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「誓いますか?」
神父の言葉に、ライは即答していたが、アリーナは即答しなかった。
教会中がざわめいたのはわかったが、アリーナは、はた、と止まってしまったのだ。
ライを好きだという気持ちは…ライには申し訳ないがもしかしたら変わるかもしれない。
だが、尊敬できるという気持ちは…たぶん変わらないだろう。
ライがくれるほどの愛情をアリーナがライに与えることは困難かもしれないが、そもそもそれでいいとライは言っていた。
アリーナが結婚できないと思った理由は…今はもうない。
もし、この先結婚を続けたくない何かあったとしたら。
それは…二人で解決していくしかないだろう。
アリーナがここで宣誓しないとして、何かが変わるだろうか? せいぜいアリーナの覚悟くらいのもので、今でも後でもあまり関係なさそうだ。
きっと1ヶ月も経たないうちにまた祭壇の前に連れてこられている気がする。
何だかライが焦っているみたいな気がしてアリーナは、ふ、と笑いが漏れる。
それに反応したように、ライがアリーナを抱え直す。
下げていた視線を上にあげれば、アリーナを見つめるライの瞳は、今までになく揺れているように見える。
ただアリーナが口を開くのを…誓うと答えるのを祈るようにも見える。
「中止するなら今ですよ」
アリーナが何も言わないことに焦れたのか口を開いたライは小さな声で珍しく弱気な言葉を吐いた。
予想外でかつライらしくない言葉にアリーナはついクスクスと笑いが出てしまう。
アリーナの返事がなく息を詰めたように静まり返っていた教会に、アリーナの控えめとは言え笑い声が響き、参列者は何とも言われぬ表情を浮かべる。
ライがアリーナと再会してたった1週間で結婚式をとり行っているのは皆の知るところであり、それか性急で、かつアリーナの気持ちは追い付いてないだろうことは各々理解はしているからだ。
そしてアリーナの誓いの言葉への沈黙と突然聞こえだした笑い声。
それをどうとればいいのか、参列者は戸惑いのなかにいると言っていい。
だが式をやめさせようとする人間がいないのは、ライのアリーナへの愛情を疑っている人間が皆無なことと、アリーナも結婚はすると返事をしているのを知っているためだ。
当事者の一人であるライは戸惑った表情でアリーナが笑っているのを見ている。
アリーナは戸惑った表情のライを見ながら、あんなに自信満々で、思った通りに事を進めていくライにも不安な気持ちがあるのだと分かって安心していた。
ライは確かに思った通りに事を進めようとはするが、アリーナの意志を完全に無視して進めた訳でもない。もちろん強引であったとは思うが、アリーナはハリーに感じたような拒絶をライに感じたことはなく、キスなどはむしろ良い反応を返していただろう。 それがアリーナの本能からの答えなのだと思う。
それでいいんじゃないか、と思う。
この先、この短絡的な答えに後悔することがあるかもしれないが、その時はその時で二人で話し合って解決案または妥協案を探るしかないのだ。それは死ぬまで二人が続ける必要のある努力なのだろう。
それが、二人が死を分かつまで、という意味なのだと、アリーナは急に納得する。
アリーナは既に笑いは収まっていたものの、場違いに笑い出してしまったのは理解していて、場を繕うために咳払いをした。たった一つの咳払いで、何とも言えない雰囲気が漂っていた教会の中が、また引きしまったような気がした。
「女子力低くて何が悪い。」
アリーナは誰にも聞こえないくらいの声で、口の中で呟いた。この言葉がなければ、アリーナはまだライとの結婚を渋っていたかもしれない。はっきり言ってこれはアリーナ側の開き直りの言葉でしかない。
でも、それをライは当たり前のことのように言ってのけた。そんなことを当たり前のように言ってのけるライだからこそ、アリーナはライを好きになったのだと思う。
その呟きが聞き取れずに、まだ不安そうなライにアリーナはニコリと笑う。
「誓います」
ホッと息をついたのは、ライか、アリーナの家族か。その全員か。
その場は一気に安堵感に包まれ、拍手が起こる。
「それでは、こちらに署名を。」
神父が差し出したのは、アリーナも先ほど見た結婚許諾書だ。先程のとは違ってまだ全ての欄が空欄だ。
ライはそっとアリーナを下ろすと、先に署名をしてペンをアリーナに差し出す。
アリーナは一週間前にその手で21番と書いた時には、一週間後には自分の名前を結婚許諾書に書くことになるとは想像もしなかった、と思いながらペンをとる。
アリーナが署名し終わるのを息をつめて見ていたライは、アリーナが書き終えてペンを置いたのを見て、ようやく息をついた。
「二人に祝福を。」
結婚許諾書を持ち上げ皆に見せる神父の言葉に、再度拍手が起こる。
神父が丁寧に折り畳んだ結婚許諾書が封筒に入れられライに渡される。
ライはそれを恭しく受けとると、胸ポケットに 入れて、またアリーナを抱えあげた。
「ライ様、もう歩けるわ」
「アリーナ、私がやりたいんですよ」
異論は受け付けないとばかりにライが拍手の中出口に向かって歩き出す。
「え、っと、この後は?」
普通であれば結婚許諾書は先に出されていての教会での宣誓のはずだが、今回は完全に順番は逆だ。
「ライ殿、許諾書はこちらから出しておこうか?」
パレ侯爵が声をかけると、ライが一瞬考えた後、アリーナを下ろす。
「よろしくお願いいたします。父上。」
礼をとったライにパレ侯爵は近づくと、ライの肩をポンと叩いた。
「娘を頼む。」
ライがうなずいて、先程の封筒をパレ侯爵に渡す。
「では、来週よろしくお願いします」
「ああ。」
アリーナには何かよくわからない会話が交わされた後、アリーナは再びライの腕の中に抱き上げられた。
「今の何の話?」
「披露宴を。」
またアリーナの知らぬ間に話が進んでいるらしいと、アリーナは呆れたため息しか出ない。
「ライ様。ただでさえ忙しいんでしょう? それ以上やると過労で倒れるわよ」
「いえいえ。今日披露宴を行うのは辞めたので、むしろ余裕はあるんですよ」
「…だって、今日は誕生日パーティーがあって、この式をやって…、これ以上の行事は難しくない?」
「いえいえ。人数さえ抑えれば今日でもできたんですよ。でも…。」
ライがアリーナに顔を寄せる。
「アリーナは結婚したら許してくれるんでしょう? ちょっと待てないな、と思いまして」
小さな声でライから言われた言葉を、アリーナは反芻する。
理解したとたん、ボッと顔が赤くなるのが分かる。
「さ、皆さまに挨拶して、帰りましょう」
ライは教会の出口の前で、くるりと皆に向かう。アリーナは一体全体皆にどんな顔を向ければいいのかわからない。つまり、皆はこの後何が起こるかを当然知っているということだ。
まあ、結婚式の後誰もが通る道なわけだが、突然式に連れてこられたアリーナは、そんな覚悟などしているわけもない。
「ライ様の馬鹿!」
「私を馬鹿呼ばわりするのは、きっとアリーナだけでしょうね」
クスクスと笑うライの声が、教会に響いた。
新婚夫婦の初めての痴話げんかに、その場にいた皆もつられてクスクスと笑い出し、教会の中は幸せな笑い声に包まれた。
アリーナは1週間前に聞いたクスクス笑いを思い出しながら、まさかまたクスクス笑われるとは思いもしなかったと思う。
でも、あの時クスクス笑われていた時と明らかに違うのは、その笑い声が明らかに暖かみのあるものだと言うことだ。
女子力低くて何が悪い。
完
神父の言葉に、ライは即答していたが、アリーナは即答しなかった。
教会中がざわめいたのはわかったが、アリーナは、はた、と止まってしまったのだ。
ライを好きだという気持ちは…ライには申し訳ないがもしかしたら変わるかもしれない。
だが、尊敬できるという気持ちは…たぶん変わらないだろう。
ライがくれるほどの愛情をアリーナがライに与えることは困難かもしれないが、そもそもそれでいいとライは言っていた。
アリーナが結婚できないと思った理由は…今はもうない。
もし、この先結婚を続けたくない何かあったとしたら。
それは…二人で解決していくしかないだろう。
アリーナがここで宣誓しないとして、何かが変わるだろうか? せいぜいアリーナの覚悟くらいのもので、今でも後でもあまり関係なさそうだ。
きっと1ヶ月も経たないうちにまた祭壇の前に連れてこられている気がする。
何だかライが焦っているみたいな気がしてアリーナは、ふ、と笑いが漏れる。
それに反応したように、ライがアリーナを抱え直す。
下げていた視線を上にあげれば、アリーナを見つめるライの瞳は、今までになく揺れているように見える。
ただアリーナが口を開くのを…誓うと答えるのを祈るようにも見える。
「中止するなら今ですよ」
アリーナが何も言わないことに焦れたのか口を開いたライは小さな声で珍しく弱気な言葉を吐いた。
予想外でかつライらしくない言葉にアリーナはついクスクスと笑いが出てしまう。
アリーナの返事がなく息を詰めたように静まり返っていた教会に、アリーナの控えめとは言え笑い声が響き、参列者は何とも言われぬ表情を浮かべる。
ライがアリーナと再会してたった1週間で結婚式をとり行っているのは皆の知るところであり、それか性急で、かつアリーナの気持ちは追い付いてないだろうことは各々理解はしているからだ。
そしてアリーナの誓いの言葉への沈黙と突然聞こえだした笑い声。
それをどうとればいいのか、参列者は戸惑いのなかにいると言っていい。
だが式をやめさせようとする人間がいないのは、ライのアリーナへの愛情を疑っている人間が皆無なことと、アリーナも結婚はすると返事をしているのを知っているためだ。
当事者の一人であるライは戸惑った表情でアリーナが笑っているのを見ている。
アリーナは戸惑った表情のライを見ながら、あんなに自信満々で、思った通りに事を進めていくライにも不安な気持ちがあるのだと分かって安心していた。
ライは確かに思った通りに事を進めようとはするが、アリーナの意志を完全に無視して進めた訳でもない。もちろん強引であったとは思うが、アリーナはハリーに感じたような拒絶をライに感じたことはなく、キスなどはむしろ良い反応を返していただろう。 それがアリーナの本能からの答えなのだと思う。
それでいいんじゃないか、と思う。
この先、この短絡的な答えに後悔することがあるかもしれないが、その時はその時で二人で話し合って解決案または妥協案を探るしかないのだ。それは死ぬまで二人が続ける必要のある努力なのだろう。
それが、二人が死を分かつまで、という意味なのだと、アリーナは急に納得する。
アリーナは既に笑いは収まっていたものの、場違いに笑い出してしまったのは理解していて、場を繕うために咳払いをした。たった一つの咳払いで、何とも言えない雰囲気が漂っていた教会の中が、また引きしまったような気がした。
「女子力低くて何が悪い。」
アリーナは誰にも聞こえないくらいの声で、口の中で呟いた。この言葉がなければ、アリーナはまだライとの結婚を渋っていたかもしれない。はっきり言ってこれはアリーナ側の開き直りの言葉でしかない。
でも、それをライは当たり前のことのように言ってのけた。そんなことを当たり前のように言ってのけるライだからこそ、アリーナはライを好きになったのだと思う。
その呟きが聞き取れずに、まだ不安そうなライにアリーナはニコリと笑う。
「誓います」
ホッと息をついたのは、ライか、アリーナの家族か。その全員か。
その場は一気に安堵感に包まれ、拍手が起こる。
「それでは、こちらに署名を。」
神父が差し出したのは、アリーナも先ほど見た結婚許諾書だ。先程のとは違ってまだ全ての欄が空欄だ。
ライはそっとアリーナを下ろすと、先に署名をしてペンをアリーナに差し出す。
アリーナは一週間前にその手で21番と書いた時には、一週間後には自分の名前を結婚許諾書に書くことになるとは想像もしなかった、と思いながらペンをとる。
アリーナが署名し終わるのを息をつめて見ていたライは、アリーナが書き終えてペンを置いたのを見て、ようやく息をついた。
「二人に祝福を。」
結婚許諾書を持ち上げ皆に見せる神父の言葉に、再度拍手が起こる。
神父が丁寧に折り畳んだ結婚許諾書が封筒に入れられライに渡される。
ライはそれを恭しく受けとると、胸ポケットに 入れて、またアリーナを抱えあげた。
「ライ様、もう歩けるわ」
「アリーナ、私がやりたいんですよ」
異論は受け付けないとばかりにライが拍手の中出口に向かって歩き出す。
「え、っと、この後は?」
普通であれば結婚許諾書は先に出されていての教会での宣誓のはずだが、今回は完全に順番は逆だ。
「ライ殿、許諾書はこちらから出しておこうか?」
パレ侯爵が声をかけると、ライが一瞬考えた後、アリーナを下ろす。
「よろしくお願いいたします。父上。」
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ライがうなずいて、先程の封筒をパレ侯爵に渡す。
「では、来週よろしくお願いします」
「ああ。」
アリーナには何かよくわからない会話が交わされた後、アリーナは再びライの腕の中に抱き上げられた。
「今の何の話?」
「披露宴を。」
またアリーナの知らぬ間に話が進んでいるらしいと、アリーナは呆れたため息しか出ない。
「ライ様。ただでさえ忙しいんでしょう? それ以上やると過労で倒れるわよ」
「いえいえ。今日披露宴を行うのは辞めたので、むしろ余裕はあるんですよ」
「…だって、今日は誕生日パーティーがあって、この式をやって…、これ以上の行事は難しくない?」
「いえいえ。人数さえ抑えれば今日でもできたんですよ。でも…。」
ライがアリーナに顔を寄せる。
「アリーナは結婚したら許してくれるんでしょう? ちょっと待てないな、と思いまして」
小さな声でライから言われた言葉を、アリーナは反芻する。
理解したとたん、ボッと顔が赤くなるのが分かる。
「さ、皆さまに挨拶して、帰りましょう」
ライは教会の出口の前で、くるりと皆に向かう。アリーナは一体全体皆にどんな顔を向ければいいのかわからない。つまり、皆はこの後何が起こるかを当然知っているということだ。
まあ、結婚式の後誰もが通る道なわけだが、突然式に連れてこられたアリーナは、そんな覚悟などしているわけもない。
「ライ様の馬鹿!」
「私を馬鹿呼ばわりするのは、きっとアリーナだけでしょうね」
クスクスと笑うライの声が、教会に響いた。
新婚夫婦の初めての痴話げんかに、その場にいた皆もつられてクスクスと笑い出し、教会の中は幸せな笑い声に包まれた。
アリーナは1週間前に聞いたクスクス笑いを思い出しながら、まさかまたクスクス笑われるとは思いもしなかったと思う。
でも、あの時クスクス笑われていた時と明らかに違うのは、その笑い声が明らかに暖かみのあるものだと言うことだ。
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