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私の名は、ステラルーシェ。
下界の者達からは女神と呼ばれている存在よ。
もっとも下界の者がイメージしているような万能の存在では決して無いし、何かと制約も多いから、正直この立場に私自身は辟易としているわ。
だからこそせめてもの慰みとして、下界の者達を使って退屈しのぎをやっても、許されるとは思わない?
だけど、上の者達はそんな私の心情を理解してはくれず、私に残された管理領域はルーシェリア帝国と呼ばれる地域一帯だけとなってしまった。
その事にショックを受けた私に追い打ちを掛けたのは、妹――ステラシオンの存在だった。
私が失った管理領域の穴を埋めるべく、派遣されてきたのは妹だったのだ。
「ごめんなさいね、姉さん」
言葉こそは大人しいが、妹の表情には薄ら笑いが浮かんでいるように見える。
「あなた! 私を馬鹿にしてるでしょう!」
思わず私がそう叫ぶと、妹は大げさな程にビクっと驚きつつ、1歩2歩と後ろにさがる。
「そ、そんな……。誤解ですよ、姉さん」
元々感情の見えない喋り方をする妹ではあったのだが、その発言はなお不自然な程に棒読みだった。
それがまた、私の神経を逆なでする。
だがその感情の高ぶりをぶつけるべく、私が口を開こうとした瞬間、妹はスッと姿を消してしまった。
「逃げ足だけは早いんだから……っ」
そして私は決意したのだった。
下界の者達を動かして、妹から管理領域を取り返すことを。
……その決意の内訳には、新しい退屈しのぎが出来た事に対する喜びは、僅か半分程度しか含まれていなかった。
◆
そして、準備を進めること、幾年月。
私は通常の管理業務の傍ら、同時期に3人の勇者を召喚させる準備を整えた。
本来ならばシステムによって、招くことが出来る勇者は1人だけだと定められている。
その裏を掻く為の準備にそれなりの時間は要したが、無事に策は成功した。
そうして召喚した勇者は、男2人に女1人。
本当ならば、私好みの男だけで揃えたかったのだが、勇者召喚の条件を満たす存在はそうそう居ない。
男2人はまあ及第点と言っていい容姿だったので、それで我慢することにした。
◆
地球と呼ばれる星の日本という国から召喚した青年が、私の目の前には立っていた。
フワフワとした髪質の薄い金髪に、女性と見紛うような中性的な顔立ちをしている。
見た目だけなら、勇者の中で一番私好みだ。
「あの……。ここはどこなんでしょうか?」
いかにも気の弱そうな声で、彼は私にそう問い掛けてくる。
その様子が、妹の姿と重なり私をイラつかせる。
「ようこそ、セガワナギサ様。ここは世界の狭間です」
勿論、そんな内心など露程にも表に出さずに、私は優しい女神を演じる事に腐心する。
「あなたは一体……?」
「私は女神ステラルーシェと申します」
「女神?」
突然の状況に困惑している様子だが、優し気な姿を見せた事で、私に対する不信感などは無いようだ。
どうやらこのナギサという青年、思ったよりも単純な性格らしい。
これなら説得は楽そうだ。
「実はナギサ様にお願いしたい事があるのです」
そうして私は事情の説明を行う。
私の管理領域であるルーシェリア帝国が、南方で国土を接している神聖教国ステラシオンの脅威に晒されている事。
勇者として出向き、帝国を救ってほしい事をお願いした。
勿論、ただの人間のままではそんな事は不可能なので、勇者として相応しいだけの能力を与えた上でだ。
「任せて下さい、女神様! 僕、頑張ります!」
優しく慈悲深い女神を演じた私の説得により、ナギサはあっさりと応じた。
もっとも、見るからに私に惚れたような表情をしているので、それは当然の反応とも言えた。
……容姿こそ好みではあるが、それを私が求めたのは、単に観察対象が不細工だと見るに堪えなくて嫌だったからである。
正直、下界の者から好意を向けられてもただ気味が悪いだけだ。
その事に対し内心で辟易しつつも、私は笑顔で彼を見送った。
次にやって来たのは、黒髪短髪の眼鏡をかけた青年だった。
彼の出身もまたナギサ同様、日本という国である。
「ここは……?」
「ようこそ、カゲミネサトル様。ここは世界の狭間です」
私の言葉に対し、懐疑の色を多分に含んだ視線を向けてくる。
「訳が分からないな……」
パッと見はいかにも知的な印象だったのだが、それに反しどうにも気力に欠ける様子だ。
どうも面倒な相手を引いたようだと、若干げんなりするが、それは表に出さずに、ナギサにしたのと同じ事情説明を行う。
「まあ、退屈しのぎにはなるか……」
私の言葉に納得した様子は無く、かと言って何か反論する訳でもなく、終始気だるげな態度のまま、サトルはルーシェリア帝国へと旅立って行った。
その様子に私は多少の不満を覚えるが、どうせやり直しなど出来ないのだからと、すぐに彼については忘れる事にした。
最後にやって来たのは、カンザキツバキという女性だ。
これも他2人同様、日本出身である。
多分、カテゴリとしては美人に分類されるのだろうが、女性に興味が無い私にはどうでもいい事だ。
彼女とのやり取りは、適当に対応した割りには、存外上手くいったように思う。
詳細の説明は面倒なので省くが、彼女は無駄に正義感の強いタイプだったので、あっさりと言い含めることが出来たのだ。
◆
こうして、私は3人の勇者をルーシェリア帝国へと送り込んだ。
勿論、彼らが神聖教国ステラシオンを滅ぼしてくれれば、それが一番なのだ。
だが、仮に失敗するにしても、私の退屈を紛らわしてくれれば別にそれでいい。
そんなことを考えつつ、久しぶりの会話に疲れた私は、スヤスヤと眠りに就いたのだった。
下界の者達からは女神と呼ばれている存在よ。
もっとも下界の者がイメージしているような万能の存在では決して無いし、何かと制約も多いから、正直この立場に私自身は辟易としているわ。
だからこそせめてもの慰みとして、下界の者達を使って退屈しのぎをやっても、許されるとは思わない?
だけど、上の者達はそんな私の心情を理解してはくれず、私に残された管理領域はルーシェリア帝国と呼ばれる地域一帯だけとなってしまった。
その事にショックを受けた私に追い打ちを掛けたのは、妹――ステラシオンの存在だった。
私が失った管理領域の穴を埋めるべく、派遣されてきたのは妹だったのだ。
「ごめんなさいね、姉さん」
言葉こそは大人しいが、妹の表情には薄ら笑いが浮かんでいるように見える。
「あなた! 私を馬鹿にしてるでしょう!」
思わず私がそう叫ぶと、妹は大げさな程にビクっと驚きつつ、1歩2歩と後ろにさがる。
「そ、そんな……。誤解ですよ、姉さん」
元々感情の見えない喋り方をする妹ではあったのだが、その発言はなお不自然な程に棒読みだった。
それがまた、私の神経を逆なでする。
だがその感情の高ぶりをぶつけるべく、私が口を開こうとした瞬間、妹はスッと姿を消してしまった。
「逃げ足だけは早いんだから……っ」
そして私は決意したのだった。
下界の者達を動かして、妹から管理領域を取り返すことを。
……その決意の内訳には、新しい退屈しのぎが出来た事に対する喜びは、僅か半分程度しか含まれていなかった。
◆
そして、準備を進めること、幾年月。
私は通常の管理業務の傍ら、同時期に3人の勇者を召喚させる準備を整えた。
本来ならばシステムによって、招くことが出来る勇者は1人だけだと定められている。
その裏を掻く為の準備にそれなりの時間は要したが、無事に策は成功した。
そうして召喚した勇者は、男2人に女1人。
本当ならば、私好みの男だけで揃えたかったのだが、勇者召喚の条件を満たす存在はそうそう居ない。
男2人はまあ及第点と言っていい容姿だったので、それで我慢することにした。
◆
地球と呼ばれる星の日本という国から召喚した青年が、私の目の前には立っていた。
フワフワとした髪質の薄い金髪に、女性と見紛うような中性的な顔立ちをしている。
見た目だけなら、勇者の中で一番私好みだ。
「あの……。ここはどこなんでしょうか?」
いかにも気の弱そうな声で、彼は私にそう問い掛けてくる。
その様子が、妹の姿と重なり私をイラつかせる。
「ようこそ、セガワナギサ様。ここは世界の狭間です」
勿論、そんな内心など露程にも表に出さずに、私は優しい女神を演じる事に腐心する。
「あなたは一体……?」
「私は女神ステラルーシェと申します」
「女神?」
突然の状況に困惑している様子だが、優し気な姿を見せた事で、私に対する不信感などは無いようだ。
どうやらこのナギサという青年、思ったよりも単純な性格らしい。
これなら説得は楽そうだ。
「実はナギサ様にお願いしたい事があるのです」
そうして私は事情の説明を行う。
私の管理領域であるルーシェリア帝国が、南方で国土を接している神聖教国ステラシオンの脅威に晒されている事。
勇者として出向き、帝国を救ってほしい事をお願いした。
勿論、ただの人間のままではそんな事は不可能なので、勇者として相応しいだけの能力を与えた上でだ。
「任せて下さい、女神様! 僕、頑張ります!」
優しく慈悲深い女神を演じた私の説得により、ナギサはあっさりと応じた。
もっとも、見るからに私に惚れたような表情をしているので、それは当然の反応とも言えた。
……容姿こそ好みではあるが、それを私が求めたのは、単に観察対象が不細工だと見るに堪えなくて嫌だったからである。
正直、下界の者から好意を向けられてもただ気味が悪いだけだ。
その事に対し内心で辟易しつつも、私は笑顔で彼を見送った。
次にやって来たのは、黒髪短髪の眼鏡をかけた青年だった。
彼の出身もまたナギサ同様、日本という国である。
「ここは……?」
「ようこそ、カゲミネサトル様。ここは世界の狭間です」
私の言葉に対し、懐疑の色を多分に含んだ視線を向けてくる。
「訳が分からないな……」
パッと見はいかにも知的な印象だったのだが、それに反しどうにも気力に欠ける様子だ。
どうも面倒な相手を引いたようだと、若干げんなりするが、それは表に出さずに、ナギサにしたのと同じ事情説明を行う。
「まあ、退屈しのぎにはなるか……」
私の言葉に納得した様子は無く、かと言って何か反論する訳でもなく、終始気だるげな態度のまま、サトルはルーシェリア帝国へと旅立って行った。
その様子に私は多少の不満を覚えるが、どうせやり直しなど出来ないのだからと、すぐに彼については忘れる事にした。
最後にやって来たのは、カンザキツバキという女性だ。
これも他2人同様、日本出身である。
多分、カテゴリとしては美人に分類されるのだろうが、女性に興味が無い私にはどうでもいい事だ。
彼女とのやり取りは、適当に対応した割りには、存外上手くいったように思う。
詳細の説明は面倒なので省くが、彼女は無駄に正義感の強いタイプだったので、あっさりと言い含めることが出来たのだ。
◆
こうして、私は3人の勇者をルーシェリア帝国へと送り込んだ。
勿論、彼らが神聖教国ステラシオンを滅ぼしてくれれば、それが一番なのだ。
だが、仮に失敗するにしても、私の退屈を紛らわしてくれれば別にそれでいい。
そんなことを考えつつ、久しぶりの会話に疲れた私は、スヤスヤと眠りに就いたのだった。
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