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第一章 はじまり
#7
しおりを挟む翌日、一の鐘の音と共に、護は目を覚ました。
昨夜は慌てて底を突きかけた財布を片手に店じまい寸前の道具屋に滑り込み、いくつかの生活必需品を購入した。
代えの服はとりあえず依頼を受けてからだ、今はそこらの露店で串の一本も買えないだろう。
部屋を出て階段を下り、受付の子供とおはようの挨拶を交し合う。
朝食を済ませた護はギルドカードを受け取りに冒険者ギルドへ向かった。
昨日は半端な時間帯だった事もあり人をあまり見かけなかったが、今日は今から仕事や依頼に向かうのだろう、大通りは行き交う人で賑わっている。
ギルド内に入ると、これから受ける依頼を仲間と話し合う冒険者や、依頼書を片手に受付の前に並んでいる冒険者達で、昨日は広く感じたギルド内を窮屈なものとしていた。
護は昨日の受付嬢を探すと、数えるほども並んでいない列の先に、その姿を見つけた。
他の受付嬢達の所にはやや長い列が出来ているのだが、これはやはり人気の差だろう。
小柄な彼女は、職員達にマスコット的存在として可愛がられているが、冒険者達はやはりスタイルのいい美人がいいのだろう、毎日のように目当ての受付嬢の所へ並び、少しでも長く話して仲良くなり、あわよくば、と考えているようだ。
「おはようございます。それにしても丁度ここの列が短くて助かりました」
順番が来て開口一番、護は失礼な事を言うが、言った本人は気付いていない。
「……おはようございます。ギルドカードの受け取りですね?」
心なしか声と表情が硬くなったが、後半のセリフはスルーし、仕事に専念しようとなんとか気を取り直す受付嬢。
是。と答えた護にギルドの仕組みと、ギルドカードの説明がなされた。
ギルドの掲示板に貼り付けられている依頼にはギルドにより難易度が設定されており、冒険者はランクに対応した依頼までしか受ける事ができない。
冒険者のランクは全部で十段階あり、
新人 ブロンズ ブロンズ+
半人前 アイアン アイアン+
一人前 シルバー シルバー+
熟練者 ゴールド ゴールド+
凄腕 プラチナ
それぞれのランクである程度依頼をこなして信用を得ると、ランク名の後ろに+と記され、上のランクの中でも比較的簡単な物が受けられるようになる。
ただし十段階目はプラチナ+ではなくミスリルと呼ばれるランクがある。
これは世界で数パーティーしかないが、ダンジョンを踏破したパーティーのために急遽用意されたランクで、個人で所有している者はいない。
ギルドカードは白を基本とした長方形のプレートで、周囲をランクに応じた金属で縁取りされている。
基本機能の一つに、所持者が倒した討伐対象から魔力を奪い、蓄える機能があり、蓄積量によってカードの色が徐々に黒ずみ、真っ黒になればそれ以上蓄積する事は出来ない。
蓄積量の最大値は冒険者ランクを上げる事により解放されていく。
蓄積された魔力は冒険者ギルドで清算してもらう事で、ギルド未登録の者に比べて、数倍の効率で肉体に取り込む事が出来る。
基本機能の一つに、所持者が倒した討伐対象の魂の欠片を奪い、蓄える機能があり、ギルドに恩恵を与える神に捧げる事によって、功績値ポイントを得る事ができ、そのポイントを消費して、様々な知識や技術をスキルという形で手に入れる事が出来る。
魂の欠片には陽性と陰性のものがあり、陽性のものは得がたく、陰性のものと区別された高位のポイントを得られる。
陽性のものをハイ・ポイント、陰性のものはネガ・ポイントと呼ばれている。
この陽性と陰性といったものは、陽気な者や聖職者が陽性のポイントを、陰気な者や秘密裏に犯罪を犯していた者が陰性のポイントを比較的多く取得していたことから、人の魂からあふれた感情や想いも神に捧げる事が出来ると言われている。
尚、ダンジョン内では陰性の欠片しか得られない。
ギルド内には別室に素材買取専門のカウンターがあり、そこでは査定関連のスキルを取得した専門の職員達が狩りで得た素材を買い取ってくれる。
この際、ギルドに預金する事も出来る。引き出せるのはまた別の受付だが。
冒険者ギルドは商人組合と提携しているため、買取カウンターの職員は商人組合から派遣された者達だ。冒険者ギルドの外で直接商人と交渉するのは自由だが、基本的にギルド以上の買値はつかない。
ギルド内には資料室があり、冒険者であれば利用する事が出来る。
一部の資料はランクによって制限されているが、多くの情報をここで得る事が出来るだろう。無論、資料の持ち出しは厳禁である。
冒険者は問題を起こすとギルドカードを剥奪される場合がある。
揉め事を起こす程度であれば注意だけで済むが、軽犯罪を犯した場合、一度目は警告、二度目にはギルドカードを剥奪される。
殺人などの重犯罪を犯した場合は当然即剥奪だ。
「それから、ギルドカードの表側に触れる事でメニュー機能が呼び出せます。各種機能の利用、設定はそこから行ってください」
(って、なんだそれ。スマホかよっ)
実の所携帯電話すら持った事も無いが、内心そんな事を思いながら護はギルドカードを受け取って受付嬢に礼をいい、ギルド内に設置されている長椅子に座ってギルドカードを調べるべく弄り始めた。
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