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いつもの光景

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「8時34分21秒。アリスがあくびをした」
 カリカリとハースがペンを走らせる。
「ねえ、ハース。あくびまで書かないでほしいんだけど」
 アリスが口を覆っていた手をそろそろと外す。
「8時35分9秒。アリスに文句を言われる。あくびまで書かないでほしい」
 アリスは呆れた目をして、首をふった。

「ねえ、ケリー。おかしいと思わない?」
 アリスは、前に座っていたケリーに尋ねる。
「何が?」
 ケリーは首をかしげている。
「何がって……ハースのことよ」
 アリスの訴えに、ケリーは首をかしげたままだ。

「いつもと同じでしょう?」
 ケリーの返事に、アリスは目を見開いて、激しく首を横にふった。
「そういうことじゃなくて、おかしいでしょう?」
「何が?」
「だから、事細かに、私のことを記録してること!」

 アリスは力を込めた。でもケリーはアリスの期待を裏切って、首を横にふった。
「もう3年目になると、むしろないほうが違和感だわ。昨日みたいにね」
 昨日の出来事を口にされて、アリスが顔を赤らめる。
 昨日ハースがアリスに冷たくしてきて、そのことがショックでいたたまれなくなって、アリスは教室を出ていった。

 結局は、アリスが前に言ったことをハースが実行しようとしていた結果なのだが、ハースが「アリスに構わないなんて死んだようなものだ」というので、「いつも通りでいい」と告げた。
 その時、確かにホッとしたし、いつもと違うのが嫌だと思ったが、アリスの感情を指摘されたような気がして、恥ずかしかったのだ。

「アリスだって、ないと寂しいくせに」
 ケリーのことばに、アリスは顔をそむける。
「そんなこと、ないわ」
 でも、そう言ったアリスの顔は赤かった。

「8時49分2秒。ケリーと口論の末、俺のことを好きだと告白」
「どうしてそこだけまとめるの! しかも告白なんてしてないわ」
 真っ赤な顔のアリスに、ケリーを始めとするクラスメイトたちは、したも同然だと心の中でハースに同意した。

「8時50分ジャスト。アリスの顔が真っ赤でかわいい」
 アリスがふい、とハースから顔を背けた。
 クラスメイトたちは、心の中で「ごちそうさま」と呟いた。 
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