サクラ

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序章 少女

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「子供が見えたか」

その体験が終わってから数分後、花も少し落ち着きを取り戻しつつあった時桜がそう聞いた。
雅也と凜も部屋に呼び戻し、何が起きたか軽く説明も終わっていた。

「はい、女の子の霊でした。凄く笑顔で...すぐ見えなくなっちゃいましたけど」

そう、笑っていた。それが今の一瞬だけだったのか、自分を見つめている時ずっとなのかは分からない。どちらにせよ不気味過ぎる。

「急に追い出された理由を知りたいんだけど」

凛が口を挟む。雅也はともかく、凜はさっきよりもさらに険しい顔つきで、すごく不機嫌そうだった。
私だって見たかったのにと続ける凜に対し、桜はわかったわかったとぼちぼち説明を始める。

「あれは多分、人の意識を読んでる。見よう見ようとする意識を察知して意識の裏側に回り込む。ここにいるんじゃないかと疑うことさえ分かる力が奴にはあるんだ」
「そんなもの、どうやって見るんですか」
「見ようとしなければいい」

意味が分からなかった。後ろに立つ二人も困惑しているのが伝わってくる。

「つまりだ、そいつに対する意識を薄れさせればいい。人の意識は別に一つのものだけにしか向けられないわけじゃない。見ようとする意識、それを絶えさせることなく優先度を下げればいい。それがさっきの単語と映画。
二つのものを同時に頭の中で想像すると、よほど器用な人間じゃない限りそっちにしか意識が向かなくなる。実際そうだったろ」

確かに、さっきはその二つに夢中でおばけのことなど考える余裕はなかった。
桜の圧がすごいのもあった気がするが。
へぇ、と雅也が簡単を漏らす

「じゃあ、最後の質問はいったい...」
日本史の単語を思い出せという指示は分かる。好きな映画、好きなシーン、その質問も分かる。だが最後の『お前の後ろには何がいる』という質問の意図が花にはわからなかった。
その質問で逆におばけのことに意識が向いてしまった気がしていたのだが。

「本当は最初の二つだけで出てくると予想してたんだが、もう一歩届かなかった。人の意識ってのは当人の周りに広がる無作為に動く膜みたいなものだ。だから、強引にでも意識の範囲を狭めるのではなく限定した。お前の後ろにな。
実際、俺の質問で後ろに何かいるのだと確信したお前はそっちに意識を向けた。見ようとする意識が後ろにだけ向けば、どうなると思う。当然、逆の方向つまり目の前に現れる。こういうわけだ」

と言いながら、桜は花との間に置かれたローテーブルの上を指さした。
現れた少女の残滓とゆうか、残り香がまだあるような気がして気持ち悪い。

「じゃああんたはなんで見えてんのよ」

後ろで黙って説明を聞いていた凜が、突然口を開いた。
はっとなって凜の方を見る。先ほどからどこか引っかかっていたものが、綺麗に取れた気がした。
確かに今までの話は、全て花が一人であることが前提に成り立つものだ。たとえ花がどれだけ意識を逸らし霊をおびき出したとしても、そこに別の人物がいては意味がない。
だから雅也と凜を部屋から追い出したのだろうし、二人もそれを説明を聞いて理解しただろう。
じゃあ、桜は?
花に指示を出したり質問をしながら、自身の意識もコントロールしていたのだろうか。それはない。現に桜本人が人はそんな器用なことはできないとさっき説明していたではないか。
視線が桜に集まる。
桜はめんどくさそうに一言

「そういう体質だ」

と言った。あまりにも簡潔な答えに唖然とする。

「例に気取られない体質ということですか?」
「そうだ」
「納得できるわけないじゃない」

つっかかる凜を雅也がまぁまぁとなだめる。

「別に隠すようなことでもないが、話すと長くなる。それに俺の体質がどうこうの話をしたって、今回の現象が解決するわけじゃない。そうだろ」
「それはそうだけど...」

凜が悔しそうに引き下がる。畳みかけるように桜が立ち上がり、「とりあえず場所の調査からだな」と伸びをしながら言った。

「雅也と灰原は、図書館で一条の通学路付近で起きた事件を探してくれ。特に女児が犠牲になってるものを重点的に。一条は俺としばらく行動だ。それが一番安全だしな。三日後の放課後に集合、場所は部室でいいか」

それぞれが頷く。さっきまでのテンションからは、想像できない程の軽い足取りで玄関に向かう桜は振り返って、

「さぁ、おばけ退治だ」

と、満面の笑みを浮かべてそう言った。
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