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19、台風娘と適材適所
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……何だろう。この違和感ないのに残念な感じ。
ベッドのくまさんを眺めながら、勧められた椅子に座る。
すぐあとに茉莉花茶と中国にありそうなお菓子が運ばれてきた。
「美味しいねー。フェルナンドくんとこは、高そうなカップで紅茶でてきたから、最初は落ち着けなかったよ。ま、アイスティは普通のグラスで良かった」
「仕方ないわよ。フェルナンドってば、お坊ちゃん育ちでふわふわしてるのに抜け目ないし」
「そーなんだよ。でも、フェルナンドくんもフェルナンドくんでお父さんに悩んでたからなぁ」
「あの石頭はねぇ。何だかんだで規律に従い過ぎてるのよ、お国柄ってやつね。それを一蹴してきたんでしょ?」
「トドメはフェリーシアさんが刺したけどね」
「あのおばさま、あまり出てこないからレアではあるけどね」
「…"ラミア"はRPGでも、現代ゲームじゃグロテスクだからねー。あ、ボクの世界の機械遊戯に"知水魔人"にソックリなのが"ラミア"で魔物なんだよ。昔はフェリーシアさんみたいに美女ばかりだったのに、切ない」
「何々?楽しい遊び?おばさまみたいな登場人物がいるお話なの?」
「そんな感じ。物があればいいんだけど、手ぶらで井戸探ししてたから、何も見せられなくて残念だよ」
……端から聞いたら、女の子二人が話してるようにしか聞こえないだろうな。
「いつかカリンの世界に行けたら見せて頂戴!」
「おう!一緒に遊ぼう!」
……バタバタバタバタ!
ん?何かすごい足音が近づいて来てるような。
\バーーーーーーーン!/
勢い良く扉が開かれた。
日本人好みのミニ和チャイナっぽいのを着た美少女がプルプルしてる。
「あ、あんた!何者ですの?!"私のシェン様"と何優雅にお茶してますの?!」
何かいきなり詰め寄られた。
…………これは、また修羅場か!
望んでない修羅場がまた発生したのか!
「……誰が誰の、だって?"シュンカ"」
「シェン様!私はあなた様の"婚約者"なのですわ!こんなどこの馬の骨かもわからない娘など、取るに足りません!」
"馬の骨"……リアルじゃ、昼ドラ位しか聞くことない単語だなぁ。
「……そんなもの、父上から譲り受けたときに破棄したじゃないか。もう君自身とは関係ない」
……やけに冷たくない?
シュンカちゃん、泣きそうなんだけど。
って、睨んで?!
ボク、完全にトバッチリじゃね?
「……あんたも何か言ったらどうなんですの?そもそも、あんたはだれなんですの?」
「ん?ボクは華凛だよ。シュンカちゃん」
「下賎の娘に呼ばれるほど、私は身分は低くなくてよ!」
「シュン……!」
「まぁまぁ。シェンくんも怒らない怒らない。二人とも血糖値を若い内に上げたら、長生き出来ないよ?」
……言われてるのはボクなんだからさ?
「カリンがバカにされてるのに、何で……何で冷静なんだよ?」
「……シェンくん、ボクの得意分野を知っているじゃないか」
黙ってくれたけど、まだ何か言いたそう。
でも、早急に場は納めないとね。
「な、得意分野って何の話を……」
警戒してくれてるね。結構結構。
「シュンカちゃん、言葉は選ぼうよ。考えて話す方が相手も聞いてくれるんだからさ。ボクは何故、婚約解消に至ったかはしらないけどさ。君はすごく可愛いと思うよ?でも、人には好みや諸々の何かがある。押しつけるタイプは統計的に好まれない。本気で好きなら、身分なんてぶら下げずに君自身の良いとこを見てもらわなきゃじゃない?……可愛いだけじゃ、周りに埋もれちゃうからね?」
「わ、私は第一貴族の令嬢でしてよ?!全て完璧な私に口答えするなんて、何て無礼な!」
「……だからさぁ、それって親御さんの肩書きであって、君の肩書きじゃない。シェンくんも譲り受けたときに、自分の物になったんだ。身分だけで何でも手に入ったら、つまらないと思わない?欲しがってるものが安易に手に入ったときほど空しいものはないよ。ボクは人間より、"井戸"をこよなく愛してる。
引き合いに"井戸"を提示されるほど、腹の立つことはない」
「は?"井戸"?そこら中にあるものに何の魅力があるんですの?バカにするのも大概になさいな!シェン様と井戸が同等とでも?!失礼にもほどがありますわ!ねぇ?!シェン様?!」
だから、一々同意を求めるなって。
「……俺に聞いてどうするの?俺はカリンの言わんとしてること、わかるけど?」
ま、そうなるよね。
引き合いに出すのが、ボクの"井戸愛"じゃ混乱は避けられないとは思ってたけどさ。
「……君は自分が可愛いだけで、自信がないんだよ。ブリッコしてないで、素でいたら?猫被る方が愉しくないし。長所を短所にしてるのは、君自身だよ。わかるかな?」
「美貌は何よりの長所ではなくて?!麗しきシェン様には、私のような美貌が似合うんですの!」
「話は聞こうよ。外見だけで人は幸せになんてなれないんだからさ。中身の問題だってことだよ。欲しいものぶら下げられて、すぐ飛び付くのは自分の格を下げるのと同じなんだって。欲しいものは苦労して手に入れることが大事なんだよ。ま、ボクの"井戸愛"は理解されない。それは仕方ないことだよ。けど個性があるからこそ、"ボク"って存在は印象に残る。周りと同じ中での一番なんて、類似品の筆頭なだけで目立たないよ?」
あーあ、黙っちゃった。
可愛い子にこそ、笑っていてほしいんだけどな。
ボクはシュンカちゃんに近づいた。
案の定、ビクってされた。
「……シュンカちゃん、ボクは君を責めたいんじゃないんだよ?ボクは可愛い子にこそ、笑っていてほしいんだけどな。泣いてるなら笑顔にしてあげたい。本気でぶつかってきなよ。受け止めてあげるからさ」
泣きそうな目でボクを見ながら黙ってる。
これ以上は何もないんだけどな。
「……カリン……様」
………様?!
「え?!ちょ、シュンカ?!」
シェンくんも何か慌ててる?
「……私を本気で思って怒って下さいましたのね?"嫌いな人に怒る人はいない"。即ち、"好き"なのですわね?」
「あ、いや。嫌いじゃないけど」
初対面だし。
うわ、何か抱きつかれた!
「……私、シェン様の近くにこんな可愛らしい方がいて、嫉妬してしまいましたの」
可愛らしい……??さっきまでと態度ちがくね?
「ふふ、"身分"も"愛"にも境はありませんものね!カリン様……私、あなたが好きになりそう……」
やめてくれ、その目は何か嫌。
「……やめてくれない?シュンカ。カリンはあたしのなの!」
あ、戻ってる。てか、また言いやがったぞ。
「え?……あたし?」
知らなかったのか、可哀想に。
「あたし、女女してる女好きじゃないから。カリンみたいに可愛いのにカッコいい女が好きなの。あんた、女のクセに生意気なのよ」
「張り合ってんじゃねーよ!」
「な!目が覚めましたわ!こんな男女、こちらから願い下げでしてよ!ああ、カリン様が男性だったらよかったのに!」
前と後ろからキリキリ締め上げないでくれ!
苦しいわ!おまえら!
「………………さっさと離れやがれ!!似た者同士が!!苦しいわ!!」
「……カリン殿?叫び声が聞こえたと思ったら」
「うおおおおお!ハクロさん!助けて!」
不思議な光景に目をパチクリしているハクロさん。
ボクにも疑問だから!
「……皇太子も、シュンカ様も、カリン殿を殺すおつもりですか?」
言われて気がついたらしく、パッと離れる。
ボクの死角で、火花バチバチしてたよ。
「何?ハクロ。報告して」
涼しい顔してんな、をい!
「報告?」
「シュンカ様のいる場所でよろしいのですか?」
「いいよ。どうせ、国民だから」
「……シェンくん、君も言葉選べよ。女の子になんて言い方してんの。勘違いさせない程度に優しくするのが、紳士じゃないの?」
え?何?何で見つめられてるの。
じとーって感じで。
「……人のこと言えないよね、カリン。女の子を無意識に口説いちゃったし」
え?あれってそーなるの?!
だって、女同士じゃん!
……あー、後ろからの熱視線が痛い。
「ハ、ハクロさん!二人はどうしたの?」
「モテモテですね、カリン殿。同性にまで好かれるなんて。二人は苦戦している部下を手伝っています。数が多いんですよ、困りました。作戦に支障が出そうです。代わりに同行出来るだけの精鋭ともなると………」
ハクロさん、冗談はやめて!
あれ?視線が後ろ?まさか、ね?
「……作戦ってなんですの?クガイたちが駆り出されるなんて。同等の力量の者が必要?」
「待って!絶対嫌だからね!」
……嫌な予想が的中しそうだ。
「しかし、私と皇太子だけでは危険ですよ?作戦を決行するならば、シュンカ様に同行願うしかありません」
そのまさかだった?!
「あの、シュンカちゃん強いの?」
「はい、先の武道大会において、女性部門で私に続き、第二位の実力をお持ちです」
うわ、意外すぎる。
「何とかしても、クガイかセイセツどちらかになってしまいますので、1人欠員になってしまいます」
シェンくん、不貞腐れてるよ。
「どんな作戦ですの?」
やる気満々だな。
「はい、カリン殿が考案された"キョンシー対策作戦"です」
「まぁ!カリン様が!説明して!」
「はい、まず部下たちにはいつも通り交戦してもらっています。彼らは何も知りませんが、私たちが一緒ではないことを疑問には思っているでしょう。そして、私ハクロとクガイとセイセツは敵の根城の捜査を申し渡され、行って参りました」
「……早くその報告してよ」
渋々承諾かな?
「あら、男女だから女以上に女々しいのでしょうか。クスクス」
━━……ガタッ
「やめな!喧嘩すんなって!シュンカちゃんも謝る!似てるから反発もしちゃうかもだけど時と場合を考えなさい!子どもじゃないんだから!」
「……カリン、まだ子どもなのに達観してるよね」
━━……ピクッ
「……誰が子どもだって?あー!どこいっても、子ども扱いされてイラつくってのに!ボクは、17歳なんだって!」
………またこの空気だよ。
「「「……17?」」」
んなとこ、ハモってんじゃねーよ!
「……ごめん。12、3歳くらいだと思ってた」
「わ、私も……。ごめんなさい、カリン様」
「私は……年齢は気にしていませんでした。考え方がしっかりされていると感じながらも、女性的雰囲気がないため、不明瞭でした」
三人三様で、微妙に辛い!
「身長や見た目は遺伝だ!ママが年齢以上にクソ若いのが原因だ!」
「……カリンの母上。いづれご挨拶に伺うね」
遊びに来る口実に、ママに会うつもりか!
「狡いですわ!私は娘にしてもらいますの!」
どさくさに紛れてなにいってるお嬢ちゃん!
「……取り敢えず、報告しますね」
ハクロさんが有難い……。
「"キョンシー"どもの移動距離は短く、数キロと離れていない、岩場に空間がありました」
「術者との距離ってやつかもね」
「私もそう思いました。全く気がついていないようなので、少し中を偵察しましたところ、奥に開けた場所がありました。そこから松明の光が見え、"何者"かの呪文を唱える声が致しました。……不思議なのは、至近距離で"キョンシー"どもが通りすぎていたのに、真っ直ぐこの国に向かっているらしく、気にされなかったことです。だから、逆流時も国外では意外にスムーズに事が運べました」
「国内に入った途端、認識されるのかな。目的もわからないんだよね?」
「はい、何度も交戦しましたが」
外に出ちゃえば、術者に見つからない限り、危険はない。
けど、ボクらはソイツに話し掛けなきゃいけない。
ネクロマンサー的な術者ってことかな?
本人が攻撃魔法使えないなら、勝機はあるけど、使えた場合は会話は危険かも?
ま、やらなきゃ始まらないし、終わらない。
「詰まる所、術者に近づくのは簡単。会話は未知数かなぁ?」
「会話?そういえば、"討伐"ではありませんでしたわね。」
「そーだよ。魔王が復活するかもしれないらしくてね。"トイ・ウェル"が夜の世界なのは、影響が強く出てるかららしい。瘴気は魔王の呪いの可能性がでかいみたい。だから、共に闘った国同士で戦争を始めたんじゃないかって見解。ここが夕方なのも、影響でてるんじゃないかな。そこで、手こずっている"キョンシー"を仲間にして魔王対策に踏み切りたい所存だ」
「素敵ですわ、カリン様!是非、貢献致しましてよ!」
何だか面倒臭いけど、有難い。
「流石に術者の顔までは確認出来ませんでしたので……」
「何言ってるの、ハクロさん!術者がいたことが明確になっただけでも収穫じゃん!」
「カリン殿……」
「そーそー、基準値満たしてるわけよ。しかも、神経張り詰めて行く必要もないってこともわかったじゃない。大収穫なんだから、どかんと行きましょうよ。……てことで、あたし準備してくるから、捕まえられる方を捕まえといて。んー、クガイの方が煩くないから、クガイがいい」
選んでるよ、ワガママ皇太子。
奥の部屋に消えていく。
「私もすぐに準備して参りますわね!」
こっちも颯爽と駆けていった。
「……さて、どこまで似た者同士かな?」
「想像したくありませんね」
いやぁ、ハクロさんは気が合うなぁ。
「正直、ボクの世界じゃ想像の域を出ないんだけどさ。魔王ってどんなだろうね?」
「私も英雄譚のように聞かされただけで、魔王は漠然とした描写だったように思われます」
「時と共に風化するには、早すぎるよねぇ」
考えすぎかもだけど、やっぱ見たことないって曖昧なんだよなぁ。
怖いって気持ちの中に、現実味がないのも感じてるわけで。
"本当に怖い"を知ってる人はあまりいないんじゃないかな。
魔王は恐ろしく、強いってのが定番だ。
ゲーム上には、数々の魔王が君臨した。
見た目からクソ強くて、畏怖の念を抱いてしまう魔王。
ライバル的な戦いたくなる魔王。
美貌と残虐性を兼ね備えた魔王。
何か倒すのも忍びないと思わせて油断させる、子狡い魔王。
他にもいっぱい。
………てかこの流れはボクいる前提じゃね?
今更だけど、ボクいなきゃやらなくね?こいつら。
ま、いざとなりゃやらないわけにはいかんだろ。
自分らで考えるの放棄はさせねぇ。
どこまでボクの知識が役立つかわかんないし。
ベッドのくまさんを眺めながら、勧められた椅子に座る。
すぐあとに茉莉花茶と中国にありそうなお菓子が運ばれてきた。
「美味しいねー。フェルナンドくんとこは、高そうなカップで紅茶でてきたから、最初は落ち着けなかったよ。ま、アイスティは普通のグラスで良かった」
「仕方ないわよ。フェルナンドってば、お坊ちゃん育ちでふわふわしてるのに抜け目ないし」
「そーなんだよ。でも、フェルナンドくんもフェルナンドくんでお父さんに悩んでたからなぁ」
「あの石頭はねぇ。何だかんだで規律に従い過ぎてるのよ、お国柄ってやつね。それを一蹴してきたんでしょ?」
「トドメはフェリーシアさんが刺したけどね」
「あのおばさま、あまり出てこないからレアではあるけどね」
「…"ラミア"はRPGでも、現代ゲームじゃグロテスクだからねー。あ、ボクの世界の機械遊戯に"知水魔人"にソックリなのが"ラミア"で魔物なんだよ。昔はフェリーシアさんみたいに美女ばかりだったのに、切ない」
「何々?楽しい遊び?おばさまみたいな登場人物がいるお話なの?」
「そんな感じ。物があればいいんだけど、手ぶらで井戸探ししてたから、何も見せられなくて残念だよ」
……端から聞いたら、女の子二人が話してるようにしか聞こえないだろうな。
「いつかカリンの世界に行けたら見せて頂戴!」
「おう!一緒に遊ぼう!」
……バタバタバタバタ!
ん?何かすごい足音が近づいて来てるような。
\バーーーーーーーン!/
勢い良く扉が開かれた。
日本人好みのミニ和チャイナっぽいのを着た美少女がプルプルしてる。
「あ、あんた!何者ですの?!"私のシェン様"と何優雅にお茶してますの?!」
何かいきなり詰め寄られた。
…………これは、また修羅場か!
望んでない修羅場がまた発生したのか!
「……誰が誰の、だって?"シュンカ"」
「シェン様!私はあなた様の"婚約者"なのですわ!こんなどこの馬の骨かもわからない娘など、取るに足りません!」
"馬の骨"……リアルじゃ、昼ドラ位しか聞くことない単語だなぁ。
「……そんなもの、父上から譲り受けたときに破棄したじゃないか。もう君自身とは関係ない」
……やけに冷たくない?
シュンカちゃん、泣きそうなんだけど。
って、睨んで?!
ボク、完全にトバッチリじゃね?
「……あんたも何か言ったらどうなんですの?そもそも、あんたはだれなんですの?」
「ん?ボクは華凛だよ。シュンカちゃん」
「下賎の娘に呼ばれるほど、私は身分は低くなくてよ!」
「シュン……!」
「まぁまぁ。シェンくんも怒らない怒らない。二人とも血糖値を若い内に上げたら、長生き出来ないよ?」
……言われてるのはボクなんだからさ?
「カリンがバカにされてるのに、何で……何で冷静なんだよ?」
「……シェンくん、ボクの得意分野を知っているじゃないか」
黙ってくれたけど、まだ何か言いたそう。
でも、早急に場は納めないとね。
「な、得意分野って何の話を……」
警戒してくれてるね。結構結構。
「シュンカちゃん、言葉は選ぼうよ。考えて話す方が相手も聞いてくれるんだからさ。ボクは何故、婚約解消に至ったかはしらないけどさ。君はすごく可愛いと思うよ?でも、人には好みや諸々の何かがある。押しつけるタイプは統計的に好まれない。本気で好きなら、身分なんてぶら下げずに君自身の良いとこを見てもらわなきゃじゃない?……可愛いだけじゃ、周りに埋もれちゃうからね?」
「わ、私は第一貴族の令嬢でしてよ?!全て完璧な私に口答えするなんて、何て無礼な!」
「……だからさぁ、それって親御さんの肩書きであって、君の肩書きじゃない。シェンくんも譲り受けたときに、自分の物になったんだ。身分だけで何でも手に入ったら、つまらないと思わない?欲しがってるものが安易に手に入ったときほど空しいものはないよ。ボクは人間より、"井戸"をこよなく愛してる。
引き合いに"井戸"を提示されるほど、腹の立つことはない」
「は?"井戸"?そこら中にあるものに何の魅力があるんですの?バカにするのも大概になさいな!シェン様と井戸が同等とでも?!失礼にもほどがありますわ!ねぇ?!シェン様?!」
だから、一々同意を求めるなって。
「……俺に聞いてどうするの?俺はカリンの言わんとしてること、わかるけど?」
ま、そうなるよね。
引き合いに出すのが、ボクの"井戸愛"じゃ混乱は避けられないとは思ってたけどさ。
「……君は自分が可愛いだけで、自信がないんだよ。ブリッコしてないで、素でいたら?猫被る方が愉しくないし。長所を短所にしてるのは、君自身だよ。わかるかな?」
「美貌は何よりの長所ではなくて?!麗しきシェン様には、私のような美貌が似合うんですの!」
「話は聞こうよ。外見だけで人は幸せになんてなれないんだからさ。中身の問題だってことだよ。欲しいものぶら下げられて、すぐ飛び付くのは自分の格を下げるのと同じなんだって。欲しいものは苦労して手に入れることが大事なんだよ。ま、ボクの"井戸愛"は理解されない。それは仕方ないことだよ。けど個性があるからこそ、"ボク"って存在は印象に残る。周りと同じ中での一番なんて、類似品の筆頭なだけで目立たないよ?」
あーあ、黙っちゃった。
可愛い子にこそ、笑っていてほしいんだけどな。
ボクはシュンカちゃんに近づいた。
案の定、ビクってされた。
「……シュンカちゃん、ボクは君を責めたいんじゃないんだよ?ボクは可愛い子にこそ、笑っていてほしいんだけどな。泣いてるなら笑顔にしてあげたい。本気でぶつかってきなよ。受け止めてあげるからさ」
泣きそうな目でボクを見ながら黙ってる。
これ以上は何もないんだけどな。
「……カリン……様」
………様?!
「え?!ちょ、シュンカ?!」
シェンくんも何か慌ててる?
「……私を本気で思って怒って下さいましたのね?"嫌いな人に怒る人はいない"。即ち、"好き"なのですわね?」
「あ、いや。嫌いじゃないけど」
初対面だし。
うわ、何か抱きつかれた!
「……私、シェン様の近くにこんな可愛らしい方がいて、嫉妬してしまいましたの」
可愛らしい……??さっきまでと態度ちがくね?
「ふふ、"身分"も"愛"にも境はありませんものね!カリン様……私、あなたが好きになりそう……」
やめてくれ、その目は何か嫌。
「……やめてくれない?シュンカ。カリンはあたしのなの!」
あ、戻ってる。てか、また言いやがったぞ。
「え?……あたし?」
知らなかったのか、可哀想に。
「あたし、女女してる女好きじゃないから。カリンみたいに可愛いのにカッコいい女が好きなの。あんた、女のクセに生意気なのよ」
「張り合ってんじゃねーよ!」
「な!目が覚めましたわ!こんな男女、こちらから願い下げでしてよ!ああ、カリン様が男性だったらよかったのに!」
前と後ろからキリキリ締め上げないでくれ!
苦しいわ!おまえら!
「………………さっさと離れやがれ!!似た者同士が!!苦しいわ!!」
「……カリン殿?叫び声が聞こえたと思ったら」
「うおおおおお!ハクロさん!助けて!」
不思議な光景に目をパチクリしているハクロさん。
ボクにも疑問だから!
「……皇太子も、シュンカ様も、カリン殿を殺すおつもりですか?」
言われて気がついたらしく、パッと離れる。
ボクの死角で、火花バチバチしてたよ。
「何?ハクロ。報告して」
涼しい顔してんな、をい!
「報告?」
「シュンカ様のいる場所でよろしいのですか?」
「いいよ。どうせ、国民だから」
「……シェンくん、君も言葉選べよ。女の子になんて言い方してんの。勘違いさせない程度に優しくするのが、紳士じゃないの?」
え?何?何で見つめられてるの。
じとーって感じで。
「……人のこと言えないよね、カリン。女の子を無意識に口説いちゃったし」
え?あれってそーなるの?!
だって、女同士じゃん!
……あー、後ろからの熱視線が痛い。
「ハ、ハクロさん!二人はどうしたの?」
「モテモテですね、カリン殿。同性にまで好かれるなんて。二人は苦戦している部下を手伝っています。数が多いんですよ、困りました。作戦に支障が出そうです。代わりに同行出来るだけの精鋭ともなると………」
ハクロさん、冗談はやめて!
あれ?視線が後ろ?まさか、ね?
「……作戦ってなんですの?クガイたちが駆り出されるなんて。同等の力量の者が必要?」
「待って!絶対嫌だからね!」
……嫌な予想が的中しそうだ。
「しかし、私と皇太子だけでは危険ですよ?作戦を決行するならば、シュンカ様に同行願うしかありません」
そのまさかだった?!
「あの、シュンカちゃん強いの?」
「はい、先の武道大会において、女性部門で私に続き、第二位の実力をお持ちです」
うわ、意外すぎる。
「何とかしても、クガイかセイセツどちらかになってしまいますので、1人欠員になってしまいます」
シェンくん、不貞腐れてるよ。
「どんな作戦ですの?」
やる気満々だな。
「はい、カリン殿が考案された"キョンシー対策作戦"です」
「まぁ!カリン様が!説明して!」
「はい、まず部下たちにはいつも通り交戦してもらっています。彼らは何も知りませんが、私たちが一緒ではないことを疑問には思っているでしょう。そして、私ハクロとクガイとセイセツは敵の根城の捜査を申し渡され、行って参りました」
「……早くその報告してよ」
渋々承諾かな?
「あら、男女だから女以上に女々しいのでしょうか。クスクス」
━━……ガタッ
「やめな!喧嘩すんなって!シュンカちゃんも謝る!似てるから反発もしちゃうかもだけど時と場合を考えなさい!子どもじゃないんだから!」
「……カリン、まだ子どもなのに達観してるよね」
━━……ピクッ
「……誰が子どもだって?あー!どこいっても、子ども扱いされてイラつくってのに!ボクは、17歳なんだって!」
………またこの空気だよ。
「「「……17?」」」
んなとこ、ハモってんじゃねーよ!
「……ごめん。12、3歳くらいだと思ってた」
「わ、私も……。ごめんなさい、カリン様」
「私は……年齢は気にしていませんでした。考え方がしっかりされていると感じながらも、女性的雰囲気がないため、不明瞭でした」
三人三様で、微妙に辛い!
「身長や見た目は遺伝だ!ママが年齢以上にクソ若いのが原因だ!」
「……カリンの母上。いづれご挨拶に伺うね」
遊びに来る口実に、ママに会うつもりか!
「狡いですわ!私は娘にしてもらいますの!」
どさくさに紛れてなにいってるお嬢ちゃん!
「……取り敢えず、報告しますね」
ハクロさんが有難い……。
「"キョンシー"どもの移動距離は短く、数キロと離れていない、岩場に空間がありました」
「術者との距離ってやつかもね」
「私もそう思いました。全く気がついていないようなので、少し中を偵察しましたところ、奥に開けた場所がありました。そこから松明の光が見え、"何者"かの呪文を唱える声が致しました。……不思議なのは、至近距離で"キョンシー"どもが通りすぎていたのに、真っ直ぐこの国に向かっているらしく、気にされなかったことです。だから、逆流時も国外では意外にスムーズに事が運べました」
「国内に入った途端、認識されるのかな。目的もわからないんだよね?」
「はい、何度も交戦しましたが」
外に出ちゃえば、術者に見つからない限り、危険はない。
けど、ボクらはソイツに話し掛けなきゃいけない。
ネクロマンサー的な術者ってことかな?
本人が攻撃魔法使えないなら、勝機はあるけど、使えた場合は会話は危険かも?
ま、やらなきゃ始まらないし、終わらない。
「詰まる所、術者に近づくのは簡単。会話は未知数かなぁ?」
「会話?そういえば、"討伐"ではありませんでしたわね。」
「そーだよ。魔王が復活するかもしれないらしくてね。"トイ・ウェル"が夜の世界なのは、影響が強く出てるかららしい。瘴気は魔王の呪いの可能性がでかいみたい。だから、共に闘った国同士で戦争を始めたんじゃないかって見解。ここが夕方なのも、影響でてるんじゃないかな。そこで、手こずっている"キョンシー"を仲間にして魔王対策に踏み切りたい所存だ」
「素敵ですわ、カリン様!是非、貢献致しましてよ!」
何だか面倒臭いけど、有難い。
「流石に術者の顔までは確認出来ませんでしたので……」
「何言ってるの、ハクロさん!術者がいたことが明確になっただけでも収穫じゃん!」
「カリン殿……」
「そーそー、基準値満たしてるわけよ。しかも、神経張り詰めて行く必要もないってこともわかったじゃない。大収穫なんだから、どかんと行きましょうよ。……てことで、あたし準備してくるから、捕まえられる方を捕まえといて。んー、クガイの方が煩くないから、クガイがいい」
選んでるよ、ワガママ皇太子。
奥の部屋に消えていく。
「私もすぐに準備して参りますわね!」
こっちも颯爽と駆けていった。
「……さて、どこまで似た者同士かな?」
「想像したくありませんね」
いやぁ、ハクロさんは気が合うなぁ。
「正直、ボクの世界じゃ想像の域を出ないんだけどさ。魔王ってどんなだろうね?」
「私も英雄譚のように聞かされただけで、魔王は漠然とした描写だったように思われます」
「時と共に風化するには、早すぎるよねぇ」
考えすぎかもだけど、やっぱ見たことないって曖昧なんだよなぁ。
怖いって気持ちの中に、現実味がないのも感じてるわけで。
"本当に怖い"を知ってる人はあまりいないんじゃないかな。
魔王は恐ろしく、強いってのが定番だ。
ゲーム上には、数々の魔王が君臨した。
見た目からクソ強くて、畏怖の念を抱いてしまう魔王。
ライバル的な戦いたくなる魔王。
美貌と残虐性を兼ね備えた魔王。
何か倒すのも忍びないと思わせて油断させる、子狡い魔王。
他にもいっぱい。
………てかこの流れはボクいる前提じゃね?
今更だけど、ボクいなきゃやらなくね?こいつら。
ま、いざとなりゃやらないわけにはいかんだろ。
自分らで考えるの放棄はさせねぇ。
どこまでボクの知識が役立つかわかんないし。
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そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
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※小説家になろうにも掲載中です。
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