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5話目 まさかの出来事
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予想外の話の流れで、ケイトはそのままサムフォード家で働き続けることになった。そして、大枠ではあるが、ケイトの出産後も仕事を続けられる方法がまとまり、仕事をしていない間も、給与は出せないけれど部屋はそのまま使っていいとの話になり、ケイトはホッとしてレインの部屋を辞すことになった。働けない間の生活を賄うくらいの蓄えはある。
亡くなってしまったサムフォード男爵も奥様も、使用人たちにはお金を蓄えることを推奨していた。商売人であったからこその視点だったろうが、今のケイトにとっては、本当に助かっている。
ある意味特別扱いになることに、同僚の目が気にはなったが、妊娠しているが結婚の予定がないこと、そしてそのままサムフォード家にいること、がフォレスの口から他の使用人たちに告げられると、その反応は予想以上に温かいものだった。
結婚しない理由を知りたがる同僚もいたが、他の仲のいい同僚たちがそんな質問を蹴散らしてくれて、ケイトは良い職場に恵まれたことを感謝するだけだった。
つわりの時期が過ぎると、ケイトのお腹は少しだけ出てきたが、仕事には支障がない体調で、気遣われる方が申し訳なくなるくらいだった。だが、力仕事はやらないように、同僚たちに口酸っぱく言われていて、ケイトは申し訳ないながらもありがたくその好意を受け取っていた。
ケイトたち使用人たちの世界は、平和とも言える状況だったが、サムフォード男爵家には、外からもたらされた不穏な空気が立ち込めていた。
今、サムフォード男爵家にはクォーレ公爵家からの客人が来ていて、その警護をしていたクォーレ公爵家の騎士が、大けがをしてしまった。そのせいでサムフォード家はバタバタしていて、客人のために代わりとなる騎士がやって来ることになっていた。
そしてその出迎えを、ケイトは任されていた。部屋を用意し、準備万端となったところで、新しい騎士の到着が知らされた。
ケイトは少し突き出たお腹を気遣いながら、階段を下っていく。階段の下のホールには、若い騎士が立っていた。
「いらっしゃいませ」
その騎士は、階段から降りてくるケイトをじっと見つめていた。
きっと妊婦が働いているのが珍しいせいだろうとケイトは思う。
実際、あまり表にはでないケイトだが、お客様の前に立つことがあると、物珍しそうな視線を嫌でも感じる。それでも雇い主であるレインやミアが力強くこれからの職業婦人について熱弁するのを聞くと、ここで働いていることが誇らしくさえあった。
「ケイトさん!」
ケイトはその騎士とは初対面かと思ったが、どうやらどこかで名前は知られていたらしいと思う。そもそもクォーレ公爵家には2週間ほどしか滞在しておらず、ケイトもすべての騎士を覚えることは難しかった。
「はい、何でしょうか?」
騎士が突然片ひざをついた。突然座った騎士をぎょっとして見たケイトは、目を伏せたその顔に、記憶が刺激された。
「私、クリス・ホイラーと結婚してください!」
その言葉と、その騎士があの一晩の相手だと思い出したのは、同時だった。差し出された手を、ケイトは唖然として見る。
「ケイト、さん?」
上目使いのクリスに、ケイトは我に返った。
そしてにっこりと笑う。
「申し訳ありませんがご希望にはお応えできません」
ケイトを見上げた騎士が、呆然と目を見開く。
「では、クリスさん、とりあえずお部屋に案内しますわ」
「え? ケイトさん、あの、えーっと……」
「クリスさん、どうかしましたか?」
にっこりと笑うケイトは、先程のクリスの申し出をなかったことにした。元々頼りにしていなかったわけだが、いきなり出てきて父親の権利を主張されても困るし、これからのケイトの人生設計にもクリスの存在などなかったからだ。
「え、いや、あの……今、プロポーズしたんですが……」
「さあ、早く部屋にいって荷物を置いてきましょう。新しい生け贄をお待ちですよ? 従業員用の食堂はあちらで、浴場はその奥にあります」
にこりと聞き流すケイトにクリスはヒクリと笑う。生け贄という言葉に、嫌な予感がしたせいかもしれなかった。クォーレ家の客人はかなり変わり者だからだ。
結局クリスはそれ以上、ケイトに主張してくることはなかった。
これからのことを思うと少々ケイトの心は重かったが、クリスを客人の部屋に案内してこの仕事を終えたケイトは、ホッと息をついた。
亡くなってしまったサムフォード男爵も奥様も、使用人たちにはお金を蓄えることを推奨していた。商売人であったからこその視点だったろうが、今のケイトにとっては、本当に助かっている。
ある意味特別扱いになることに、同僚の目が気にはなったが、妊娠しているが結婚の予定がないこと、そしてそのままサムフォード家にいること、がフォレスの口から他の使用人たちに告げられると、その反応は予想以上に温かいものだった。
結婚しない理由を知りたがる同僚もいたが、他の仲のいい同僚たちがそんな質問を蹴散らしてくれて、ケイトは良い職場に恵まれたことを感謝するだけだった。
つわりの時期が過ぎると、ケイトのお腹は少しだけ出てきたが、仕事には支障がない体調で、気遣われる方が申し訳なくなるくらいだった。だが、力仕事はやらないように、同僚たちに口酸っぱく言われていて、ケイトは申し訳ないながらもありがたくその好意を受け取っていた。
ケイトたち使用人たちの世界は、平和とも言える状況だったが、サムフォード男爵家には、外からもたらされた不穏な空気が立ち込めていた。
今、サムフォード男爵家にはクォーレ公爵家からの客人が来ていて、その警護をしていたクォーレ公爵家の騎士が、大けがをしてしまった。そのせいでサムフォード家はバタバタしていて、客人のために代わりとなる騎士がやって来ることになっていた。
そしてその出迎えを、ケイトは任されていた。部屋を用意し、準備万端となったところで、新しい騎士の到着が知らされた。
ケイトは少し突き出たお腹を気遣いながら、階段を下っていく。階段の下のホールには、若い騎士が立っていた。
「いらっしゃいませ」
その騎士は、階段から降りてくるケイトをじっと見つめていた。
きっと妊婦が働いているのが珍しいせいだろうとケイトは思う。
実際、あまり表にはでないケイトだが、お客様の前に立つことがあると、物珍しそうな視線を嫌でも感じる。それでも雇い主であるレインやミアが力強くこれからの職業婦人について熱弁するのを聞くと、ここで働いていることが誇らしくさえあった。
「ケイトさん!」
ケイトはその騎士とは初対面かと思ったが、どうやらどこかで名前は知られていたらしいと思う。そもそもクォーレ公爵家には2週間ほどしか滞在しておらず、ケイトもすべての騎士を覚えることは難しかった。
「はい、何でしょうか?」
騎士が突然片ひざをついた。突然座った騎士をぎょっとして見たケイトは、目を伏せたその顔に、記憶が刺激された。
「私、クリス・ホイラーと結婚してください!」
その言葉と、その騎士があの一晩の相手だと思い出したのは、同時だった。差し出された手を、ケイトは唖然として見る。
「ケイト、さん?」
上目使いのクリスに、ケイトは我に返った。
そしてにっこりと笑う。
「申し訳ありませんがご希望にはお応えできません」
ケイトを見上げた騎士が、呆然と目を見開く。
「では、クリスさん、とりあえずお部屋に案内しますわ」
「え? ケイトさん、あの、えーっと……」
「クリスさん、どうかしましたか?」
にっこりと笑うケイトは、先程のクリスの申し出をなかったことにした。元々頼りにしていなかったわけだが、いきなり出てきて父親の権利を主張されても困るし、これからのケイトの人生設計にもクリスの存在などなかったからだ。
「え、いや、あの……今、プロポーズしたんですが……」
「さあ、早く部屋にいって荷物を置いてきましょう。新しい生け贄をお待ちですよ? 従業員用の食堂はあちらで、浴場はその奥にあります」
にこりと聞き流すケイトにクリスはヒクリと笑う。生け贄という言葉に、嫌な予感がしたせいかもしれなかった。クォーレ家の客人はかなり変わり者だからだ。
結局クリスはそれ以上、ケイトに主張してくることはなかった。
これからのことを思うと少々ケイトの心は重かったが、クリスを客人の部屋に案内してこの仕事を終えたケイトは、ホッと息をついた。
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