ロマンスの壊し方教えます!

三谷朱花

文字の大きさ
5 / 33

5話目 まさかの出来事

しおりを挟む
 予想外の話の流れで、ケイトはそのままサムフォード家で働き続けることになった。そして、大枠ではあるが、ケイトの出産後も仕事を続けられる方法がまとまり、仕事をしていない間も、給与は出せないけれど部屋はそのまま使っていいとの話になり、ケイトはホッとしてレインの部屋を辞すことになった。働けない間の生活を賄うくらいの蓄えはある。
 亡くなってしまったサムフォード男爵も奥様も、使用人たちにはお金を蓄えることを推奨していた。商売人であったからこその視点だったろうが、今のケイトにとっては、本当に助かっている。

 ある意味特別扱いになることに、同僚の目が気にはなったが、妊娠しているが結婚の予定がないこと、そしてそのままサムフォード家にいること、がフォレスの口から他の使用人たちに告げられると、その反応は予想以上に温かいものだった。
 結婚しない理由を知りたがる同僚もいたが、他の仲のいい同僚たちがそんな質問を蹴散らしてくれて、ケイトは良い職場に恵まれたことを感謝するだけだった。

 つわりの時期が過ぎると、ケイトのお腹は少しだけ出てきたが、仕事には支障がない体調で、気遣われる方が申し訳なくなるくらいだった。だが、力仕事はやらないように、同僚たちに口酸っぱく言われていて、ケイトは申し訳ないながらもありがたくその好意を受け取っていた。
 ケイトたち使用人たちの世界は、平和とも言える状況だったが、サムフォード男爵家には、外からもたらされた不穏な空気が立ち込めていた。
 
 今、サムフォード男爵家にはクォーレ公爵家からの客人が来ていて、その警護をしていたクォーレ公爵家の騎士が、大けがをしてしまった。そのせいでサムフォード家はバタバタしていて、客人のために代わりとなる騎士がやって来ることになっていた。
 そしてその出迎えを、ケイトは任されていた。部屋を用意し、準備万端となったところで、新しい騎士の到着が知らされた。

 ケイトは少し突き出たお腹を気遣いながら、階段を下っていく。階段の下のホールには、若い騎士が立っていた。
「いらっしゃいませ」
 その騎士は、階段から降りてくるケイトをじっと見つめていた。
 きっと妊婦が働いているのが珍しいせいだろうとケイトは思う。
 実際、あまり表にはでないケイトだが、お客様の前に立つことがあると、物珍しそうな視線を嫌でも感じる。それでも雇い主であるレインやミアが力強くこれからの職業婦人について熱弁するのを聞くと、ここで働いていることが誇らしくさえあった。

「ケイトさん!」
 ケイトはその騎士とは初対面かと思ったが、どうやらどこかで名前は知られていたらしいと思う。そもそもクォーレ公爵家には2週間ほどしか滞在しておらず、ケイトもすべての騎士を覚えることは難しかった。
「はい、何でしょうか?」
 騎士が突然片ひざをついた。突然座った騎士をぎょっとして見たケイトは、目を伏せたその顔に、記憶が刺激された。

「私、クリス・ホイラーと結婚してください!」
 その言葉と、その騎士があの一晩の相手だと思い出したのは、同時だった。差し出された手を、ケイトは唖然として見る。
「ケイト、さん?」
 上目使いのクリスに、ケイトは我に返った。
 そしてにっこりと笑う。
「申し訳ありませんがご希望にはお応えできません」
 ケイトを見上げた騎士が、呆然と目を見開く。

「では、クリスさん、とりあえずお部屋に案内しますわ」
「え? ケイトさん、あの、えーっと……」
「クリスさん、どうかしましたか?」
 にっこりと笑うケイトは、先程のクリスの申し出をなかったことにした。元々頼りにしていなかったわけだが、いきなり出てきて父親の権利を主張されても困るし、これからのケイトの人生設計にもクリスの存在などなかったからだ。

「え、いや、あの……今、プロポーズしたんですが……」
「さあ、早く部屋にいって荷物を置いてきましょう。新しい生け贄をお待ちですよ? 従業員用の食堂はあちらで、浴場はその奥にあります」
 にこりと聞き流すケイトにクリスはヒクリと笑う。生け贄という言葉に、嫌な予感がしたせいかもしれなかった。クォーレ家の客人はかなり変わり者だからだ。

 結局クリスはそれ以上、ケイトに主張してくることはなかった。
 これからのことを思うと少々ケイトの心は重かったが、クリスを客人の部屋に案内してこの仕事を終えたケイトは、ホッと息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

氷の公爵の婚姻試験

潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

無実の令嬢と魔法使いは、今日も地味に骨折を治す

月山 歩
恋愛
舞踏会の夜、階段の踊り場である女性が階段を転げ落ちた。キャロライナは突き落としたと疑いをかけられて、牢へ入れられる。家族にも、婚約者にも見放され、一生幽閉の危機を、助けてくれたのは、見知らぬ魔法使いで、共に彼の国へ。彼の魔法とキャロライナのギフトを使い、人助けすることで、二人の仲は深まっていく。

よめかわ

ariya
恋愛
遊び人として名高い貴族・夏基は、不祥事の罰として「醜聞の姫」白川殿と政略結婚することに。 初夜、暗い印象しかなかった姫の顔を初めて見た瞬間――大きな黒目がちな瞳、薄桜色の頬、恥ずかしげに俯く仕草に、夏基は衝撃を受ける。 (可愛すぎる……こんな姫が俺の妻!?) 亡き恋人への想いを捨てきれず、夫を拒む白川殿。 それでも夏基は過去の女たちに別れを告げ、花を贈り、文を重ね、誠心誠意尽くして彼女の心を溶かしていく。 儚くて純粋で、泣き顔さえ愛らしい姫を、夏基はもう手放せない―― 平安貴族の切なく甘い、極上よめかわ恋物語。 ※縦読み推奨です。 ※過去に投稿した小説を加筆修正しました。 ※小説家になろう、カクヨム、NOVELDAYにも投稿しています。

処理中です...