転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

文字の大きさ
1 / 129
プロローグ

1 悪魔の声

しおりを挟む

 悪魔:悪魔とは悪を象徴する超越的存在で、人を堕落させて神に敵対する者。
 正しき手順に従えば悪魔を人の手で召喚し、其の力を借りる事も可能。
 ただし力を借りる為には相応の対価を必要とし、また悪魔は召喚者の裏をかいて破滅に追い込もうとすると言う。
 悪魔に力を借りる力としてポピュラーな物は生贄や召喚者の魂や体の一部等……。


「死にたくないなぁ……」
 誰も来ない病院のベッドの上で、僕はぽつりと呟いた。
 もしかしたら呟いた心算なだけで声は出てないかも知れない。
 だって僕の口には呼吸を補助する為のチューブが奥まで繋がれているから、普通に考えたら声なんて出る筈が無いのだ。
 まあ別に構わない。
 此処には僕しかいないのだから、誰かに聞いて欲しかった訳じゃ無かった。
 単にそう、死にたくない事を自分自身で再確認しただけだ。
 けれども、
「ほう、では聞かせておくれ。お前さんは何故死にたくない?」
 耳元で誰かの声がする。
 誰も居ない筈の病室なのに、僕以外の誰かの声が。

 ……何故死にたくないかだって?
 そんな事は決まってる。
 死にたくないから死にたくないのだ。
 生きたいと思う事に理由なんて要らないじゃないか。
 確かに僕は、特に将来の夢もないし、成績優秀で将来が約束されてたりもしなかった。
 部活に熱心に打ち込んでいた訳でも無ければ、誰か好きな女の子がいてどうしても告白がしたいなんて心残りも特にはない。
 何も無く漫然と、此の身体になるまで生きて来たのだ。
 でもだからって死んで構わないと思う訳があるものか。
 寧ろ僕は未だ何もしていないのだからこそ、死にたくはなかった。

「成る程、死に掛けの魂で小腹でも満たそうと思って来て見れば、存外強い言葉で吠える。……そうか、お前さんは何も無くとも生きたいか。儂とは逆じゃな」
 そう言って耳元に聞こえる言葉、儂さんは自分の事を語り出す。
 その内容はとても荒唐無稽な物だったけど、別に其れはどうでも良い。
 だってもうずっと僕に話し掛けて来る人なんていなかったし、例え此の声が孤独に狂った僕自身の声だとしても、もう其れは其れで構わなかった。
 声は、儂さんは、自分を悪魔だと言う。
 そう、悪魔だ。あの羽があって尻尾が生えてて、何だか悪い事をするらしいアレだ。
 多分ゲームで敵で出て来てたから悪役で間違いはない。
 石の身体で動くとかだっけ? それとも燃える鞭を持っている?

「……ん、石はガーゴイルで、鞭はバルログかの。大体似たようなもんじゃよ。まぁ知らんなら知らん方が健全でえぇわい」
 そんな風に言う儂さんだけど、その声は少し寂しそうだった。
 でも仕方ないじゃないか。
 学校に在った黒魔術同好会の人達なら何か知ってるのかも知れないけど、……僕はそう言うのにも特に興味が無かったのだから。

「ずっとずっと生きて来た。多くの人間を破滅させ、魂を貪り食って力を付けた。別にそうしたかった訳じゃ無いが、悪魔とはそう言った物じゃからな」
 儂さんの言葉は今一ピンと来なかったが、でも魂を貪り食うと言うくだりには身体が震える。
 いや、僕の身体は動かないので、ひょっとしたら震えたのは魂だったのかも知れない。
 確かに、儂さんは最初に『死に掛けの魂で小腹でも満たそうと思って来て見れば』と言っていた。
 嫌だ、死にたくないし食べられたくもない。
 何とか逃げようと、動かぬ体でに必死で命じていると、
「待て待て、もう喰う心算は無い。寧ろお前さんを救ってやろうと思ってる。別に信じんでもえぇ。儂は悪魔じゃから、信じられても困る。ただ提案を聞いて飲むか飲まんか決めてくれ」
 儂さんは僕の胸に手を置いてそう言った。

 ……。
「儂はもう生きるには飽いた。お前さん、儂の代わりに悪魔として生きてみんか?」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...