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コウヤ様の言葉通り、わたしに命じられたお仕事は雑用ばかりで、特につらいことなどありませんでした。
むしろコウヤ様ばかりが働いていて、わたしは余り役に立っていない気がします。
その待遇も奴隷とは思えない扱いでした。
食事も3食、お腹いっぱいになるまで食べさせてもらえるし、高いのに毎日お風呂にも連れていって貰いました。
住む場所もわたしの為にベッドが2つある部屋を借りてくれました。奴隷は床で眠るのが普通だと思っていたので、とても驚きました。
部屋自体も家具や調度品が整っており、たぶん凄い高い部屋なんだと思います。
コウヤ様に最初に連れられた部屋よりも豪華ですから、わたしに気を遣ってそうしたのは間違いないと思います。
地獄みたいな場所から救い出してくれただけでも感謝してもしきれないのに、こんな暮らしまでさせて貰って、わたしはどうすればコウヤ様に恩返しが出来るのでしょうか?
そんな風な事を考えながら、過ごしていたある日、わたしは勇気を出してコウヤ様に進言しました。
「あのコウヤ様。今日は私にリアカーを引かせてくれませんか?」
「……結構重いぞこれ? 流石に無理じゃないか?」
そう言ったわたしの顔を、コウヤ様が心配そうな表情で覗き込みます。
「多分、大丈夫です。最近なんだか凄く力が付いた気がするんです」
その言葉に嘘はありません。
最近、自分でもびっくりするくらいに腕力が付いた気がするのです。
特にわたしは小柄で非力でしたから、以前との違いが良く分かります。
そしてその言葉を証明するように、荷物が満載されたリアカーを引くと、軽々動かすことが出来ました。
「フィナ……、おまえドワーフの血とか混ざってないよな?」
わたしの村にはヒューマンしかいませんでしたし、先祖に他の種族が混じっていたという話も聞いた事がありません。
「いえ、私は純粋なヒューマンのはずです。父も母も普通のヒューマンでしたから」
「そうか……。だがじゃあ、どうしてそんな力があるんだ?」
「もしかすると……」
ある事実に思い当たりました。
「何か心当たりがあるのか?」
「は、はい。コウヤ様に毎日頂いている栄養ドリンクという飲み物ですが、あれを飲むとなんだか全身が塗り替えられるような不思議な感覚になるんです」
コウヤ様に頂く不思議な食べ物は、どれも口に入れると力が湧いて来るものばかりでしたが、あの栄養ドリンクという飲み物だけは違いました。
言葉では上手く表現できませんが、なにかもっとこう明確な変化が感じられるのです。
しかし理由がなんであれ、これでコウヤ様のお役に立てると思うと、嬉しい気持ちで一杯になりました。
事実、わたしがリアカーを押せるようになった事で、ファレノ商会と取引出来る荷物の量が大きく増え、その事にコウヤ様は凄く喜んでいました。
「フィナが居てくれて本当に良かったよ。これからもよろしくな」
とびっきりの笑顔でそう感謝の言葉を告げられて、私は物凄く幸せな気分になりました。
このまま2人でずっと暮らしていけたらいいなと、わたしは思っていました。
同時に少し不安もありました。
だってコウヤ様は本当に凄いお方なのです。
四角い箱を呼び出す力がありますし、力持ちですし色々な事も知っています。
それに夜中にわたしが寝静まったのを見計らって、毎晩何かをやっているご様子ですし、奴隷のわたし以上に多分長い時間働いています。
リアカーを引けるようになって、確かに以前よりはコウヤ様のお役に立てた気がします。
でもそれは、別にわたしでなくても出来る事です。
だからわたしはもっと、もっとコウヤ様のお役に立ちたいと、より強く願うようになりました。
そんなある日のことです。
コウヤ様が家を買いに行くと仰いました。
確かにずっと宿屋暮らしというのは、お金が掛かって勿体ないです。
なのでわたしもその事には賛成だったのですが、ここで問題が発生しました。
コウヤ様が買おうとしていた家が実は、今なお子供たちが暮らす孤児院だったのです。
そしてこのままでは孤児院は潰れてしまい、子供たちは何もない寒空に身一つで放り出される。
そんな崖っぷちの状態でした。
「そんな……。それではこの孤児院はどうなってしまうのでしょうか……」
孤児院の管理をしているリズリアという女性が、絶望の表情を浮かべそう呟きます。
「こちらとしても、今更タダで手放すのは無理です。なのでここを購入される方の意思次第となりますが……」
イステイト商会のルーイヒさんが、そんなことを言いながらコウヤ様の方に視線を送っています。
その時のコウヤ様は、悩まし気な表情を浮かべていました。
その姿をみて、わたしは確信しました。
コウヤ様はわたしを救ってくれたように、きっと孤児院を救う決断をするのだろうと。
本心では、ずっとこのまま2人きりで暮らしていきたいと、わたしは思っていました。
ですが同時に、コウヤ様はわたしが独占できるような方ではないと分かっていました。
これから先、沢山の人達を救う方です。
それに多分わたしが反対しても、最終的には救う決断をコウヤ様は下します。
なら、わたしの今やるべきことは、その後押ししてあげることしかないと思いました。
「コウヤ様……」
それだけ呟いて、視線でその気持ちを伝えます。
「あー、分かったよ。俺がこの物件を購入する。但し、ルーイヒさんよ、あんたにも責任が無い訳じゃないんだから、もうちょっと安くしてくれ」
どうやらわたしの気持ちは上手く伝わったらしく、コウヤ様は孤児院を救う決断をしてくれました。
これできっと、孤児院の子供たちは救われます。
ですが、わたしもそれをただ見ているだけではなく、後押しをした責任を取ってコウヤ様のお手伝いを頑張らないといけません。
心の中でそう強く思いました。
むしろコウヤ様ばかりが働いていて、わたしは余り役に立っていない気がします。
その待遇も奴隷とは思えない扱いでした。
食事も3食、お腹いっぱいになるまで食べさせてもらえるし、高いのに毎日お風呂にも連れていって貰いました。
住む場所もわたしの為にベッドが2つある部屋を借りてくれました。奴隷は床で眠るのが普通だと思っていたので、とても驚きました。
部屋自体も家具や調度品が整っており、たぶん凄い高い部屋なんだと思います。
コウヤ様に最初に連れられた部屋よりも豪華ですから、わたしに気を遣ってそうしたのは間違いないと思います。
地獄みたいな場所から救い出してくれただけでも感謝してもしきれないのに、こんな暮らしまでさせて貰って、わたしはどうすればコウヤ様に恩返しが出来るのでしょうか?
そんな風な事を考えながら、過ごしていたある日、わたしは勇気を出してコウヤ様に進言しました。
「あのコウヤ様。今日は私にリアカーを引かせてくれませんか?」
「……結構重いぞこれ? 流石に無理じゃないか?」
そう言ったわたしの顔を、コウヤ様が心配そうな表情で覗き込みます。
「多分、大丈夫です。最近なんだか凄く力が付いた気がするんです」
その言葉に嘘はありません。
最近、自分でもびっくりするくらいに腕力が付いた気がするのです。
特にわたしは小柄で非力でしたから、以前との違いが良く分かります。
そしてその言葉を証明するように、荷物が満載されたリアカーを引くと、軽々動かすことが出来ました。
「フィナ……、おまえドワーフの血とか混ざってないよな?」
わたしの村にはヒューマンしかいませんでしたし、先祖に他の種族が混じっていたという話も聞いた事がありません。
「いえ、私は純粋なヒューマンのはずです。父も母も普通のヒューマンでしたから」
「そうか……。だがじゃあ、どうしてそんな力があるんだ?」
「もしかすると……」
ある事実に思い当たりました。
「何か心当たりがあるのか?」
「は、はい。コウヤ様に毎日頂いている栄養ドリンクという飲み物ですが、あれを飲むとなんだか全身が塗り替えられるような不思議な感覚になるんです」
コウヤ様に頂く不思議な食べ物は、どれも口に入れると力が湧いて来るものばかりでしたが、あの栄養ドリンクという飲み物だけは違いました。
言葉では上手く表現できませんが、なにかもっとこう明確な変化が感じられるのです。
しかし理由がなんであれ、これでコウヤ様のお役に立てると思うと、嬉しい気持ちで一杯になりました。
事実、わたしがリアカーを押せるようになった事で、ファレノ商会と取引出来る荷物の量が大きく増え、その事にコウヤ様は凄く喜んでいました。
「フィナが居てくれて本当に良かったよ。これからもよろしくな」
とびっきりの笑顔でそう感謝の言葉を告げられて、私は物凄く幸せな気分になりました。
このまま2人でずっと暮らしていけたらいいなと、わたしは思っていました。
同時に少し不安もありました。
だってコウヤ様は本当に凄いお方なのです。
四角い箱を呼び出す力がありますし、力持ちですし色々な事も知っています。
それに夜中にわたしが寝静まったのを見計らって、毎晩何かをやっているご様子ですし、奴隷のわたし以上に多分長い時間働いています。
リアカーを引けるようになって、確かに以前よりはコウヤ様のお役に立てた気がします。
でもそれは、別にわたしでなくても出来る事です。
だからわたしはもっと、もっとコウヤ様のお役に立ちたいと、より強く願うようになりました。
そんなある日のことです。
コウヤ様が家を買いに行くと仰いました。
確かにずっと宿屋暮らしというのは、お金が掛かって勿体ないです。
なのでわたしもその事には賛成だったのですが、ここで問題が発生しました。
コウヤ様が買おうとしていた家が実は、今なお子供たちが暮らす孤児院だったのです。
そしてこのままでは孤児院は潰れてしまい、子供たちは何もない寒空に身一つで放り出される。
そんな崖っぷちの状態でした。
「そんな……。それではこの孤児院はどうなってしまうのでしょうか……」
孤児院の管理をしているリズリアという女性が、絶望の表情を浮かべそう呟きます。
「こちらとしても、今更タダで手放すのは無理です。なのでここを購入される方の意思次第となりますが……」
イステイト商会のルーイヒさんが、そんなことを言いながらコウヤ様の方に視線を送っています。
その時のコウヤ様は、悩まし気な表情を浮かべていました。
その姿をみて、わたしは確信しました。
コウヤ様はわたしを救ってくれたように、きっと孤児院を救う決断をするのだろうと。
本心では、ずっとこのまま2人きりで暮らしていきたいと、わたしは思っていました。
ですが同時に、コウヤ様はわたしが独占できるような方ではないと分かっていました。
これから先、沢山の人達を救う方です。
それに多分わたしが反対しても、最終的には救う決断をコウヤ様は下します。
なら、わたしの今やるべきことは、その後押ししてあげることしかないと思いました。
「コウヤ様……」
それだけ呟いて、視線でその気持ちを伝えます。
「あー、分かったよ。俺がこの物件を購入する。但し、ルーイヒさんよ、あんたにも責任が無い訳じゃないんだから、もうちょっと安くしてくれ」
どうやらわたしの気持ちは上手く伝わったらしく、コウヤ様は孤児院を救う決断をしてくれました。
これできっと、孤児院の子供たちは救われます。
ですが、わたしもそれをただ見ているだけではなく、後押しをした責任を取ってコウヤ様のお手伝いを頑張らないといけません。
心の中でそう強く思いました。
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