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「アリーナ、どうかしましたか」
「ど、どうもしませんけど」
ソファーの隣に座ったライから自分が使ったのと同じ石鹸の匂いがして、アリーナは何だかどぎまぎする。
ライとの間にそっと隙間を作ったのは、アリーナが平静を保ちたかったからだ。
なのにライはその隙間をすぐに詰めてきた。
「えーっと、近すぎません」
「どうしてですか」
「近いです」
「好きな女性が隣にいるんですから、近寄りたくもなります」
「話し合いをするんなら近寄る必要ありませんよね」
そもそも3人座れるかどうかのソファーだ。ライに距離を詰められ、アリーナはソファーの一番端に押しやられた。
「私の気持ちを理解してもらいたいですから」
「いえ、必要ありません」
ライに手を取られそうになって、アリーナは慌てて手を後ろ手にする。触るな危険、という言葉がアリーナの頭をよぎった。
「必要あります。そもそもこれ、何の話し合いだと思ってるんですか」
「結婚を白紙にするための話し合いでしょ」
白々しくアリーナは言ってみた。
「違います。結婚を実現するための話し合いです」
にっこりと笑うライに、アリーナは、ハハ、とひきつった笑いが出るだけだ。
この温度差、既にこの話し合いは破綻していると言っていいんじゃないかとアリーナは思っている。多分、この話し合いはいつまでたっても平行線で交わることはありえない。
「さっき、ご飯を食べてるときにも言いましたよね? 私は今の仕事が続けたいんだと。私の家族にどう小細工しようと、私の気持ちは変わらないし、私が仕事を諦めることになるくらいだったら、家族との縁も切りますって」
アリーナの言葉に、ライの眉が下がる。
「そんなこと言わないでください。私はアリーナとご家族のつながりを断ち切りたいわけではないんですから」
「だったら、私との結婚を諦めてください」
「嫌です。アリーナとの結婚を諦めるなんてできません」
…ほら、やっぱり平行線だとアリーナはため息をつく。
ご飯を食べているときも、同じような会話が何度も繰り返されていた。だから、もう今日はこれくらいで話を終わりにしたいくらいなのだ。
「あ、手紙を書きたいので、便箋と封筒をいただけないですか」
とりあえず火急の用事であることを思い出して話を中断するためにもアリーナはライに頼む。
「…結婚しないって手紙をご両親に送るつもりですか」
「手紙を書けばどうにかなるなら、書きますけど」
「…いえ、辞めてください。そういう手紙でないのであればいくらでも。」
そういう手紙に近いものをアリーナは書こうとしているわけだが、取り合えず書く言葉は直接的な表現ではないので頷いた。
ライがソファーから立ち上がる。
「便箋一枚だけでいいです」
「…女性は手紙を書くのもお好きですよね? 一枚でいいんですか」
きっとこれまでも女性からの恋文でももらってきているのだろう。ライの発言は確信を持った言い方だった。まあ、アリーナはそうなんだろうな、と思っただけで、それ以外のことは思わなかったが。
「一枚で。」
むしろ半分でも事足りるくらいなんだけど、とアリーナは思う。たった一言しか書かないからだ。
「…誰に?」
その言葉で、立ち上がったライを見ていたアリーナは視線を外す。
「そこまで詮索されるんですか? 結婚しているわけでもないのに? いや、そもそも結婚したらそんなことまで束縛されるものなんですか? …耐えられそうにないですね」
アリーナがため息をつきながら首を横に振ると、ライが慌てる。
「いえ、アリーナが文をやり取りする相手にちょっと興味があっただけです。だから、束縛しているとかどうとかいう話ではありません」
「そう。なら良かった。私は束縛は望みません。嫉妬も私には不必要です。それを受けるくらいなら、一人でいる方がよっぽどいい。」
「…アリーナは、恋をしたことがないんですね」
そこまで言えば黙り込むかと思ったライが、思いもかけない言葉をかけてきて、アリーナはライを見る。
「恋、ですか」
「ええ、恋です」
にっこりとライが笑う。
「…感情の起伏があるということが煩わしいということしか知りませんけど」
「…その言い方だと、昔、恋をしたことがあるってことですか」
「一般論だと思いますけど。それに、詮索は好みません」
アリーナはライから視線を外す。
「…アリーナはつれないなぁ。」
そう言いながらも、ライの声は明るい。
「今の今までつれなくした記憶はありますがその反対の記憶はないですけどね」
「…確かに。でも私はアリーナと恋がしたいんですけどね」
「おひとりでお好きにどうぞ。」
アリーナは冷たく言い放ったにも関わらず、ライがクスリと笑う。
「一人では恋はできませんよ。相手が必要です」
「他をあたって下さい。それで、便箋と封筒は?」
「そんなアリーナも好きですよ。では、取ってきますね」
ライが2階に消える。
冷たくしているにも関わらず全く凹まないライに、アリーナの方が凹む。
一体どういう態度を取ったらライが諦めるのか、アリーナにはさっぱり思いつきそうになかった。
「ど、どうもしませんけど」
ソファーの隣に座ったライから自分が使ったのと同じ石鹸の匂いがして、アリーナは何だかどぎまぎする。
ライとの間にそっと隙間を作ったのは、アリーナが平静を保ちたかったからだ。
なのにライはその隙間をすぐに詰めてきた。
「えーっと、近すぎません」
「どうしてですか」
「近いです」
「好きな女性が隣にいるんですから、近寄りたくもなります」
「話し合いをするんなら近寄る必要ありませんよね」
そもそも3人座れるかどうかのソファーだ。ライに距離を詰められ、アリーナはソファーの一番端に押しやられた。
「私の気持ちを理解してもらいたいですから」
「いえ、必要ありません」
ライに手を取られそうになって、アリーナは慌てて手を後ろ手にする。触るな危険、という言葉がアリーナの頭をよぎった。
「必要あります。そもそもこれ、何の話し合いだと思ってるんですか」
「結婚を白紙にするための話し合いでしょ」
白々しくアリーナは言ってみた。
「違います。結婚を実現するための話し合いです」
にっこりと笑うライに、アリーナは、ハハ、とひきつった笑いが出るだけだ。
この温度差、既にこの話し合いは破綻していると言っていいんじゃないかとアリーナは思っている。多分、この話し合いはいつまでたっても平行線で交わることはありえない。
「さっき、ご飯を食べてるときにも言いましたよね? 私は今の仕事が続けたいんだと。私の家族にどう小細工しようと、私の気持ちは変わらないし、私が仕事を諦めることになるくらいだったら、家族との縁も切りますって」
アリーナの言葉に、ライの眉が下がる。
「そんなこと言わないでください。私はアリーナとご家族のつながりを断ち切りたいわけではないんですから」
「だったら、私との結婚を諦めてください」
「嫌です。アリーナとの結婚を諦めるなんてできません」
…ほら、やっぱり平行線だとアリーナはため息をつく。
ご飯を食べているときも、同じような会話が何度も繰り返されていた。だから、もう今日はこれくらいで話を終わりにしたいくらいなのだ。
「あ、手紙を書きたいので、便箋と封筒をいただけないですか」
とりあえず火急の用事であることを思い出して話を中断するためにもアリーナはライに頼む。
「…結婚しないって手紙をご両親に送るつもりですか」
「手紙を書けばどうにかなるなら、書きますけど」
「…いえ、辞めてください。そういう手紙でないのであればいくらでも。」
そういう手紙に近いものをアリーナは書こうとしているわけだが、取り合えず書く言葉は直接的な表現ではないので頷いた。
ライがソファーから立ち上がる。
「便箋一枚だけでいいです」
「…女性は手紙を書くのもお好きですよね? 一枚でいいんですか」
きっとこれまでも女性からの恋文でももらってきているのだろう。ライの発言は確信を持った言い方だった。まあ、アリーナはそうなんだろうな、と思っただけで、それ以外のことは思わなかったが。
「一枚で。」
むしろ半分でも事足りるくらいなんだけど、とアリーナは思う。たった一言しか書かないからだ。
「…誰に?」
その言葉で、立ち上がったライを見ていたアリーナは視線を外す。
「そこまで詮索されるんですか? 結婚しているわけでもないのに? いや、そもそも結婚したらそんなことまで束縛されるものなんですか? …耐えられそうにないですね」
アリーナがため息をつきながら首を横に振ると、ライが慌てる。
「いえ、アリーナが文をやり取りする相手にちょっと興味があっただけです。だから、束縛しているとかどうとかいう話ではありません」
「そう。なら良かった。私は束縛は望みません。嫉妬も私には不必要です。それを受けるくらいなら、一人でいる方がよっぽどいい。」
「…アリーナは、恋をしたことがないんですね」
そこまで言えば黙り込むかと思ったライが、思いもかけない言葉をかけてきて、アリーナはライを見る。
「恋、ですか」
「ええ、恋です」
にっこりとライが笑う。
「…感情の起伏があるということが煩わしいということしか知りませんけど」
「…その言い方だと、昔、恋をしたことがあるってことですか」
「一般論だと思いますけど。それに、詮索は好みません」
アリーナはライから視線を外す。
「…アリーナはつれないなぁ。」
そう言いながらも、ライの声は明るい。
「今の今までつれなくした記憶はありますがその反対の記憶はないですけどね」
「…確かに。でも私はアリーナと恋がしたいんですけどね」
「おひとりでお好きにどうぞ。」
アリーナは冷たく言い放ったにも関わらず、ライがクスリと笑う。
「一人では恋はできませんよ。相手が必要です」
「他をあたって下さい。それで、便箋と封筒は?」
「そんなアリーナも好きですよ。では、取ってきますね」
ライが2階に消える。
冷たくしているにも関わらず全く凹まないライに、アリーナの方が凹む。
一体どういう態度を取ったらライが諦めるのか、アリーナにはさっぱり思いつきそうになかった。
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