騎士団副団長様(腹黒)の溺愛回避方法を教えてください!

三谷朱花

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「座りましょうか。」

 ライは庭園にあったベンチに腰掛ける。…アリーナを横抱きにしたまま。

「あの…下ろしてくれませんか?」

 このままの格好は恥ずかしくていたたまれないと、アリーナはライを伺う。

「…そうですね。このままではアリーナを襲ってしまいそうだ。」

 ライはポケットからハンカチ―フを取り出すと、座っている横に広げてアリーナをそこに座らせる。

「…襲うって…。」

 その言葉の意味をようやく理解したアリーナは唖然としてライを見る。

「そうやって私を好きだって目で上目遣いに見られれば、私の理性が崩壊してしまうかもしれませんから」

 アリーナは手を取られ指先にキスをされる。そしてアリーナを見るライの瞳には、いつだったか見た熱がこもっている。

「好きって…。」

 アリーナにそういうつもりがないとは言わないが、そんなにダダ漏れにしているつもりもない。

「目を見ればわかります。…伊達に騎士団で副団長をやっているわけではないんですよ? …それとも、私の勘違いですか」

 アリーナは小さく首を振る。口に出すのは恥ずかしいが、否定するつもりはもうなかった。

「…もうライ様は…私のことをどうでもよくて、そういうつもりはなかったんじゃなかったの」

 最初の二日を除いては、ライからの性的な接触は皆無だったことをアリーナは指摘する。

「嫌ですね。私を誰だと思ってるんです? 自分の感情を押し殺すことなど、いくらでもできます。そもそも私がいつ襲うかわからないような雰囲気でいたら、アリーナは私の家に泊まってもくれなかったでしょ」

 はたして実際ライがそんな雰囲気でいたとして、アリーナは逃げられるのかどうかはわからなかったが、確かに拒否したくはなったかもしれない。

「…そう言うつもりはあったってこと?」
「当たり前でしょう? でも、アリーナは結婚までは清らかでいたいと思っているようですし、それをかなえてあげたいと思っているんですよ? 何しろアリーナの願いですから」

 あれは完全にあの場を逃げるための方言でしかなかったが、ライの中ではアリーナの希望として通っていたらしい。

「…最初はあんなにぐいぐい来たのに?」

 アリーナは何だか物足りなく感じてしまっている今の気持ちを表に出すことなんてできなくて、つい嫌味で返してしまう。

「それは許可が出たってことでいいんですか」

 アリーナは返事をせずに、ふい、と顔を逸らした。

「アリーナが私のことを好きになってくれるなんて、アリーナがあの時出した宿題の解答を今の今まで考えてきたんですから、そのごほうびかもしれませんね」
「私が出した宿題?」
「ええ。あの時交わした会話は覚えていませんか?」
「…会話?」
「私がアリーナを泣かせたあと、アリーナはままごとでも思った通りに料理が作れないとしょんぼりしていて、どうして女性は料理ができないといけないのかって聞いてきたんですよ」

 それは忘れるはずもない。アリーナは頷く。

「…あの時、私は料理を習い始めていた頃で、既に姉たちとは違って料理のセンスの欠片もなくて、できないことにものすごく気持ちが落ち込んでいたの。でもライ様があなたがあなたであればいいと言ってくれたあの言葉に、勇気付けられたの」

 泥や泥水を使ってのままごとで思った通りのものができるはずもないのだが、この時のアリーナは先日も作ったスープが不思議な色に化学変化したのを見たばかりで、既に料理に対する自信は喪失していた。そこにきてスープと思って出したものを、ライがパテだと言い張るものだから、ものすごく哀しくなって大泣きしてしまった。慌ててアリーナを慰めてくれるライに、アリーナは問うた。そして、ライから与えられた答えに、幼いアリーナの心は本当に慰められたのだ。

「…私も、あの時はそれ以外のことは言えなかったんですよ。だから、自分で料理をしてみようと思ったのかもしれません。そのほかの家事も、自分でやってみることにした。…まあ、そうでなければ男二人の家など、時折ハウスキーパーを入れなければ悲惨なことにしかなりませんからね」
「…だけど、そういう家でも皆ハウスキーパーに一任してしまうのが普通でしょう? …ライ様はすごいわ」
「たまたま適性があっただけと言うことでしょう。…これも、男性であるというだけで否定される能力でしたけどね」

 アリーナは今までライが結婚できなかっただろう理由を思い出した。

「…別にライ様の女子力が高くてもいいじゃない。ライ様はライ様だわ」

 アリーナは自分が言われて嬉しかったことを、そのままライに伝えた。ライが表情をほころばす。

「そんなアリーナだから、私は好きになったんですよ」

 ライの好き、と言う言葉が、アリーナの心に染みる。
 ライが立ち上がってアリーナの前に跪(ひざまず)く。

「アリーナ、私と結婚してくれませんか?」

 手を差し出されて、アリーナは胸がいっぱいになる。
 先週結婚しようと迫られた時には、まったく生まれなかった感情だ。

「まだ駄目ですか」

 アリーナが身動きしないのを見て、ライが首をかしげる。その瞳が、捨てられた子犬のようにも見える。…実際はどう考えても獰猛な大型犬、なのだが。

「私で、いいの?」

 アリーナが絞り出したような声に、ライが頷く。

「私はアリーナと結婚したい。私が今まで結婚していなかったのは、アリーナと今出会うためだったんだと思います」

 先週同じようなことを言われた時には、何を言っているんだと呆れた気持ちで聞いていた内容なのに、アリーナの気持ちが変わっただけで、それが重要な意味を持ちだす。

「ライ様と結婚します」

 アリーナがライの手を取ると、ライの顔が近づいてきてあっという間に唇に熱が与えられる。
 アリーナが物足りないと思っていた感情を埋めるように、ライの熱がくまなく口の中に触れる。前にキスされた時にはされるがままだったアリーナだが、少しだけライの熱に舌を合わせた。
 ピクリと反応したライが、アリーナの後頭部に手を添えると、もっと深くとでも言うようにアリーナの舌に応える。
 そのキスはアリーナの心の奥深くにあった欲望という感情を、少しずつ引き出していった。
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