騎士団副団長様(腹黒)の溺愛回避方法を教えてください!

三谷朱花

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「アリーナさん!」

 トントンと肩を叩く刺激に、アリーナの意識は浮上する。
 良く寝た気がする、とアリーナは大きなあくびをした。

「…アリーナさん。化粧中にあくびしないでくださいね」

 はて、と目を開けると、アリーナはいつの間にか椅子に座らせられていた。体にはガウンを纏っていて、どうやら下着も着せられたらしいとわかる。
 だが、女性しかいない部屋でアリーナを簡易ベッドから椅子に座らせることは不可能だろう。どうやら寝ぼけ眼でアリーナは移動したらしいと納得する。
 完全に目が覚めていたら、下着を他人から着せられるなど恥ずかしくてできなかったと思う。

「目は開けたままでお願いします」

 ルルが近づいてきて、真剣な顔でアリーナの目に化粧を施していく。

「何があるの」

 アリーナの質問に、ルルは首をかしげただけだ。

「私たちは答えないように言われていますので。」

 ルルがこの部屋にやってきてから、アリーナの疑問に対してこの答えしかもらえていなかった。

「どうせパーティーに連れて行かれるんでしょうね」

 これほど強引に連れて行く準備をされたことは初めてだったが、化粧をかっちりとしようとしているあたり、他に理由は思いつかなかった。

「今日、何かあったかしら…。」

 アリーナは目が覚める前、寝不足であまり頭が働いていなかったが、短時間の仮眠のおかげか頭が働いている気がする。
 そう言えば、と一つの行事を思い出す。

「アルス王子殿下の誕生日パーティーね」

 ルルは返事をしなかったが、アリーナはそれが答えだと納得した。
 アルスは王太子の息子で、まだ3歳である。王族の誕生日は基本的に晩餐会が開かれるが、15歳までの王族は晩餐会ではなく昼に誕生日パーティーという形で催される。王が変わってから王族の誕生日パーティーは誕生日に近い日曜日に行われることが慣例となった。
 アリーナが出席したことがある最後の誕生日パーティーは第二王子の15歳の誕生日が最後だったんだから、もう18年も前になる計算だ。アリーナはまだ8才だった。
その時のことを少しだけ思い出して、アリーナは記憶に蓋をして、別のことを考える。
 一体、誰が何のためにアリーナをパーティーに連れて行こうとするのか。
 アリーナにはライ以外には思いつかなかったが、なぜこのパーティーなのか、という理由はさっぱりわからなかった。


****



「アリーナ? 誰か探してるの」
「いえ。こんなところに久しぶりに来たから、何だか慣れなくて」

 アリーナの予想では、アリーナをこのパーティーに連れだしたのはライのはずだった。
 だが、アリーナの予想に反して、ライはアリーナをエスコートするために家には現れなかった。
 アリーナは自分の家族とともに、パーティー会場にたどり着き、そしてアルス王子に挨拶をした後、アリーナの母と一緒に居ながら、何だか居心地の悪い気分で過ごしている。

「…ねぇ、母様。このドレス、やっぱり浮いてない?」

 アリーナは自分の着ているドレスのすそをひらりと動かしてみる。

「どうして? とてもきれいだわ」
「…確かにきれいかもしれないけど…デビュタントでもあるまいし。」

 アリーナが着ているドレスは、シルクタフタのオフホワイトのドレスだ。その形は流行に添ったオフショルダーのAラインのドレスではあったが、カラードレスがあふれる会場では、白っぽい色は浮いていると言えるだろう。10年前に流行っていたパニエわんさかなドレスではなくてアリーナはホッとしていたが。あれだと完全にデビュタントにしか見えない。まあ、着けているアクセサリー類が割とゴージャスで、それがデビュタント感を減らしていると言えば減らしている。

「そんなこと言わないの。眼鏡だってそんなおしゃれなものがあるなんて思わなかったわ」

 アリーナが今日かけている眼鏡は、カルディア商会の品で、見立てはまたもやマリアらしい。細いフレームで、弦(つる)には美しい細工があり小さな宝石がはめ込まれている。華奢なフレームが、アリーナのドレス姿になじんでいる。いつもの眼鏡だったら、間違いなく浮いていただろうということは、アリーナだってわかる。だけど、である。

「別に誰に見せるわけでもないのに。」

 それが正直なところだ。誰もアリーナが着飾ったところで喜ぶ人間はいない。
 …ライ以外には思いつかない。だが、この場にはライはいない。

「あら。見せたい誰かが居るみたいね」

 アリーナの母がクスリと笑うのを聞いて、アリーナは決まりが悪くなる。

「ああ、アリーナか。見違えたな。」

 声をかけてきたのは、エリックだ。妻のキャシーもその横で驚いたような顔をした後、嬉しそうに笑う。

「アリーナさん、きれいになったわ。やっぱり、愛されるって大事なのね」

 納得したように告げられた言葉に、アリーナは何だかいたたまれなくなる。

「そんなこと、ないわ」

 本当にそうだったら、今アリーナの横にいるはずじゃないのか。そんな気持ちが、アリーナを満たす。

「どうした」

 エリックがアリーナの顔を覗き込んでくる。

「いえ。久しぶりにこんなところに顔を出したから疲れたのよ」

 だからそんな変なことを考えてしまうんだと、アリーナはそう思うことにした。
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