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アリーナは手のひらサイズの紙を二つ折りにして主催者側の人間に渡す。
これは、カップリングに必要な作業で、誰のことも記憶になくたって、この紙は出さないといけない。
紙を受け取った主催者側の人間は、ちらりと中を覗くと軽く眉をひそめて、何か言いたそうにアリーナを見たが、そっと細く息を吐いて、その気持ちを落ち着かせたようだった。
アリーナはアリーナで何か言われるかも、と少しは身構えていたけれど、何も言われないとわかって、ほっと息をついた。まあ、侯爵家の娘であるアリーナに何か意見ができるとすれば、この会の主催者である伯爵か、同等またはそれ以上の身分でなければ無理だろう。この婚活パーティーの主催者は伯爵家で、残念ながらアリーナの行動をとがめることができる人間が伯爵しかいなかった。
アリーナは女性なので、あの紙には男性の名前を書かないといけない。
だが、アリーナはこともあろうに21番と書いて出した。
……この場で番号を書くのは男性側だ。
もともとアリーナは白紙で出してしまおうと思っていたくらいだったのだが、21番のグラタンを3回……いや4回目にお代わりした時に、ピンと思いついてしまったのだ。
21番のご飯が食べたいと思うんだから、21番と書いてしまえ、と。
主催者側が眉を顰めるのも当然だ。
だが、あんな料理を持ってきたアリーナが、そもそもカップリングが成立するわけもないんだし、こんないたずら笑って見てくれていいと思うんだけど、とアリーナはひとりごちる。
もうカップリングの発表など、完全に他人事だ。
そもそも今回のパーティーは、料理は完全に21番の一人勝ちで、カップルになる人たちもきっと少ないだろうとアリーナは踏んでいる。男性側もライの一人勝ちと言ってもいいだろうし、今回はほとんどカップルにはなれないんじゃないかと思っているくらいだ。一人くらいお遊びで書いてもいいじゃないかと言うのが、アリーナの言い訳だ。
参加者たちが渡した紙を全部受け取った主催者側の人間は、一旦別室に移動して、それほど時間を置かずに戻ってきた。
さて、21番は誰とくっついたんだろうな、とアリーナは余興を見るような気持で発表を待つ。そもそも料理の番号は発表されることはない。知っているのはカップリングされた男性側だけとなるから、21番の料理を作ったのが誰なのかは、アリーナの知る由もないのだが。
「今回成立したカップルは、3組です」
主催者側の発表に、会場がざわめく。
この数が多いのか少ないのかはアリーナにはわからないが、女性たちの嘆き様からして、少ないのかもしれない。
1組目のカップルの名前が呼ばれて、二人がそれぞれに前に出てくる。
周りが拍手をし始めたから付き合うように拍手を始めたけど、アリーナは、その女性をじっと見ている。これが21番かもしれないと思うと、お友達になっていいんじゃないかと考え始めていた。
次のカップルの名前が呼ばれて、またアリーナはその女性をじっと見る。もしかしたらこっちが21番っぽいかも? ……だが、顔だけで料理がわかるわけもないので、アリーナは決めた。
3人と友達になろう、と。
アリーナは結婚願望がないだけで、別段コミュニケーション障害なわけではない。この国に求められる結婚相手の女性像から外れているだけで……。
そこまで考えて、アリーナははた、と止まる。この令嬢たちは、学年が3つ以上は違うのはもちろん、そもそもアリーナが知らないんだから、進学した学校も違うはずで、知り合いでも何でもない。そもそもアリーナがこの場にいる貴族の令息も令嬢も名前と顔が一致しないのは、少なくとも10年近くこういう交流の場に出てこなかったせいだ。10年前の彼らなどまだまだ子供で、その面影を残す人間は一握りだからだ。
残念ながら10年前には頭に入れていた貴族たちの顔も、すっかり他の事柄に占領されて追い出され、誰に似ている、ということすら出てこない。そのせいでどの令息を見ても令嬢を見ても、家名すらわからない。
まあいいか、とアリーナはため息をつく。
どうせ21番が誰かわかったところで、彼女の家に食べに行く暇すらほとんど無いのだ。
日々の家と職場の往復と夜遅くに帰るせいでたまにある休日など体を休めるしかない。うちで食べられるならまだしも、人の家まで行く気力など沸きもしない。
もう一度ため息をつくと、アリーナは自分の前に人が立っているのに気付く。
顔をあげれば、そこにはアリーナの料理を唯一口にしたライが立っていた。
何か用だろうか? 疑問はわくが、自分の中には答えは出ない。
「アリーナ嬢」
なぜか呆れたようなライの声に、アリーナは首をかしげる。
「何でしょう?」
「先程から名前を呼ばれているんですよ?」
アリーナは不思議に思いながら回りを見回す。カップリングの発表以外に何か名前を呼ばれるイベントがあるとは知らなかった。と思いながら。
だが、見回して疑問はさらに膨らんだ。確かに名前を呼ばれたのかもしれないが、会場中の視線を集めることがあるとは思っても見なかったからだ。
「えーっと?」
アリーナが焦ってライを見れば、ライが恭しく手を差し出す。
「はい?」
その手の意味が、アリーナには理解できない。
「カップル成立です」
アリーナに今日一番の衝撃が走る。
これは、カップリングに必要な作業で、誰のことも記憶になくたって、この紙は出さないといけない。
紙を受け取った主催者側の人間は、ちらりと中を覗くと軽く眉をひそめて、何か言いたそうにアリーナを見たが、そっと細く息を吐いて、その気持ちを落ち着かせたようだった。
アリーナはアリーナで何か言われるかも、と少しは身構えていたけれど、何も言われないとわかって、ほっと息をついた。まあ、侯爵家の娘であるアリーナに何か意見ができるとすれば、この会の主催者である伯爵か、同等またはそれ以上の身分でなければ無理だろう。この婚活パーティーの主催者は伯爵家で、残念ながらアリーナの行動をとがめることができる人間が伯爵しかいなかった。
アリーナは女性なので、あの紙には男性の名前を書かないといけない。
だが、アリーナはこともあろうに21番と書いて出した。
……この場で番号を書くのは男性側だ。
もともとアリーナは白紙で出してしまおうと思っていたくらいだったのだが、21番のグラタンを3回……いや4回目にお代わりした時に、ピンと思いついてしまったのだ。
21番のご飯が食べたいと思うんだから、21番と書いてしまえ、と。
主催者側が眉を顰めるのも当然だ。
だが、あんな料理を持ってきたアリーナが、そもそもカップリングが成立するわけもないんだし、こんないたずら笑って見てくれていいと思うんだけど、とアリーナはひとりごちる。
もうカップリングの発表など、完全に他人事だ。
そもそも今回のパーティーは、料理は完全に21番の一人勝ちで、カップルになる人たちもきっと少ないだろうとアリーナは踏んでいる。男性側もライの一人勝ちと言ってもいいだろうし、今回はほとんどカップルにはなれないんじゃないかと思っているくらいだ。一人くらいお遊びで書いてもいいじゃないかと言うのが、アリーナの言い訳だ。
参加者たちが渡した紙を全部受け取った主催者側の人間は、一旦別室に移動して、それほど時間を置かずに戻ってきた。
さて、21番は誰とくっついたんだろうな、とアリーナは余興を見るような気持で発表を待つ。そもそも料理の番号は発表されることはない。知っているのはカップリングされた男性側だけとなるから、21番の料理を作ったのが誰なのかは、アリーナの知る由もないのだが。
「今回成立したカップルは、3組です」
主催者側の発表に、会場がざわめく。
この数が多いのか少ないのかはアリーナにはわからないが、女性たちの嘆き様からして、少ないのかもしれない。
1組目のカップルの名前が呼ばれて、二人がそれぞれに前に出てくる。
周りが拍手をし始めたから付き合うように拍手を始めたけど、アリーナは、その女性をじっと見ている。これが21番かもしれないと思うと、お友達になっていいんじゃないかと考え始めていた。
次のカップルの名前が呼ばれて、またアリーナはその女性をじっと見る。もしかしたらこっちが21番っぽいかも? ……だが、顔だけで料理がわかるわけもないので、アリーナは決めた。
3人と友達になろう、と。
アリーナは結婚願望がないだけで、別段コミュニケーション障害なわけではない。この国に求められる結婚相手の女性像から外れているだけで……。
そこまで考えて、アリーナははた、と止まる。この令嬢たちは、学年が3つ以上は違うのはもちろん、そもそもアリーナが知らないんだから、進学した学校も違うはずで、知り合いでも何でもない。そもそもアリーナがこの場にいる貴族の令息も令嬢も名前と顔が一致しないのは、少なくとも10年近くこういう交流の場に出てこなかったせいだ。10年前の彼らなどまだまだ子供で、その面影を残す人間は一握りだからだ。
残念ながら10年前には頭に入れていた貴族たちの顔も、すっかり他の事柄に占領されて追い出され、誰に似ている、ということすら出てこない。そのせいでどの令息を見ても令嬢を見ても、家名すらわからない。
まあいいか、とアリーナはため息をつく。
どうせ21番が誰かわかったところで、彼女の家に食べに行く暇すらほとんど無いのだ。
日々の家と職場の往復と夜遅くに帰るせいでたまにある休日など体を休めるしかない。うちで食べられるならまだしも、人の家まで行く気力など沸きもしない。
もう一度ため息をつくと、アリーナは自分の前に人が立っているのに気付く。
顔をあげれば、そこにはアリーナの料理を唯一口にしたライが立っていた。
何か用だろうか? 疑問はわくが、自分の中には答えは出ない。
「アリーナ嬢」
なぜか呆れたようなライの声に、アリーナは首をかしげる。
「何でしょう?」
「先程から名前を呼ばれているんですよ?」
アリーナは不思議に思いながら回りを見回す。カップリングの発表以外に何か名前を呼ばれるイベントがあるとは知らなかった。と思いながら。
だが、見回して疑問はさらに膨らんだ。確かに名前を呼ばれたのかもしれないが、会場中の視線を集めることがあるとは思っても見なかったからだ。
「えーっと?」
アリーナが焦ってライを見れば、ライが恭しく手を差し出す。
「はい?」
その手の意味が、アリーナには理解できない。
「カップル成立です」
アリーナに今日一番の衝撃が走る。
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