ヒロインは辞退したいと思います。

三谷朱花

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「例え庶子とは言え、それはおかしいだろう?」

 フェルナン様の視線が揺れて、厳しい色が少し薄れる。
 少しは、信じて貰えたのかもしれない。

「私は、駒にはなりたくないのです。元々市井で暮らしていましたので、手に職さえあれば、特には困りません。だから、アンリエット様にマナーを教えていただいています」

 本音を告げると、フェルナン様が小さく息をついた。

「本当かどうかは、まだ信じられないが……ひとまず、そういうことにしておこう」
「私が王子妃の座を狙っているのか心配されているんですよね? 何だったら、殿下とアンリエット様の仲を良いものに出来るようにお手伝いしたいくらいなんですが」

 え、と声を漏らしたのは、アンリエット様だった。
 それは、戸惑いの声だ。
 ……まあ、邪魔してた本人に、仲を取り持つって言われても、流石に信じられないか。

「殿下とアンリエット様の仲を……?」
 
 フェルナン様が、伺うようにアンリエット様を見る。
 アンリエット様とフェルナン様の視線が、交じる。
 そこには、私は聞こえない言葉が載せられているように見えた。

 ……そうか。
 私が駒であるように、アンリエット様だって、駒でもあるんだ。
 そこに、気持ちがあるかどうかは、別だ。

 アンリエット様が、目をそっと伏せると、フェルナン様が瞳を揺らした。

 ああ。
 二人の気持ちは、本当は一つなのかもしれない。
 幼馴染である二人が、互いを想い合っていたとしても、何もおかしくはない。

 叶わぬ恋。

 ……私は、その手伝いをしないといけないんじゃないのかな?
 だって、あの馬鹿王子に、アンリエット様は勿体なさ過ぎる。
 それに、が望んだハッピーエンドが見れるなら。

「もしかして、アンリエット様は、殿下との婚約を破棄したいのですか?」

 アンリエット様が、ピクリと動く。
 フェルナン様が、私をぎろりと睨む。

「やはり、」
 
 あ。不味い。勘違いさせてしまった!

「違います! 他にお慕いしている方がいらっしゃるんじゃないかって……」
「言いがかりをつけて、その座を奪うつもりなのか?」
「違います! アンリエット様に幸せになって欲しいんです!」
「そうよ」
「アンリエット様!」

 慌てるフェルナン様をよそに、アンリエット様が微笑む。

「お慕いしている方がいるわ。だけど、私の幸せは、国民と共にあるの。だから、殿下との結婚が必要なの。殿下が誰かを好きだとしても、関係ないわ」

 アンリエット様は、妃となるために生まれてきた人なんだ。
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