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「リリー、と申します」
本名を名乗った方がいいかと思ったけど、偽名にしておいた。
カテシーは、アンリエット様に習ったまま、正しく行う。
目の前には、私より二回りほど上の、ラクロワ子爵が座っている。
お父様と同じくらいの年かもしれない。
鍛えていそうな体は、お父様と全く違うけれど。
「美しい所作ですね」
落ち着いた声に、少なくとも嫌悪感はなかった。
「アンリエット様に、教えていただきました」
「ほぉ。話には聞いていましたが、アンリエット様が目を掛けておられるのですね」
誰に聞いたんだろう、という疑問は、取り敢えず押し込めた。
そっとお誕生日席に座るアンリエット様を見ると、微笑み返されただけだ。
心の中でため息をついて、笑顔を作る。
「リリー、座って」
アンリエット様に促されるままに、ソファーに腰掛ける。
どう考えても、お見合いだ。
膝の上に置いた手が、汗ばむ。
どんな断り文句ならば、アンリエット様の立場を悪くしないのか、頭の中はずっと動いている。
だけど、決定的な言葉を思いつかないでいた。
「リリー嬢、今日は君に話があってきたんです」
「一体、どんな話でしょうか?」
声が固くなる。
すると、ラクロワ子爵が、困ったように笑う。
「固くなる必要はありません。リリー嬢を、我が家の養子として受け入れたいという話です」
「……養子?」
予想もしなかった単語に、私はアンリエット様を見る。
アンリエット様は、嬉しそうに笑っている。
どうやら、私をだませたことを喜んでいるらしい。
人が、悪い。
きっと、私にとって悪い話じゃないと受けたのだろう。
「大変申し訳ありません。……私は、子爵家に養子にしていただけるような身分ではありません」
ロビアン王国を逃げてきて、表舞台に立てるわけがない。
だけど、そんな事情を説明するわけにもいかない。
「でも、ロビアン王国では、男爵令嬢なのでしょう?」
ラクロワ子爵の言葉に、私はアンリエット様を見る。
アンリエット様が漏らしたとは、思いたくなかった。
「子爵は、全て知っているのです」
アンリエット様が淡々と告げる。
「アンリエット様!」
「リリー嬢、悪い話にはしません。侍女は続けていい。ただ、我が家の養女になるだけの話だ」
「そんなこと、子爵家にとって、何のメリットもないではありませんか。それに、お父様が気づいたら、迷惑が掛かります」
「ソシエール男爵の手は、私のところには及びません」
ラクロワ子爵の言葉を鵜呑みにはできなかった。
本名を名乗った方がいいかと思ったけど、偽名にしておいた。
カテシーは、アンリエット様に習ったまま、正しく行う。
目の前には、私より二回りほど上の、ラクロワ子爵が座っている。
お父様と同じくらいの年かもしれない。
鍛えていそうな体は、お父様と全く違うけれど。
「美しい所作ですね」
落ち着いた声に、少なくとも嫌悪感はなかった。
「アンリエット様に、教えていただきました」
「ほぉ。話には聞いていましたが、アンリエット様が目を掛けておられるのですね」
誰に聞いたんだろう、という疑問は、取り敢えず押し込めた。
そっとお誕生日席に座るアンリエット様を見ると、微笑み返されただけだ。
心の中でため息をついて、笑顔を作る。
「リリー、座って」
アンリエット様に促されるままに、ソファーに腰掛ける。
どう考えても、お見合いだ。
膝の上に置いた手が、汗ばむ。
どんな断り文句ならば、アンリエット様の立場を悪くしないのか、頭の中はずっと動いている。
だけど、決定的な言葉を思いつかないでいた。
「リリー嬢、今日は君に話があってきたんです」
「一体、どんな話でしょうか?」
声が固くなる。
すると、ラクロワ子爵が、困ったように笑う。
「固くなる必要はありません。リリー嬢を、我が家の養子として受け入れたいという話です」
「……養子?」
予想もしなかった単語に、私はアンリエット様を見る。
アンリエット様は、嬉しそうに笑っている。
どうやら、私をだませたことを喜んでいるらしい。
人が、悪い。
きっと、私にとって悪い話じゃないと受けたのだろう。
「大変申し訳ありません。……私は、子爵家に養子にしていただけるような身分ではありません」
ロビアン王国を逃げてきて、表舞台に立てるわけがない。
だけど、そんな事情を説明するわけにもいかない。
「でも、ロビアン王国では、男爵令嬢なのでしょう?」
ラクロワ子爵の言葉に、私はアンリエット様を見る。
アンリエット様が漏らしたとは、思いたくなかった。
「子爵は、全て知っているのです」
アンリエット様が淡々と告げる。
「アンリエット様!」
「リリー嬢、悪い話にはしません。侍女は続けていい。ただ、我が家の養女になるだけの話だ」
「そんなこと、子爵家にとって、何のメリットもないではありませんか。それに、お父様が気づいたら、迷惑が掛かります」
「ソシエール男爵の手は、私のところには及びません」
ラクロワ子爵の言葉を鵜呑みにはできなかった。
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