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第3章
第24話
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「起きろ!仕事だ!!」
管理者様が大声を上げながら、各部屋のドアを蹴破っていく。
中にいる僕達のことなど一顧だにせずに次の部屋に向かっていく。
僕たちはノロノロと準備をしながら部屋を出て行く。
とはいってもするべき準備など目を開けて起き上がるくらいだ。服を着替えるでもなし、顔を洗うでもなし、飯を食うでもなし。
ここでの食事は一日二食だ。朝一番で働いた後、朝食。仕事終わりに夕食。大量の奴隷を働かせ、管理しているせいか食事の量に関しては不自由ない。クソまずいが。
衣服に関しては、そのままだった。王都の古着屋で買った服をそのまま着ている。僕はてっきり、囚人服というか奴隷服みたいなものに着替えさせられると思っていたのだが、そんなことはなかった。しかし、周りを見るとほとんどの人は似たような服を着ている。僕みたいな新しく来た人間の服は一般的な服だが、それ以外は簡便なズボンと一枚の布に穴だけ開けた上着を着ている。腰の部分で紐を結べば、まぁ、それなりに服には見える。かな?
どうしてこんな違いがあるのか疑問に思っていたら、しばらくして理由がわかった。奴隷になったときの服装をそのまま使って仕事をするわけだが、当然、炭鉱での仕事はハードで、簡単に汚れ、破ける。そうして捨てざるを得なくなったら次の服を支給してくれるわけだ。
何の事はない、服一枚分安上がりにするためだったってことだ。
自分の中の奴隷とイメージが違うことはまだある。基本的に閉じ込めていないのだ。これは未だに慣れていないというか、違和感がある。
部屋に鍵を掛けるでもないし、働いている最中に鉄球を足につけるでもない。
つまり、管理者様達は絶対に奴隷が逃げると思っていない。
落盤や、火災で怪我をした時、入れ墨を入れる作業をしていたリヴェータ教の爺さんが奴隷の治癒をしてくれる。
そのときにすこし聞いてみたが、奴隷の入れ墨は、隷属の首輪と同様の効果を有しており、管理者の命令に背くと体に激痛が走り、とても何かできる状態ではなくなるらしい。
最初管理者に言われたことは、逃げるな、命令に逆らうな、仕事を全力でやれだ。つまり、この入れ墨がある限り、ここから出ることはかなわないわけだ。
こちらに来た時、鞄の中に社会の教科書がはいっていたから、モニに教えつつ、自分でも結構読みふけった。まぁ、暇だったからだけど。ここの奴隷制は、最初、古代ローマ次代の奴隷制に近いものを感じていた。
しかし、しばらく立って段々気付いてきたが、魔法という絶対の鎖があるからか、奴隷に対する当たりは苛烈にして絶望的だ。
だからだろうか、アメリカの黒人に対する奴隷制に近いものだということがわかった。
奴隷制と、差別が重なってしまっているのだ。
奴隷たちはもう這い上がることを諦めているし、管理者様達は奴隷からの反抗が絶対ないものとして見下しきっている。
いや、見下しているというのは同じ人間に使う言葉だ。
彼らはもう、僕達を同じ人間としてみていない。
そして恐らくだが、もう僕達が奴隷から開放されることはない。
奴隷の中にはまだ開放されることを信じているやつもいるが、それだったら管理者様達があれほど僕らを非人間として扱うことはないだろう。
万が一にも開放されることを考えれば、復讐されることだって考えるはずだ。
取ってつけたような理由で殴ったり蹴ったり、拷問したり。なまじ、ある程度の傷はリヴェータ教の爺さんが治してしまうからか、エスカレートする一方だ。
こんなことが出来るってことは、たぶん、奴隷を解放なんかしていないということだ。
でも、「あんたを開放する」っていって連れて行かれた奴隷もいる。他の奴隷たちはそれを根拠に信じているけど…、たぶん…。
だからこそ、僕達奴隷は、管理者様のご機嫌を常に伺い、逆鱗に触れないようにとにかく静かに、小さくなる。
それこそが、一日を一番穏やかに過ごしきることの出来る唯一の方法だから。
仕事の場所は、だいたい朝イチで管理者様が支持する。
基本的に全部の仕事をさせるため、毎日仕事場所が変わる。
ただ、なかには魔法の力を持ったピーキーな野郎がいるから、そういった奴らはひたすらに一つの仕事をさせる。
まぁ、僕のようなやつのことだ。
土魔法が得意だということもあり、鉱山での労働はなかなかあっている。
ここ数ヶ月ほどは、ずっと主坑道なるものを掘っている。
鉱山で鉱石を発掘する時は主坑道と副坑道なるものがあるらしい。
主坑道は、人間や、匹車、鉱石が通るような大きさの長い一本の坑道。
副坑道は、鉱石を発掘するための主坑道壁面から掘り進める、細く短い坑道。これは、主坑道からクリスマスツリーの枝のように複数掘られている。これは、他の奴隷たちが掘り進める役だ。実際に鉱石を発掘する坑道だからか、より慎重な人間の手がほしいのだろう。
逆に主坑道は、どんどん掘り進める事ができる人間がいい。
副坑道は、主坑道が掘り進められてさえいれば、人の手があればあるほど沢山作れるが、主坑道は人手があろうと、坑道の横幅が決まっている以上、一度に切削作業ができる人間が限られている。だからか、たった一人の人間で、数十人分の働きができる人間は重宝されるわけだ。
最初は肉体、身体魔法を使って掘り進めていた。
最近はこの2つの魔法を同時に使うことが多く、強化魔法と勝手に読んでいる。
ただ、自分の体だけを強化していたからか、各道具類がすぐに壊れてしまった。
壊れた道具を管理者様に持っていく度、念入りに殴られた後、また、ボロボロの道具を貸し出されるので、なんとか壊さない方法を考えた。
とはいっても何の事はない。冒険者だったときによくやっていた、魔力を中に通すだけだ。冒険者の時は、ナイフに通していたが、それでもナイフは固く、強くなっていた。同じことが、ツルハシにも当てはまるんじゃないかと考えてみた所、ビンゴだったわけだ。
ただ、どうしても魔力の消費が多くなる。今までナイフのような小さいものに、しかも獲物を狩る瞬間だけ魔力を込めていただけだからか、そこまで魔力がなくなることはなかった。
けど今のツルハシは、自分の腕ほどもあり、発掘をしている間中、魔力を流さなければならなく、魔力消費がぐんと上がってしまったようだ。ちなみに道具はツルハシだけじゃない。スコップのようなものもあれば、岩石を打ち砕く為の大きな杭?みたいな道具もある。
どちらにしろ、魔力を通さないと使い物にならないが。
だけどこれでなんとか作業をすすめることが出来るようになった。
魔力がなくなって休憩していると容赦なく管理者様に殴られ、飯が食えない。
だから、魔力がなくなったら自力で掘る作業をし、魔力が回復したらすぐに再び強化するといったサイクルで作業をするしかない。
だから常に魔力が欠乏した状態で仕事し、頭は朦朧とし何をしているかわからない状態が続く。
数ヶ月立ってやっと、一日中道具に魔力を込め続けても底をつくことが失くなった。
頭で何か考えながら作業ができるようになったのはここ数日のことだ。
もちろん、仕事は掘り進めるだけじゃない。
坑道を補強する仕事もする必要がある。
掘り進めた後の坑道は当然脆い。だから、ある程度掘り進めたら坑道を補強する必要がある。
これをしないと坑道が崩れ生き埋めになってしまう。
坑道を掘る上で気をつけなければならないのは、生き埋め、火災、ガスだ。ここ数ヶ月でも、生き埋めになって死んだ奴隷たちはかなりいる。
かと言って、管理者様が何か特別な対策を取ってくれるわけではない。
僕達の様な魔法を使える奴隷は、貴重だからかある程度小まめに監視に来て、管理してくれているが、他の一般的な奴隷は基本的に消耗品という考えだ。
どうやってるかわからないが、とにかく新しい奴隷がどんどんやってくる。
自分の身は自分で守らなければならないようだ。
今日も今日とて、坑道を掘り進める。掘り進めた後は、補強する。
本来なら坑道の補強は別の専門奴隷がいる。木材を使って、坑道に沿った木枠を組み立てる必要があるからだ。
これは消耗品の奴隷には出来ない。だから、専門の奴隷がいるのだが、僕は土魔法で周りを岩石のように固めることが出来る。
魔法で、ある程度硬そうな成分の元素を集めて固める。トンネルのように周りをすべて覆ってしまうと、福坑道を掘ることが出来ないから、ある程度隙間を残すように作り上げていく。
これを、毎日、毎日繰り返す。
「ウへっ!うへっへっへっへ!どうよ!ヘルガちゃんよぉ!ここが俺の城よ!」
「え~、城ってぇ…、ここ鉱山でしょぉ~。意味わかんない。キャハッ」
「いや、城だよ城。まずな、こいつらは俺の命令には絶対逆らわない。おいッ!おまえ!俺たちに椅子と屋根を用意しろ。休めるようにな。」
そう言って俺を指差す。
言われたとおり、長めの椅子。ベンチのようなものを作る。さらに、そこに屋根のようなものをつける。イメージはバス停の待合所だ。シンプルだからかかなり早く作れる。
「そこのお前!俺たちを扇げ!涼しくなるようにな。お前!お前だよ。使えなさそうなガリガリのお前。管理者室から酒とつまみをもってこい。欠片でもてめぇの臭ぇ口に入れるんじゃねぇぞ。てめぇ5人分の価値だ。」
管理者様とその女のための楽園が出来上がっていく。それ以外の人間にとっては地獄だが。
「な?言ったろ?俺の命令を聞くやつばかりだ。つまり、ここでは俺は王。王様だ。王様がいる所っていやぁ、城だろ?」
「確かにぃ…。すごいかもぉ…。美味しいお酒も飲めるし、涼しいし…。こんな生活できる人なんてこの街にそうそういないよぉ~。すごぉ~いぃ~」
「だろ?しかも、黙ってたって金は入ってくる。ラミシュバッツ様に収める分は必要だが、それ以外は俺のもんだ。つまり、お前のものでもあるってわけだ。」
「えぇ~、なにそれぇ~、どぉ~ゆ~ことぉ~?」
「俺の女になればお前のもんだってことさ。な?わかるだろ?」
「えぇ~、う~んとぉ~、えぇ~?ん~~?」
「それだけじゃねぇ、他じゃ出来ねぇことだってここじゃ出来る。なぁ?」
「え?ちょっとぉ~、何すんのぉ?こんなとこでぇ?…ッん。」
「こいつらは口が硬ぇ。というよりも、見聞きしたことは誰にも喋らねぇ様に命令できる。だから、こんなところで、こんなことだって出来るって寸法よ。」
「えぇ~、ッん、で、でもぉ…後であたしの裸とか思い出されちゃうんでしょぉ…、それはちょっと恥ずかしいっていうかぁ…」
「そうだな…、おい、お前ら全員目ぇ閉じてろ。ぜってぇ、この女の裸を見るんじゃねぇぞ。」
「そ、それならぁ…、ッあ!」
「周りにこんな人がいるのに構わずやれる。これが出来るのは俺だけだぜぇ…」
「す、すごぉい…」
管理者様が俺たちの仕事中に女を連れてきて、口説く。これは今までも何回かやってきたことだ。
この町ではかなり稼いでる方らしい。従える人間(奴隷)が多く、稼ぎも多い、そして鉱山がある限り食いっぱぐれることはない。この条件が揃っているからか、割りと引っかかる女は多いらしく、毎回連れてくる女は違う。その度に仕事を中断され、仕事の遅れは全て僕達の責任になる。喜ばしくないイベントだけど、僕ら奴隷は当然従うしかない。
色々こだわりがあるらしく、来ることを予測して、ベンチとか、食べ物とかを用意していたら大分怒られた。
目の前で、命令させて、命令に従うことを見せることが肝らしい。
管理者様の命令に従って、女のために何かを用意するというのがコツらしい。その労力を女に見せつけるというわけだろう。
管理者様は既に奴隷たちを人間としてみていないが、他の一般人はそこまでじゃない。奴隷ということは理解しているが、人間じゃないとまでは割り切れない。だからか、こういった人間たちが彼女のために労力と時間を割くことが申し訳ないという意識が働くらしい。そういった引け目を感じているときに攻めると女ってのは落ちやすい。と言うようなことを酒に酔いながら自慢げに管理者様が話していた。
最初はそのまま鵜呑みにしていたが、果たして本当にそうだろうか。
女だってここまで着いてきたんだ。その気がないってわけじゃないんだろう。だが、目の前で死んだ目をした奴隷が命令に従っている姿を見て、そんな奴隷が大量にいることを見て、管理者様の言うことに逆らったとして、果たして自分が無事に帰れると思うのだろうか。
まぁ、なんかヤバそうだし、一発抱かせて、ここは収めるか。といった感じじゃないのだろうか。
だから、毎回違う女を連れてくるんじゃないのか。一度来た人はやばい空気を感じて二度とこないんじゃないのか。
そうも考えたけど、詮無いことだ。どうせ確かめることも出来ないし、さして興味もない。
とにかく、泥のように働いて、眠るだけだ。
とにかく何も考えたくない。
管理者様に対する憎しみは既に失くなった。だけど、たまに唐突に湧いてくる自分への怒りだけはどうしようもない。
そんな時はどうしてもむしゃくしゃして、目つきも仕事も悪くなる。
今日はそんな日だった。
「…てめぇ、その目つきはなんだよ。あ?」
「いえ、とんでもございません。」
「何がとんでもないんだよ!あぁ!おい!」
管理者様の口から出た怒号が、まるでエネルギーを与えたかのような拳が、俺を打ち付ける。
「てめぇは、たまにそんな目つきをするよなぁ!あ?ヘルガが怖がったらどうするんだよ!!」
「…申し訳ありません。決してそんなことは…」
「口ではそう言っても、目がそう言ってねぇんだよ!!」
絶え間なく、殴り、蹴られる。あまりダメージを与えるわけには行かないらしく、腕、足、腰といった重大なところは避けて殴られる。
ただ、なるべく尊厳を踏みにじるように、惨めに見えるように、転倒させるように殴る。
一発殴られて、地面に倒れる。その後すぐ殴るわけではなく、俺が謝りながら立ち上がるのを待つ。
立ち上がった後、また殴り、地面に打ち付ける。これを繰り返していく。
当然、服は泥まみれになるし、みすぼらしくなっていく。
「ねぇ~、もういいじゃん。それよりお酒飲もぉよぉ~」
「ッハァ、ハァ、ハァ…。あぁ、そうだな…。ッチ、今回のはだいぶしぶといな…。」
どうやら彼女に助けられたようだ。お酒を飲みたかっただけかもしれないが。
今回は運悪く、自分の気分と、管理者様のお気に入りの時間が重なってしまった。だからか、大分長い間、殴られていたようだ。
彼女の方も正直すこし引いているようにみえる。
「ッチ…、もう行け。お前は仕事にもどれ。」
どうやら気まずさを、俺を追っ払って無かったことにするようだ。こちらとしても渡りに船だ。とっととお暇しよう。まだ、穴掘りのほうがマシだ。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
また穴掘りの日常に戻る。
管理者様に殴られた跡はなくなっている。入れ墨を入れた爺さんがいつも僕達を治してくれる。僕は特に怪我が多いらしく、その爺さんとそこそこ話をする間柄になっている。彼の名前はよくわからないが、奴隷たちの間では、ディック爺と呼んでいる。それが本名ではないだろうが、皆そう呼んでいる。奴隷がディック爺と呼んでも怒らない。変わった爺さんだ。
「だいぶ痛めつけられてるなぁ…、あんまり管理者に逆らってもいいことないぞ。ほら、治してやるからこっち来い。」
「ありがとう、ございます。ディック爺…さん。」
「いいよいいよ。好きなように話な。他の管理者もこれぐらい気にしなくたっていいのになぁ…」
「…」
「しかし、もったいないなぁ。聞いたけど、一日中魔法使って坑道掘ってるんだって?しかも、土魔法を使って補強しながら。相当な魔力量だいな。少なくとも、王国であんたほどの魔力を持っているやつにはお目にかかったことはない。」
「そうなんですか?結構魔法を使える人はいると聞きましたけど…」
「そりゃ、戦闘中とか、生活に必要なときとか、一時的な場合なら使ってるやつは結構いるがな、一日中使ってるやつなんて居るのかぁ?しかも、ここに来てから魔力量が上がってるだろ?普通その年齢で魔力が大きく成長することは殆ど無いんだがなぁ。生まれて五年以内。長くて十年程度が成長期と言われているんだがな…」
たまに魔法を使っている人達が言っている魔力量が上がるって言う感覚があまり理解できない。いつも思うのだが、僕の魔力は腹の下にある穴みたいなところから引っ張ってきているだけだ。自身の体から魔力を生み出しているわけじゃない。ただ、長い間穴を開けていると、疲れたりするから、ある程度経ったら穴を閉める。その後、体に残った魔力を使っていくという感じだ。穴が空いていない状態で、体の魔力がなくなると、気持ち悪くなったりするわけだが。
「…そうですか…。まぁ、でも、仕事に役に立つなら願ったりですけどね…。」
「…惜しいな…。奴隷でさえ無かったら一廉の人物になったろうにな…」
「それもこれも、他人を馬鹿みたいに信じた自分のせいです。後悔先に立たずなんて言いますが、身に沁みた言葉ですよ…。」
「…後悔が先に来ることはない、か。身につまされる言葉だな。いつだって後悔は後にやってくる。そして、いつも自身を責め苛む。立ち直る時間を忘れさせるほどにな…」
「…まぁ、立ち直ったとしても、奴隷です。元気に穴を掘るか、やる気なく穴を掘るかの違いにしかなりませんよ。しかもそれが自分の墓穴ってわけです。なかなか気の利いた冗談だと思いますよ。ッハ。」
「その上、学まであるか。勿体無さも極まれりだな。ま、管理者共もそれはわかっているようだからな。どんなに殴られても死ぬところまではいかんよ。そこは安心していい。」
「生かさず殺さずってとこですか。うまいやり方ですね…」
「…今日はもう寝なさい。嫌なことがあった時は寝ちまうのが一番楽だ。次の日起きたら少しはましになる。…まぁ、気のせいなんだがな。しかし、ないよりマシだろう。」
「…はい。いつもありがとうございます。」
「…なんの礼を言うことがある。健康な状態でいることはお前たちの正当な権利だ。」
「…ありがとうございます。それでは、失礼致します。」
奴隷に権利なんて言葉を使うなんて、なんて優しくて、残酷な人なんだろう。そんな言葉がまるで意味を持たないことなんてよくわかっているはずなのに。
しかし、リヴェータ教の回復魔法というのはすごいな。本当に、傷跡すら残らないで治ってしまった。まぁ、目の前で傷が塞がっているのを見るのは少々気持ち悪い物があるが。
傷を治してもらっている立場で言えることでもないか。
寝よう。今日は疲れた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
いつも通り、朝がやってくる。
たまには、夜のままでもいいじゃないか。働きすぎだろ太陽。僕達よりも働き者だなんて、さてはお前も奴隷か。
最近は僕の仕事にも変化が出てきた。
他の奴隷たちが僕の主坑道から副坑道を掘っている。いい感じに隙間を開けた補強柱の間から、しゃがんで入れる程度の大きさの穴を、それこそ葉っぱの葉脈の様に掘り進めていく。
進んだ先にある、柔らかい土とは違った、鉱石のようなものを掘り出しては運び出し、運び出しては掘り進める。
ただそれだけの作業を繰り返す。
単純作業ってのはいい。ただただ、一心に、ツルハシを振るうことだけに集中していれば、すぐに夜になる。少し前は色々考えてしまっていたが、掘ることだけに集中すれば、余計なことを考えなくて済む。
集中すればするほど、魔力の通りのようなものがよくなってくる。持ち手の木の部分や、先の鉄の部分。その中によどみなく魔力を流していく。詰まるところがあったり、撚れるところがあったら、そうならないように部材の中を整える。
自分が身体強化魔法と呼んでいるものと同じ要領だ。まぁ、今までナイフでやっていた事を、扱うものを変えているだけなんだが。
ただ、最近は魔力を濃くして流すと、流れを整えやすいということに気付いた。あの、メリィを捕まえるときの感覚だ。それをそのまま当てはめていく。
基本的に、込めた魔力は徐々になくなっていく。次から次に流さないと行けないわけだ。だから、僕が使っていないとき、ツルハシは普通のツルハシだ。
しかし、この方法を試すと、魔力の残りがいい。手を離れた跡でも道具が強化されたままなのだ。一度、別の奴隷が使用後のツルハシを使っていたのを見たことがあったが、あまりの堀やすさにかなり驚いていた。この力隠したほうがいいかな、とも思ったが、隠したところでどうなるわけでもなしと思い直して、いつも通り使っている。ま、基本的に自分が使う道具はそのまま使い続けるものだから、あまり気にしなくてもいいだろう。気にしたところで奴隷から開放されるわけでもなし。
いつも通り、脇目も振らず仕事をした後、夕食にありつこうと帰路につく。
飯だけは、いつもの楽しみだ。最近は味にもなれてきた。そんなにまずいわけでもないだろう。多分、そのはずだ。
「た、助けてくれ………」
主坑道の出口に向かっている時、副坑道からか細い男の声が聞こえた。
管理者様が大声を上げながら、各部屋のドアを蹴破っていく。
中にいる僕達のことなど一顧だにせずに次の部屋に向かっていく。
僕たちはノロノロと準備をしながら部屋を出て行く。
とはいってもするべき準備など目を開けて起き上がるくらいだ。服を着替えるでもなし、顔を洗うでもなし、飯を食うでもなし。
ここでの食事は一日二食だ。朝一番で働いた後、朝食。仕事終わりに夕食。大量の奴隷を働かせ、管理しているせいか食事の量に関しては不自由ない。クソまずいが。
衣服に関しては、そのままだった。王都の古着屋で買った服をそのまま着ている。僕はてっきり、囚人服というか奴隷服みたいなものに着替えさせられると思っていたのだが、そんなことはなかった。しかし、周りを見るとほとんどの人は似たような服を着ている。僕みたいな新しく来た人間の服は一般的な服だが、それ以外は簡便なズボンと一枚の布に穴だけ開けた上着を着ている。腰の部分で紐を結べば、まぁ、それなりに服には見える。かな?
どうしてこんな違いがあるのか疑問に思っていたら、しばらくして理由がわかった。奴隷になったときの服装をそのまま使って仕事をするわけだが、当然、炭鉱での仕事はハードで、簡単に汚れ、破ける。そうして捨てざるを得なくなったら次の服を支給してくれるわけだ。
何の事はない、服一枚分安上がりにするためだったってことだ。
自分の中の奴隷とイメージが違うことはまだある。基本的に閉じ込めていないのだ。これは未だに慣れていないというか、違和感がある。
部屋に鍵を掛けるでもないし、働いている最中に鉄球を足につけるでもない。
つまり、管理者様達は絶対に奴隷が逃げると思っていない。
落盤や、火災で怪我をした時、入れ墨を入れる作業をしていたリヴェータ教の爺さんが奴隷の治癒をしてくれる。
そのときにすこし聞いてみたが、奴隷の入れ墨は、隷属の首輪と同様の効果を有しており、管理者の命令に背くと体に激痛が走り、とても何かできる状態ではなくなるらしい。
最初管理者に言われたことは、逃げるな、命令に逆らうな、仕事を全力でやれだ。つまり、この入れ墨がある限り、ここから出ることはかなわないわけだ。
こちらに来た時、鞄の中に社会の教科書がはいっていたから、モニに教えつつ、自分でも結構読みふけった。まぁ、暇だったからだけど。ここの奴隷制は、最初、古代ローマ次代の奴隷制に近いものを感じていた。
しかし、しばらく立って段々気付いてきたが、魔法という絶対の鎖があるからか、奴隷に対する当たりは苛烈にして絶望的だ。
だからだろうか、アメリカの黒人に対する奴隷制に近いものだということがわかった。
奴隷制と、差別が重なってしまっているのだ。
奴隷たちはもう這い上がることを諦めているし、管理者様達は奴隷からの反抗が絶対ないものとして見下しきっている。
いや、見下しているというのは同じ人間に使う言葉だ。
彼らはもう、僕達を同じ人間としてみていない。
そして恐らくだが、もう僕達が奴隷から開放されることはない。
奴隷の中にはまだ開放されることを信じているやつもいるが、それだったら管理者様達があれほど僕らを非人間として扱うことはないだろう。
万が一にも開放されることを考えれば、復讐されることだって考えるはずだ。
取ってつけたような理由で殴ったり蹴ったり、拷問したり。なまじ、ある程度の傷はリヴェータ教の爺さんが治してしまうからか、エスカレートする一方だ。
こんなことが出来るってことは、たぶん、奴隷を解放なんかしていないということだ。
でも、「あんたを開放する」っていって連れて行かれた奴隷もいる。他の奴隷たちはそれを根拠に信じているけど…、たぶん…。
だからこそ、僕達奴隷は、管理者様のご機嫌を常に伺い、逆鱗に触れないようにとにかく静かに、小さくなる。
それこそが、一日を一番穏やかに過ごしきることの出来る唯一の方法だから。
仕事の場所は、だいたい朝イチで管理者様が支持する。
基本的に全部の仕事をさせるため、毎日仕事場所が変わる。
ただ、なかには魔法の力を持ったピーキーな野郎がいるから、そういった奴らはひたすらに一つの仕事をさせる。
まぁ、僕のようなやつのことだ。
土魔法が得意だということもあり、鉱山での労働はなかなかあっている。
ここ数ヶ月ほどは、ずっと主坑道なるものを掘っている。
鉱山で鉱石を発掘する時は主坑道と副坑道なるものがあるらしい。
主坑道は、人間や、匹車、鉱石が通るような大きさの長い一本の坑道。
副坑道は、鉱石を発掘するための主坑道壁面から掘り進める、細く短い坑道。これは、主坑道からクリスマスツリーの枝のように複数掘られている。これは、他の奴隷たちが掘り進める役だ。実際に鉱石を発掘する坑道だからか、より慎重な人間の手がほしいのだろう。
逆に主坑道は、どんどん掘り進める事ができる人間がいい。
副坑道は、主坑道が掘り進められてさえいれば、人の手があればあるほど沢山作れるが、主坑道は人手があろうと、坑道の横幅が決まっている以上、一度に切削作業ができる人間が限られている。だからか、たった一人の人間で、数十人分の働きができる人間は重宝されるわけだ。
最初は肉体、身体魔法を使って掘り進めていた。
最近はこの2つの魔法を同時に使うことが多く、強化魔法と勝手に読んでいる。
ただ、自分の体だけを強化していたからか、各道具類がすぐに壊れてしまった。
壊れた道具を管理者様に持っていく度、念入りに殴られた後、また、ボロボロの道具を貸し出されるので、なんとか壊さない方法を考えた。
とはいっても何の事はない。冒険者だったときによくやっていた、魔力を中に通すだけだ。冒険者の時は、ナイフに通していたが、それでもナイフは固く、強くなっていた。同じことが、ツルハシにも当てはまるんじゃないかと考えてみた所、ビンゴだったわけだ。
ただ、どうしても魔力の消費が多くなる。今までナイフのような小さいものに、しかも獲物を狩る瞬間だけ魔力を込めていただけだからか、そこまで魔力がなくなることはなかった。
けど今のツルハシは、自分の腕ほどもあり、発掘をしている間中、魔力を流さなければならなく、魔力消費がぐんと上がってしまったようだ。ちなみに道具はツルハシだけじゃない。スコップのようなものもあれば、岩石を打ち砕く為の大きな杭?みたいな道具もある。
どちらにしろ、魔力を通さないと使い物にならないが。
だけどこれでなんとか作業をすすめることが出来るようになった。
魔力がなくなって休憩していると容赦なく管理者様に殴られ、飯が食えない。
だから、魔力がなくなったら自力で掘る作業をし、魔力が回復したらすぐに再び強化するといったサイクルで作業をするしかない。
だから常に魔力が欠乏した状態で仕事し、頭は朦朧とし何をしているかわからない状態が続く。
数ヶ月立ってやっと、一日中道具に魔力を込め続けても底をつくことが失くなった。
頭で何か考えながら作業ができるようになったのはここ数日のことだ。
もちろん、仕事は掘り進めるだけじゃない。
坑道を補強する仕事もする必要がある。
掘り進めた後の坑道は当然脆い。だから、ある程度掘り進めたら坑道を補強する必要がある。
これをしないと坑道が崩れ生き埋めになってしまう。
坑道を掘る上で気をつけなければならないのは、生き埋め、火災、ガスだ。ここ数ヶ月でも、生き埋めになって死んだ奴隷たちはかなりいる。
かと言って、管理者様が何か特別な対策を取ってくれるわけではない。
僕達の様な魔法を使える奴隷は、貴重だからかある程度小まめに監視に来て、管理してくれているが、他の一般的な奴隷は基本的に消耗品という考えだ。
どうやってるかわからないが、とにかく新しい奴隷がどんどんやってくる。
自分の身は自分で守らなければならないようだ。
今日も今日とて、坑道を掘り進める。掘り進めた後は、補強する。
本来なら坑道の補強は別の専門奴隷がいる。木材を使って、坑道に沿った木枠を組み立てる必要があるからだ。
これは消耗品の奴隷には出来ない。だから、専門の奴隷がいるのだが、僕は土魔法で周りを岩石のように固めることが出来る。
魔法で、ある程度硬そうな成分の元素を集めて固める。トンネルのように周りをすべて覆ってしまうと、福坑道を掘ることが出来ないから、ある程度隙間を残すように作り上げていく。
これを、毎日、毎日繰り返す。
「ウへっ!うへっへっへっへ!どうよ!ヘルガちゃんよぉ!ここが俺の城よ!」
「え~、城ってぇ…、ここ鉱山でしょぉ~。意味わかんない。キャハッ」
「いや、城だよ城。まずな、こいつらは俺の命令には絶対逆らわない。おいッ!おまえ!俺たちに椅子と屋根を用意しろ。休めるようにな。」
そう言って俺を指差す。
言われたとおり、長めの椅子。ベンチのようなものを作る。さらに、そこに屋根のようなものをつける。イメージはバス停の待合所だ。シンプルだからかかなり早く作れる。
「そこのお前!俺たちを扇げ!涼しくなるようにな。お前!お前だよ。使えなさそうなガリガリのお前。管理者室から酒とつまみをもってこい。欠片でもてめぇの臭ぇ口に入れるんじゃねぇぞ。てめぇ5人分の価値だ。」
管理者様とその女のための楽園が出来上がっていく。それ以外の人間にとっては地獄だが。
「な?言ったろ?俺の命令を聞くやつばかりだ。つまり、ここでは俺は王。王様だ。王様がいる所っていやぁ、城だろ?」
「確かにぃ…。すごいかもぉ…。美味しいお酒も飲めるし、涼しいし…。こんな生活できる人なんてこの街にそうそういないよぉ~。すごぉ~いぃ~」
「だろ?しかも、黙ってたって金は入ってくる。ラミシュバッツ様に収める分は必要だが、それ以外は俺のもんだ。つまり、お前のものでもあるってわけだ。」
「えぇ~、なにそれぇ~、どぉ~ゆ~ことぉ~?」
「俺の女になればお前のもんだってことさ。な?わかるだろ?」
「えぇ~、う~んとぉ~、えぇ~?ん~~?」
「それだけじゃねぇ、他じゃ出来ねぇことだってここじゃ出来る。なぁ?」
「え?ちょっとぉ~、何すんのぉ?こんなとこでぇ?…ッん。」
「こいつらは口が硬ぇ。というよりも、見聞きしたことは誰にも喋らねぇ様に命令できる。だから、こんなところで、こんなことだって出来るって寸法よ。」
「えぇ~、ッん、で、でもぉ…後であたしの裸とか思い出されちゃうんでしょぉ…、それはちょっと恥ずかしいっていうかぁ…」
「そうだな…、おい、お前ら全員目ぇ閉じてろ。ぜってぇ、この女の裸を見るんじゃねぇぞ。」
「そ、それならぁ…、ッあ!」
「周りにこんな人がいるのに構わずやれる。これが出来るのは俺だけだぜぇ…」
「す、すごぉい…」
管理者様が俺たちの仕事中に女を連れてきて、口説く。これは今までも何回かやってきたことだ。
この町ではかなり稼いでる方らしい。従える人間(奴隷)が多く、稼ぎも多い、そして鉱山がある限り食いっぱぐれることはない。この条件が揃っているからか、割りと引っかかる女は多いらしく、毎回連れてくる女は違う。その度に仕事を中断され、仕事の遅れは全て僕達の責任になる。喜ばしくないイベントだけど、僕ら奴隷は当然従うしかない。
色々こだわりがあるらしく、来ることを予測して、ベンチとか、食べ物とかを用意していたら大分怒られた。
目の前で、命令させて、命令に従うことを見せることが肝らしい。
管理者様の命令に従って、女のために何かを用意するというのがコツらしい。その労力を女に見せつけるというわけだろう。
管理者様は既に奴隷たちを人間としてみていないが、他の一般人はそこまでじゃない。奴隷ということは理解しているが、人間じゃないとまでは割り切れない。だからか、こういった人間たちが彼女のために労力と時間を割くことが申し訳ないという意識が働くらしい。そういった引け目を感じているときに攻めると女ってのは落ちやすい。と言うようなことを酒に酔いながら自慢げに管理者様が話していた。
最初はそのまま鵜呑みにしていたが、果たして本当にそうだろうか。
女だってここまで着いてきたんだ。その気がないってわけじゃないんだろう。だが、目の前で死んだ目をした奴隷が命令に従っている姿を見て、そんな奴隷が大量にいることを見て、管理者様の言うことに逆らったとして、果たして自分が無事に帰れると思うのだろうか。
まぁ、なんかヤバそうだし、一発抱かせて、ここは収めるか。といった感じじゃないのだろうか。
だから、毎回違う女を連れてくるんじゃないのか。一度来た人はやばい空気を感じて二度とこないんじゃないのか。
そうも考えたけど、詮無いことだ。どうせ確かめることも出来ないし、さして興味もない。
とにかく、泥のように働いて、眠るだけだ。
とにかく何も考えたくない。
管理者様に対する憎しみは既に失くなった。だけど、たまに唐突に湧いてくる自分への怒りだけはどうしようもない。
そんな時はどうしてもむしゃくしゃして、目つきも仕事も悪くなる。
今日はそんな日だった。
「…てめぇ、その目つきはなんだよ。あ?」
「いえ、とんでもございません。」
「何がとんでもないんだよ!あぁ!おい!」
管理者様の口から出た怒号が、まるでエネルギーを与えたかのような拳が、俺を打ち付ける。
「てめぇは、たまにそんな目つきをするよなぁ!あ?ヘルガが怖がったらどうするんだよ!!」
「…申し訳ありません。決してそんなことは…」
「口ではそう言っても、目がそう言ってねぇんだよ!!」
絶え間なく、殴り、蹴られる。あまりダメージを与えるわけには行かないらしく、腕、足、腰といった重大なところは避けて殴られる。
ただ、なるべく尊厳を踏みにじるように、惨めに見えるように、転倒させるように殴る。
一発殴られて、地面に倒れる。その後すぐ殴るわけではなく、俺が謝りながら立ち上がるのを待つ。
立ち上がった後、また殴り、地面に打ち付ける。これを繰り返していく。
当然、服は泥まみれになるし、みすぼらしくなっていく。
「ねぇ~、もういいじゃん。それよりお酒飲もぉよぉ~」
「ッハァ、ハァ、ハァ…。あぁ、そうだな…。ッチ、今回のはだいぶしぶといな…。」
どうやら彼女に助けられたようだ。お酒を飲みたかっただけかもしれないが。
今回は運悪く、自分の気分と、管理者様のお気に入りの時間が重なってしまった。だからか、大分長い間、殴られていたようだ。
彼女の方も正直すこし引いているようにみえる。
「ッチ…、もう行け。お前は仕事にもどれ。」
どうやら気まずさを、俺を追っ払って無かったことにするようだ。こちらとしても渡りに船だ。とっととお暇しよう。まだ、穴掘りのほうがマシだ。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
また穴掘りの日常に戻る。
管理者様に殴られた跡はなくなっている。入れ墨を入れた爺さんがいつも僕達を治してくれる。僕は特に怪我が多いらしく、その爺さんとそこそこ話をする間柄になっている。彼の名前はよくわからないが、奴隷たちの間では、ディック爺と呼んでいる。それが本名ではないだろうが、皆そう呼んでいる。奴隷がディック爺と呼んでも怒らない。変わった爺さんだ。
「だいぶ痛めつけられてるなぁ…、あんまり管理者に逆らってもいいことないぞ。ほら、治してやるからこっち来い。」
「ありがとう、ございます。ディック爺…さん。」
「いいよいいよ。好きなように話な。他の管理者もこれぐらい気にしなくたっていいのになぁ…」
「…」
「しかし、もったいないなぁ。聞いたけど、一日中魔法使って坑道掘ってるんだって?しかも、土魔法を使って補強しながら。相当な魔力量だいな。少なくとも、王国であんたほどの魔力を持っているやつにはお目にかかったことはない。」
「そうなんですか?結構魔法を使える人はいると聞きましたけど…」
「そりゃ、戦闘中とか、生活に必要なときとか、一時的な場合なら使ってるやつは結構いるがな、一日中使ってるやつなんて居るのかぁ?しかも、ここに来てから魔力量が上がってるだろ?普通その年齢で魔力が大きく成長することは殆ど無いんだがなぁ。生まれて五年以内。長くて十年程度が成長期と言われているんだがな…」
たまに魔法を使っている人達が言っている魔力量が上がるって言う感覚があまり理解できない。いつも思うのだが、僕の魔力は腹の下にある穴みたいなところから引っ張ってきているだけだ。自身の体から魔力を生み出しているわけじゃない。ただ、長い間穴を開けていると、疲れたりするから、ある程度経ったら穴を閉める。その後、体に残った魔力を使っていくという感じだ。穴が空いていない状態で、体の魔力がなくなると、気持ち悪くなったりするわけだが。
「…そうですか…。まぁ、でも、仕事に役に立つなら願ったりですけどね…。」
「…惜しいな…。奴隷でさえ無かったら一廉の人物になったろうにな…」
「それもこれも、他人を馬鹿みたいに信じた自分のせいです。後悔先に立たずなんて言いますが、身に沁みた言葉ですよ…。」
「…後悔が先に来ることはない、か。身につまされる言葉だな。いつだって後悔は後にやってくる。そして、いつも自身を責め苛む。立ち直る時間を忘れさせるほどにな…」
「…まぁ、立ち直ったとしても、奴隷です。元気に穴を掘るか、やる気なく穴を掘るかの違いにしかなりませんよ。しかもそれが自分の墓穴ってわけです。なかなか気の利いた冗談だと思いますよ。ッハ。」
「その上、学まであるか。勿体無さも極まれりだな。ま、管理者共もそれはわかっているようだからな。どんなに殴られても死ぬところまではいかんよ。そこは安心していい。」
「生かさず殺さずってとこですか。うまいやり方ですね…」
「…今日はもう寝なさい。嫌なことがあった時は寝ちまうのが一番楽だ。次の日起きたら少しはましになる。…まぁ、気のせいなんだがな。しかし、ないよりマシだろう。」
「…はい。いつもありがとうございます。」
「…なんの礼を言うことがある。健康な状態でいることはお前たちの正当な権利だ。」
「…ありがとうございます。それでは、失礼致します。」
奴隷に権利なんて言葉を使うなんて、なんて優しくて、残酷な人なんだろう。そんな言葉がまるで意味を持たないことなんてよくわかっているはずなのに。
しかし、リヴェータ教の回復魔法というのはすごいな。本当に、傷跡すら残らないで治ってしまった。まぁ、目の前で傷が塞がっているのを見るのは少々気持ち悪い物があるが。
傷を治してもらっている立場で言えることでもないか。
寝よう。今日は疲れた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
いつも通り、朝がやってくる。
たまには、夜のままでもいいじゃないか。働きすぎだろ太陽。僕達よりも働き者だなんて、さてはお前も奴隷か。
最近は僕の仕事にも変化が出てきた。
他の奴隷たちが僕の主坑道から副坑道を掘っている。いい感じに隙間を開けた補強柱の間から、しゃがんで入れる程度の大きさの穴を、それこそ葉っぱの葉脈の様に掘り進めていく。
進んだ先にある、柔らかい土とは違った、鉱石のようなものを掘り出しては運び出し、運び出しては掘り進める。
ただそれだけの作業を繰り返す。
単純作業ってのはいい。ただただ、一心に、ツルハシを振るうことだけに集中していれば、すぐに夜になる。少し前は色々考えてしまっていたが、掘ることだけに集中すれば、余計なことを考えなくて済む。
集中すればするほど、魔力の通りのようなものがよくなってくる。持ち手の木の部分や、先の鉄の部分。その中によどみなく魔力を流していく。詰まるところがあったり、撚れるところがあったら、そうならないように部材の中を整える。
自分が身体強化魔法と呼んでいるものと同じ要領だ。まぁ、今までナイフでやっていた事を、扱うものを変えているだけなんだが。
ただ、最近は魔力を濃くして流すと、流れを整えやすいということに気付いた。あの、メリィを捕まえるときの感覚だ。それをそのまま当てはめていく。
基本的に、込めた魔力は徐々になくなっていく。次から次に流さないと行けないわけだ。だから、僕が使っていないとき、ツルハシは普通のツルハシだ。
しかし、この方法を試すと、魔力の残りがいい。手を離れた跡でも道具が強化されたままなのだ。一度、別の奴隷が使用後のツルハシを使っていたのを見たことがあったが、あまりの堀やすさにかなり驚いていた。この力隠したほうがいいかな、とも思ったが、隠したところでどうなるわけでもなしと思い直して、いつも通り使っている。ま、基本的に自分が使う道具はそのまま使い続けるものだから、あまり気にしなくてもいいだろう。気にしたところで奴隷から開放されるわけでもなし。
いつも通り、脇目も振らず仕事をした後、夕食にありつこうと帰路につく。
飯だけは、いつもの楽しみだ。最近は味にもなれてきた。そんなにまずいわけでもないだろう。多分、そのはずだ。
「た、助けてくれ………」
主坑道の出口に向かっている時、副坑道からか細い男の声が聞こえた。
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