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第二章『泥に塗れた少女』
9 新たな召喚
しおりを挟む待機場所の暗黒空間、別名固有魔界にグラモンさんの塔を建て、其処に住まう僕。
慣れた寝床を持って来た事で、固有魔界の居住性はかなり向上した様に思う。
グラモンさんの遺してくれた小指の御蔭で、僕自身の力も大分上昇した。
多分種別で言えば中級悪魔位はある筈だ。
魂を得た訳じゃなくてもこれ程の強化が起きるあたり、グラモンさんは本当に偉大な魔術師だったのだろう。
あんまり思い出すと涙が出るので考えないようにしている。
しかし固有魔界は面白い空間だ。
一見何も無い暗黒空間なのだけど、其れを構成する霊子や魔素は僕を構成する其れと全く同質で、つまり此の空間は僕と深い関わりがある、或いは僕自身であると予想が出来た。
暗黒空間が僕自身って、意味がわからないにも程はあるけど、それでも僕は悪魔である。
常識ではかれる存在では無い。
その証拠にと言う訳じゃ無いが、此の空間では僕は大分自由が利いた。
例えば他の世界を見たいと思えば、別の世界を覗く事が出来る。
今の僕には不可能だけど、もっと力を付ければ自分から出向くのも可能だろう。
それこそ、そう、病院で寝ていた僕の所に儂さんがやって来た様に。
ただ別の世界を見れるとは言っても、どの世界を覗けるのかは如何にも固定が出来ない。
此れは力不足と言うよりも、門魔法で座標がわかっていないのと似た状態、世界を特定する為の情報が足りていないのだと思う。
まあ幾ら他の世界が覗けると言っても、孤独である事には変わりなかった。
恐らくベラを召喚は可能なのだが、喚んだところでこの世界には彼女に食わせる食事が無い。
僕自身は固有魔界に居る限り、外から何かを摂取する必要は無さそうだけど、ベラはそうもいかないだろう。
けれどもそんな時だ。
酷く弱々しい力で何かが僕を引っ張ったのは。
思わず見落としそうになるほどに弱い其れは、だが間違えようも無く召喚だった。
勿論無視する事は簡単である。
こんなに弱々しい召喚なら、以前の下級悪魔だった頃の僕だって簡単に拒絶出来ただろう。
でも逆に、こんなに弱々しい召喚、呼び掛けだからこそ気になるのだ。
一体誰が僕を呼んでいるのだろうかと。
僕はその呼び掛けが途切れぬうちにと、急いで自分の固有魔界を飛び出す。
目を開いて辺りを見回せば、其処はボロボロの室内だった。
……木製の小屋か何かの中だろうか?
眼前の手作りだろう祭壇は小さく粗末で、こう言うとアレだがゴミ置き場に捨てられた粗大ごみにしか見えない。
まあその粗大ごみで呼び出されたのが僕なのだけれど。
思わず口元に苦笑いが浮かぶ。
「あ、あくま、なの? 本当に、本当に? 私が喚んだの? ねえ貴方、私の悪魔なんでしょ! お願い、私の願いを聞いて!!」
そんな僕におずおずと、そして次第に激しく話しかけて来たのは、一人のボロボロの、痣だらけの泥だらけで元の髪の色もわからなくなった、十代の前半だろう少女だ。
どうやら彼女が、今回の僕の召喚者になるらしい。
到底魔術の心得がある様には見えず、本来ならば絶対に欠かしてはならない、契約完了まで悪魔が出られない契約魔法陣すら僕の足元には描かれていなかった。
此れは、もし呼ばれたのが僕じゃない悪魔だったら、ゴミの様な祭壇に怒るか、或いは契約魔法陣が無い事に気付いて、確実に少女を殺して魂を持ち帰ってしまうだろう。
「取り敢えず、この世界に留まる為の生贄も無い様なので、髪を一房で良いので貰えますか? それを対価に貴女を傷付けないって契約をしましょう」
一歩前に進み出て、僕は彼女に手を差し伸べる。
勿論僕には彼女を傷付ける心算は無い。
知識も無く、祭壇を用意するだけの財力も無く、其れでも悪魔に縋らねばならない事情があるのなら、先ずは其れを聞くとしよう。
僕が弱々しい呼び掛けに応じる気になったのは、其れが彼女の泣き声だったからなのだから。
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