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プロローグ
1 悪魔の声
しおりを挟む悪魔:悪魔とは悪を象徴する超越的存在で、人を堕落させて神に敵対する者。
正しき手順に従えば悪魔を人の手で召喚し、其の力を借りる事も可能。
ただし力を借りる為には相応の対価を必要とし、また悪魔は召喚者の裏をかいて破滅に追い込もうとすると言う。
悪魔に力を借りる力としてポピュラーな物は生贄や召喚者の魂や体の一部等……。
「死にたくないなぁ……」
誰も来ない病院のベッドの上で、僕はぽつりと呟いた。
もしかしたら呟いた心算なだけで声は出てないかも知れない。
だって僕の口には呼吸を補助する為のチューブが奥まで繋がれているから、普通に考えたら声なんて出る筈が無いのだ。
まあ別に構わない。
此処には僕しかいないのだから、誰かに聞いて欲しかった訳じゃ無かった。
単にそう、死にたくない事を自分自身で再確認しただけだ。
けれども、
「ほう、では聞かせておくれ。お前さんは何故死にたくない?」
耳元で誰かの声がする。
誰も居ない筈の病室なのに、僕以外の誰かの声が。
……何故死にたくないかだって?
そんな事は決まってる。
死にたくないから死にたくないのだ。
生きたいと思う事に理由なんて要らないじゃないか。
確かに僕は、特に将来の夢もないし、成績優秀で将来が約束されてたりもしなかった。
部活に熱心に打ち込んでいた訳でも無ければ、誰か好きな女の子がいてどうしても告白がしたいなんて心残りも特にはない。
何も無く漫然と、此の身体になるまで生きて来たのだ。
でもだからって死んで構わないと思う訳があるものか。
寧ろ僕は未だ何もしていないのだからこそ、死にたくはなかった。
「成る程、死に掛けの魂で小腹でも満たそうと思って来て見れば、存外強い言葉で吠える。……そうか、お前さんは何も無くとも生きたいか。儂とは逆じゃな」
そう言って耳元に聞こえる言葉、儂さんは自分の事を語り出す。
その内容はとても荒唐無稽な物だったけど、別に其れはどうでも良い。
だってもうずっと僕に話し掛けて来る人なんていなかったし、例え此の声が孤独に狂った僕自身の声だとしても、もう其れは其れで構わなかった。
声は、儂さんは、自分を悪魔だと言う。
そう、悪魔だ。あの羽があって尻尾が生えてて、何だか悪い事をするらしいアレだ。
多分ゲームで敵で出て来てたから悪役で間違いはない。
石の身体で動くとかだっけ? それとも燃える鞭を持っている?
「……ん、石はガーゴイルで、鞭はバルログかの。大体似たようなもんじゃよ。まぁ知らんなら知らん方が健全でえぇわい」
そんな風に言う儂さんだけど、その声は少し寂しそうだった。
でも仕方ないじゃないか。
学校に在った黒魔術同好会の人達なら何か知ってるのかも知れないけど、……僕はそう言うのにも特に興味が無かったのだから。
「ずっとずっと生きて来た。多くの人間を破滅させ、魂を貪り食って力を付けた。別にそうしたかった訳じゃ無いが、悪魔とはそう言った物じゃからな」
儂さんの言葉は今一ピンと来なかったが、でも魂を貪り食うと言うくだりには身体が震える。
いや、僕の身体は動かないので、ひょっとしたら震えたのは魂だったのかも知れない。
確かに、儂さんは最初に『死に掛けの魂で小腹でも満たそうと思って来て見れば』と言っていた。
嫌だ、死にたくないし食べられたくもない。
何とか逃げようと、動かぬ体でに必死で命じていると、
「待て待て、もう喰う心算は無い。寧ろお前さんを救ってやろうと思ってる。別に信じんでもえぇ。儂は悪魔じゃから、信じられても困る。ただ提案を聞いて飲むか飲まんか決めてくれ」
儂さんは僕の胸に手を置いてそう言った。
……。
「儂はもう生きるには飽いた。お前さん、儂の代わりに悪魔として生きてみんか?」
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