですけど」
「あら。そんなに気に入ったの?」
朝陽は大きく頷き、フルーバの魅力を語る。
「だって、こんなにのどかで綺麗な村、他にありませんよ! 食べ物も美味しいですし、村の人たちもとっても親切で! それになにより、妖精さんたちが可愛い!」
ソチネはムスッとした顔で朝陽を見上げる。
「この一週間、ほぼほぼ妖精と遊んでいたものね。私というものがありながら」
「実は妖精さんたちに習字を教えていたんですよー! といっても小筆で落書きをしていただけですが、それでも楽しそうに文字を書こうとしている妖精さんたちを見ているだけで、心が洗われてピカピカに――」
延々と妖精の惚気話を聞かされたソチネは、床に寝転び手足をバタつかせた。
「どうして私じゃなくて妖精と絆を深めてるのよぉぉぉっ! 私だってアサヒにシュージ教えてもらいたいぃぃぃっ! アサヒに後ろから筆の運びを指導してもらって、背中でアサヒの熱を感じたいぃぃっ!!」
「いやですよ。ソチネさんのうなじに近づくなんて、そんなこと絶対にしたくないですし」
「なんで!? 私のうなじってそんな邪悪なものなの!? それとも異臭を放ってるの!?」
「良い匂いだから余計タチが悪いんですよ!」
ソチネと朝陽が言い合いをしていると、ノックの音が聞こえた。
「なにを騒いでいるんだ? 外まで丸聞こえだったぞ」
不機嫌そうな声でそう言ったのは、リヴィルだ。彼は無遠慮に部屋の中に入り、一番ふかふかの椅子に腰かけた。
そんなリヴィルにソチネが別れを告げる。
「お昼にはこの村を出るわ」
「……そうか。寂しくなるな」
「また来るわ。それまで元気でね」
「お前もな」
ソチネもリヴィルも、別れが惜しいのかしんみりしている。二人だけの時間が必要だろうと気を利かせた朝陽が部屋を出ようとしたとき、リヴィルに声をかけられた。
「おい、アサヒ」
「は、はい」
「ん」
目を逸らし、ふてくされた顔で艶やかな生地の袋を差し出すリヴィル。
朝陽は首を傾げたまま袋を開けた。
「えっ」
中には、ミスリルで作られた筆が一本入っている。
「リヴィルさん、これは……」
「お前のために作った。受け取れ」
「これまたどういう風の吹きまわしで……?」
ニマニマしているソチネを睨みつけ、リヴィルは唸るように言った。
「……お前は、私たちの聖木を救ってくれた」
「えっ、どうしてそのことを!?」
朝陽の問いには答えず、リヴィルは言葉を続ける。
「お前はそれを私に報告もせず、恩も売ることもせず、あまつさえ妖精に礼と言って贈り物をしていた」
「なんでそこまで知ってるんですかぁ……? なんか恥ずかしい……」
赤らめた顔を手で覆う朝陽を指さし、リヴィルはソチネになぜ恥ずかしがっているのか尋ねたが、答えてもらえなかった。
「アサヒ。なぜ私に聖木のことを報告しなかった?」
「別に報告することでもないと思いまして……」
「あれが聖木だということを知らなかったのか?」
「知っていました」
リヴィルが首を傾げたので、つられて朝陽も首を傾げた。
リヴィルの質問攻めはまだ続く。
「なぜ私に報酬を求めなかった?」
「別に報酬を求めることでもないと思いまして……」
朝陽の曖昧な返答に、リヴィルがだんだんと苛立ってきた。
「……なぜ願いを叶えてやった妖精に、礼の品など贈ったんだ」
「妖精さんたちは、僕の身代わりになってくれたからです」
「妖精たちの願いを叶えるための代償なのに?」
朝陽はにっこり笑い、頷いた。
「どちらにせよ、妖精さんたちは、あの木を助けるために自分の大切なものを差し出したんです。それってすごいことじゃないですか? たとえあの木が穢れると、妖精さんたちが住めなくなるからという理由であっても、僕はそんな彼女たちに敬意を払いたいです」
「……」
「それに、僕の身代わりになってくれたことに変わりはありませんから、やっぱりお礼はしないと」
リヴィルはソチネを窺い見たが、自分のことのように自慢げに胸を張っている彼女にイラッとしてすぐに顔を背けた。
「そろそろ帰りましょうか」
「えー、もう帰るんですか? 僕、ここに住みたいんですけど」
「あら。そんなに気に入ったの?」
朝陽は大きく頷き、フルーバの魅力を語る。
「だって、こんなにのどかで綺麗な村、他にありませんよ! 食べ物も美味しいですし、村の人たちもとっても親切で! それになにより、妖精さんたちが可愛い!」
ソチネはムスッとした顔で朝陽を見上げる。
「この一週間、ほぼほぼ妖精と遊んでいたものね。私というものがありながら」
「実は妖精さんたちに習字を教えていたんですよー! といっても小筆で落書きをしていただけですが、それでも楽しそうに文字を書こうとしている妖精さんたちを見ているだけで、心が洗われてピカピカに――」
延々と妖精の惚気話を聞かされたソチネは、床に寝転び手足をバタつかせた。
「どうして私じゃなくて妖精と絆を深めてるのよぉぉぉっ! 私だってアサヒにシュージ教えてもらいたいぃぃぃっ! アサヒに後ろから筆の運びを指導してもらって、背中でアサヒの熱を感じたいぃぃっ!!」
「いやですよ。ソチネさんのうなじに近づくなんて、そんなこと絶対にしたくないですし」
「なんで!? 私のうなじってそんな邪悪なものなの!? それとも異臭を放ってるの!?」
「良い匂いだから余計タチが悪いんですよ!」
ソチネと朝陽が言い合いをしていると、ノックの音が聞こえた。
「なにを騒いでいるんだ? 外まで丸聞こえだったぞ」
不機嫌そうな声でそう言ったのは、リヴィルだ。彼は無遠慮に部屋の中に入り、一番ふかふかの椅子に腰かけた。
そんなリヴィルにソチネが別れを告げる。
「お昼にはこの村を出るわ」
「……そうか。寂しくなるな」
「また来るわ。それまで元気でね」
「お前もな」
ソチネもリヴィルも、別れが惜しいのかしんみりしている。二人だけの時間が必要だろうと気を利かせた朝陽が部屋を出ようとしたとき、リヴィルに声をかけられた。
「おい、アサヒ」
「は、はい」
「ん」
目を逸らし、ふてくされた顔で艶やかな生地の袋を差し出すリヴィル。
朝陽は首を傾げたまま袋を開けた。
「えっ」
中には、ミスリルで作られた筆が一本入っている。
「リヴィルさん、これは……」
「お前のために作った。受け取れ」
「これまたどういう風の吹きまわしで……?」
ニマニマしているソチネを睨みつけ、リヴィルは唸るように言った。
「……お前は、私たちの聖木を救ってくれた」
「えっ、どうしてそのことを!?」
朝陽の問いには答えず、リヴィルは言葉を続ける。
「お前はそれを私に報告もせず、恩も売ることもせず、あまつさえ妖精に礼と言って贈り物をしていた」
「なんでそこまで知ってるんですかぁ……? なんか恥ずかしい……」
赤らめた顔を手で覆う朝陽を指さし、リヴィルはソチネになぜ恥ずかしがっているのか尋ねたが、答えてもらえなかった。
「アサヒ。なぜ私に聖木のことを報告しなかった?」
「別に報告することでもないと思いまして……」
「あれが聖木だということを知らなかったのか?」
「知っていました」
リヴィルが首を傾げたので、つられて朝陽も首を傾げた。
リヴィルの質問攻めはまだ続く。
「なぜ私に報酬を求めなかった?」
「別に報酬を求めることでもないと思いまして……」
朝陽の曖昧な返答に、リヴィルがだんだんと苛立ってきた。
「……なぜ願いを叶えてやった妖精に、礼の品など贈ったんだ」
「妖精さんたちは、僕の身代わりになってくれたからです」
「妖精たちの願いを叶えるための代償なのに?」
朝陽はにっこり笑い、頷いた。
「どちらにせよ、妖精さんたちは、あの木を助けるために自分の大切なものを差し出したんです。それってすごいことじゃないですか? たとえあの木が穢れると、妖精さんたちが住めなくなるからという理由であっても、僕はそんな彼女たちに敬意を払いたいです」
「……」
「それに、僕の身代わりになってくれたことに変わりはありませんから、やっぱりお礼はしないと」
リヴィルはソチネを窺い見たが、自分のことのように自慢げに胸を張っている彼女にイラッとしてすぐに顔を背けた。
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