転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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第八章『無謀な少年』

93 高位悪魔達の戦い

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 鎧武者の前には勿論ベラが。
 竜人の前には武装を展開したヴィラが。
 巨人の前には、体格差が酷い事になるけれどもピスカが。
 東洋系術者風の人型悪魔の前には、グレイが。
 其々に立ちはだかって、戦闘態勢を取る。

 イリスはその間にも人間達を門へと誘導し、アニスは門の維持に集中していた。
 配下達が動く中、僕は一人動かない。
 勿論、あの四人以外の悪魔が潜んでいた場合の備えと言う意味合いもあるけれど、それ以上に僕が動けば、相手の悪魔王も動かざる得なくなると言うのが理由だ。

 今現在、僕と、あの高位悪魔達の主である悪魔王『虚飾の鏡』アウルザルとは未だ敵対関係に無い。
 単に悪魔王が直接引き受けた仕事同士がバッティングしただけ。
 本気で相手を潰し合おうと、憎しみ合う関係には未だ程遠かった。
 配下同士の争いなら、例え負けた所で魔界に戻されるだけなのだから、小競り合いが起きただけだと互いに飲み込める。
 しかし僕が直接動き、相手の悪魔王も動いたならば、もう此れは単なる小競り合いの範囲では済ませられない。
 全面戦争にまで発展するかは兎も角、敵対関係とはなるだろう。

 いやまあ僕は中途半端に敵対関係となってチクチクとやり合う位なら、勝てる準備が整い次第、サッと全面戦争を吹っかけて確実に消し飛ばすけれども。
 そもそも敵対せずに済むならそれに越した事は無いのだ。 
 僕と其の配下は悪魔王同士の戦争には滅法強いとはされているが、其れでも魔界で行う全面戦争ともなれば犠牲は出かねないから。
 特に、グラーゼン曰くアウルザルは僕と似て、けれども決定的に異なるタイプの悪魔王らしいので、事を構えれば多少面倒な事になる。



 ガッガッガッガッガッ!
 物騒な音を立てて回転する機関砲の砲身が、大量の砲弾を吐き出して行く。
 人間サイズのヴィラが扱うにしては些か大き過ぎる機関砲だったが、彼女はその反動を完全に殺し切って、実に正確な射撃を行う。
 無論悪魔に対して単なる砲弾が通用する筈は無いが、しかしながら今撃ち出されている砲弾は、全てヴィラの特製の品だ。
 僕と言う貯蔵庫から持って行った魔力を分解し、魔素と霊子を組み直した、不滅存在に対する特効仕様の魔力がたっぷりと詰め込まれている。
 単なる火砲と侮って、手で受け止めようとした竜人は、その一撃で腕を消し飛ばされて、今は大慌てで逃げ惑っていた。

 決してあの竜人が弱い訳じゃ無いのだけれど、申し訳ない話だが、ヴィラは僕の配下の中でもとびっきりの規格外なのだ。
 例えあの竜人が砲弾を掻い潜って接近戦を挑もうとも、ヴィラの今のボディは、竜人に殴り勝つだけの出力を出す。
 以前に錬金術師の娘達が造り上げたヴィラのボディは其処までの出力を備えてはいなかったが、その後の長い時の中で、ヴィラは己のボディを改良し続けている。
 普段は周囲のサポートに徹する機会が多いヴィラだが、彼女は自分を磨き上げる事にも怠りは無い。
 先程の機関砲や砲弾の開発もそうだけれども、ヴィラの強みは時間があればあるだけ、自分と周囲を強化していく存在だ。

 なので可哀想な話だが、この戦いに竜人の勝ち目は無かった。
 機関砲から吐き出される砲弾が止んだ事を好機と見て接近戦を挑んだ竜人は、何時の間にか設置されていた不可視の、対不滅存在用機雷に半身を吹き飛ばされ、更にヴィラからの止めの砲撃を浴びてその身体を破壊される。


 更に大きくなった巨人の腕が、振り下ろされて地を叩く。
 地割れが生じる程の衝撃に、地面どころか大気までもが揺れるが、だがその拳はピスカには当たらない。
 巨人は一気に仕留めて仕舞おうと、身体を更に巨大化させたけれども、ピスカは其れとは逆に、身体を更に小さく変化させた。
 今の巨人とピスカのサイズ比は、人間と蚊よりも更に差がある。
 けれども幾ら小さくなった所で、ピスカは歴とした高位悪魔だ。
 直接魔力の籠った拳を叩き込まれるなら兎も角、多少の揺れや破片は動きを止める要素にもならない。
 此処からでは小さくなったピスカの表情までは見えないが、きっと今の彼女は笑みを浮かべているだろう。
 
 割り当てを決めた際、
「巨人に妖精が勝ったら凄いよね! レプト様が勝てるって言うなら勝てるんだろうし、よーし下剋上だ~!」
 なんて風にピスカは言ってたが、下剋上って言葉は下が上を下す時に使う言葉である。
 でも巨人と妖精って比較なら兎も角、悪魔としての格は、見た目はさて置いてもピスカの方が上なのだ。
 だからその勝負結果は、僕にとっては順当で、死角から回り込んだピスカは、思い切り力を込めた魔力弾を巨人の耳から放り込み、その頭部を吹き飛ばした。


 東洋系の人型悪魔とグレイ、術者タイプ同士の対決は、今の所はグレイが押され気味である。
 例え東洋系の術であろうと、術の類である以上は根本的には魔術と大きな違いは存在しない。
 術の理が違おうとも、陰陽術だろうが道術だろうが仙術だろうが、魔力を消費して術を発動させるって大原則は同じなのだ。
 魔力の事を気と呼んでたりはするけれど、其れでも両者は同じであり、故に悪魔となって其れを扱えば魔法へ至る。

 あの人型悪魔は、人間だった頃は余程優秀な術者だったのだろう。
 術で可能な事は当然ながら魔法でも可能であり、人間だった頃に磨いた術の腕は、寧ろ悪魔になってから更に美しく花開くと言っても過言じゃ無い。
 人型悪魔は符を用いて己の分身を出し、多数の魔法を放ったり、複数人でなければ扱いが厳しいだろう複雑な魔法を行使している。
 其れは人間だった頃の彼が天才的な術者だったからこそ、悪魔となった今に成しえる技なのだ。

 しかし其れでも僕は、二人の勝負はグレイが勝つとの確信があった。
 確かにあの人型悪魔は、人間だった頃に天才的な術者だったのだろう。
 でも其れはグレイだって同じ事である。
 巧としての話じゃなく、そのもう一つ前のアークウィザード・グラモン。
 僕が見てきた中で最も優れた所まで登り詰めた人間の魔術師は、矢張りグラモンさんだ。

 だからこそ、グレイが負ける筈は無い。
 今のグレイは自分とは系統の違う魔法を、観察して楽しんでいた。
 相手の魔法を捌きながらも、口元に貼り付く其の笑みが何よりの証拠である。
 けれどもそろそろ、自分が見せて貰ってるばかりでは失礼だと考える頃だろう。
 グレイの両手が忙しなく動き始めて、そして戦いの攻守は、その瞬間から逆転した。


 残る一組、鎧武者とベラの戦いは一進一退の展開を繰り返し、どちらが優勢とも言い難い。
 僕が見る限り、敵側の悪魔で一番厄介なのがこの鎧武者だ。
 今回幸運だったのは、天使達が犠牲になってくれた御蔭で、敵である四人の高位悪魔達の戦い方が事前に観察出来た事だった。
 事前に戦い方を観察した上で、最適な組み合わせを選択した結果、結局この鎧武者はベラ以外に相手が務まらないとの結論になったのだけれども。

 例えばだがピスカは竜人と巨人には勝てるだろう。
 力押しが得意な相手と、ピスカは割と相性が良い。
 逆にグレイは竜人と鎧武者が不得意な筈だ。
 速度の早い近接型の相手をする際は、近付かれ無ければ圧倒出来るが、一旦近付かれてしまえば打つ手がないのが術師型の宿命である。
 ヴィラは鎧武者以外なら全てを圧倒出来ると思う。

 故に、鎧武者には同タイプのベラを当てた。
 否、あの二人を同タイプと言って良いのかは、僕には少し判断が付かない。
 鎧武者の技量は間違いなく、限界を超えた修練の果てに得た物だろう。
 だがもう一方のベラの力は、持って生まれた高い戦闘センスを実戦の中で磨き上げた物である。
 何方がより優れているかはわからないが、両者の戦いは五分と五分。

 鎧武者の斬撃にベラの身体は幾つもの傷が刻まれているが、ベラの爪も武者鎧を破壊しており、更には吐いた炎が其の下の肉体を焼いていた。
 双方共に満身創痍。
 なので勝敗は間もなく決するだろうが、その結果だけはわかってる。
 両者の力は互角でも、唯一つだけ条件が違う。

 其の違う条件とは、僕の存在だ。
 別に僕が勝負に横槍を入れようって訳じゃないけれど。
 でも僕が此処に居る以上、ベラに負けは無い。
 何故なら、他の配下には無い、僕がベラだけに任せる役割とは、僕が負ける可能性のある敵の相手だから。

 竜人も巨人も術者の人型悪魔も、僕が動けば問題無く倒せる相手だ。
 但しベラと近いタイプの鎧武者だけは、近付かれる前に広範囲を巻き込む攻撃で消し飛ばし損ねたら、僕も負けかねない相手だった。
 だからこそベラは、僕の守護者は、後ろに僕が居る状態でなら、あのタイプの敵には決して負けない。

 高速で放たれた連続突きを、ベラは自らの頭部の一つを犠牲にし、刀を飲み込んで受け止めて、残る二つの頭で鎧武者を喰い千切る。

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