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第5章:純血エルフの村
第46話 フルーバに入りたい勇者パーティ
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デュベの墓の前でしんみりとしているアサヒに、ソチネが声をかける。
「……そろそろ帰ろっか、アサヒ」
「そうですね。リヴィルさん、本当にお世話になりました」
「それはこちらのセリフだ。……本当にもう帰るのか? もうしばらくいてもいいんじゃないか?」
急に寂しくなってきたのか、リヴィルが泣きそうな声で二人を引き留めた。ソチネが何度帰ると言っても、リヴィルは彼女に縋り付いて離れない。
埒が明かないと悟ったソチネは、魔法でリヴィルを吹き飛ばし、朝陽の手を引いて走り出した。
二人を追いかけるリヴィルは大声で叫ぶ。
「アサヒーーー! ソロモンを幸せにしなければ、お前に贈った筆を叩き割るからなーーー!! あと、気を付けるんだぞ! ソロモンはこっそり惚れた男の――」
耳を塞がれた朝陽には、それ以上リヴィルが何を言ったか聞き取ることができなかった。
フルーバの村を出た朝陽とソチネは、村の入り口で右往左往している勇者パーティと鉢合った。
「げっ」
勇者たちは朝陽に気付かないまま、地図を広げてなにやら話し合っている。
「おかしい。このあたりに純血エルフの村があると聞いたのに」
「情報は確かなはずよ。村を結界で隠しているんじゃないかしら」
「全く。面倒なことをしてくれる。エルム、結界を破ってくれ」
勇者に命じられたエルムは、魔法を放ったり、魔法スクロールを使ってみたりしたが、フルーバの村は姿を見せないようだった。
朝陽とソチネは、初級「透過」スクロールで姿を消し、忍び足で勇者の前を通りすぎた。
その時、朝陽たちを追いかけて村を出たリヴィルが、大声で叫びながら勇者の前に姿を現した。
勇者パーティは顔を上げ、耳の尖った美しいエルフを見て顔をほころばせる。
「あなたは……! もしや、純血のエルフではないですか!?」
「む。なんだお前たちは。確かに私は純血のエルフだが、それがどうした?」
勇者は、リヴィルの不遜な態度にピクリと眉を動かし、鎧に付けている勇者のバッジを見せつけた。
「俺は勇者だ!」
「ほう。それで? 私は急いでいるんだが」
勇者はこめかみに青筋を立て、命令口調で言った。
「フルーバの純血エルフよ! 俺にはミスリルの武器が必要だ! 俺に合う剣を作ってくれ!」
リヴィルは顎をさすりながら、勇者の顔をじっと見る。そしてハンッと鼻で笑い、勇者に背を向けた。
「断る」
「なっ……! 貴様、さっきからなんだその態度は! 俺は勇者だぞ! 勇者の俺が、わざわざこんな辺鄙な場所まで足を運び、お前たちの武器を使って魔王を倒してやろうと申し出ているんだぞ!」
「悪いが、私は私が作りたいと思った者にしか武器を作らん。そもそも、フルーバの村を見つけることもできない若造に、ミスリルの武器を使いこなせるはずがない。諦めて己の実力に合う武器を探すんだな」
「……殺されたいのか貴様ぁっ。俺はっ! 近い未来に大魔王を倒す役目を持った者だぞ!!」
「エルフ族は魔族にもヒト族にもつかない、中立の立場であることも知らないのか。魔族とヒト族の争いにエルフ族を巻き込むな」
「なんだとぉ……っ! 貴様らエルフ族は、邪悪な魔族の肩を持つのか!」
リヴィルの眉がぴくりと上がる。
「……それでは、お前たちヒト族は邪悪な種族ではないと?」
「当然だ! そんなことも分からないのか!」
「ほう。お前は学も浅いのだな。なぜ純血エルフが村を隠すようになったかも知らないらしい」
リヴィルはそれだけ言って、村に戻って行った。
見えなくなったリヴィルに、未だ勇者パーティは罵声を浴びせている。
彼らの会話を聞いていた朝陽がソチネに耳打ちした。
「ソチネさん。どうして純血エルフが村を隠すようになったんですか?」
「……エルフの髪、血、瞳、子ども……全て高値で売れるのよ。だから、昔ヒト族はよくエルフ狩りをしたの。つまり、お金儲けのために虐殺や人攫いをした。それも頻繁に」
朝陽は言葉を失った。
「それは……村を隠すのも当然です」
「ええ。だからエルフ族は、魔族とヒト族、どちらも同じくらい嫌っているの。高圧的で高慢なヒト族は特に嫌い」
朝陽は、未だに騒いでいる勇者を一瞥し、ため息を吐く。
「じゃあ勇者は一生エルフの村に入れませんね」
「そうよ。エルフの村に入ることを許されるのは、アサヒのようなヒトだけ」
「僕みたいな人? ああ、魔術師ソロモンに気に入られた人だけってことですね」
「うーん、違うんだけど、まあそれでいっか」
一週間ぶりにチノマの町に帰ると、朝陽はどこかホッとした。
それからしばらく、朝陽は、ローラーとしてナナライパーティとダンジョンに潜ったり、図書館でひたすら本を読んだり、ドロリスの城で子守をしたりした。夜はソチネに魔術を教えてもらい、自作の魔法陣や魔法スクロールをチェックしてもらう。
時に刺激がある平和な日々。そんな日常が激変したのは、朝陽がこの世界に来て三年後のことだった。
「……そろそろ帰ろっか、アサヒ」
「そうですね。リヴィルさん、本当にお世話になりました」
「それはこちらのセリフだ。……本当にもう帰るのか? もうしばらくいてもいいんじゃないか?」
急に寂しくなってきたのか、リヴィルが泣きそうな声で二人を引き留めた。ソチネが何度帰ると言っても、リヴィルは彼女に縋り付いて離れない。
埒が明かないと悟ったソチネは、魔法でリヴィルを吹き飛ばし、朝陽の手を引いて走り出した。
二人を追いかけるリヴィルは大声で叫ぶ。
「アサヒーーー! ソロモンを幸せにしなければ、お前に贈った筆を叩き割るからなーーー!! あと、気を付けるんだぞ! ソロモンはこっそり惚れた男の――」
耳を塞がれた朝陽には、それ以上リヴィルが何を言ったか聞き取ることができなかった。
フルーバの村を出た朝陽とソチネは、村の入り口で右往左往している勇者パーティと鉢合った。
「げっ」
勇者たちは朝陽に気付かないまま、地図を広げてなにやら話し合っている。
「おかしい。このあたりに純血エルフの村があると聞いたのに」
「情報は確かなはずよ。村を結界で隠しているんじゃないかしら」
「全く。面倒なことをしてくれる。エルム、結界を破ってくれ」
勇者に命じられたエルムは、魔法を放ったり、魔法スクロールを使ってみたりしたが、フルーバの村は姿を見せないようだった。
朝陽とソチネは、初級「透過」スクロールで姿を消し、忍び足で勇者の前を通りすぎた。
その時、朝陽たちを追いかけて村を出たリヴィルが、大声で叫びながら勇者の前に姿を現した。
勇者パーティは顔を上げ、耳の尖った美しいエルフを見て顔をほころばせる。
「あなたは……! もしや、純血のエルフではないですか!?」
「む。なんだお前たちは。確かに私は純血のエルフだが、それがどうした?」
勇者は、リヴィルの不遜な態度にピクリと眉を動かし、鎧に付けている勇者のバッジを見せつけた。
「俺は勇者だ!」
「ほう。それで? 私は急いでいるんだが」
勇者はこめかみに青筋を立て、命令口調で言った。
「フルーバの純血エルフよ! 俺にはミスリルの武器が必要だ! 俺に合う剣を作ってくれ!」
リヴィルは顎をさすりながら、勇者の顔をじっと見る。そしてハンッと鼻で笑い、勇者に背を向けた。
「断る」
「なっ……! 貴様、さっきからなんだその態度は! 俺は勇者だぞ! 勇者の俺が、わざわざこんな辺鄙な場所まで足を運び、お前たちの武器を使って魔王を倒してやろうと申し出ているんだぞ!」
「悪いが、私は私が作りたいと思った者にしか武器を作らん。そもそも、フルーバの村を見つけることもできない若造に、ミスリルの武器を使いこなせるはずがない。諦めて己の実力に合う武器を探すんだな」
「……殺されたいのか貴様ぁっ。俺はっ! 近い未来に大魔王を倒す役目を持った者だぞ!!」
「エルフ族は魔族にもヒト族にもつかない、中立の立場であることも知らないのか。魔族とヒト族の争いにエルフ族を巻き込むな」
「なんだとぉ……っ! 貴様らエルフ族は、邪悪な魔族の肩を持つのか!」
リヴィルの眉がぴくりと上がる。
「……それでは、お前たちヒト族は邪悪な種族ではないと?」
「当然だ! そんなことも分からないのか!」
「ほう。お前は学も浅いのだな。なぜ純血エルフが村を隠すようになったかも知らないらしい」
リヴィルはそれだけ言って、村に戻って行った。
見えなくなったリヴィルに、未だ勇者パーティは罵声を浴びせている。
彼らの会話を聞いていた朝陽がソチネに耳打ちした。
「ソチネさん。どうして純血エルフが村を隠すようになったんですか?」
「……エルフの髪、血、瞳、子ども……全て高値で売れるのよ。だから、昔ヒト族はよくエルフ狩りをしたの。つまり、お金儲けのために虐殺や人攫いをした。それも頻繁に」
朝陽は言葉を失った。
「それは……村を隠すのも当然です」
「ええ。だからエルフ族は、魔族とヒト族、どちらも同じくらい嫌っているの。高圧的で高慢なヒト族は特に嫌い」
朝陽は、未だに騒いでいる勇者を一瞥し、ため息を吐く。
「じゃあ勇者は一生エルフの村に入れませんね」
「そうよ。エルフの村に入ることを許されるのは、アサヒのようなヒトだけ」
「僕みたいな人? ああ、魔術師ソロモンに気に入られた人だけってことですね」
「うーん、違うんだけど、まあそれでいっか」
一週間ぶりにチノマの町に帰ると、朝陽はどこかホッとした。
それからしばらく、朝陽は、ローラーとしてナナライパーティとダンジョンに潜ったり、図書館でひたすら本を読んだり、ドロリスの城で子守をしたりした。夜はソチネに魔術を教えてもらい、自作の魔法陣や魔法スクロールをチェックしてもらう。
時に刺激がある平和な日々。そんな日常が激変したのは、朝陽がこの世界に来て三年後のことだった。
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